廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

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不器用なトランペッターが見た夢

2024年11月09日 | Jazz LP (ABC-Paramount)

Kenny Dorham / The Jazz Prophets Vol.1  ( 米 ABC-Paramount Records ABC 122 )


ケニー・ドーハムという人の活動の軌跡を見ていると、いろいろ考えさせられるものがある。40年代の終わりから60年代中期のジャズの黄金期を通して第一線で活躍した
一流プレイヤーだったわけだが、我が俺がというタイプではなかったこともあり、終始地味な印象が拭えない。録音に積極的だったこともあり、レコードはたくさん残って
いるのでこの人の演奏には触れる機会は多く、よく聴いていくと結構いろんなことをレコードを通してやっていたことがよくわかる。ただそのどれもが華々しい活動という
感じではなく、不器用な人が不器用なりにまじめにいろんなことに取り組んでいたんだなということがわかり、どこかグッとくるものがあるのだ。

パーカーとの共演やジャズ・メッセンジャーズでの活動の影響か、自己のグループを持つことを願っていたフシがあって、その断片がこのジャズ・プロフェッツという
グループだった。J.R.モンテローズに白羽の矢を立てたのはなかなかの慧眼だったが、残念ながら長続きはしなかった。おそらく放浪癖のあるモンテローズがグループ活動を
望まなかったからではないかと想像するけど、ドーハム自身もリーダーシップを発揮してグループ経営をするようなタイプでもなかったのだろう。

ドーハムのトランペットは基本的には線が細いし、モンテローズは音は太いがリズム感が悪く音楽のノリがよくないので、グループとしての音楽の纏まりは弱い。
ただ、この2人の独特のマイナー感が音楽に陰影をもたらしているようなところがあって、それがジャズという音楽が持つマイナー感とうまくマッチして何とも言えない
哀感をたたえている。それは頼りなさとして映ることもある一方で、儚さとして聴き手を包み込むところもある。

おそらくはこのグループのテーマ曲とするつもりで書いたのであろうB面ラストの "Tahitian Suite" はカフェ・ボエミアの方では "Monaco" と称され、異国の夕景を想起させる
深い哀愁に心打たれる名曲だが、こういうものを用意するほどこのグループには本気で取り組もうとしていた。この曲にはドーハムがこのグループに託そうとした音楽観の
イメージをダブらせて書いたような雰囲気があり、結果的には長続きしなかったという幕切れと相俟って聴いていて何とも切ない。

唯一のスタジオ録音となったこのレコードは、音の良いレコードが少ないABC-Paramountレーベルの中では硬質でメリハリの効いた張りのあるいい音で鳴るもので、
アルバムによって演奏の出来不出来の波が激しいドーハムのプレイも切れ味のいい優れた演奏で、彼の残したアルバムの中でも筆頭の1つに数えていい。Vol.1とするほど
意欲的に取り組んだにもかかわらず、後が続かなかったのは本人としてもさぞかし残念だっただろう。この後、リヴァーサイドと契約して自己名義のアルバムを多数残すが、
そのどれもがこれほどの精彩は見られず、心の傷を引きずっていた様子がどことなく垣間見えるのである。



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2 コメント

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Unknown (avengerv6)
2024-11-16 10:11:41
おはようございます。
オリちゃんをお持ちなんですね!
現物を見かける機会も稀で、ちょっと手が出ません。
良い内容なのでVOL.2がリリースされていなく残念です。後年、ドーハムは身の不運、不遇を嘆き、愚痴をこぼしていたそうです。いつの世、どの社会にもありますね。
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Unknown (ルネ)
2024-11-17 09:18:37
こんにちは。
これ、昔から高いですよね、なぜなのかよくわかりませんが・・・
ジャズ・ミュージシャン1本で食っていくのは、まあ大変だったでしょうね。マイルスのような生き方をすれば別でしょうけど。
ドーハムももっと大衆受けする音楽も手掛ければよかったのでしょうけど、それができなかったのも不器用さの表れだったのでしょう。
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