リタイア暮らしは風の吹くまま

古希を迎えて働く奥さんからリタイア。人生の新ステージで
目指すは悠々自適で遊びたくさんの極楽とんぼ的シニア暮らし

2010年4月~その1

2010年04月11日 | 昔語り(2006~2013)
四月ばかじゃなかった

4月1日。木曜日。もう4月。ということは1年の4分の1が過ぎ去ったってことか。カレシはやたらと早く起き出して、腹ペコになったのかぐっすり眠っていたワタシをやさしく、やさし~く起こそうとしたのに、どうやらむにゃむにゃと寝ぼけた返事しかなかったらしい。ワタシは極楽とんぼを決め込んで、起き出したのは11時。これだってまだ早くて眠いんだけどなあ。

弥生3月最終日のきのうは、カレシにとってはまさにライオンのごとくの荒れまくった1日だったらしく、「人生で最悪の日だった」とぼやくことしきり。なにしろ、前夜のうちにジャンプスタートしてもらったトラックのバッテリがまた上がったし、外付けのハードドライブを落っことしてアクセス不能になるし、教室に出かける間際に携帯が見つからないしのご難続き。

英語教室の最後の授業がにぎやかに終了して機嫌を直して帰ってところへ、弟のジムから「パパが肺炎にかかって入院したけど、今度は脳溢血を起こしたらしくて、医者は見通しはあまり良くないと言っている」とのメール。そういう重大なニュースを何でメールなのって感じだけど、カレシはしばらくおろおろ。ママに電話しようか、どうしようか。なにしろジムのメッセージはなんとなく要領を得ない。結局は頻繁に会いに行っているらしいジムの元妻のマリルーが一番よく知っていそうということで電話してみたら、急性肺炎で入院したのは事実だけど小康状態。脳溢血が起きたかどうかは今のところ不明で、ママは大丈夫ということだった。認知症がかなり進んでホームの介護棟で毎日ほとんど眠っているような状態だそうだから、肺炎になりやすいだろうとは思うけど、脳溢血が起きたかどうかはそういう状態ではすぐにはっきりはわからないのかもしれない。ついこの間満90歳の誕生日を祝ったばかりだけど・・・。

でも、その「人生最悪の日」も最後には笑える出来事で終わったんだからいいんじゃないのかなあ。夜中を過ぎてほの~っとスカンクの悪臭。懐中電灯をもって外へ出て行ったカレシ、かなり経ってから、笑いながら戻って来た。庭の外へ出たら正面の道路向かいにゴルフ場に沿ってのろのろと前進したり、後退したりしているヘンな車がいたんだそうな。怪しいからプレートの番号を見てやろうと、生垣の下を探し物をしているふりをしてそろそろとそっちの方へ行ったら、いかつい男が角を曲がって来て、なぜかていねいに「こんばんは」と声をかけて来た。思わず「あんた、誰?」と聞いたら、「バンクーバー市警察です。何をしているんですか」と言うので、スカンクを探していると言ったら、鼻をヒクヒクさせて「あ、臭ってますねえ」。ひとくさりスカンクの出没に悩まされている話をしたカレシ、「あそこに挙動不審の車がいる」と報告したら、「ちょっと調べておきましょう」という気乗りのしていない返事。そこでカレシの頭の上に電球がポッ。「そうしてください」と言って家の中に入って来たという次第。

何のことはない、怪しい車はおそらく夜中のゴルフ場でよくあるドラッグの密売を監視していた警察の車で、懐中電灯を持って生垣の下をのぞきながらうろうろしている「怪しい男」がいると、近くにいた別の車に無線で知らせたもので、カレシは「職務質問」されたというわけ。うん、だいたい夜中にこんな住宅地を私服警官がパトロールしているなんてあり得ないもんね。カレシが隠密捜査の邪魔だったのか、あるいは麻薬密売組織の仲間だと疑ったのか、あるいはこそ泥かもしれないと思ったのか、そこのところはわからないけど、スカンクを追っかけている住人に出くわすとは思ってもみなかっただろうな。カレシはおかしがって笑っていたけど、警察も「まいったなあ」と笑っていたかもしれないね。狂気の3月・・・いや、夜中を過ぎていたからとっくにエイプリルフール。スカンクを探していて警察に職務質問されたなんて、誰にも信じてもらえないかもしれないよ。

そんな風にアップビートに終わった「最悪の日」だったけど、やっぱりパパのことが気になって良く眠れなかったらしい。十代の頃から折り合いが良くなかったと言ったって、自分がよく似た性格だからそりが合わなかったのかもしれないし、自分の父親であることには変わりない。でも、それを自分が一番良く知っているから、パパの老い方に自分の将来を見ているような気がして、それで会いに行こうとしないのかもしれない。父と息子の関係は父と娘の関係とはまったく違うものなんだな。起きてすぐにママに電話したら、「90にもなったらいつ何が起きてもおかしくないでしょ」とあっさり言われたそうで、「ママは強い」と言いながら、何とも微妙な顔つきでこっちを見ていた。夫婦の関係はいろいろで、カレシはパパじゃないし、ワタシはママじゃないんだけど、今日のカレシは何を思っているのか、何だかやたらとラブラブ攻勢。昔『4月の恋』と言う歌があったけど、ん・・・?

父と息子と妻と母の四角関係

4月2日。復活祭の連休初日。ゆうべからすっごい嵐。雨よりも風がすごくて、機密性の高い家なのに、開けられる窓のあたりでヒューヒューと口笛のような音がするしまつ。せっかくの連休にバンクーバー島と本土を往来するフェリーはほぼ全面的に欠航だそうな。スタンレー公園では走っていた車の上に大木が倒れて、乗っていた人が怪我をしたらしい。写真を見たら、真上から見事にぺっちゃんこで、よく助かったと思うくらい。こういうのは「運」でしかないなあ。春の嵐は1日中吹き荒れて、あちこちで広域停電とか。そんなときに限って超特急仕事が飛び込んで来たけど、我が家のあたりは運良く停電を免れて、仕事は無事に終了。バックアップの電源があると言っても、ボッと停電されたら焦るもの。よかった、よかった。

