[同日07:45.JR東京駅 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾]
〔「まもなく東京、東京です。お出口は、右側です。本日、大雪のため、電車遅れましたことを深くお詫び申し上げます。……」〕
京浜東北線の電車は、東京駅のホームに滑り込んだ。
果たして、何分遅れなのだろう?
ドアが開いて、多くの乗客が吐き出される。
ユタ達もそれに続いた。
「あー、かなり遅れてるな」
ユタがそう思ったのは、ホームの電光表示板を見たから。
次の電車の行き先が表示されるのだが、時刻だけが表示されていない。
電車内でも、乗った時からドアの上のモニタで、運行情報をひたすら流していた。
「東海道新幹線は大丈夫なんだろうか?」
「差し当たり、案内には出てきませんでした」
と、カンジ。
カンジは着席せず、ユタの横に立って護衛に当たっていた。
「取りあえず、行ってみよう」
京浜東北線と東海道新幹線はJRが違うため、改札口を出なければならない。
改めて、東海道新幹線のキップを買う前に確認してみた。
改札口の横に、ホワイトボードで手書きがしてあった。
それによると、東京〜三島間は大雪で徐行運転するため、下り列車に遅れが出る見込みとのこと。
それ以外に運転見合わせ区間などは無かった。
「これは……乗って大丈夫ということだな」
「そうですね」
「乗車区間、ほとんど徐行運転だな」
「といっても、170キロくらいですか?」
「そんなもんかな。少なくとも、いつもの東京〜大宮間よりは早く走るはずだよ」
「ユタぁ、170キロってどれくらいの速さ?」
「そうだなぁ……。あ、さっきの乗ってきた京浜東北線の2倍くらいかな」
「2倍!?」
「京浜東北線は90キロですか、稲生さん?」
「駅間距離が長いとそれくらいだけど、今回は雪で少しスピード落として走ってたよね」
「確かに……」
(あれより2倍速くて徐行なの!?)
時代の流れを改めて感じる威吹だった。
[同日08:07. JR東京駅・東海道新幹線ホーム ユタ、威吹、カンジ]
〔新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく17番線に、8時26分発、“こだま”639号、名古屋行きが到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。……〕
「だいぶ降ってるねぇ……。雨が」
「これで雪が解けるといいのですが……」
「却って、足元が悪くなるような気が……」
〔「お待たせ致しました。17番線に各駅停車の“こだま”639号、名古屋行きが到着致します。当駅始発ですので、すぐのご乗車ができます。安全柵の内側まで、お下がりください。尚、本日は大雪のため、東京〜三島間で徐行運転を行っております。そのため、定刻に発車しましても、到着に遅れが出る場合がございます。予め、ご了承ください」〕
「おっ、N700系だ。期待の最新鋭」
「それに乗れるのも、きっと普段の行いですよ」
カンジがさらっとユタを持ち上げてみる。
「そうかな?」
「ええ」
「本当は窓の大きい普通の700系が良かったな。普段の行いが悪かったか……」
「え゛……?」
「こっ、こら、カンジ!余計なこと言うな!お前だけ先に帰るか!?」
威吹は慌ててカンジの胸倉を掴んだ。
「すっ、すいません!」
カンジは両目をギュッと瞑る。師匠から鉄拳の愛の鞭が飛ぶことを覚悟したのか。
大きなエアー音とドアチャイムと共に扉が開いた。
「何やってんの?早く乗ろうよ」
ユタは気にせず、さっさと1号車に乗り込んだ。
[同日08:26. JR東海道新幹線“こだま”639号1号車 ユタ、威吹、カンジ]
既に威吹は駅弁を食べ尽してしまった。
「よく食うなぁ、キミ達は……」
3人席の窓側に座るユタは、横に座る妖狐2人を見て言った。
「これでも8分目くらいだ」
「その通りです」
定刻に発車する予定だったが、折り返しとなる上り列車が遅れて来たせいか、2〜3分ほど遅れるようだった。
列車の外では……。
〔「レピーター点灯です」〕
昔、“のぞみ”の車内で流れていたチャイム。これが今は東京駅で発車メロディとして使われている。
