廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

巨匠の至芸

2018年12月29日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Erroll Garner / Solitaire  ( 米 Mercury MG-20063 )


これは、今まであまりこの人を真剣に聴いてこなかったことを反省させられたレコードになった。 正直に告白すると、エロール・ガーナーは "Concert
By The Sea" しか聴いたことがなかった。 昔から有名な名盤だけど、まあこんなものか、というくらいの感想しか持てず、そこでこの人への興味は
止まってしまっていた。 音楽を聴くためのレコードというよりは、当時如何にジャズが人気があったかを説明するための教材という感じに思えた。

ところが、このレコードはそうではない。 全編がガーナーのソロ・ピアノで、グランド・マナーで最後まで弾き切ってみせる。 その演奏力に圧倒された。
そのアプローチは古風なスタイルで、それはアート・テイタムをお手本にしているわけだけれど、テイタムのように強い支配力でねじ伏せるようなことはせず、
もっと柔軟でしなやかなうねりを見せる。 音楽はとても自然に流れて行くけれど、取り上げられたスタンダードたちが見事なまでにガーナーの音楽に
塗り替えられている。 圧巻の演奏力だけど、同時にとても繊細で隅々まで神経が行き届いている。 これは凄い、という感想しか出てこない。

おまけに、このレコードは音がとてもいい。 ピアノの音が輝いている。 グランド・ピアノがフル・ヴォリュームで鳴っているのが手に取るようにわかる。
ソロ・ピアノを聴くのには最適な音場感だろうと思う。

安レコ買いの一番のメリットはこういうところだと思う。 いろんな音楽に気軽に触れることができて、その中で思いもよらず新しい窓が開くことがある。
そうやって自身の音楽生活の幅は拡がり、充実していくのだ。


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傑作には見えない傑作

2018年08月13日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Benny Golson / Turning Point  ( 米 Mercury MG-20801 )


ベニー・ゴルソンがここまでロリンズの影響下にあったとは知らなかった。 後乗りでフレーズに喰いついてゆっくりと噛み千切る様はロリンズそっくりだ。
ざらっとした低い音色もよく似ている。 ワンホーンという広い間口の中だからこそ、こういうことがよくわかるのだろう。 

一般的なこの人の印象、つまり潰れたような音が切れ目なくうねって何を吹いているのかよくわからない、という悪い癖はここではほとんど見られない。
ベン・ウェブスターのようなサブ・トーンも随所で効いていて、全編に巨匠の風格が漂う。 圧巻の語り口で最後まで吹き切っている。

ウィントン・ケリー、ポール・チェンバース、ジミー・コブのトリオも過不足のない、適切なプレイをしている。 バッキングに埋没することなく、自己主張で
邪魔することなく、ゴルソンのワンホーンとゆっくり交わりながら音楽を形成していく。 こうしてこのアルバムは傑作になっていく。

この時期のマーキュリー・レーベルは、時代の要請を受けて大衆向けのわかりやすい音楽を大量生産していた。 サラ・ヴォーンやローランド・カーク、クインシー・
ジョーンズ、ダイナ・ワシントンら大物もたくさんレコードを作った。 ゴルソンもジャズテットとして契約していたが、そこから1人離れてこれをそっと録音している。
どこからどう見ても傑作には見えないが、これを聴けばベニー・ゴルソンのプレーヤーとしての真の実力を知ることができる。


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安レコの一番いい買い方

2018年05月26日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Gerry Mulligan / Something Borrowed, Something Blue  ( 米 Limelight LM 82040 )


安くて内容のいいレコードを買いたければ、財布の中にお金を少ししか入れないことだ。 若しくは、お金のない時に敢えてレコード屋に行く。

財布に3万円入っていると、どうしても高いレコードから優先して探してしまう。 そうすると、早い段階で予算は尽きてしまい、安レコのコーナーまで
辿り着くことはない。 でも、財布に千円しか入っていなければ、千円以下のレコードしか買えないわけだから、本気で安レコを掘らざるを得ない。
そして、こういう時にこそ、イカした安レコに出会うことができる。

