[8月19日15:00.矢立峠 敷島孝夫、アリス・シキシマ、エミリー、キール]
「全く!ついてないもんだ!」
運転席でミニバンのハンドルを握る敷島。
リアシートでは、2人のアンドロイドが車内のコンセントで充電を続けている。
敷島が愚痴をこぼしたのは、正に嵐が如く悪天候の中を走っているからだった。
「ゲリラ豪雨なら、止むまで待つって言う手もあったんだけどな!」
「しばらく降り続くみたいだから、このまま行くしか無いね」
「全く!」
矢立峠の道の駅に入る車。
「ちょっとここで情報入れてこよう。今、あの廃ホテルに行けるかってな」
「行けるわけないと思うけど……」
敷島は駐車場に車を止めると、傘を差してバシャバシャと水しぶきを上げながら建物の中に入っていった。
「博士も休憩されてみては?」
「いや、いいわ」
しばらくして、敷島が戻って来た。
「分かりましたか?」
「分かった。廃ホテルはもう少しこの先、青森県に入ってからの所にあるらしい。ただ、おかしい。俺達以外に、そのホテルについて聞いた連中がいたらしいんだ」
「何それ?」
「いや、よく分からないんだけど、何かケンショーレンジャーって……」
「レンジャーか。うん、ゲリラ兵士のことだね」
アリスが言った。
「それって、やっぱりイスラムの武装テロリスト?」
「奴らに先を越されたかもしれない。アタシ達も急がないと」
「よしっ!」
敷島はすぐに車を発進させ、大雨の降る国道を北上した。
[8月19日15:30.青森県南部 廃ホテル前 ケンショーレンジャー]
「見て御覧なさい。このバブル時代の申し子を」
「私の分析によりますと、バブルだからこその建築物ですね」
「何か、怖いよォ……」
「へっ!ゾッキー時代を思い出すぜ!スプレーで何か書きたくなるぜ!」
「でも、ブルーじゃないけど、逆に荒れている割には、侵入者の形跡は無いわねぇ……」
「むっ?静かに!皆、静かにするんじゃ!」
「な、なに!?」
ドドドドドドドド!
「わあっ!川が大濁流に!」
「むっ、しまった!国道とホテルを結ぶ吊り橋が流されてしまった!何てことだ!」
「私の分析によりますと、これはソッカー……もとい、武装ゲリラの罠ですね」
「てゆーか、これじゃ帰れないじゃない!」
「上等だぜ!だったらよー、イスラムの連中をよー、ボコせばいい話じゃねーかよっ、ああっ!?」
「うむ。今日のブルーはヤケに頼もしい!さすれば、このドアから中に入って武装ゲリラを殲滅するのが得策と思われまするが皆さん、どうでしょう?」
パチパチパチパチパチパチ……。
ガンッ!ザバーッ!(←頭上の雨どいが壊れ、バケツをひっくり返した水がレンジャー達に降りかかった)
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「ええい!これも罪障消滅じゃっ!グリーン!メガネ探してないで、さっさとこのドアをピッキングせんか!」
[同日16:00.廃ホテル入口に向かう国道からの私道 敷島、アリス、キール、エミリー]
「少し広場になってるんだな」
「おかしいですね」
「何が?」
キールが辺りを見回す。
「ここへは殆ど車でしかアクセスできないはず。ホテルが営業中だった頃は、駅から送迎バスが運行されていたほどだそうです。先に向かったと思われる武装ゲリラ達の車が見当たらないのは何故でしょう?」
「……分かった。長距離トラックをヒッチハイクして来たんだ」
敷島、大正解。
「んなわけないじゃないの。ここに別働隊が連れてきて、あとは何らかの手段で迎えに来るって感じかもしれないじゃない。あとは、ヘリとか?」
「ヘリの方が目立ちそうだがな。なるほど。ここに車を置いて行ったら、確かに目立つかもな。まあ、いいさ。それよりアリス、何だその恰好は?」
