

The Pepper-Knepper Quintet ( 米 MetroJazz E1004 )
ペッパー&ネッパーと韻を踏んだタイトルが如何にもという感じだが、おそらく2人がミンガスの下で演奏していた時の縁から作られたアルバムなのだろう。
アダムスがドナルド・バードとグループを組む直前に録音されている。カラフルな色使いのデザインや下から見上げる構図が印象に残るジャケットだ。
バックはウィントン・ケリー、ダグ・ワトキンス、エルヴィン・ジョーンズという豪華で珍しい組み合わせで、この3人の顔合わせは他にはあまり記憶がない。
3人が3人とも独特の違うタイム感の持ち主だから一見すると水と油のようだが、これが素晴らしいドライヴ感とパワーで演奏を下支えしている。特にワトキンスの
イン・テンポなベースが見事で、音楽に疾走感をもたらしている。
ネッパーの音色は暗く少し汚れたような感じで、タンギングの仕方も他のトロンボーン奏者のような滑らかさ重視ではないので腹にズシンとくる。それに加えて
アダムスの重戦車のようなバリトンの音色がバリバリと雷鳴のように響く。この凄まじい音響感は筆舌には尽くしがたい。ペッパー・アダムスはどちらかと言えば
小柄で痩せた人なので、その外見からはこんな大きな音とスピード感でバリトンを吹くということがうまく想像ができず、そのギャップには毎回驚かされてしまう。
両面の中盤にエリントンのバラードを配しているところにも特徴があって、それが音楽全体のムードに一種の格調高さを与えている。ただの圧の高いハードバップ
では終わらせないという工夫が施されているのは明らかだろう。ウィントン・ケリーのピアノの独特の音色と清潔なフレーズの良さが際立つ。
ハードバップ全盛期に録られたこのアルバムはテナーとトランペットというフォーマットではなかったことやネームヴァリューのあるレーベルではなかったということで
ほとんど聴かれることなく素通りされているが、メンバー1人1人がベストな演奏をした圧巻の内容。おまけに音がとてもいい。楽器の音がクリアで生々しく、適度な
残響感があり、音圧も非常に高いジャズ愛好家が泣いて喜ぶ理想的なモノラル・サウンドだ。このレーベルは大手MGMのジャズ部門が50年代後半に使っていた名前だが、
自営業で自身の名前を広告する必要があったヴァン・ゲルダーなんかとは違い、録音技師の名前がクレジットされなかったせいでそのサウンドが評価されることがないのは
残念なことだといつも思う。