〔17番線、“こだま”639号、名古屋行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「お待たせ致しました。17番線、まもなく発車致します。閉まるドアに、ご注意ください。……ITVよーし!乗車終了!……ドアが閉まります!」〕
東北新幹線系統と違い、ホームで英語放送は一切流れない。
恐らく列車本数が飽和状態で日本語の次に英語で話すヒマが無いのと、そもそも駅員のセリフが東北新幹線系統より多いからかもしれない。
「うーん……。やっぱり少し遅れたねぇ……」
ユタは時計を見て呟いた。
「それより、ユタももう少し食べないとダメだよ」
「え?」
「肉に旨味が無くなる」
(狙われてる、狙われてる……)
〔♪(アンビシャス・ジャパンのイントロ)♪ 今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。次は、品川です〕
さすがに車内では、英語放送が流れる。
「寺の他の信徒は、どうるすんだ?」
威吹が聞いて来た。
「多分、明日に振り替える人多数だと思うね」
「なるほど。お色気担当の栗原さんと夫婦漫才のボケ役キノはどうするつもりかな?」
「地区が違うから分かんないけど、やっぱり明日にするんじゃないかな……?」
「地区が違うのに、寺の除雪させてたんですか」
「藤谷班長って、そういう人なんだよ」
そもそも妖怪は信徒になり得ないのに、身の供養をさせてた件。
[同日09時52分 JR新富士駅 ユタ、威吹、カンジ]
三島駅を出た列車は早速、徐行運転が解除になったこともあって、高速運転を始めた。
熱海辺りから日差しが出るようにはなったが、それでも富士山は見えずじまいだった。
〔♪(アンビシャス・ジャパンのサビ)♪ まもなく、新富士です。新富士を出ますと、次は静岡に止まります〕
「やれやれ、やっとか……」
ユタは立ち上がって、コートを羽織った。
車内放送では17分遅れとのことだが、よくそれだけで済んだものと思う。
ポイントを渡って、列車が到着する。
ポイント通過の為に、もっと遅れが拡大したかもしれない。
しかし、驚くべきことは……。
「今のは“のぞみ”ですかね?」
「さあね。2分の1の確率だな」
“こだま”が到着してからものの1分と経たぬうちに、“のぞみ”だか“ひかり”だかが轟音を立てて通過していったことだ。
東急東横線ではダイヤ乱れでキツキツの間隔となっていた電車が、元住吉駅で追突事故を起こしたという。
私鉄の通勤路線と新幹線では、格が全く違うということか。ダイヤ乱れでキツキツなのは、ここも同じだから。
[同日10時00分。新富士駅北口ロータリー ユタ、威吹、カンジ]
ユタ達は大石寺行きのバスが出る停留所に行った。
「げ……!」
そこには、雪のため全便運休する旨の貼り紙がしてあった。
「見た目には、雪などそんなに無いようですが……」
カンジは辺りを見回して言った。
「まあ、駅前だからね。さすがにそこはガッツリ除雪してあるだろうさ。しょうがないから、タクシーで行こう」
ユタ達はタクシー乗り場に向かった。
「確かに山寺だから、ここよりは雪が多いだろうね」
そこは威吹も納得した。
「カンジは初だから、あまり想像が付かないと思うけど……」
「ええ」
ユタ達はタクシー乗り場で客待ちをしていたタクシーに乗り込んだ。
「大石寺までお願いします」
「はい」
タクシーはすぐに走り出した。
「如何に人間界で生まれ育ちのカンジとはいえ、きっとあの寺の霊気は応えるぞ?」
威吹はニヤリと笑った。
「そうですか」
「お客さん、大石寺はどこに着けましょう?」
運転手が聞いてくる。
「そうですねぇ……。確か、大講堂が集合場所だったから、裏門の方がいいのかな……」
「裏門ですね」
「あ、いや、ちょっと待った!」
ユタは藤谷からメールが来ているのに気付いた。
「別の坊に変更になってる。塔中坊だと、三門前の方がいいのかな?」
「はい、三門前ですね」
車は国道139号線を北上した。右手には富士山がやっと顔を出した。
これだけは封印前と変わらない。威吹は富士山を見ると、少しホッとするのだった。
※一部、誤字と脱字を修正しました。
〔「まもなく東京、東京です。お出口は、右側です。本日、大雪のため、電車遅れましたことを深くお詫び申し上げます。……」〕
京浜東北線の電車は、東京駅のホームに滑り込んだ。
果たして、何分遅れなのだろう?
