廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

黒人クルーナーの原点

2020年12月05日 | Jazz LP (Vocal)

Billy Eckstine / I Surrender Dear  ( 米 EmArcy MG-36010 )


白人男性クルーナーの開祖がビング・クロスビーなら、黒人クルーナーの方はこのビリー・エクスタイン。歌手だけに留まらず、
自身のビッグ・バンドを持ち、後の大スターであるパーカー、ガレスピー、デックス、マイルス、ブレイキーらを育てた、
ジャズ界にとっては恩人でもある。

声量があるのでビッグ・バンドをバックに歌うことが多く、どのレコードも華やかな雰囲気があるが、このアルバムはエマーシー時代に
吹き込んだバラードを集めたもので、"There Are Such Things"などの代表的な歌唱が含まれている。この曲の歌唱はロリンズにも
インスピレーションを与えて、素晴らしい演奏へと繋がった。当時はみんなが彼の歌を聴いていたのだ。

深いバリトン・ヴォイスで歌われるスタンダードたちは独特の陰影を放ち、1度聴くと心に残るものばかり。"I Surrender Dear"などは
珍しくヴァースから歌われており、どの楽曲も丁寧に扱われていることがよくわかる。黒人歌手たちは白人歌手たちよりも
楽曲1曲ずつをより丁寧に取り扱っている傾向があると思う。

このクルーナー・スタイルはアール・コールマンに引き継がれ、ジョニー・ハートマンで完成する。その起点になったエクスタインは
もっと聴かれていい歌手だと思う。今はこういう歌い方をする人は、もうどこにもいない。


コメント
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