[3月のとある日 14:00.財団東京本部 敷島孝夫&アリス・フォレスト]
「また東京に来たの、久しぶりだなぁ……」
敷島とアリスが訪れたのは、日本アンドロイド研究開発財団の東京本部。新宿にある。
「何でアタシが呼び出されなきゃいけないわけ?タダじゃ話さないよ?」
「多分、ウィリーのことじゃないと思うな」
「じゃあ何?」
「ま、ヒアリングがあるみたいだからさ」
あくまで敷島は同行者であり、呼び出されたのはアリス本人である。
アリスだけが本部の会議室に入ると、本部所属の理事達が4名ほど座っていた。
因みにこの場では英語が飛び交っているが、勝手に和訳させて頂く。
「アリス・フォレストさんだね?」
「そうだけど?じー様のことなら、とっくに喋ったはずなんだけどね?」
「今日はそのことで御足労頂いたわけではない。まあ、とにかく掛けたまえ」
アリスは椅子に座った。まるで就職の面接だ。
「アリスさんの類稀なる才能、本部首脳たる私共も十分に聞いている」
「首脳ってアンタ達、4人しかいないの?」
「まあ、理事会の理事達は他に仕事を持ってるからね。全員が急に集まれるわけではない。キミの才能は仙台支部での仕事ぶりで、十分に伝わったと考えている」
「エミリーやボーカロイド達の整備のこと?」
「そこでだ。キミを財団の正会員として迎えたいのだが、どうかね?」
「別にアタシは会員になりたくて、整備してたわけじゃないよ。報酬も出るし、何よりロボットの相手してると楽しいし」
「その直向きな気持ちも汲んでの話だよ」
「うーん……。アタシが会員になるメリットって何かあるの?いや、アンタ達の損得なんて、アタシにはどうでもいいの。最低でも何かアタシが得しないと、じー様が化けて出てくるかもしれないから」
「科学者らしからぬ、非科学的な発想だ」
「悪い?少なくとも、そういった夢を見る可能性はあるわ。もっとも、心理学辺りのことは分かんないから何とも言えないけど、そうなった場合、ちゃんとした説明ができなきゃ、いくら血の繋がりが無いからとはいえ、一応は育ててくれた孫娘として恥ずかしいし」
「キミが思う存分研究できる環境を提供することができる。また、キミの才能について財団として大いに紹介することもできるし、バックアップもできる。無論今まで通り、マルチタイプやボーカロイドの整備役を引き受けてくれるのもいい。報酬はアルバイト程度の額だったが、アップも考えよう。それだけのメリットでは、まだ足りないかね?」
「思う存分研究できる環境って何?」
「例えば……」
敷島は財団本部が入居しているビルの1階にあるカフェで時間を潰していた。
「ただいまー」
「おっ、お帰り。どうだった?」
「そうね……。あ、ブレンドコーヒー1つ」
アリスは店員に注文した。
「財団の会員にならないかって、スカウト話だったわ」
「へえ……」
「ほんと、笑わせてくれる」
「そうかい?」
「だってアタシを誰だと思ってるの?それこそ、財団を潰してやると半分本気で考えていたウィリアム・フォレストの孫娘だよ?彼らにプライドがあるのなら、アタシなんか地方支部でさえ出入り禁止にしてもいいはず。それをしないどころか、むしろ仲間になれっておかしくない?」
「まあ、言われてみれば滑稽な話ではあるね」
「でしょう?」
「ホットコーヒーお待たせしました」
「Thank you.……日本はチップの無い国だったね」
「まあな。昔のわだかまりのことは忘れて、純粋にアリスの才能を買ってるんだよ。それでいいんじゃないか?」
「才能を買ってくれるのは嬉しいけど、相手があの財団じゃね……。じー様の墓前に、何て報告するよ?」
「自分の才能を買ってくれる組織があった。それがたまたまあの財団だったけど許してね、じゃダメかな?」
「じー様もガンコだったからねぇ……」
「他人……もしくは他の家族や親族にはガンコジジィでも、意外と孫にはデレデレの老人なんか大勢いるよ」
「じー様はそういうタイプじゃなかったからねぇ……」
「え?でも、お前には優しかったって……?」