金曜日の夜、財布を見ると2千円しか入っていなかった。 そこで、よし、今日はこれで買えるものを探すぞ、と一人腹を括ってみる。 そうすると、今までは
目に留まることのなかったこういうレコードが視界に入ってくるようになる。 もし、もっとお金が入っていたら、私はこの最高にイカしたレコードを
手に取ることはなかったろうし、この極上の音楽を聴き逃していたに違いない。 そういうアホなゲームを楽しみながら、安レコを探すのだ。

マリガンがズートと組んで、ウォーレン・バーンハート、エデイ・ゴメス、デイヴ・ベイリーをバックに吹き込んだこのアルバムは、まるでもう1つの "Night Lights"
と言ってもいいようなおだやかで上質な趣味のいいジャズになっていて、これ、最高だよ、と一人で小躍りした。 当面のヘビロテ決定である。

マリガンは曲によってはアルトを吹いたりしてのんびりと楽しそうだし、ズートは少しかすれたような穏やかなトーンで静かにメロディを紡ぐ。 
ウォーレン・バーンハートの参加が珍しいけど、新鮮な感覚でジャズ・ピアノを弾いており、これがこのアルバムの隠し味になっているようだ。
"Sometime Ago" のソロなんて、まるで若い頃のエヴァンスのようだ。

ライムライトというレーベルは総じて地味なラインナップを持つマーキュリーの傍系廉価レーベルだけど、大物がズラリと顔を揃えた侮れない内容を誇る。
レーベル上部の小っちゃいドラマーの絵が可愛らしい。

手元には千二百円が残ったので、まだ他にないかなと粘って探してみたけど、この日は他にめぼしいものはなかったので、これで切り上げた。
金曜日の夜、新宿の街は解放感に溢れた人でごった返していて、そういう雰囲気を楽しみながら私もゆるやかに家路に着いた。


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ロリンズとドーハムの名演

2017年10月07日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Max Roach / + 4  ( 米 Emercy MG 36098 )


サキソフォン・コロッサスの3か月後に収録されたこの作品は、言うまでもなくソニー・ロリンズを堪能する作品である。 切れ込みの深く鋭いロリンズのフレーズが
とにかくかっこいい。 そして、ケニー・ドーハムも珍しく絶好調の名演を聴かせる。 ケニー・ドーハムがいい演奏をしているアルバムはものすごく少ないので、
これはそういう意味でも貴重なアルバムだ。

"Body And Soul" ではロリンズが絶品のバラードプレイを披露する。 ここでの歌いまわし方は "You Don't Know What Love Is" そのまま。
あのアルバムがあれだけべた褒めされてこのアルバムがここまで無視されているのは、ひとえにマックス・ローチのお気楽な表情のせいかもしれない。

収録された楽曲も魅力的で、冒頭の"Ezz-Thetic" はジョージ・ラッセル作だが、メロディ-ラインは違えどその構造やコード進行は "Open Sesami" のそれだし、
"Mr.X" は "Woodyn' You" の変奏曲だったり、とアルバムの隅々にまで旧き良きハード・バップのムードが充満している。

ロリンズとドーハムの2人が並んで写っている姿なんて他では見られない貴重なショットなのに、このザマは一体何だろう。 契約関係上、この2人を前に出すことは
出来なかったという事情はわかるけど、それにしてもこれはない。 「ブラウニーへの追悼」と言われることもあるけど、だったらなんで1人笑顔なのだ?
おかげで、この名演が詰まった作品が駄盤扱いになったまま埋もれてしまっている。 この凄い演奏群を一発で駄盤に変えてしまうマックス・ローチと言う人は
一体何者なのか。 永遠に謎が残る。


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名盤と駄盤の境目

2017年10月01日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Max Roach / Jazz In 3/4 Time  ( 米 Emercy MG 36108 )


マックス・ローチがあまり好きではないので、今まではこういうレコードは完全無視してきた。 特にこのレコードはジャケットを見るだけでげんなり・・・
なんだか食欲が無くなるような感じだ。 こんなレコード、一体誰が買うんだ?とずっと思ってた。

