[8月10日09:52 ホリデー快速鎌倉号車内→JR鎌倉駅 ユタと愉快な仲間たち]
〔♪♪(鉄道唱歌チャイム)♪♪。「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、鎌倉、鎌倉です。お出口は、右側です。鎌倉から先、逗子、横須賀方面、久里浜行きは、降りたホーム1番線から10時2分です。江ノ島電鉄線ご利用のお客様は、お乗り換えください。……」〕
「おー、やっと着いた」
「ツアコンさん、海どこー?」
ホッとした顔になるユタに、魔鬼が聞いた。
「えっ?」
「おいおい。オレの“獲物”を勝手にツアコンにするなよ」
「たははは……」
と言ったところで、威吹はカンジに、
「ところで、ユタがどうして涼しくなるんだ?」
と、耳打ち。
「先生、それエアコンです」
「あっ!?」
「あー、えっと……ここから江ノ電に乗り換えて、海はそれからだね」
「何回乗り換えさすんだよ、あ?」
「まあまあ、キノ。ルート的に、次で最後の乗り換えだろう。な?稲生さん?」
江蓮のフォローに、ホッとするユタ。
何故か少しムッとなるマリア。
「地元民じゃないし、海を見ながら走る電車も滅多に乗れない、オツなもんだよー」
イリーナが間に入った。
〔かまくら〜、鎌倉〜。ご乗車、ありがとうございます〕
電車は無事に鎌倉駅のホームに滑り込んだ。
〔「1番線の電車は、回送となります」〕
ユタ達が降りた頃、電車の表示は回送になっていた。
実は鎌倉駅は折り返し設備が無いので、それのある次の逗子駅まで回送し、夕方、そこからまた回送で鎌倉駅に戻って、鎌倉始発のホリデー快速になるのである。
[同日11:00.江ノ島海水浴場 ユタと愉快な仲間たち]
「魔鬼が1番なのーん!」
「そうはさせないぞー!」
海に駆け出す少女達。
……え?江ノ電の風景はカットかって?……未取材ですた。てへてへ❤
「全く。荷物放り出しっぱなしにして……」
「おい、日傘はここでいいのか?」
威吹はイリーナに聞いた。
「あー、いいよ。いい場所だねぇ……」
「カンジ、ここに立てろ」
「ハイ」
「それにしても……」
イリーナはビーチパラソルを立てている妖狐の男2人を見た。
「完全に人間に化けているカンジ君はともかく、威吹君までパンツ着用とはねぇ……」
「何かユタが見立てて買ってくれたんだ。オレはふんどしのままの方がしっくりくるのだが……」
「ただでさえ目立つんだから、その方がいいよ」
「お前は泳がんのか?」
「最年長者の監督者が泳ぐわけにはいかないからねぇ……。ここで皆を見てるよ。まあ、私もそんなに泳ぎは得意じゃないからね」
「魔法で水の上に立つ方が得意ってか」
「そんなところだね。ま、アタシゃここにいるから、安心して泳いできなー」
「全く。あれ、ユタは?」
「既にマリア師と御一緒です」
と、カンジ。
「何だ、そうか。まあ、ユタはユタで楽しんでるってか。じゃあ、オレ達も海に入って来るかな」
「おー、行っといでー」
2人の妖狐達も海に向かうと、イリーナは荷物の中から水晶玉を出した。
(エレーナは今日も仕事か。頑張るねぇ……。ポーリンも少しは息抜きさせてあげればいいのに……)
そう思った後で、自嘲的な笑みを浮かべる。
(まあ、ポーリンの方が当然で、私がユル過ぎるだけか……。でもまあ、アタシにはこんな育成法しかできないからなぁ……)
「あの……」
そこへ1人の若い女性が話し掛けて来た。
「はい?」
「もしかして、占い師さんですか?」
「あ、えーっと……。まあ、そんなところで……」
見た感じ、普通の人間の女性だ。
「占ってもらいたいんですけど、いいですか?」
「え?ええ……まあ、いいですよ。恋の悩みとかですか?」
「そうです!そうなんです!」
「え、えーと、どんな内容で?」
[同日11:30.同場所 稲生ユウタ、マリアンナ・スカーレット、蓬莱山魔鬼]
マリアにとって、海は新鮮な場所だった。
人間時代は内陸育ちで海を生で見る機会は殆ど無く、魔道師になって日本を拠点とするようになってからも、長野県の山奥という、これまた海とは縁の無い生活を送ってきた。
……という話を聞いたユタは、
(長野県とか群馬県とかの人達は海水浴に行ったことあるんだろうか???)
