Donald Byrd, Barney Wilen / Jazz In Camera ( 独 Sonorama L-65 )
1958年に映像作品のサントラとしてパリで録音されながら、映像もレコードも未発表のまま終わってしまったプロジェクトの音源が
21世紀に入ってからようやく陽の目を見たというアルバム。50年代後半のフランスではジャズは外国産の前衛芸術で、商業ベースに
乗るのは難しかったから、こういう話は珍しくない。リリース当時は私はレコード漁りを止めていた時期だったので、当時の反響が
どういう感じだったのかはよくわからないが、50年代の雰囲気をうまく伝えるジャケットデザインといい、盤を触った時の質感といい、
なかなかよく出来ている仕上がりだと思う。
ドナルド・バードとダグ・ワトキンス、ウォルター・デイヴィスやアル・レヴィットらのアメリカ勢が参加しているが、どういう経緯だったのかは
よくわからない。このためにわざわざ4人して渡欧したのか、たまたま各々が現地に来ていたところを捕まえられたのか。
いずれにしても、珍しい組み合わせではないだろうか。
当然、「死刑台のエレベーター」や「危険な関係」を想い出すわけだが、このアルバムで聴かれる音楽は2作ほどの深い濡れたような情感は
感じられず、アメリカのマイナー・レーベルのような雰囲気だ。ただ、バルネのテナーがよく効いていて、そこは聴き応えがある。
録音も良好で、程よい残響感に包まれながらスタジオの静かな環境の中できれいに録られている。ワトキンスのベース音がブーミーなのは
御愛嬌だが、重低音がよく効いている。管楽器の鳴りは良く、ジャズのムードが満点だ。
インパクトのある楽曲に欠けるので名盤扱いされないだろうが、それでも当時の雰囲気をよく伝える内容で、聴いていて満足感が高い
タイムマシーンのようなレコードではないか。