今日はマリルーが電話で、甥のビルがメールで、それぞれパパとママの様子を知らせて来た。ビルはマリルーの息子で血のつながりはないけど、小さいときからおじいちゃん、おばあちゃん大好きのいい子なのだ。(40過ぎのでかいおじさんを「子」というのものなんだけど、かわいい甥っ子だから。)仕事の帰りにおばあちゃんを病院まで送って行ったりしていると言う。パパの容態は落ち着いているそうだけど、呂律がうまく回らないらしい。それで脳溢血が疑われているんだろう。電話に出たカレシにマリルーが顔を見せに来るように言ったらしいけど、カレシは何となく言葉を濁していて、「そのうちに」とは言うけど、はっきり「行く」とは言わない。しまいに「親父はろくでなしだった。オレは口答えしなかったから叩かれなかったけど、口の達者なジムはいつも叩かれていた」と怒ったように言い出した。なんだか心の奥の一番深いところにしまってあった父親に対する気持が噴き出しかけたような口調だった。

母親と息子の関係はかなり複雑だと思うんだけど、父親と息子の関係は女にはとうてい理解できないようなもっと複雑なものがあるんだろうな。カレシのパパは小さいときに父親を亡くして極貧の中で女でひとつで育てられた。その母親という人がお金にも男にもゆるい人で、最初の結婚で若くして赤ん坊を抱えた未亡人になってしまったときに、義理の親からそうとうな手切れ金をもらって息子を手放し、再婚してできた2人の息子の上がカレシのパパ。早くに学校を辞めて働きに出た息子の給料日に弟のスタンリー叔父さん(故人)を差し向けて稼ぎを掠めようとしたと言うから、大変な母親もいたもんだけど、イギリス生まれの靴職人だった父親も年中怒鳴り散らす典型的なDV男だったらしい。このあたりの話を聞いているとディケンズの時代を髣髴とさせるものがある。

時代が違うとはいえ、そういう暴力的な環境で育ったパパが外面はいいけど家族にはどなり散らしてばかりの夫/父親になったのは当然の成り行きだったのかな。根は朴訥な人かもしれないけど、正直言ってワタシもセクハラまがいの扱いにずいぶん傷つけられたから、悪いとは思うけど、会いに行けとカレシの背中を押す気にはなれない。そういう父親に不器用さを笑われ、些細なことでどなられても口答えをしなかった息子。大喧嘩をしてモノを投げ合う両親を弟と泣きながら見て育った息子。週末には女友達とダンスに出かける父親の背を見て育った息子。父親にまっとうな「男」としてのお手本を見ることができなかった息子。不思議なことにそれでも子供は嫌いな親に似てしまうことが多い。たぶんに、自分は違う、自分はあんな人間にはならないということを(おそらくは自分自身に対して)証明しようとして、結局は同じ穴に落ち込んでしまうんじゃないかと思うんだけど。

カレシのママとの関係も仲の良さそうな印象とは裏腹にかなり屈折した気持があるように思う。生まれつき不安感の強い子供なのに、母親にはデパートに何時間も置き去りにされたり、子供心に母親が不倫をしていたと疑ったりして、見捨てられ不安にさいなまれて育った息子がカレシ。マリルーが言ったことがあった、「あなたにはママのような強さがある。そういう女性に惹かれる人なのよ」と。俗に、息子は母親に似た相手を妻に選び、娘は父親に似た相手を夫に選ぶというけど、カレシは「従順な日本女性」を見つけたつもりで実はワタシの中に「ママ」を見たのかもしれない。だから、加齢を実感してパニックになったときに妻と母親が重なって区別がつかなくなったんだろうな。それでたぶん精神的に思春期にタイムスリップして、母親からの乳離れを試みていたのかもしれないと思う。(あの頃のカレシには精神症状の一種としてしか説明のつかない言動が多かった。)ワタシが(当然だけど)あくまでも「妻」として立ち向かったから、カレシはママに対する交錯した気持には決着をつけられなかったのかもしれないな。

子供は親を選べないし、子供でいる間は親に頼るしか生きる術がない。子供は親の背を見て育つと言うけど、親子の関係というのはすごく難しいものだと思う。自分にだって母に対して何となく反発を感じて育ったという気持がある。母の生い立ちを考えて母を理解できたと思うし、同じようにカレシを理解できたと思う。こういう経緯でこういう価値観や物差しを持つ人に育ったんだと、いく分でも理解できれば、愛せても憎むのは難しいように思う。カレシには未だに両親への愛憎の気持を整理しきれないでいるんだろうな。ワタシにできるのはカレシがパパとは違う人格で、ワタシはママと違う人格で、パパとママは一組の夫婦であって、ワタシとカレシも別の一組の夫婦だということを繰り返し刷り込むくらいかな。でも自分も老いてから親に対して持ち続けてきた相反する気持を整理するというのはしんどいことだろう。それを見守る方にもけっこうしんどいかもしれないなあ。人間の人生って、なかなか難しいなあ・・・。

ダンスしようと言うけれど

4月3日。土曜日。二人とも正午を過ぎて目を覚ました。きのうは駆け込みの仕事で潰れてしまったけど、今日から1週間は間違いなく休みモード。親指は未だにしくしく痛いし、ぎっくり腰になりかけた腰は何となく落ち着かないし、おまけに膝まで痛い。どうやらダウンタウンに行ったときに、Hマートでトートバッグに一杯の買い物をして来たんだけど、重いバッグを肩に担いで駅の階段を上がったり降りたりしていたのが膝に負担だったしい。なにしろゲートから家の中まで運んでくれたカレシが「こんな重いのを担いで駅から歩いてきたのか」と呆れたくらいだから、年寄りの何とかだったのかも。まあ、日本へ行く前にはいつものようにばたばたしそうだから、しばらく息抜きをして心身共に休めておきたいんだけど、なかなか・・・。

カレシは今日もママに電話をしてパパの様子を聞いている。もっと強い抗生物質に切り替えるということは、容態は落ち着いていても快方に向かっているとはいえないんだろうな。介護棟に移ってからも、運動は断固拒否して眠ってばかりいたそうで、「それじゃあ肺炎のひとつも起きるはずだ。回復してホームに戻ってもまた肺炎になるだけだよ」と、カレシ。復活祭の明日、もしも運転手役がいなければ、午後にひとっ走り行こう、とカレシ。まあ、ママの方はひとりでバスで行けると言ってもみんなにダメダメと言われて、その理由が迷子になったら大変というのでカチンときたというから、いかにもママらしい。元々あまり人にかまわれるのを好まない人だけど、やっぱり何と言っても92歳という年だから、みんなが危ないからダメと言うのもわかる。まあ、ママがいいと言っても、カレシはママに会いに行くだろう。足りなかった親子のふれあいを少しでも取り戻すとしたら今しかないもの。いくら絶対に百歳まで大丈夫だといっても、親はいつまでもいると思ってはいけないんだから。