「それでも芯のある老人ではあったから、いくらアタシでもダメな時はダメだったよ」
「ふーん……」
「それに優しかったって言ったって、イタズラした時なんかはこっぴどく怒られたしね」
「それは当然だ。何やらかしたんだ?ヅラでも取ったのか?」
「じー様はヅラじゃないし!……日本に連れてきてもらった時、勝手にバージョン2.0改造して怒られた」
「それ、いつの話だよ!?」
「10年前。まだアタシが13歳だった頃」
「13歳の時から既にバージョン相手にしてたのかよ!?」
「何も驚くこと無いじゃない。平賀教授も、そのくらいから既にメイドロボットの七海を実用レベルまで設計したって言うじゃない?」
「お前と平賀先生は特別だよ。で、正会員の話は蹴ったってわけか?」
「一応引き受けた」
「あらっ!?」
「背に腹は変えられないからね。科学者ってのは研究してナンボだからさ。確かに今の環境では、アタシにとって十分とは言えないのは正直なところね。仙台支部の間借りした研究室じゃ狭いし」
「そうか……」
「カネについては、じー様の遺産がだいぶ残ってるからまだいいけど、日本の物価高いから、意外と支出が多いのね」
「なるほど」
「それについては、じー様も言ってたし。『何があっても研究できる場所は確保しておけ』って。じー様が化けて出たら、その為だって言い張るわ」
「化けて出るって……。ウィリーは何て言ってくると思ってるんだ?」
「そうねぇ……。『お前にはブライドが無いのか』って言ってくるかしら?」
「何て答える?」
「『先にアタシをスカウトしてきて……いや、それ以前に地方支部に出入りさせてる時点で、財団のゼロ・プライドよりはマシよ』って言っとく」
「はははは!……まあ、いいや。コーヒー飲んだら、帰ろう。中央線快速なら、15分で東京駅に行ける」
「ちぇっ。観光したかったのに……」
「急な呼び出しで、何の準備もしてなかったからさ。今度、連休取れたら行けばいいさ。今はそのボーカロイド達も、都内など首都圏で活躍してることも多いしな」
「また東京に来たの、久しぶりだなぁ……」
敷島とアリスが訪れたのは、日本アンドロイド研究開発財団の東京本部。新宿にある。
「何でアタシが呼び出されなきゃいけないわけ?タダじゃ話さないよ?」
「多分、ウィリーのことじゃないと思うな」
「じゃあ何?」
「ま、ヒアリングがあるみたいだからさ」
あくまで敷島は同行者であり、呼び出されたのはアリス本人である。
アリスだけが本部の会議室に入ると、本部所属の理事達が4名ほど座っていた。
因みにこの場では英語が飛び交っているが、勝手に和訳させて頂く。
「アリス・フォレストさんだね?」
「そうだけど?じー様のことなら、とっくに喋ったはずなんだけどね?」
「今日はそのことで御足労頂いたわけではない。まあ、とにかく掛けたまえ」
アリスは椅子に座った。まるで就職の面接だ。
「アリスさんの類稀なる才能、本部首脳たる私共も十分に聞いている」
「首脳ってアンタ達、4人しかいないの?」
「まあ、理事会の理事達は他に仕事を持ってるからね。全員が急に集まれるわけではない。キミの才能は仙台支部での仕事ぶりで、十分に伝わったと考えている」
「エミリーやボーカロイド達の整備のこと?」
「そこでだ。キミを財団の正会員として迎えたいのだが、どうかね?」
「別にアタシは会員になりたくて、整備してたわけじゃないよ。報酬も出るし、何よりロボットの相手してると楽しいし」
「その直向きな気持ちも汲んでの話だよ」
「うーん……。アタシが会員になるメリットって何かあるの?いや、アンタ達の損得なんて、アタシにはどうでもいいの。最低でも何かアタシが得しないと、じー様が化けて出てくるかもしれないから」
「科学者らしからぬ、非科学的な発想だ」
「悪い?少なくとも、そういった夢を見る可能性はあるわ。もっとも、心理学辺りのことは分かんないから何とも言えないけど、そうなった場合、ちゃんとした説明ができなきゃ、いくら血の繋がりが無いからとはいえ、一応は育ててくれた孫娘として恥ずかしいし」