ドアが開いて、多くの乗客が吐き出される。
ユタ達もそれに続いた。
「あー、かなり遅れてるな」
ユタがそう思ったのは、ホームの電光表示板を見たから。
次の電車の行き先が表示されるのだが、時刻だけが表示されていない。
電車内でも、乗った時からドアの上のモニタで、運行情報をひたすら流していた。
「東海道新幹線は大丈夫なんだろうか?」
「差し当たり、案内には出てきませんでした」
と、カンジ。
カンジは着席せず、ユタの横に立って護衛に当たっていた。
「取りあえず、行ってみよう」
京浜東北線と東海道新幹線はJRが違うため、改札口を出なければならない。
改めて、東海道新幹線のキップを買う前に確認してみた。
改札口の横に、ホワイトボードで手書きがしてあった。
それによると、東京〜三島間は大雪で徐行運転するため、下り列車に遅れが出る見込みとのこと。
それ以外に運転見合わせ区間などは無かった。
「これは……乗って大丈夫ということだな」
「そうですね」
「乗車区間、ほとんど徐行運転だな」
「といっても、170キロくらいですか?」
「そんなもんかな。少なくとも、いつもの東京〜大宮間よりは早く走るはずだよ」
「ユタぁ、170キロってどれくらいの速さ?」
「そうだなぁ……。あ、さっきの乗ってきた京浜東北線の2倍くらいかな」
「2倍!?」
「京浜東北線は90キロですか、稲生さん?」
「駅間距離が長いとそれくらいだけど、今回は雪で少しスピード落として走ってたよね」
「確かに……」
(あれより2倍速くて徐行なの!?)
時代の流れを改めて感じる威吹だった。
[同日08:07. JR東京駅・東海道新幹線ホーム ユタ、威吹、カンジ]
〔新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく17番線に、8時26分発、“こだま”639号、名古屋行きが到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。……〕
「だいぶ降ってるねぇ……。雨が」
「これで雪が解けるといいのですが……」
「却って、足元が悪くなるような気が……」
〔「お待たせ致しました。17番線に各駅停車の“こだま”639号、名古屋行きが到着致します。当駅始発ですので、すぐのご乗車ができます。安全柵の内側まで、お下がりください。尚、本日は大雪のため、東京〜三島間で徐行運転を行っております。そのため、定刻に発車しましても、到着に遅れが出る場合がございます。予め、ご了承ください」〕
「おっ、N700系だ。期待の最新鋭」
「それに乗れるのも、きっと普段の行いですよ」
カンジがさらっとユタを持ち上げてみる。
「そうかな?」
「ええ」
「本当は窓の大きい普通の700系が良かったな。普段の行いが悪かったか……」
「え゛……?」
「こっ、こら、カンジ!余計なこと言うな!お前だけ先に帰るか!?」
威吹は慌ててカンジの胸倉を掴んだ。
「すっ、すいません!」
カンジは両目をギュッと瞑る。師匠から鉄拳の愛の鞭が飛ぶことを覚悟したのか。
大きなエアー音とドアチャイムと共に扉が開いた。
「何やってんの?早く乗ろうよ」
ユタは気にせず、さっさと1号車に乗り込んだ。
[同日08:26. JR東海道新幹線“こだま”639号1号車 ユタ、威吹、カンジ]
既に威吹は駅弁を食べ尽してしまった。
「よく食うなぁ、キミ達は……」
3人席の窓側に座るユタは、横に座る妖狐2人を見て言った。
「これでも8分目くらいだ」
「その通りです」
定刻に発車する予定だったが、折り返しとなる上り列車が遅れて来たせいか、2〜3分ほど遅れるようだった。
列車の外では……。
〔「レピーター点灯です」〕
昔、“のぞみ”の車内で流れていたチャイム。これが今は東京駅で発車メロディとして使われている。