アリスはウェットスーツのようなものを着込んでいた。
「この方が動きやすしいね」
「まあ、勝手にしろ。廃ホテルはこの先だ。行こう」
敷島は傘を差しながら向かった。
ウェットスーツを着ているアリスと、アンドロイドの2人は傘を差さず、そのままだ。
朽ちた看板から、ホテルの名前が分かった。
山奥にあるからそれに因んだ名前かと思ったが、『シークルーズ』という、ツッコミ所満載の名前だった。
「変な名前だ。ホテルから海でも見えるってのか」
「国道7号線なら、確かに海の近くを走る区間もありますが……」
「つったって、それは秋田県南部の話だろう?象潟とか、あの辺」
「ええ……」
「ここまで来れば、もう海から遠く離れた山の中だ」
「名前なんかどうだっていいでしょ。それより、ホテルの中がどうなってるかってことよ」
「ああ」
営業中は車が走れたであろう道も、今は土砂に埋まって、さながら登山道のようだ。
その中を進んで行くと、滝のような音が聞こえた。
「滝がこの近くにあるのか?」
敷島が首を傾げると、そうでないことに気づいた。
「橋が流されてる!」
川はこの豪雨で増水し、激しい流れに耐えられなくなったのか、元々朽ちていたのであろう橋が落ちていた。
「さあ、帰ろうか」
敷島は踵を返そうとした。
「何言ってんの!渡るに決まってるじゃない」
「バカ!こんな川に入ったら、即死だろうが!」
「私が」
エミリーが手を挙げた。
「超小型エンジンが・ありますので・これで・飛んで・渡ります」
「あっ……!」
「その手があったか」
敷島はポンと手を叩いた。
エミリー、足の裏に取り付けられた超小型エンジンを起動させた。
飛んでいる姿は、まるで鉄腕アトムのようだ。
もっとも、アトムは長時間、長距離飛べるようだが、エミリーはあくまで非常脱出用としての用途なので、短時間、短距離限定である。
「着いた!これで戻りも大丈夫そうだな」
「参事!」
キールが敷島に話し掛けた。
「何だ?」
「複数の足跡があります。まだ新しいです」
「本当だ」
「ちっ。武装ゲリラに先を越されたみたいね」
「でも逆を言えば、この閉鎖されてるホテルへの進入経路を作ってくれてるってことでもあるからな」
「何言ってるの。そのまま辿ったら、見張りのゲリラに迎撃されるでしょう!平和ボケした日本人が!」
「分かったよ。で、どこから入るつもりだ?正面エントランスのガラスでも割って入るか?」
「だーかーらっ!」
「冗談だよ、冗談。それにしても、意外と大きいホテルだな。横長かな?」
キールは、
「『……当ホテルは山奥にあって、さながら豪華客船に乗船しているかのような……』と、書いてありますね」
拾い上げた案内板を見て行った。
本来はもっと目立つ所にあったのだろうが、外れてここに飛んできたのだろう。
「そんな中途半端なことするから、バブル崩壊したら即行で潰れるんだろうが。これだから、団塊ジュニア世代は……ブツブツ……」
「タカオ!」
「! びっくりした!何だよ?」
「この梯子を上がって、2階の窓から侵入できそうよ」
アリスの指さした所には、大きく割れた窓があった。
「ウィリーの隠し遺品の場所の目星は付かないのか?できれば、そこへピンポイントで行きたいな」
「無理に決まってるでしょ。あの“鍵”の解析内容には、そこまで書いてなかったよ」
「ちぇっ……」
「まあ、とにかく上がりましょう。最悪、武装ゲリラが先に手に入れてしまう恐れがあるんですから」
「そうだな。行こう。お前達、俺らの前後にいてくれ。それなら、いきなり前や後ろから撃ってきても大丈夫だろ?」
「イエス」
「分かりました」
敷島達は2階の窓から廃ホテルに進入した。
彼らを待ち受けているものとは一体……?