でも、ママと話をして少し気持が落ち着いたらしいカレシ、やぶから棒に「親父の人生って、ほんとうに生きたと言えるのかなあ」としんみりしたかと思うと、「ボクたちはずっと健康でいて、いろんなことをやって行こうな」と言い出したり、しまいには「ボクもできる限りずっと英語ボランティアをするから、キミも仕事をやめない方がいいよ」と来た。あの、引退したらやりたいことがたっくさんあるんだけど。ぞうどご心配なくと言ったら、今度は「2人でダンスを習いに行くのもいいな。ワルツとか、タンゴとか」と、何だか今すぐにでも行動を起こしそうな勢い。そのいささかむやみに短絡的なところがいかにもカレシらしいけど、2人して腰をギクギク言わせながらのタンゴはちょっとキツイんじゃないのかなあ。それでも、何だか「二人一緒の老後」をプロポーズされたみたいで、ちょっとうれしいけど。

春の大嵐が納まった今日、まだ数千戸が停電したままだそうな。大荒れのピークにはバンクーバー島とメトロバンクーバーで14万戸が停電していたそうで、四連休は台無しというところか。それでも、オリンピックに雪がなくて困ったスキー場にはど~んと雪が降って地元の客で賑わっているそうだから、マザーネイチャーは皮肉屋だ。カナダドルがアメリカドルとほぼ等価になったもので、国境は嵐も何のそのアメリカへショッピングに行く車の列。通過するのに3、4時間はかかるという大渋滞だそうな。まあ、復活祭は春の行楽シーズンの始まりだから、日本のお盆の大渋滞と似たようなものかもしれないな。

ねえ、明日、ドライブにでかけようよ!

極楽とんぼ亭: 春景色の復活祭の晩餐

4月4日。ずっと雨かと思ったのに、まあまあの天気。復活祭(イースター)の日曜日。この日は早めに閉める店も多い。伝統的な定番メニューはベークドハムということになっているんだけど、家族が集まる家では七面鳥を焼くところも多い。我が家では七面鳥を丸焼きにするわけにもいかないから、極楽とんぼ亭シェフ得意の「帽子からうさぎ」式の思いつきで「春のスペシャル」コース・・・。

今日のメニュー:
  アミューズブーシュ - 白魚のフライ
  茶碗蒸し風の春景色
  ポケの豆もやし巣ごもり
  点心風キャベツロール
  オヒョウのほっぺ、カルヴァドスリダクション、フルーツ、蒸しオクラ
  鶏の胸肉と鴨のスモークのロール、チェリーブランディリダクション、
     しめじ、ゴールデンビーツ
  (自家菜園産のつまみ菜グリーンサラダ)
  チョコレートエッグ

[写真] 白魚にコーンミールを混ぜた粉をまぶして揚げ、軽く塩とこしょうを振っただけの、いわゆる「口汚し」。コーンミールでかりっとした食感になる。まずはマティニを傾けて・・・。

[写真] だし卵にしめじとうにくらげを入れて、茶碗蒸し風に。表面が固まってきたところで、アスパラガラスの先っぽだけを並べて仕上げ。真ん中に赤いとびこをたっぷり盛って春の景色を気取ってみた。ここから先は、ニュージーランドのソヴィニョンブラン。(カレシはソヴィニョンブランはニュージーランドのが一番だとすっかり気に入って凝っているところ。)

[写真] 極楽とんぼ亭の定番レパートリーになったハワイ料理のポケ。キハダマグロをごま油、ねぎ、ローストしたマカダミアナッツ、唐辛子、にんにく、しょうゆで和えた簡略版。さっと茹でた大豆もやしで丸く「巣」を作って、真ん中に盛った。彩りのかいわれは散らす代わりに盛り上げたポケの山に「活けて」みた。

[写真]  使ってみたかったミニせいろ。茶碗蒸し風といっしょに蒸して柔らかくしてあったキャベツに、えびを刻んでにんにく、しょうゆ、ごま油、ラー油と混ぜたものを包み込んで、彩りになるとのスライスを一枚ちょこっと載せてみた。ジャンボえびを3尾急いで解凍しての思いつきの一品だったけど、カレシは「もっと食べたかったなあ」と満点の評。

[写真] 獲れたてのおひょうが出回るシーズン。手に持つとぷりぷりした感じの大ぶりのほっぺたを少々の塩とこしょうを振っただけでフライパン焼き。食べ始めからぼちぼちと煮詰めていたカルヴァドスのソースはほんのりとりんごの香り。パイナップル、マンゴー、パパイヤのミックスでフルーツの味を強調してみた。

[写真] 鶏の胸肉を開いて、スモークした鴨の胸肉を巻き込んだのを糸で縛って、転がしながらフライパン焼き。鴨のスモークは塩味があるから、鶏には調味料を使わない。ソースはチェリーブランディを少しとろっとするまで煮詰めたリダクション。鮮やかな黄色のゴールデンビーツのスライスを蒸して彩り。

[写真]  復活祭につきものなのが、うさぎと卵。不思議な取り合わせだけど、チョコレートのうさぎを買うと卵満載のバスケットを持っていたり、背負っていたりするのが多い。家の中や庭の芝生などに隠されている色つきのゆで卵を探す「エッグハント」は子供たちの楽しみで、アメリカでも大統領が子供たちを招待してホワイトハウスの庭でやるのが恒例になっている。

[写真] Whole Foodsで見つけたのがこのチョコレートの卵。ダチョウの卵くらいの大きさかな。健康にいいということで今モテモテのカカオ成分70%というダークチョコだけど、チョコレートには目がないカレシにかかると、あっという間に・・・。

復活祭の家族たち

4月4日。日曜日。キリスト教は復活祭、ユダヤ教は過越しの祭の終盤だけど、復活祭は元々のルーツはユダヤ教の過越しの祭り。「イースター」というのはゲルマン人の光と春の女神「エオストレ」から来たもので、クリスマスのツリーやろうそくの風習と同様に、ゲルマン人に布教する過程で土着宗教の「春の祭典」をちゃっかり取り入れて、キリスト復活を祝う行事にしてしまったらしい。もっとも、古代から春は草木が息を吹き返し、種が芽を出し、動物たちが仔を生む季節だから、春と復活は結び付けやすかっただろうけど。

