廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ジャズを破壊する変容の生々しさ

2025年01月01日 | Jazz LP (Columbia)

Festival Mondial Du Jazz, Antibes / Juan-Les-Pins, 7 / 26 / 1963



Festival Mondial Du Jazz, Antibes / Juan-Les-Pins, 7 / 27 / 1963



Festival Mondial Du Jazz, Antibes / Juan-Les-Pins, 7 / 27-28 / 1963


1963年7月にアンチーブで行われた国際ジャズ・フェスティヴァルに出場したマイルス・クインテットの記録は公式アルバム "Miles In Europe" としてリリースされている。
このアルバムは7月27日のライヴが収録されたが、その前後を含む3日間の公演の模様が今回完全収録された。27日の演奏はとにかく名演で、前後の日にちの演奏が出たと
なれば、これは聴かないわけにはいかないのである。

この時のテナーはジョージ・コールマンだが、マイルスが彼を高く評価していたことがよくわかる素晴らしい演奏をしている。この時期に去来したハンク・モブレーや
サム・リヴァースらとは実力のレベルが違うのは明白。この時期のこのバンドの演奏についていけたのはおそらく彼くらいしかいなかったのではないかと思わせる、
説得力のある演奏だ。当時のコルトレーンにも決して引けを取らないシーツ・オブ・サウンドで音楽を構築する。

それにしても、これは果たしてジャズなのか?という疑念が抑えきれない演奏だ。ここで聴かれる "Joshua" の凄まじさはどうだろう。これは本当にジャズなのか?
パーカーやエリントンやエヴァンスがやったジャズという音楽と同じ類のものだと言っていいのだろうか。

知的に極限まで制御された狂気の爆発というしかないこの音楽は、ジャズの歴史の中で最もスリリングな瞬間の1つだったのではなかったのか。これまでに随分たくさんの
ジャズを聴いていたけど、この時に比類するようなものは私には思い付かないのだ。この時会場にいた人は今目の前で何が起こっているのかを理解なんてできていなかった
だろうと思う。トニー・ウィリアムス18歳、ハービー・ハンコック23歳、ロン・カーター26歳、この若者たちのやっていた演奏を凌駕するトリオ・バッキングを私は未だに
聴いたことがない。管楽器奏者のバックでこんなを演奏を、一体誰がするか?

"Bitches Brew" が出た当時、これがジャズなのかどうかが激しく議論されたそうだが、私に言わせればマイルスの音楽は63年の時点で既に変容している。
もうこの時点で誰も彼にはついて来れない。ジャズを破壊したのはフリー・ジャズではなく、フリー・ジャズを嫌ったマイルスだったのだ。これを聴けば、それがわかる。




Paris Jazz Festival, Salle Preyel, 10 /1 / 1964


今回のリリースの白眉はこの1964年のパリでの公演で、ウェイン・ショーターのバンド加入後間もないライヴ演奏が聴けることだ。つまりまだスタジオに入って "E.S.P." に
始まる4部作を制作する前の、マイルスの古いレパートリーをショーターが演奏しているという1点に尽きる。

もはや同じ曲であって同じ曲ではない、位相の完全にズレた音楽の始まりが幕を切って落とされるのを目の当たりにすることになる。どの曲も歴代のテナー奏者たちが吹いた
のとはまるで別物の演奏で、音楽がまったく違うものに変わっている。ショーターはまるで明後日の方向を向いて吹いているように聴こえる。それに合わせて空間が歪み、
音楽自体も歪んでいく。その歪みがこの後の彼らの音楽の核となることがここで予言される。

ここからあの4部作が生まれるのだというワクワク感を時間を逆行する形で感じるというこのアンビバレンツさの中で正気を保つというのも容易なことではない。





最後に音質について。
63年のアンチーブの録音はもともと公式アルバムの方も音質はあまり芳しくはなかった通り、音場感は極めてデッドでベースやドラムの位置も遠いけど、これはオープンな
会場で録音環境としては最悪の状態だったことによるもので、音質が貧しいのは不可抗力で致し方ない。ただ、それを遥かに凌駕する演奏がもたらす興奮がここにはある。
これを聴いて音が悪いという感想しか持てないのであればそれは芸術を見る目がないということなのであり、自分を諦めた方がよい。

64年のパリの録音はもう少しホール感があり、残響も捉えられていて、より聴き易い。ショーターの太く胴鳴りするテナー音が快楽中枢を深く揺るがす。



コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 若き日の姿が尊い | トップ |   
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (MACKY)
2025-01-03 16:36:01
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
いま、まさにこれを聴いています。感動しきりです。
ジョージ・コールマンが、どこかのライヴで突如フリーっぽくプレイして、トニーたちをぎゃふんと言わせたことがあるとマイルスの自伝に書いてありました。そんな芸当ができるくらい巧みな人だったのですね。今年は彼のレコードをいろいろ聴いてみたいと思います。
返信する
Unknown (ルネ)
2025-01-03 18:54:33
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
聴かれてるんですね。これは聴かねば、ですよね。
ジョージ・コールマンは50~60年代前半にリーダー作を作れなかった数少ないビッグ・ネームです。
本当に惜しいことだなと思います。マイルスはどうやって彼を見つけたんでしょうね。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Jazz LP (Columbia)」カテゴリの最新記事