報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「早朝の旅立ち」

2014-08-18 19:35:15 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月19日05:40.JR中央線・神田→東京 敷島孝夫&キール・ブルー]

〔まもなく終点、東京、東京。お出口は、左側です。……〕

 冬ならまだ真っ暗な時間だが、既に夏の日差しが中央快速線の各駅停車に降り注いでいた。
 快速電車として当たり前に走るが故に、基本的に種別表示のしないオレンジ色の中央線電車も、早朝や深夜の各駅停車ではさすがに『各駅停車』と表示して走る。
 その電車内に、敷島とキールが乗っていた。
「今度は新幹線で、この区間を逆走することを考えると複雑だよ」
 ドアの前に立つ敷島は、目の前に映る新幹線の高架線を見て言った。
「確かにGPS上、その動きは不自然ですね。ですが、都内の鉄道移動というのはそういうものでしょう」
「ちゃんとそれを考慮して行動できるんだから、お前達は優秀だよ」
「光栄です」
 モード変更やその他改造を受けたという割には、見た目の変わらないキール。
 ただ、この暑いのに黒いスーツ上下にベストやネクタイを着用している姿は【お察しください】。

 電車が駅に到着する。
「じゃ、新幹線ホームに移動するか」
「はい」
 多くの乗客と共にホームに降り立ち、新幹線乗り場へ向かう。
「中央線からだと、新幹線乗り場まで意外と歩くんだよな。中央線が1番丸の内寄りで、新幹線は八重洲寄りだからな」
「良いではありませんか。地下ホームからアクセスするよりは、ずっと楽です」
「まあな」
 新幹線と京葉線を往復するTDR客は、汗と涙を流してくれたまえ。
「しかし、お前はどこが変わったんだ?」
「変更内容は、参事(※)の端末に送信されているはずですが?」
 ※敷島の財団内における役職名。いかにも偉そうな役職で、表向きは一般企業における課長クラス並みだとされてはいるが、実際にはそれほど大きな権限は無いらしい。
「いや、そりゃそうだけどさ……。右腕を変形させて、銃火器にって本当か?」
「さようです。無論、ここでは披露できません」
「ああ。丸の内警察署から機動隊が何人派遣されることやら……。腕を変形させて銃火器に変形できるって、エミリーと同じじゃないか」
「まあ……もう参事はご存知ですが、私もマルチタイプをモチーフに製作されたものですから、その辺のカスタマイズは楽だったのでしょう」
「なるほどね。じゃあ、いざとなったら、エミリーと2人でハコごとブッ壊すのは可能だということだ」
「さあ、どうでしょうか……」
 キールは首を傾げた。
「おいおい、頼むよ」
「今回のミッションの目的は、先遣隊の救助並びに先遣隊の任務の引き継ぎです。建物を破壊することが目的ではありません」
「まあ、いざとなったらの話だよ」
 敷島は少しウザく思った。
 執事ロボットだから固いのはしょうがないことなのだが、こんなんで大丈夫なのだろうかと思う。

[同日05:57.JR東京駅・東北新幹線ホーム 敷島&キール]

「財団から渡されたキップがグリーン車とはな。さすが、アリスだよ」
「アリス博士は世界的な方ですから」
「『世界的なマッド・サイエンティストの孫娘』だったのにな」
「今回のミッションは、アリス博士がキー・ウーマンだと伺っております」
「まあ、ウィリーの隠しアジトだからな。もし仮に生体認証とか必要な所があったら、アリスがいた方が役に立つと思って」
(参事がアリス博士を連れて行くわけではないと思うが……)
 キールは敷島の言い回しに疑問を持った。
 お盆が明けたとはいえ、まだ夏休みは続いている。
 普通車はこの時点で満席に近かったが、グリーン車には余裕があった。
「ちょっと、アリスに電話してくるよ」
 座席の確認をしてから敷島は今一度、朝から暑いホームに降りた。

{「ハイ、只今お掛けになった電話番号は現在使われてませんよォ!」}
 研究所の固定電話に掛けたら、鏡音リンが出た。
{「ふざけるな」ゴンッ!「にゃああああ!」♪♪(しばらく保留音が鳴る)♪♪}
(急いでエミリーが後ろからツッコミを入れて、首根っこ掴んで、外に連れ出しているってか……)
 敷島は今、アリス研究所で起きている内容がだいたい想像できた。
{「お待たせ・しました。アリス研究所で・ございます」}
「ああ、エミリー。うちの研究所は朝から賑やかだな。ウィリーの研究所とは、恐らく正反対だろう」
{「敷島さん。おはようございます」}
「ああ、おはよう。アリスは起きてるかい?」
{「ドクターアリスは・『あと5分』を・5回・繰り返しています」}
「いつもならその『あと5分』は、1時間以上繰り返した時点で放っておきたいところだが、今回はそういうわけにはいかない。俺達がこれから乗る“やまびこ”41号の仙台着は8時ちょうどだ。それまでに、何としてでもアリスを連れてきてくれ。首に縄着けてでもな」
{「かしこまりました」}
「じゃ、仙台駅で合流しよう」
 敷島は電話を切った。
「相変わらずだな」
 敷島は呆れた様子で、涼しい列車内に戻っていった。