朝食が終わったところで、ママのところへ出かける。病院の方は朝のうちにジムとドナが連れて行ってくれたそうで、訪問はもっぱらママのご機嫌伺い。だいたい1時間とちょっとの道のりだけど、途中にある中国系の仏教のお寺の周りは人がいっぱいで賑わっている。ははあ、そうか。きっとお釈迦様の誕生日の花まつり。キリスト教もユダヤ教も仏教もそろって「春」の大イベントなわけで、やっぱり春という季節は人間の営みにとって大きな意味があるんだろうな。お寺がずらりと並んだところで育ったのに、ワタシには花まつりの記憶がないような。どうしてかな。キリスト教会の幼稚園に行ったせいもあるかもしれないけど、でもお寺はいつも目の前にあったんだけどなあ。

バンクーバーから隣のバーナビーに入って、フリーウェイにアクセスするウィリンドンという幹線道路に出ようとしたら、あらら、北方面は何だか渋滞している。逆方向に曲がってちょっと回り道をしてウィリンドンを渡って別の道を行くことにしたけど、道路はすかすか。ちょっとだけ混んでいたのは大きな墓地の前。墓参りの車がゲートを出たり入ったりしていた。そうか、キリスト教にはお盆やお彼岸がない代わり、復活祭がお墓参りの時期。もっとも、よっぽどの名家でもない限り墓地に「何々家の墓」なんてものはあまりないから、先祖の墓にお参りするというよりは故人を偲ぶという感じかな。

ハイウェイに出てみたけど、やっぱり混んでいない。ふむ、見える限り続いていたあの車の列はいったいどこへ行ったんだろうなあ。行き着く先に大きなショッピングセンターがあるわけじゃないし・・・と、不思議がっているうちに思い当たったのが、フリーウェイ脇にある大きなカジノ。う~ん、神聖な復活祭の日曜日にカジノでギャンブルって、なんか罪深いような気がするけどなあ。まあ、バンクーバーは多民族、多文化、多宗教都市だから、無神論者も多い。それでも、ギャンブルは「幸運の女神」に微笑んでもらわないと儲からないだろうから、無神論だと運が回って来ないような気がする。

ママはいつものように元気いっぱい。たしかに華奢になって見えるし、ちょっとばかり耳が遠くなって来たらしい兆候はあるけど、とっても92歳とは思えない。いそいそと紅茶を入れてくれて、孫たちの近況、ひ孫たちの話。甥っ子ビルの長女テイラーは今年17歳。ついこの間まで子供だと思っていたのに、馬が大好きで厩舎でアルバイトをしているんだそうな。はあ、姪孫が17歳って、大伯母ちゃんのワタシもやっぱりおばあちゃんになったってことか。ビルの長男のジェイクは6歳のサッカー坊や。ビルの妹のセーラの長男エイダンは7歳、長女アナベルはおてんばな5歳。ワタシに子供がいたら、そのくらいの年頃の孫がいたかもしれないわけか。あ~あ、年を感じてしまう。

ママは、パパが介護棟(あるいは病院)から戻って来ないと想定して、同じホームのワンルームの部屋に移りたいという。月々の家賃が少し安くなるそうだけど、パパの介護費用は年金で足りているんだし、ママの年令で月に20ドルや30ドル節約してもあまり意味がないような気がする。でも、ママは古い家具も整理して、少し身軽になって旅行したいんだそうな。トロントにはまだ一度も行ったことがないから、ぜひ末っ子のデイヴィッドのところに遊びに行きたいし、好きだったハワイにゆっくりと行きたいという。カレシが「1人でハワイ旅行なんてできるの」と聞くと、「できるわよ、もちろん。杖があれば大丈夫。ホノルルならバスの便がいいし、見るところがあるし、夜になればショーもたくさんあるし」と。60代の頃にはよく1人でイギリスを旅行していたけど、92歳の一人旅って、すごいバイタリティだなあ。ママ曰く、「私くらいに年を取ったおばあちゃんを見ると、みんなすごく優しくて親切になるのよ」。うん、Little old lady(かわいいおばあちゃん)にはみんなやさしいけど、おじいちゃんはどうなのかな。「かわいいおじいちゃん」という表現がないところを見ると、はて・・・。

帰り道、フリーウェイは郊外へ行く車線がかなり混んでいた。みんな「実家」での復活祭のディナーを目ざしてひた走りというところか。ベビーブーム世代は結婚して子供が生まれるようになると郊外にどんどん建てられた大きな家を買ってバンクーバーを離れて行ったけど、今はその若い子供たちがバンクーバーやバーナビーのアパートやコンドミニアムに住んでいて、週末や年中行事のときになるとこうして親のところへ車を走らせるんだろうな。メニューは何だろう。ハムかな。七面鳥かな。山盛りのマッシュポテトにたっぷりのグレヴィー。デザートはママの手作りのケーキかな。ママたちはきっと自慢の手作りクッキーを焼いて待っているんだろうなあ・・・。

四連休最後の日

4月5日。月曜日。まだ連休。といっても、法定休日ではないから、普通の仕事日で休日出勤にならない人もいる。会計事務所時代のワタシもそうだった。公務員のカレシは休みで寝坊を決め込んでいるのに、ワタシは(一緒の車通勤じゃないから)早めに起きてバスで出勤。だって、今どきは納税申告の季節だから、会計事務所は見習いクンたちが残業に次ぐ残業。申告期限の4月末が近づくともう戦場のような雰囲気で、男女を問わずまだ若いのにげっそりやつれた顔になって、ちょっとかわいそうだった。将来の高収入を確実にするための修行と思えば耐えられたのかもしれないけど、安月給でまるで徒弟制度みたい。聞くところによると、最近はなかなか見習いのなり手が集まらないらしい。

今日はカレシのショッピング。まずは、ブロードウェイまで行って、新しいモニター。不安定になっていたと思ったら、ふわ~っと昇天。急遽ワタシのお古をつないで使っていたけど、なにせ小さい。それでやっと重い腰を上げて、リサーチしてこれはというモデルを3つほど選び出して、売っているところを調べて、ゴー。最近のはアスペクト比が変わって、うはっ、幅広。カレシが売り場の担当と話している間に、ワタシは小さいノートブックの品定め。いろいろなサイズを目の前にして改めてコンピュータも変わったなあと感心。おまけに安くなったこと!フリーの旗揚げをした20年前にワタシが買ったPCは4千ドル以上したし、マック(当時の翻訳者はマック党が圧倒的だったような・・・)は6千ドル以上した。(当時のカレシの給料の2ヵ月分。)まだ自分の信用歴がない頃だったから、カレシが連帯保証人になってくれて銀行から借金して、半年かけて返済した。3年後に予備のつもりで買った東芝のノートブックも4千ドルした。今はその10分の1だもん、ああ、感慨無量・・・?