ところがこれはソニー・ロリンズが素晴らしい演奏をしているレコードだったということがわかった途端、見方が180度変わってしまう。 サキソフォン・コロッサスを
録って間もない頃のロリンズなのだから、まあ、悪い訳がない。 ケニー・ドーハムとの2管なので演奏スペースが限られているのが惜しいけれど、それでも
ロリンズの魅力が炸裂している。 硬く重く引き締まった音色、構造的なフレーズ、ゆったりと大きく深いタメた感じ、どれをとっても完璧だ。

3拍子の楽曲ばかりを収録した企画物で全体的に穏やかな表情で、半年前に録音された "+4" のシリアスで硬派な作風とは好対照になっている。 ピアノの
ビリー・ウォレスは初めて聴くが、これがなかなか頑張っている。 

ブラウニーがいた時の音楽はアレンジ過多で、どんなに彼の演奏が素晴らしく輝いていても音楽自体はあまり好きにはなれなかったが、この第2期ともいえる
メンバーによる演奏は1957年の東海岸の正統ハードバップで、音楽的にはずっと自然でいい。 まあ、役者が違うということだ。

それにしても、1番の聴き所にまったく触れずにレコード化してしまうこのレーベルの感性は理解し難い。 当時のマックス・ローチは高名だったようだから、
売る分には別にこれでも問題なかったのかもしれないけど、見た目と音楽の内容がここまで噛み合っていないアルバムも珍しい。 同じミュージシャンの姿を
使うにしても、これがリード・マイルスの写真とデザインだったら、内容の良さも手伝って今頃は「名盤」ともてはやされていたことだろう。 そう考えると、
名盤と駄盤は本当に紙一重だったんだなあと思う。


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コマーシャルのどこが悪い?

2017年01月22日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Jullian "Cannonball" Adderley and Strings  ( 米 Emercy MG-36063 )


フロリダで音楽教師をしていたキャノンボールがニューヨークに出てきて演奏を始めた頃の有名なエピソードがある。 
フィル・ウッズがクラブで演奏をしていたある夜、ジャッキー・マクリーンがやってきて「ちょっと来いよ」と彼をカフェ・ボヘミアへと
引っ張って行くと、オスカー・ペティフォードのビッグバンドの前座としてキャノンボールが演奏していて、それを聴かされたウッズは
マクリーンと顔を見合わせて「なんてこった!」と興奮し合った、という話だ。

私はこの逸話がとても好きだ。 たくさんの夢を抱えた若い2人のミュージシャンが突然現れた新しいライバルの姿に興奮してその演奏に
じっと見入っている姿がすがすがしく微笑ましい。 彼らのその時のドキドキした気持ちが何だか手に取るようにわかって、
こちらも高揚した気持ちになるのだ。特に、驚いたマクリーンがすぐにウッズを探して引っ張って行った、というところがとてもいい。

1955年にニューヨークに出てきたキャノンボールは、弟のナットと共にクインシー・ジョーンズの家を訪れ、レコーディング出来るレーベルを
紹介して欲しいと頼んだ。 そこでキャノンボールに演奏させたところ、あまりの凄さに驚いたクインシーは当時自分が専属編曲家として
契約していたエマーシーのボブ・シャドにすぐ電話をかけて、「凄いぞ、次のパーカーが現れた」と興奮してレコーディングを勧めたという。
ちょうどチャーリー・パーカーが亡くなったばかりの時期だったのだ。 そして、キャノンボールはエマーシーと契約して「新しいバード」という
謳い文句付きでレコーディングを開始し、その一連の中で作られたのが、このウィズ・ストリングスだ。 これはもちろん、大ヒットした
パーカーの例のレコードの2匹目のどじょうを狙ったものだった。

デビューして間もない頃なので遠慮気味だけれど、非常に知的な雰囲気と最高度の技術となめらかな歌い方が同居していて、当時の人々が
驚嘆したことがよくわかる演奏になっている。 他の誰とも似ていない、聴いてすぐにキャノンボールだとわかる演奏になっているのが凄い。
紐付きでスタンダードで時間も短くて、というコマーシャルな音楽として真剣に評価されることがないスタイルだけど、このアルトは
他のものとは次元が違う。 コマーシャルの一体どこが悪い?と開き直ってでも聴きたい。

