

Cal Massey / Blues To Coltrane ( 英 Pure Pleasure Records CJS 9029 )
新譜、復刻を問わずアナログがリリースされる現在の状況は大変喜ばしい。 アナログブームという風潮が作られて、昔は100円で転がっていた
中古国内盤が1万円近い値段で売られているという困ったオマケは付いてきたとは言え、それでもレコードが流通している風景は我々世代にとっては
嬉しいことだ。 しかも、最近の復刻盤のクオリティーの高さには驚かされる。 40年近くレコードマニアとして生きてきた私の眼から見ても、何の
抵抗もなく買おうという気にさせられる。 オリジナルと比較してどうのこうのと言う気にならない、別のプロダクトとして完成していると思う。
そんな中、大物たちの未発表作の宣伝に愛好家の眼が向けられている裏で、ひっそりと復刻されていたレコードがあった。 カル・マッセイである。
1961年にCandidレーベルに吹き込まれながらもオクラ入りになり、本人の死後、1987年にドイツのブラック・ライオンからようやくリリースされた
ということらしい。 道理でこれまでCandid盤を見たことがなかったわけだ、と今更ながら納得した。
演奏家としての評価より作曲家としての評価が高いけれど、それは作品が流通しておらず、単に本人の演奏に触れる機会がないからだろう。 彼の
作曲した曲はいろんなところでいろんな人が演奏しており、ミュージシャンには愛されていたのが伺われる。 私もこのいい曲は誰が書いたんだと
見てみるとカル・マッセイだったということがあって、それでずっと心の中で引っ掛かっていた存在だったのだ。
ジャケット写真の印象からピアニストだとばかり思っていたがトランペッターだったということが今ごろわかるような始末だが、派手さはないものの、
心に残る演奏をしていることがわかる。 タイトルからもわかる通り、王道のブルース基調の楽曲が並んでいるが、特にコルトレーンの影がさしている
ような印象は受けない。 これはコルトレーンを意識した音楽ということではなく、おそらく互いに友人として親交があった2人の親愛の情を表した
タイトルだったのではないかと思う。
3管編成の普通のジャズでわかりやすい内容だが、メンバーの中に際立った演奏力を誇示する人がいないため、全体的には地味な演奏になっている。
全然悪くない良い演奏だと思うけど、61年という時代に売り出すにはいささか地味過ぎるということで発売が見送られたんじゃないだろうか。
Candidは尖ったミュージシャンを擁するレーベルだった。 もしそうだとしたら、本人はさぞ気落ちしただろうと気の毒になる。 別のレーベルなら
普通にリリースされていたに違いない。
そういうことを想いながら、私はしみじみと聴いている。 人知れず密かに復刻されたことに感謝したい。