次はダウンタウン。カレシは落として壊した外付けハードドライブの買い替え。(壊れたのはデータの取り出しが可能かどうかの診断に20ドル、可能なら取り出しに80ドルかかるそうな。)去年買ったものなのに、値段が安くなっている。エレクトロニクスはデフレなのかな。ワタシは新しい会計ソフトを購入。7月1日から統合消費税が始まるから、10年使ったソフトもアップグレードのしどき。新年度の帳簿付けはまだ何もやっていないから、今が切り替えのしどき。めんどうなんだけど、やれるときがやりどき。駐車メーターに1時間も入れたので、余った時間はHマートで買い物。キムチ大好きのカレシは大根キムチの大びんを買って「食べ過ぎないようにしなきゃ」と。キムチの方はあんまりカレシの胃袋が好きじゃないようなので、少しずつ食べないと後悔するもんね。ワタシは英語のラベルを頼りにチヂミの粉の大袋を買って来た。(タレはなかったけど、ググッたら作り方が出て来て、コチュジャンというものがいるんだけど、これもググッたら作り方が出て来た。グーグルさまさま。)

雨が降り始めた夜、カレシはモニターのセットアップで早くもカリカリ。結局はワタシがコードをつないであげる羽目になったけど、今度は解像度の設定がうまく行かない。さんざんググって回って、やっとドライバをダウンロードしてうまく行ったけど、「ネットの情報はガセネタが多すぎる」とこぼすことしきり。うん、8:2の原則で行くと8割は役に立たないか、まったくのでたらめというところか。そこが誰でもアクセスできて、誰でもがどんな情報でも好きなように流せるインターネット式デモクラシー、というよりは「モボクラシー」。暴徒とか群衆を意味する「mob」から来ていて、「暴民政治」という訳が当てられているらしい。にいちゃんねるなどはその典型と言えるかも。だから、いつもいうじゃないの、ネットの世界は時空間の観念がなくなった平べったい「面」なんだって。おまけに真偽も真意も真相もあやふやな真実の真空地帯だし・・・洒落にもならないけど。

カレシが汗をかいている間、ワタシはバスルームの壁の釘穴やひっかき傷を埋めた石膏のやすりがけ。細かな白い粉が飛び散って大変だけど、ペンキ塗りをきれいに仕上げるには欠かせない作業。ま、ペンキ塗りくらい自分でやれるんだけど、マイクが明日あたり残っているペンキ塗りに来ると言うから、すぐに塗れるように準備をしておいて時間の節約。夜にはトイレットペーパーのホルダーを取り付けられる。ワタシはこういうことが好きなもので、前回もそうだったけど、結局はいつも最後にぐずぐずと残ってしまいがちな半端な仕上げ仕事を嬉々として引き受けて、腕まくりしてしまうんだよなあ。もしかしてネット空間のミシシッピでフェンスのペンキ塗りをしているトム・ソーヤーに出会ったら、「やらせて~」とペンキブラシをひったくってしまうかもしれないなあ。あはは、ものずき・・・。

トム・ソーヤーはおかんむり

4月6日。火曜日。ずっと雨のはずがけっこういい天気。当たるも天気予報、当たらぬも天気予報。雨が降っていないんだから文句はないな。(晴れても外れたと文句を言う人はいるだろうけど。)

マイクが午前中遅くに来ると言う予告だったけど、正午を過ぎてもいっこうに現れない。あはは、天気予報と同じか。その間にトイレットペーパーのホルダーを取り付けた。テンプレートがついて来るから、それをテープで貼って、水準器を当ててきっかり水平なのを確認して、ねじ穴をピンポイントで開けたのに、よく見るとほんのちょっぴり右側が下がっているような感じ。おいおい、と思って水準器を乗せてみたらちゃんと水平なんだけど、一歩下がって見直すとやっぱりなんとなく右が低いような気がする。もう一度水準器で確かめたけど、やっぱり空気の玉はど真ん中。どうしてだろうなあ。目がおかしいのか、まっすぐ立っているつもりで傾いているのか・・・。

ちょうど終わったところへマイクがお出まし。「寄り道しちゃってね」と。天井と壁のペンキのタッチアップ。ランドリーシュートのドアの取り付けの相談。来るのが遅いからそんなこんなでドアのペンキ塗りまで進まない。そこでワタシが「自分でやっていい?」とお伺い。「本気なの?」とマイク。今週は休みモードだから本気。ペンキ塗りはけっこう慣れているから、夜のうちにやっておける。まあ、ほんとのところは、ワタシがやれば「完了」が少しは早まるという胸算用なんだけど、マイクの方も早く終わらせたいらしく、渡りに舟とペンキ塗りの道具一式を置いていってくれた。

夕食後、さっそくペンキだらけのジーパンとTシャツに着替えて、作業開始。塗るのはドアと枠とベースボードで、バスルームの中と外の廊下側。なにしろ小さな空間にキャビネットとトイレが納まっているから、作業をするのに身動きがとりにくい。たしかに少々メタボ体型のマイクにはやりにくいことこの上ないだろうな。だから、ワタシがやると言いだしたのをけっこう喜んでOKしたのかもしれないけど。ドロップシートについたペンキをつい踏んでしまうから、ワタシの足の裏はあっという間にペンキだらけ。ローラーを持つ手もペンキだらけ。ついでに髪にまでペンキがついて、まさにトム・ソーヤー状態。おもしろいけど、けっこう疲れる作業で、だんだん背中が痛くなって来る。

4時間近くかかって完了したけど、その間、カレシは「いつになったらトイレを使えるの?」と聞いてきたかと思うと、「今日はシャワーするつもりだったのに」とぶつぶつ。そのうちに「ペンキの臭いのせいかなあ、鼻水が止まらない」と文句たらたら。なんで、今すぐにシャワーなの?トイレなら二階にあるでしょ?ワタシが汗かいてペンキ塗りしてるの、わからないの?鼻水が止まらないんだったら、外へ行っていい空気を吸ってくれば?(スカンクに遭遇しないようにね。)もう、あんたって、ほんっとに空気の読めない人なんやねえ・・・いやいや、調子っぱずれのしょっぱい口笛を吹いているところを見ると、わかっていてやってるんでしょ?マイクが来るのが遅かったからイライラ。いつもの夕食のしたくの時間になってもまだいたものでイライラ。おまけにラジオをかけてやっているからよけいにイライラ。イライラしてイジワルのひとつもしたくなったってことだろうなあ。あのさ、今夜のトム・ソーヤーは少々おかんむりなんだけど・・・。

改装工事、99.99%完!

