

Lee Konitz / Plays With The Gerry Mulligan Quartet ( 米 World Pacific Records PJM-406 )
リー・コニッツの最良の演奏が聴けるものとしては一般的には1954年のストーリーヴィル盤が人気があるが、その前年に録音されたパシフィック盤は
それに負けない素晴らしさを誇る。 でも、パシフィックは2枚の10インチにマリガン・カルテットの演奏とミックスして分散して収録したものだから、
コニッツの演奏に焦点が定まらずに印象がぼやけてしまって名盤としての選から漏れてしまっている。 これは明らかにレーベル側の編集ミスで、
その反省から57年にコニッツ参加の演奏だけを集めて、未発表だった2曲を加えて、リマスタリングを施して、12インチに再編集してリリースした。
そして、この12インチが非常に素晴らしい仕上がりになっている。
まず、音質が劇的に向上している。 特に、ハリウッドのクラブ "The Haig" でのライヴを収録したB面の生々しい音場感は圧巻だ。 クラブの最前列で
聴いているような空間表現、楽器の艶やかな音、どれをとっても最高の仕上がりである。 コニッツのアルトの音は、彼のレコードの中ではこれが一番
リアルで生々しい。 この12インチを聴くと、いくら初出とは言え、もう10インチ盤は聴く気にはなれない。 如何に10インチの音が貧弱かがよくわかる。
10インチではカットされていた拍手もちゃんと入っている。
次に、編集の仕方が明快で、A面はスタジオ録音、B面はライヴ録音というまとめ方のお陰で、コニッツのプレイに1本のスジが通る。 1曲1曲の演奏が
きちんと繋がっていき、各面が1つにまとまり、それがアルバムとしての統一感を形成する。 マリガン・カルテットをバックに付けたリー・コニッツの
リーダー作として立ち上がってくる。 これが正しい姿で、最初からこうするべきだった。
さらに、10インチでは選から外れてオクラ入りしていた "I'll Remember April" と "All The Things You Are" でのコニッツの演奏がこのライヴでの
ハイライトだったということ。 10インチは基本的にマリガン・カルテットが主役というコンセプトでコニッツは客演扱いだったから、マリガン・カルテット
が目立たない曲は当時は外されたようだが、コニッツ目線で見るとこの外された曲にこそ価値があり、彼のベスト・プレイが聴ける。
初出が一番エライとされる奇妙な世界においてこのレコードは単なるコンピレーション扱いで、安レコとしてエサ箱の隅に追いやられている。
でもパシフィックのリー・コニッツは、このセカンドが勝ちなのだ。


ジャケットの意匠は見事でも貧弱な音質で、あまり聴く気になれない困った初出たち。
パシフィックジャズはこういう再発だけでなく、同じ10インチのセカンドプレスでもマスタリングを変えて、全く違う音になっていることがありますので、違うマスタリングの盤を聴いているかもしれません。そこがパシフィックジャズの面白いところです。
しかし、このレーベルは頻繁にマスタリングを変えてるみたいですね。手間もかかればお金もかかるだろうに。このレーベルも実はサウンドマニアだったのかもしれませんね。