「全く!ついてないもんだ!」
運転席でミニバンのハンドルを握る敷島。
リアシートでは、2人のアンドロイドが車内のコンセントで充電を続けている。
敷島が愚痴をこぼしたのは、正に嵐が如く悪天候の中を走っているからだった。
「ゲリラ豪雨なら、止むまで待つって言う手もあったんだけどな!」
「しばらく降り続くみたいだから、このまま行くしか無いね」
「全く!」
矢立峠の道の駅に入る車。
「ちょっとここで情報入れてこよう。今、あの廃ホテルに行けるかってな」
「行けるわけないと思うけど……」
敷島は駐車場に車を止めると、傘を差してバシャバシャと水しぶきを上げながら建物の中に入っていった。
「博士も休憩されてみては?」
「いや、いいわ」
しばらくして、敷島が戻って来た。
「分かりましたか?」
「分かった。廃ホテルはもう少しこの先、青森県に入ってからの所にあるらしい。ただ、おかしい。俺達以外に、そのホテルについて聞いた連中がいたらしいんだ」
「何それ?」
「いや、よく分からないんだけど、何かケンショーレンジャーって……」
「レンジャーか。うん、ゲリラ兵士のことだね」
アリスが言った。
「それって、やっぱりイスラムの武装テロリスト?」
「奴らに先を越されたかもしれない。アタシ達も急がないと」
「よしっ!」
敷島はすぐに車を発進させ、大雨の降る国道を北上した。
[8月19日15:30.青森県南部 廃ホテル前 ケンショーレンジャー]
「見て御覧なさい。このバブル時代の申し子を」
「私の分析によりますと、バブルだからこその建築物ですね」
「何か、怖いよォ……」
「へっ!ゾッキー時代を思い出すぜ!スプレーで何か書きたくなるぜ!」
「でも、ブルーじゃないけど、逆に荒れている割には、侵入者の形跡は無いわねぇ……」
「むっ?静かに!皆、静かにするんじゃ!」
「な、なに!?」
ドドドドドドドド!
「わあっ!川が大濁流に!」
「むっ、しまった!国道とホテルを結ぶ吊り橋が流されてしまった!何てことだ!」
「私の分析によりますと、これはソッカー……もとい、武装ゲリラの罠ですね」
「てゆーか、これじゃ帰れないじゃない!」
「上等だぜ!だったらよー、イスラムの連中をよー、ボコせばいい話じゃねーかよっ、ああっ!?」
「うむ。今日のブルーはヤケに頼もしい!さすれば、このドアから中に入って武装ゲリラを殲滅するのが得策と思われまするが皆さん、どうでしょう?」
パチパチパチパチパチパチ……。
ガンッ!ザバーッ!(←頭上の雨どいが壊れ、バケツをひっくり返した水がレンジャー達に降りかかった)
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「ええい!これも罪障消滅じゃっ!グリーン!メガネ探してないで、さっさとこのドアをピッキングせんか!」
[同日16:00.廃ホテル入口に向かう国道からの私道 敷島、アリス、キール、エミリー]
「少し広場になってるんだな」
「おかしいですね」
「何が?」
キールが辺りを見回す。
「ここへは殆ど車でしかアクセスできないはず。ホテルが営業中だった頃は、駅から送迎バスが運行されていたほどだそうです。先に向かったと思われる武装ゲリラ達の車が見当たらないのは何故でしょう?」
「……分かった。長距離トラックをヒッチハイクして来たんだ」
敷島、大正解。
「んなわけないじゃないの。ここに別働隊が連れてきて、あとは何らかの手段で迎えに来るって感じかもしれないじゃない。あとは、ヘリとか?」
「ヘリの方が目立ちそうだがな。なるほど。ここに車を置いて行ったら、確かに目立つかもな。まあ、いいさ。それよりアリス、何だその恰好は?」