4月7日。水曜日。雨模様。なんだか今頃になって寒々としている。また嵐が来そうな予報があったりして、ついこの間まで春爛漫だったのに。ま、外の話だからいいけど。目覚ましを午前10時45分にかけてあったのに、またまた直前に目が覚めた。起きようかと思ったら、なぜかカレシも同時に目を覚ましたもので、しばし腕枕でとろり、とろり。あれ、ウェスが昼前に来ることになっていたから、わざわざ目覚ましをかけておいたのに。だけど、カレシは「どうせ昼過ぎにならないと来ないよ」と澄ましたもの。そっか、こっちの「昼前」ね。あはは。

そんなわけで11時を過ぎてからゆっくりと起きて、朝食。しばらくオフィスでダラダラしていたら、ゲートのチャイム。午後1時。やっと来たかと思ったら、「UPSで~す」。おお、注文してあった鏡のご到着。何て絶妙のタイミング!二人組が大きな箱を2つ玄関まで運んでくれた。思ったよりも重そう。さっそく箱を開けて、まず鏡を出してみたら、うわっ、45センチ×60センチの小さ目の鏡なんだけど、ずっしりと重たい!自分で取り付けると言ったけど、ウェスにやってもらおうっと。ドアのつまみ3個。タオルをかけるリングとバー。鏡の下につけるガラスの棚。どれも大きさの割には量販店の類似品とは比べものにならない重さなもので、ちょっとびっくり。

マイクとウェスが現れたのは荷物が届いてから30分後。ウェスは開口一番「いやあ、こんな日には家の中で仕事をするのが一番だよ」。そうだなあ。おまけにバスルームは床がほんわかと暖かいんだもの。マイクがウェスにきのう決めたランドリーシュートの枠とドアのデザインを説明。ペンキ塗りは夕べのうちに完了したと言ったら、「じゃ、ドアの引き手もつけて、これで終わりだな」。ついでに、今届いたばかりの鏡や金物を取り付けてくれる?「自分でやると言ってたよ」とマイク。あはは、夜中までかかってペンキ塗りしたから今日は背中がコチコチなの。ということで、ウェスが全部取り付けてくれることになった。(元々はそういう話になっていたんだけど。)仕事にかかるウェスを残して、マイクは玄関先に放置してあった古いトイレを撤去して退場。

仕事を休んでヒマなワタシは紅顔の美青年の作業ぶりをとっくり見学。「Restoration Hardwareの店には行ったことがあるけど、店員がお高くとまってて、すごい上から目線だったよ」とウェス。「ワイフがああいうの好きなんだけどさ」と。(ははあ、お弁当の作り主だな。)通販部門はアメリカのコールセンターが扱うから愛想はいいけど、実際の店に行ったらそういう雰囲気なのかもしれないな。まだ若いカップルだからってお金がないかどうかわかるわけがないだろうに。ワタシも行かなくて良かったかもしれないな。ウェスのお父さんはプログラマなんだそうで、息子はデスク仕事よりは手を使うことの方が好きだからと大工の見習いになったそうな。だけど、マイクのように請負ビジネスは向いていないから、いずれは消防士になるつもりで、今は「オンコール」(呼び出しがあれば応援出動する)の消防士もやっているとか。奥さんはパラリーガルだそうな。「早く自分たちの家と子供が欲しいからね」と、屈託がない。かわいいイケメン君だなあ。どうして消防士ってイケメンばかりなんだろう・・・。

最後に四角いタオル「リング」を取り付けて、1月半ばから始まったバスルームの改装プロジェクトは99.99%完了して「実質的完成。残る0・01%の半分は今日付けたランドリーシュートの投入口の枠のペンキ塗りでもう半分はキッチンの本棚の上に置くガラス。ペンキはワタシがちょこちょこっと塗ればいいだけだし、ガラスはフレッドが持って来てくれたらそのまま乗せるだけ。いやあ、ほんとに長かったけど、いよいよ完了。感慨無量なような、ちょっと疲れたような・・・。

あああ、これでやっと毎日が「平常通り」の生活が戻ってくるぞ。カレシも、お疲れサマでした。

否定はとりあえず後にしようよ

4月8日。木曜日。ゴミ収集車の轟音で目が覚めたけどまたすぐに眠ってしまったらしい。久々にぐ~っすりと眠った気分で目が覚めたら11時過ぎ。おお、台風一過のようないい天気。テレビをつけたら、昼のニュースで、大風でまたしてもあちこちで停電。キツラノのビーチにはヨットが3隻打ち上げられたと言っていた。雹が降ったところもあるらしい。ほんとに4月に入ったとたんに狂った天気が続くなあ。

今日はひとりで運動がてらモールまで歩いてショッピング。まだ風が強くて髪が顔にかかって歩きにくいし、半袖のTシャツの上にジャケットだからちょっぴり冷たい。とりあえず、まず来週にヘアカットの予約をして、道路向こうの銀行へ行って当座の現金を下ろして、ついでにチップ付きに変わったクレジットカードのPINを変更することにした。ところが変わってくれない。3度やってもダメ。ふむ、どうやらオリジナルのPINを間違えて覚えたんだろうな。(後でPINの通知を引っ張り出してみたら、案の定、数字がひとつ違っていた・・・。)しょうがないから今日は諦めることにして、またモールへ。モールと言ってもたいしておもしろいショッピングはないんだけど、新装のバスルームに置く小道具を物色。ベイにはこれといったものがない。置いてないんだから、探しようもない。はっきり言えばカナダにはもう「デパート」と呼べるものがないんだけど。しょうがないから、隣のゼラーズをのぞいてみる。ここはベイのアウトレット兼擬似ウォルマート。安いんだけど、モノもそれなりに安っぽい。安いから「とりあえず」ということで、バスマットを入れるバスケットを買って、キャビネットの中に入れるプラスチックの3段引き出しを買った。そのうちこれはというものが見つかったら、引き出しは園芸室にでも置いてもらおうか。