〔17番線、“こだま”639号、名古屋行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「お待たせ致しました。17番線、まもなく発車致します。閉まるドアに、ご注意ください。……ITVよーし!乗車終了!……ドアが閉まります!」〕
東北新幹線系統と違い、ホームで英語放送は一切流れない。
恐らく列車本数が飽和状態で日本語の次に英語で話すヒマが無いのと、そもそも駅員のセリフが東北新幹線系統より多いからかもしれない。
「うーん……。やっぱり少し遅れたねぇ……」
ユタは時計を見て呟いた。
「それより、ユタももう少し食べないとダメだよ」
「え?」
「肉に旨味が無くなる」
(狙われてる、狙われてる……)
〔♪(アンビシャス・ジャパンのイントロ)♪ 今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。次は、品川です〕
さすがに車内では、英語放送が流れる。
「寺の他の信徒は、どうるすんだ?」
威吹が聞いて来た。
「多分、明日に振り替える人多数だと思うね」
「なるほど。
「地区が違うから分かんないけど、やっぱり明日にするんじゃないかな……?」
「地区が違うのに、寺の除雪させてたんですか」
「藤谷班長って、そういう人なんだよ」
そもそも妖怪は信徒になり得ないのに、身の供養をさせてた件。
[同日09時52分 JR新富士駅 ユタ、威吹、カンジ]
三島駅を出た列車は早速、徐行運転が解除になったこともあって、高速運転を始めた。
熱海辺りから日差しが出るようにはなったが、それでも富士山は見えずじまいだった。
〔♪(アンビシャス・ジャパンのサビ)♪ まもなく、新富士です。新富士を出ますと、次は静岡に止まります〕
「やれやれ、やっとか……」
ユタは立ち上がって、コートを羽織った。
車内放送では17分遅れとのことだが、よくそれだけで済んだものと思う。
ポイントを渡って、列車が到着する。
ポイント通過の為に、もっと遅れが拡大したかもしれない。
しかし、驚くべきことは……。
「今のは“のぞみ”ですかね?」
「さあね。2分の1の確率だな」
“こだま”が到着してからものの1分と経たぬうちに、“のぞみ”だか“ひかり”だかが轟音を立てて通過していったことだ。
東急東横線ではダイヤ乱れでキツキツの間隔となっていた電車が、元住吉駅で追突事故を起こしたという。
私鉄の通勤路線と新幹線では、格が全く違うということか。ダイヤ乱れでキツキツなのは、ここも同じだから。
[同日10時00分。新富士駅北口ロータリー ユタ、威吹、カンジ]
ユタ達は大石寺行きのバスが出る停留所に行った。
「げ……!」
そこには、雪のため全便運休する旨の貼り紙がしてあった。
「見た目には、雪などそんなに無いようですが……」
カンジは辺りを見回して言った。
「まあ、駅前だからね。さすがにそこはガッツリ除雪してあるだろうさ。しょうがないから、タクシーで行こう」
ユタ達はタクシー乗り場に向かった。
「確かに山寺だから、ここよりは雪が多いだろうね」
そこは威吹も納得した。
「カンジは初だから、あまり想像が付かないと思うけど……」
「ええ」
ユタ達はタクシー乗り場で客待ちをしていたタクシーに乗り込んだ。
「大石寺までお願いします」
「はい」
タクシーはすぐに走り出した。
「如何に人間界で生まれ育ちのカンジとはいえ、きっとあの寺の霊気は応えるぞ?」
威吹はニヤリと笑った。
「そうですか」
「お客さん、大石寺はどこに着けましょう?」
運転手が聞いてくる。
「そうですねぇ……。確か、大講堂が集合場所だったから、裏門の方がいいのかな……」
「裏門ですね」
「あ、いや、ちょっと待った!」
ユタは藤谷からメールが来ているのに気付いた。
「別の坊に変更になってる。塔中坊だと、三門前の方がいいのかな?」
「はい、三門前ですね」
車は国道139号線を北上した。右手には富士山がやっと顔を出した。
これだけは封印前と変わらない。威吹は富士山を見ると、少しホッとするのだった。
※一部、誤字と脱字を修正しました。