アリスはウェットスーツのようなものを着込んでいた。
「この方が動きやすしいね」
「まあ、勝手にしろ。廃ホテルはこの先だ。行こう」
敷島は傘を差しながら向かった。
ウェットスーツを着ているアリスと、アンドロイドの2人は傘を差さず、そのままだ。
朽ちた看板から、ホテルの名前が分かった。
山奥にあるからそれに因んだ名前かと思ったが、『シークルーズ』という、ツッコミ所満載の名前だった。
「変な名前だ。ホテルから海でも見えるってのか」
「国道7号線なら、確かに海の近くを走る区間もありますが……」
「つったって、それは秋田県南部の話だろう?象潟とか、あの辺」
「ええ……」
「ここまで来れば、もう海から遠く離れた山の中だ」
「名前なんかどうだっていいでしょ。それより、ホテルの中がどうなってるかってことよ」
「ああ」
営業中は車が走れたであろう道も、今は土砂に埋まって、さながら登山道のようだ。
その中を進んで行くと、滝のような音が聞こえた。
「滝がこの近くにあるのか?」
敷島が首を傾げると、そうでないことに気づいた。
「橋が流されてる!」
川はこの豪雨で増水し、激しい流れに耐えられなくなったのか、元々朽ちていたのであろう橋が落ちていた。
「さあ、帰ろうか」
敷島は踵を返そうとした。
「何言ってんの!渡るに決まってるじゃない」
「バカ!こんな川に入ったら、即死だろうが!」
「私が」
エミリーが手を挙げた。
「超小型エンジンが・ありますので・これで・飛んで・渡ります」
「あっ……!」
「その手があったか」
敷島はポンと手を叩いた。
エミリー、足の裏に取り付けられた超小型エンジンを起動させた。
飛んでいる姿は、まるで鉄腕アトムのようだ。
もっとも、アトムは長時間、長距離飛べるようだが、エミリーはあくまで非常脱出用としての用途なので、短時間、短距離限定である。
「着いた!これで戻りも大丈夫そうだな」
「参事!」
キールが敷島に話し掛けた。
「何だ?」
「複数の足跡があります。まだ新しいです」
「本当だ」
「ちっ。武装ゲリラに先を越されたみたいね」
「でも逆を言えば、この閉鎖されてるホテルへの進入経路を作ってくれてるってことでもあるからな」
「何言ってるの。そのまま辿ったら、見張りのゲリラに迎撃されるでしょう!平和ボケした日本人が!」
「分かったよ。で、どこから入るつもりだ?正面エントランスのガラスでも割って入るか?」
「だーかーらっ!」
「冗談だよ、冗談。それにしても、意外と大きいホテルだな。横長かな?」
キールは、
「『……当ホテルは山奥にあって、さながら豪華客船に乗船しているかのような……』と、書いてありますね」
拾い上げた案内板を見て行った。
本来はもっと目立つ所にあったのだろうが、外れてここに飛んできたのだろう。
「そんな中途半端なことするから、バブル崩壊したら即行で潰れるんだろうが。これだから、団塊ジュニア世代は……ブツブツ……」
「タカオ!」
「! びっくりした!何だよ?」
「この梯子を上がって、2階の窓から侵入できそうよ」
アリスの指さした所には、大きく割れた窓があった。
「ウィリーの隠し遺品の場所の目星は付かないのか?できれば、そこへピンポイントで行きたいな」
「無理に決まってるでしょ。あの“鍵”の解析内容には、そこまで書いてなかったよ」
「ちぇっ……」
「まあ、とにかく上がりましょう。最悪、武装ゲリラが先に手に入れてしまう恐れがあるんですから」
「そうだな。行こう。お前達、俺らの前後にいてくれ。それなら、いきなり前や後ろから撃ってきても大丈夫だろ?」
「イエス」
「分かりました」
敷島達は2階の窓から廃ホテルに進入した。
彼らを待ち受けているものとは一体……?