夜になってまたトラックのバッテリが上がっているとひと騒ぎ。たった1週間前にジャンプスタートしてもらったばかりなのに。ふと日本なら車を持っていてもたまにしか使わない人たちも多いだろうと思って、日本語でググってみたら、やっぱりそうらしい。見ると「ソーラーバッテリ充電器」なるものを使えばいいと書いてある。そんなものがあったのかと思って、今度は英語でググって見たら、こっちでもあることはあるらしい。早速カレシに提案したけど、カリカリしている耳には入らないらしい。走らないとすぐにあがるというのは迷惑な話だけど、トウトラックの運転手によると、近頃の車はエレクトロニクスを満載しすぎたもので、ベンツもホンダもみんなそうなんだというから困ったもの。昔は中古車が新車同様の状態だと印象付けるのに「おばあちゃんが日曜日に教会に行くのに使った車」と冗談に言ったもんだけど、今の車だったら、おばあちゃんは日曜日の朝ごとに「エンジンがかからないの」と途方にくれそうだなあ。ほんとに今の世の中便利なんだか、不便なんだか・・・。

せっかくこっちが調べてこういう方法もあるよと言ってるのに、グチグチ言って聞こうとしないカレシを見ていて、パパにそっくりだなあと思い、友だちのブログで「~は日本のが一番」と言い放つ人の話を思い出した。どこにでもいるんだなあ、そういう人は。パパは何につけても「~は○○が一番(それ以外にはない)」という人で、誰が何を言っても聞く耳は持っていない。ワタシが来たばかりの頃にカレシがソニーのテレビを買ったら、「テレビはRCAが一番なのに、そんなものを買って」と半年ぐらいブツブツ言われたし、ホンダのシビックを買ったら、「車はフォードが一番なのに、そんな車を買って」と行くたびに言われたし、手押し式の芝刈り機を買おうとしたら、「芝刈り機はクレムソンでなきゃ」と自分が使わなくなって半分錆びたのを強制的にお下がり。子供の頃に家族そろっていつも同じ食堂へ食べに行っていたのは「仔牛のカツは何と言ってもここのが一番」という理由だったそうな。(カレシは子供心に「他のところへ行ったこともないのに何で一番だとわかるの?」と思っていたとか。)

自分が一番いいと思うものを一番だと言うのは決して悪いことじゃないけど、カレシのパパの場合は「一番」があるのみで、実は二番も三番も体験したことがない(というより、食わず嫌いと言う言葉の通りで、体験しようとすらしない)。知らないから理解できなくて、理解できないことが不安を呼び起こして、それで「NG」と否定することでその不安を打ち消しているのかもしれないな。(90歳の誕生パーティで見たときは、人がちょっと側を離れると不安な半べその表情になった。まるで母親の姿を見失った幼児のようで、人間は年をとって認知症になると素の姿がそっくり現れるのかなと思ったんだけど・・・。)カレシは知らないことや理解できないことでも自分なりに知ろうとするし、聞く耳がないようで聞こえてはいるから後で考えて受け入れたりもするけど、根底にある強い不安感情はやっぱり親譲りと言えるものなんだろうな。そういえば、赤ちゃんのときの初写真、笑っていた弟たちの写真とは対照的に眉間にしわを寄せて今にも泣き出しそうな顔をしていたっけ・・・

まあ、大人なんだから、とりあえず不安感を抑えて、人の話は聞くだけでも聞いて、一番も二番も三番も見聞きして、味わって、体験してみてから「思い込み」した方が安心だと思うけどなあ。

これぞ金曜サスペンスの日!

4月9日。金曜日。今日もいい天気。早い時間に電話がなっていて目が覚めたけど、そのまま眠ってしまった。そのうち自然に目が覚めて、しばらくぐずぐずしていたらまた電話。のこのこ起き出して出たら、会計事務所の秘書さん。ワタシとカレシの納税申告書がでたので、どうするかという話。事務所のほうからネットで提出してもらうのに承諾のサインがいる。では、ということでクーリアで送ってもらうことにして、朝食。

カレシはきのうハイウェイをぶっ飛ばしてかなり充電したはずのバッテリを試しに外へ。やっぱり、ククククという音がするだけでエンジンはかからないという。トウトラックを呼んで、今度はそのままそれほど遠くないトヨタのディーラーへ運んでもらった。入れ替わりにクーリアが納税書類を届けに来て、開けてみたら、わっ、今年は2人とも追加納税額がある。去年は、ワタシは売上がぐんと増えたから当然だし、カレシは2つの公的年金を通年でもらった初年度で、共済年金と違って所得税の天引きがないから確定申告をすると追加が出てくるのは当然。2人分で約3500ドル。死と税金は逃れようがないというけれどなあ・・・。

エコーも走らせなきゃということで、バッテリが上がったときにエンジンをかけるためのパワーパックを買いにブロードウェイのCanadian Tireに出かけた。こういう量販店はどこも駐車場があるんだけど、なぜかカレシは特に地下駐車場が嫌いで、路上のメーターにお金を入れて駐車。ここは我が家に近い店よりもけた違いに広い。ずらっと並んだパワーパックのどれがいいのか。300、600、800・・・わかんない。店員の方から寄ってくることはめったにないから、カスタマーサービスのカウンターまで言って質問。それでもよくわからないけど、まあトラックのバッテリに使うということで中くらいのにして、ついでにソーラー充電器を買った。こっちはあまり意味がないとわかってもがっかりしない値段だし、ライターのソケットに差し込んで、パネルを日の当たるところにおいておけばいいらしいので、お試しの価値はありそう。新品のバッテリでちょろちょろと充電しておけば、しばらく使わなくても上がる心配は減るはずなんだけど。

買い物を抱えて車の方へ歩いていたら、やたらとトウトラックがいる。カレシがすっとんきょうに「3時までなんだよ、ここ」と。そっか、ラッシュアワーの規制で午後3時から6時までは駐停車禁止。車の方を見たら、うわっ、トウトラックがいて、引っ張って行かれるところ。重い荷物を抱えて、2人とも必死で上り坂を走って、ぜいぜい言いながら「あの、これ、うちの、車なん、ですけど」。見たら前輪を持ち上げられて、引っ張って行く寸前。運転手氏、「下ろすのに40ドルかかります」。はっ、もう40ドルでも50ドルでもけっこうですんで、下ろしてくだしゃんせ。運転手氏はワイパーに挟んであった違反切符を取って、クリップボードの用紙にあれこれ書き込みながら「キャッシュ?クレジットカード?」と聞くから、ささっと現金40ドルを差し出した。領収書と違反切符を一緒に渡して、エコーを地面におろして、トウトラックは手ぶらで行ってしまった。午後3時5分。ほんっとにこういうときに限って市役所は行動が迅速きわまりないんだよなあ、もう。