[同日06:04.東北新幹線“やまびこ”41号9号車内 敷島&キール]

 列車は夏の日差しを浴びながら、定刻通りに東京駅を発車した。
 進行方向右側に座っている乗客は、暑い日差しが車内に差し込んで来たので、ブラインドを下ろす者が多数だった。
 敷島達が座っている席は左側なので、その必要は無い。
「エミリーは“起きて”ましたか?」
「ああ。アリスは相変わらず寝てるみたいだけど。夜遅くまで実験ばかりやってるから、朝早く起きれないんだよ。こういう時くらい、早く寝ろってんだ。なあ?」
「私の口からは何も……」
「それもそうか」
 敷島は笑みを浮かべて、さっき東京駅で買った駅弁の蓋を開けた。
「お前も、できるだけ充電しておけよ。ミッションの最中に、電池切れなんて笑えないからな」
「十分、承知しております」
 敷島達が乗った列車には、座席に充電コンセントが備え付けられていた。
 グリーン車には全席備え付けられているが、普通車は窓側席にしか無いことが多い。
「それにしても……」
 敷島は今さらのように思いついた。
「現場は青森と秋田の間ぐらいの所なんだろう?羽田から飛行機で向かった方が早いんじゃないか?」
「恐らく時期が悪かったのでしょう。夏期繁忙期で、飛行機が満席だったのかもしれません」
「しかし、こうやって新幹線は予約取れたのになぁ……」
 敷島は首を傾げた。
「もしくは、私やエミリーが改造されたことで、飛行機に乗れなくなったか」
「……あ、それだ!」
 敷島は箸を持ったまま、ジャケットの下に隠されたキールの右腕を指さした。
 この下には、マシンガンやグレネードガンなどの火器が隠されている。
「それじゃ、しょうがないか」
「……ですね」

[同日08:00.東北新幹線“やまびこ”41号9号車内 敷島&キール]

〔♪♪(あのチャイム)♪♪。まもなく、仙台です。仙石線、仙山線、常磐線はお乗り換えです。……〕

「さすが日本の新幹線は、世界に誇る定時運転率だな。エミリーはちゃんとアリスを連れてきてくれたかな?」
「交信してみましょう」
 キールとエミリーは短いやり取りをした。
「ご心配いりません。エミリーは、ちゃんとアリス博士をホームへお連れしているそうです」
「おっ、そうか。さすがエミリーだな」
「やはり参事の懸念通り、なかなか寝起きがよろしく無かったようで、最後には参事の指示通りにしたということです」
「ふーん……?俺の指示?何だっけ?」
 敷島は腕組みをして、記憶の糸を手繰り寄せた。

〔「まもなく仙台、仙台です。11番線到着、お出口は右側です。仙台から先は、終点盛岡まで新幹線各駅に止まります。……」〕

「まあ、いいか」
 思い出せず、諦めた敷島だった。
 ところが列車が仙台駅に到着し、乗り込んで来たアリスとエミリーを見て、度肝を抜かされることになる。
コメント (7)
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“アンドロイドマスター” 「子午東北」 

2014-08-18 12:46:03 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月18日15:00. 東京都内某所のスタジオ 敷島孝夫、MEIKO、KAITO、巡音ルカ]