「キミが思う存分研究できる環境を提供することができる。また、キミの才能について財団として大いに紹介することもできるし、バックアップもできる。無論今まで通り、マルチタイプやボーカロイドの整備役を引き受けてくれるのもいい。報酬はアルバイト程度の額だったが、アップも考えよう。それだけのメリットでは、まだ足りないかね?」
「思う存分研究できる環境って何?」
「例えば……」
敷島は財団本部が入居しているビルの1階にあるカフェで時間を潰していた。
「ただいまー」
「おっ、お帰り。どうだった?」
「そうね……。あ、ブレンドコーヒー1つ」
アリスは店員に注文した。
「財団の会員にならないかって、スカウト話だったわ」
「へえ……」
「ほんと、笑わせてくれる」
「そうかい?」
「だってアタシを誰だと思ってるの?それこそ、財団を潰してやると半分本気で考えていたウィリアム・フォレストの孫娘だよ?彼らにプライドがあるのなら、アタシなんか地方支部でさえ出入り禁止にしてもいいはず。それをしないどころか、むしろ仲間になれっておかしくない?」
「まあ、言われてみれば滑稽な話ではあるね」
「でしょう?」
「ホットコーヒーお待たせしました」
「Thank you.……日本はチップの無い国だったね」
「まあな。昔のわだかまりのことは忘れて、純粋にアリスの才能を買ってるんだよ。それでいいんじゃないか?」
「才能を買ってくれるのは嬉しいけど、相手があの財団じゃね……。じー様の墓前に、何て報告するよ?」
「自分の才能を買ってくれる組織があった。それがたまたまあの財団だったけど許してね、じゃダメかな?」
「じー様もガンコだったからねぇ……」
「他人……もしくは他の家族や親族にはガンコジジィでも、意外と孫にはデレデレの老人なんか大勢いるよ」
「じー様はそういうタイプじゃなかったからねぇ……」
「え?でも、お前には優しかったって……?」
「それでも芯のある老人ではあったから、いくらアタシでもダメな時はダメだったよ」
「ふーん……」
「それに優しかったって言ったって、イタズラした時なんかはこっぴどく怒られたしね」
「それは当然だ。何やらかしたんだ?ヅラでも取ったのか?」
「じー様はヅラじゃないし!……日本に連れてきてもらった時、勝手にバージョン2.0改造して怒られた」
「それ、いつの話だよ!?」
「10年前。まだアタシが13歳だった頃」
「13歳の時から既にバージョン相手にしてたのかよ!?」
「何も驚くこと無いじゃない。平賀教授も、そのくらいから既にメイドロボットの七海を実用レベルまで設計したって言うじゃない?」
「お前と平賀先生は特別だよ。で、正会員の話は蹴ったってわけか?」
「一応引き受けた」
「あらっ!?」
「背に腹は変えられないからね。科学者ってのは研究してナンボだからさ。確かに今の環境では、アタシにとって十分とは言えないのは正直なところね。仙台支部の間借りした研究室じゃ狭いし」
「そうか……」
「カネについては、じー様の遺産がだいぶ残ってるからまだいいけど、日本の物価高いから、意外と支出が多いのね」
「なるほど」
「それについては、じー様も言ってたし。『何があっても研究できる場所は確保しておけ』って。じー様が化けて出たら、その為だって言い張るわ」
「化けて出るって……。ウィリーは何て言ってくると思ってるんだ?」
「そうねぇ……。『お前にはブライドが無いのか』って言ってくるかしら?」
「何て答える?」
「『先にアタシをスカウトしてきて……いや、それ以前に地方支部に出入りさせてる時点で、財団のゼロ・プライドよりはマシよ』って言っとく」
「はははは!……まあ、いいや。コーヒー飲んだら、帰ろう。中央線快速なら、15分で東京駅に行ける」
「ちぇっ。観光したかったのに……」
「急な呼び出しで、何の準備もしてなかったからさ。今度、連休取れたら行けばいいさ。今はそのボーカロイド達も、都内など首都圏で活躍してることも多いしな」