きわどいところで救助した車で帰宅の途へ。さっきのトウトラックは2ブロック先で別の車を連行?するところだった。金曜日でもうラッシュが始まっているから商売繁盛か。駐車違反の罰金は50ドル。あと1分遅れていたら、持って行かれていて、受け出すのに90ドル(牽引料40ドルと罰金50ドル)かかるわけで、結局は同じ金額なんだけど、受け出しに行く時間と労力を考えれば、こんなラッキーなことはない。運と言うのはほんとに気まぐれ(じゃなければ運とは言わないんだろうけど)。パワーパックや充電器の説明書を読んでいたら、ディーラーから「修理完了」の電話。行ってみたら、「バッテリを取り替えました。保証期間中なので環境保護料5ドルだけ」と。トラックを買って2年で3つ目のバッテリなんだけどなあ。ソーラー充電器を買ったといったら、「それはいいですよ。ジャンプスタートはバッテリの寿命が縮みますから」と。な~んだ、だったらそれを早く言ってくれればいいのにぃ~。

こうしてまぶしい春の午後はサスペンスと冒険たっぷりのうちにあわただしく過ぎた。「今日は疲れたなあ」と言うカレシ。ふと大まじめな顔になって曰く、「キミってさ、おふくろと同じで、コップに水がまだ半分あると考える楽観主義なんだね」と。「まだある」んじゃなくて、「半分しか入っていないからもっと入れられる」と言う方かもしれないけど。まあ、元からそうだったかどうかは別として、今のワタシはポジティブ人間なんだろうな。でも、やみくもに楽観主義じゃなくて、経験則に基づいてある程度のリスクを冒せるガッツが備わったということなのかもしれないけど。(そうでないとカレシと暮らして行けないもん、と言いたかったけど、ほんとにどっと疲れている顔を見て言うのはやめた・・・。)

今日でお休みモードもおしまいで、明日からは仕事だから、忘れないうちに罰金を払って、今夜こそは腰をすえてプレゼンのスライド作りを始めようっと。

威風堂々と・・・

4月10日。土曜日。今日もいい天気。起床は午前11時半。確実に普通に戻った感じかな。きのうはけっこう冒険して疲れたから、今日はのんびり、ゆっくりと思ったけど、そうは問屋が卸してくれない。仕事を再開しなきゃならないし、何よりも今日はシーク教徒の最大の祭りである「ヴァイサキ」。2ブロック先のメインストリートの数ブロックは「バンジャビマーケット」と呼ばれるところで、シーク教徒の寺院からのパレードが通るから、我が家の周辺は駐車場所を探してぐるぐる走り回る車だらけ。それはいいんだけど、カーステレオでインドのポップをガンガン鳴らして通るのがいてうるさいったらない。おまけに、頭の上はバナーを引っ張った小型飛行機がブンブン。

もっとも、インド系(今は南アジア系と言い換えている)人口の中心が郊外のサレーに集中するようになって、パンジャビマーケットは衰退気味だし、シーク寺院の内紛もあったし、ヴァイサキもそれにつれて昔ほどの勢いがないような感じがする。今日の人ではは推定5万人の人出というけど、10年くらい前は飛行機が4機も5機もぐるぐる回って発狂しそうなくらいだったし、「住人専用駐車区域」の標識を無視してびっしりと車が止まっていた。それで当日はよくママのところへ避難したものけど、今は4、5時間で何事もなかったように静かになる。一時はたくさんいたターバン姿の男性も見かける数がめっきり減ったし、それくらいこの一帯の環境も変わってきているってことだろうな。

コンサートへは一駅先のオークリッジ駅から地下鉄に乗ることにして、駅のあるモールまで車で行く。これだと歩く距離が少ないので、ちょっと季節外れに冷え込んでいる夜でもコートは不要。長袖とはいえ気温10度の中をベルベットのドレス1枚で出かけるというのは、いい年してちょっと図太いかな。でも、ダウンタウンについてみたら、細い肩紐だけのパーティドレスで肩も背中も丸出しの若い女性がぞろぞろいるからすごい。見るだけでも寒気がしてくるけど、若さってのはすごいというか、鈍感というか。風邪引かなければいいけどね。せっかくのデートナイトの土曜日なんだし。

今日のコンサートはエルガーがメインで、『威風堂々』で始まり、第2部は『エニグマ変奏曲』。間にブラームスが入って、ソロはグリーグのピアノ協奏曲。ジョイス・ヤンは韓国生まれの若手ピアニストで、バンクーバー周辺に「60人くらい集まって、まるでお婿さんのいない結婚披露宴みたい」になるくらい親戚がたくさんいるんだそうな。かなりエネルギッシュだけど、ソフトなところはすごくソフトに。まだジュリアード音楽院の学生だそうだけど、将来は世界のコンサートを駆け回るんだろうな。

第2部の『エニグマ変奏曲』の前に曲の説明を終えたマエストロが、「飛行機事故でポーランドは大統領以下、国の主要なリーダーを失いました。今夜は9番目の『ニムロッド』が終わったところで1分間の黙祷で哀悼の意を表したいと思います」とアナウンス。変奏曲で一番人気がある『ニムロッド』は悲しいくらいに美しいアダージオのメロディ。終わったところでマエストロがそのまま深く頭を下げ、楽団員も頭を下げ、ホールはし~んとなった。70年前にポーランドの未来を担う人たちを2万人以上もカチンの森の虐殺で奪われたポーランドが、ソ連の頚木から自由になった国家を運営する人たちをそのカチンの森のすぐそばでまた大統領をはじめ何人も一瞬のうちに失ってしまった。なんという運命なんだろう。ワタシも目をつぶって、ポーランド人の苦難に満ちた民族史を考えているうちに、思わず涙がぽろぽろとこぼれて来た。でも、ポーランド人は心が強いから、ポーランドは大丈夫だと思う。

コンサートの最後は「サプライズ」。バレンタインデイの頃にあった資金集めのパーティで「コンサートで指揮をする権利」をオークションにかけたところ、交響楽団理事会の理事夫人が競り落としたそうな。女声合唱団の指揮をしている音楽活動家のステファニー・チャン女史で、真っ白なパンツスーツで登場して、エルガーの『威風堂々第4番』を、まさに堂々とタクトを振り切って大喝采を受けた。

さて、仕事を始めないと月曜日夕方の期限に間に合わなくなりそうなんだけど、ちょっと気が乗らない。じっくり余韻を味わってから、明日は大車輪で行こうか・・・な。