キャノンボールの悪いところは、先輩の忠告や教えをあまり聞かないところだった。マイルスは当時一番信頼できて自由にやらせてくれる
アルフレッド・ライオンと契約するように強く勧めたのに、キャノンボールはその忠告を無視してエマーシーと契約してしまう。 
その結果、ミュージシャンの意向など考えずにレコード制作のすべてに口出しするエマーシーの制作陣のせいで、キャノンボールは
やりたいことも彼がやれことも何一つさせてもらえず、一番大事な時期にその実力に見合わない作品ばかりを残すことになり、
それが彼のミュージシャンとしてのキャリアを駄目にしてしまった。 
後に彼は親会社であるマーキュリーに対して、そういう制作サイドの無能と横暴を批判し不満を表明することになったが、それはもはや
手遅れだった。誰が味方で誰の言うことを信頼するべきかを見極めることは何より重要だ、という当たり前の教訓がここにはある。


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最高傑作に成り切れなかった理由

2016年03月27日 | Jazz LP (EmArcy / Mercury)

Clifford Brown With Strings  ( 米 Emercy MG 36005 )


バックの弦楽団のサウンドがまずくて、アルバムトータルとして足を引っ張ってしまっているのがとても残念だ。 ヴァイオリンが6人、ヴィオラが2人、
チェロが1人、という意味のあまりよくわからない構成がとにかくまずい。 この高音域帯に偏った弦楽アンサンブルとトランペットという高音域楽器の
サウンドが完全に被っていて、トランペットの演奏がまったく映えないことになってしまっている。 これは完全にアルバムプロデューサーの失敗だ。

よくパーカーのウィズ・ストリングスのバックの演奏がダサい、と言われるけれど、私はそうは思わない。 あちらは弦楽器の各帯域のバランスが良く、
オーボエやハープが幻想的な効果を割と上手く出していて、背景音楽としてはよく出来ていると思う。 ところがこのブラウニーの方はニール・ヘフティの
ポップでわかりやすいアレンジが全然表現できておらず、軸が壊れて曲がってしまったスツールに腰かけているような座り心地の悪さがどうにもまずい。
チェロをもっと増やすか、コントラバスを入れるかして、低音域に厚みと深みを持たせて欲しかった。

更に、エマーシー独特の奥行き感の希薄で二次元的な音場感が、弦楽のアンサンブルとトランペットの音の分離の悪さを助長している。 トランペットの
音自体は生々しく音圧高く録れているのに、音場の中でバックの弦楽隊との距離感を作れていないので、どの楽器の音も同じように前に飛び出してきて、
ブラウニーの演奏の凄みがうまく体感できないのだ。

そのブラウニーは、この時24歳。 それが信じられないような楽器コントロールと歌心を発揮している。 とにかく弱音箇所でも音が100%出切っていて、
ロングトーンも不安定な音の揺らぎは一切なく、上品なヴィヴラートとのバランスもよく、こんな演奏をできた人は後にも先にいない。 音色も金属的な
響きはまったくなく、本当に人が歌っている声を聴いているようなところも、この人だけのものだ。 "Embraceable You" や "Portrait Of Jenny" での
メロディーの歌わせ方は特に素晴らしくて、1度聴いたら忘れられなくなる。 どの曲もアドリブラインが一切なくメロディーを吹き流しているだけなので、
ジャズとしての面白味は皆無でそういう意味では退屈な内容だけど、これはアルバム制作上のコンセプトの問題だからそこを突いても仕方がない。
だから、殊の外、構成や音作りへの不満が強く残るのだ。 ジャズだからトランペットの演奏さえよければそれでいいじゃない、とはならない。

大学できちんと教育を受けたインテリらしく、どちらかと言えば制御系のトランペッターだったから、この後の展開がどうなっていくかをみんなが愉しみに
していたのに、道半ばで途絶えてしまったのは残念だ。 トランペットがサックスの後塵を拝してきたのは、この人を失ったからかもしれない。



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