「はい、OKでーす!お疲れさまでしたー!」
 3人が出演するホラーアクションのドラマの撮影が終わった。

「3人とも、お疲れさま」
「お疲れさまです!」
 3人は火照った体を冷やす為に、氷嚢を体に当てていた。
 精密機械の塊である彼女らにとって、熱は大敵だ。
 ドラマの中にも、それがキーとなる描写もあったのを敷島は思い出す。
「今度はこのドラマの視聴率が良くなるように、情報番組のミニコーナーに出たりするからな。そこでも頼むよ?」
「はい」
「特にルカ・クリーチャーの壮絶な最期は見ものでもあるから、そういう所も……」
 倒しては何度も変形し、主人公たるMEIKO達の前に現るクリーチャー化したルカ。
 結局は倒しきれていないまま、舞台となった豪華客船が沈没。
 MEIKO達は迎えのヘリに間一髪救助されたが、ルカは沈没船と共に海の藻屑と化した(であろうという)ものだ。
「このドラマの視聴率が良ければ再度、今度は続編の映画としての話もある。正念場だぞ」
 と、そこへ、電話が掛かって来た。
「アリスか。……はい、もしもし?さっき、ドラマの撮影が終わったところだ。……いや、まだ仕事はこれからだよ。……は?」
{「だから、先遣隊と連絡が取れなくなったんだってば!」}
「そうなのか。じゃあ、警察か消防に捜索願を……」
{「いや、今度はアタシ達で行くから。エミリーを連れていく。アンタは本部にいるキールを連れてきて」}
「おい、ちょっと待てよ。連絡が取れなくなったって、そもそもどういうことなんだ?」
{「大東技研のガイノイド、ナンシーがメーデーを発信して、それからよ」}
「ああ。あの、マルチタイプをモチーフにしたヤツか。キールと同じタイプだな」
{「そう。技研のエージェントも行方不明だから、早いとこアタシ達も……」}
「いや、だから、警察に……。って、切りやがった、あの女」
「しかし、プロデューサー。キールみたいなタイプが救難信号を発したというのは、本当に異常が発生したということですよ?」
 KAITOが言った。
「うーむ……。まあ、あとはアリスに任せて、俺達は俺達の仕事をしよう。こんなの、事務職の出る幕じゃないよ」
「事務職というより営業職ね。プロデューサーなんだから」
 MEIKOがその点を突っ込んだ。
「研究職に任せて、営業職は営業職の仕事をしよう」
 敷島はあえて言い直した。
 それほどまでに行きたくないらしい。
「エミリーが行けば無敵だよ。ウィリーの秘密アジトだか研究所だか知らんが、ハコごとぶっ壊せば済む話だ。エミリーならそれができる」
「そうね」
 と、MEIKO。しかしKAITOは、
「そ、そうかなぁ……」
 その時、敷島のタブレットでアラームが鳴った。
「ん、注意報?……ルカか。おい、ルカ、どうした?」
「い、いえ……。何でもありません」
「冷却システムに異常とあるぞ?」
「冷却が追い付いていないだけです」
「ちょっと、無理しないでよ?まだ仕事があるんだから」
 MEIKOは後輩ボカロに言った。
「え、ええ……」
「とにかく、今日はもう仕事終わりだから本部へ戻ろう。整備はルカを先にしてもらうようにするよ」
「そうしてください」

[同日17:00.日本アンドロイド研究開発財団本部 敷島孝夫、平賀奈津子]

「……というわけで、プロデュース業務は私が引き継ぎますので、敷島さんは明日、1番の列車に乗って向かってください。総務で新幹線のキップは用意しているので」
 奈津子は敷島に言った。
「もう本部命令のレベルなんですか!ついアリスの独断専行かと思いきや……」
「何か、ちょっとおかしいんです。確かにウィリーの隠し施設ですから、色々と罠なども仕掛けているということは想定していましたが、まさか完全に消息を絶つということまでは想定外でしたから」
「ナンシーとやらがメーデーを発信したそうで?」
「そうなんです。ナンシーが送信した映像があるので、見てみますか?」
「是非!」
 敷島は研究室のパソコンで、ナンシーがメーデーと一緒に送信してきた映像を見た。
 ガイノイドであるナンシーにも、自分の目で撮影した動画を記録し、送信することができる。
「何だこれ!?」
 敷島はそこで衝撃映像……というか、グロ画像と言った方が良いものを見ることになる。
「これがロボット!?何かの生物クリーチャーじゃ?」
「ええ。私もそう思うんですけどねぇ……」
「これ、警察というか……自衛隊に出動してもらった方がいいレベルじゃ?」
「なので、防衛省からも注目されているエミリーの出番なんですよ」
「……まあ、私はプロデューサー業務の仕事が忙しいから……」
「ですから、それを私が引き継ぐと言ってるんです」
「何で私が行かなきゃならないんです?奈津子先生にプロデュース業務を引き継いでもらうなんてことは……」
「いえ、それは敷島さんがプロデューサーだからですよ」
「どういう意味ですか?」
「残念ですか、ルカはウィルスに感染してしまいました。新種のウィルスです。このままですと、先日のメイドロボット達みたいに暴走する恐れがあります」
「ええーっ!?」
「彼女達も暴走する直前、急激な発熱があったようです。“自我”が無くなる予兆がそれなんでしょうね」
「何てこった!」
「プロデューサーとして、ワクチンを現場から取ってきてください。ワクチンがあるはずです。何故なら、ウィルスだけでは商品になりませんから」
「その、ルカは?」
「電源を落としてます。ですが、油断はできません。勝手に電源が入る恐れがあります。メイドロボット達の中には、稼働していない者まで勝手に起動したそうですから。しかしボーカロイドの場合、電池パックまで外すとメモリーのバックアップが出来なくなるので、それも不可能な状態です」
「マジですか……」
 敷島は肩を落とした。
「キールが到着次第、モード変更などを行いますので」
「はあ……」
 
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