と、本気で疑問に思ったり。
埼玉県にも海が無く、確かに高校の時から埼玉で暮らしているユタは、それ以降、海に行ったことがない。
宮城県仙台市在住だった頃は、よく深沼海岸に行ったりしていたが……。
「ツアコンさーん」
「あれ、どうしたの?」
魔鬼がやってきた。
「キノ達の所にいないの?」
とユタが聞くと、
「キノ兄ィ、獲物物色なう」
「詳しく!」
ツイッター風に答える魔鬼に、ツイッター風で返すユタだった。
「キノ兄ィ、イケメンだから、人間の女なんか入れ食いだって言ってた」
「栗原さん、またキレるぞー」
ユタは呆れた顔をした。
「そういえば妖狐の2人はどうした?」
マリアも首を傾げた。
「あ、そうだ。あの2人忘れてた」
ユタはポンと手を叩いた。
「あの人達もイケメンだから、逆ナンされてるよー」
「最近の中学生はマセてるなぁ……」
ユタは苦笑いして、取りあえず浜辺に上がることにした。
「キノ兄ィから、『お前も遠慮しねーで、獲物探せ』って言われてるん」
「獲物って、男?」
「男でも女でも」
「魔鬼ちゃんが人間だったら、是非うちの寺で修行させたいくらいだ。性欲は大事だけどね……」
「『人間の肉の味を生で感じて、まいうーやっていい』って……」
「食うって、そっちかよ!食べちゃダメだから!」
よく見りゃ、魔鬼にもちゃんと牙は生えていた。
「食欲の夏か……」
浜辺に上がると、
「あっ、稲生さん。ちょうどいい所に」
カンジが慌てた様子でやってきた。
「どうした、カンジ君?」
「先生が大変なんです」
「なに?熱中症か何か!?」
「いや、そうでなく……」
威吹は近くの海の家にいた。
それはまあいいのだが、問題は若い女性に囲まれているということだった。
「何やってんだ、あいつ?」
「確かに先生は美形であられます。最初は先生もお断りしていたのですが、食べ物を差し出されるようになると、あのような感じに……。オレも色々とお誘いを受けたのですが、さすがにそれはと……」
「カンジ君も!?」
「え?ええ、まあ……。いかがなさいましょう?このままでは、稲生さんの警護に支障を来たしております。ご指示頂ければ、オレが強制的に排除しますが?」
「あー、えーと……。まあ、威吹も楽しんでるみたいだし。いいんじゃない?」
「ですが、稲生さんの警護は……」
「心配するな。私がいる」
と、マリア。
「私とて魔道師の端くれだ。いざとなったら、ミカエラやクラリスを召喚して対応に当たるさ」
「むむ……」
「まあ、そういうわけだから、カンジ君も……」
「あのー、すいませーん」
「ほら、カンジ君。またお呼び出しだよ」
「はあ……。全く。これで何度目なのやら……」
カンジは辟易した様子で、逆ナンしてきた女性達に同行していった。
「何か、みんなモテモテだね。同じ男として、何か圧倒されるなぁ……」
ユタは頭をかいた。
マリアが微笑を浮かべて、
「まあ、あいつらはそういう妖怪だから。美形の姿をすることで、獲物となる人間の女を吸い寄せる。その後は【お察しください】。逆も同じことだよ」
「逆?」
「人間の男の精を狙って、美しい姿をした女の妖怪が現れる。ユウタ君の上の人がそうじゃないか?」
「ああ……」
ユタは藤谷と雪女を思い出した。
「あの2人、無事かねぇ……」
「獲物に関する取扱規則は鬼族や妖狐族と、そう変わらないはずだから、人間の方で何か問題を起こさない限りは大丈夫だと思う」
「うーん……」
とまあ、午前中はこんな感じで過ごしていた“仲間たち”であった。
〔♪♪(鉄道唱歌チャイム)♪♪。「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、鎌倉、鎌倉です。お出口は、右側です。鎌倉から先、逗子、横須賀方面、久里浜行きは、降りたホーム1番線から10時2分です。江ノ島電鉄線ご利用のお客様は、お乗り換えください。……」〕
「おー、やっと着いた」
「ツアコンさん、海どこー?」
ホッとした顔になるユタに、魔鬼が聞いた。
「えっ?」
「おいおい。オレの“獲物”を勝手にツアコンにするなよ」
「たははは……」
と言ったところで、威吹はカンジに、
「ところで、ユタがどうして涼しくなるんだ?」
と、耳打ち。
「先生、それエアコンです」
「あっ!?」
「あー、えっと……ここから江ノ電に乗り換えて、海はそれからだね」
「何回乗り換えさすんだよ、あ?」
「まあまあ、キノ。ルート的に、次で最後の乗り換えだろう。な?稲生さん?」
江蓮のフォローに、ホッとするユタ。
何故か少しムッとなるマリア。
「地元民じゃないし、海を見ながら走る電車も滅多に乗れない、オツなもんだよー」
イリーナが間に入った。
〔かまくら〜、鎌倉〜。ご乗車、ありがとうございます〕
電車は無事に鎌倉駅のホームに滑り込んだ。
〔「1番線の電車は、回送となります」〕
ユタ達が降りた頃、電車の表示は回送になっていた。
実は鎌倉駅は折り返し設備が無いので、それのある次の逗子駅まで回送し、夕方、そこからまた回送で鎌倉駅に戻って、鎌倉始発のホリデー快速になるのである。
[同日11:00.江ノ島海水浴場 ユタと愉快な仲間たち]
「魔鬼が1番なのーん!」
「そうはさせないぞー!」
海に駆け出す少女達。
……え?江ノ電の風景はカットかって?……未取材ですた。てへてへ❤
「全く。荷物放り出しっぱなしにして……」
「おい、日傘はここでいいのか?」
威吹はイリーナに聞いた。
「あー、いいよ。いい場所だねぇ……」
「カンジ、ここに立てろ」
「ハイ」
「それにしても……」
イリーナはビーチパラソルを立てている妖狐の男2人を見た。
「完全に人間に化けているカンジ君はともかく、威吹君までパンツ着用とはねぇ……」
「何かユタが見立てて買ってくれたんだ。オレはふんどしのままの方がしっくりくるのだが……」
「ただでさえ目立つんだから、その方がいいよ」
「お前は泳がんのか?」
「最年長者の監督者が泳ぐわけにはいかないからねぇ……。ここで皆を見てるよ。まあ、私もそんなに泳ぎは得意じゃないからね」
「魔法で水の上に立つ方が得意ってか」
「そんなところだね。ま、アタシゃここにいるから、安心して泳いできなー」
「全く。あれ、ユタは?」
「既にマリア師と御一緒です」
と、カンジ。
「何だ、そうか。まあ、ユタはユタで楽しんでるってか。じゃあ、オレ達も海に入って来るかな」
「おー、行っといでー」
2人の妖狐達も海に向かうと、イリーナは荷物の中から水晶玉を出した。
(エレーナは今日も仕事か。頑張るねぇ……。ポーリンも少しは息抜きさせてあげればいいのに……)
そう思った後で、自嘲的な笑みを浮かべる。
(まあ、ポーリンの方が当然で、私がユル過ぎるだけか……。でもまあ、アタシにはこんな育成法しかできないからなぁ……)
「あの……」
そこへ1人の若い女性が話し掛けて来た。
「はい?」
「もしかして、占い師さんですか?」
「あ、えーっと……。まあ、そんなところで……」
見た感じ、普通の人間の女性だ。
「占ってもらいたいんですけど、いいですか?」
「え?ええ……まあ、いいですよ。恋の悩みとかですか?」
「そうです!そうなんです!」
「え、えーと、どんな内容で?」
[同日11:30.同場所 稲生ユウタ、マリアンナ・スカーレット、蓬莱山魔鬼]
マリアにとって、海は新鮮な場所だった。
人間時代は内陸育ちで海を生で見る機会は殆ど無く、魔道師になって日本を拠点とするようになってからも、長野県の山奥という、これまた海とは縁の無い生活を送ってきた。
……という話を聞いたユタは、
(長野県とか群馬県とかの人達は海水浴に行ったことあるんだろうか???)
と、本気で疑問に思ったり。
埼玉県にも海が無く、確かに高校の時から埼玉で暮らしているユタは、それ以降、海に行ったことがない。
宮城県仙台市在住だった頃は、よく深沼海岸に行ったりしていたが……。
「ツアコンさーん」
「あれ、どうしたの?」
魔鬼がやってきた。
「キノ達の所にいないの?」
とユタが聞くと、
「キノ兄ィ、獲物物色なう」
「詳しく!」
ツイッター風に答える魔鬼に、ツイッター風で返すユタだった。
「キノ兄ィ、イケメンだから、人間の女なんか入れ食いだって言ってた」
「栗原さん、またキレるぞー」
ユタは呆れた顔をした。
「そういえば妖狐の2人はどうした?」
マリアも首を傾げた。
「あ、そうだ。あの2人忘れてた」
ユタはポンと手を叩いた。
「あの人達もイケメンだから、逆ナンされてるよー」
「最近の中学生はマセてるなぁ……」
ユタは苦笑いして、取りあえず浜辺に上がることにした。
「キノ兄ィから、『お前も遠慮しねーで、獲物探せ』って言われてるん」
「獲物って、男?」
「男でも女でも」
「魔鬼ちゃんが人間だったら、是非うちの寺で修行させたいくらいだ。性欲は大事だけどね……」
「『人間の肉の味を生で感じて、まいうーやっていい』って……」
「食うって、そっちかよ!食べちゃダメだから!」
よく見りゃ、魔鬼にもちゃんと牙は生えていた。
「食欲の夏か……」
浜辺に上がると、
「あっ、稲生さん。ちょうどいい所に」
カンジが慌てた様子でやってきた。
「どうした、カンジ君?」
「先生が大変なんです」
「なに?熱中症か何か!?」
「いや、そうでなく……」
威吹は近くの海の家にいた。
それはまあいいのだが、問題は若い女性に囲まれているということだった。
「何やってんだ、あいつ?」
「確かに先生は美形であられます。最初は先生もお断りしていたのですが、食べ物を差し出されるようになると、あのような感じに……。オレも色々とお誘いを受けたのですが、さすがにそれはと……」
「カンジ君も!?」
「え?ええ、まあ……。いかがなさいましょう?このままでは、稲生さんの警護に支障を来たしております。ご指示頂ければ、オレが強制的に排除しますが?」
「あー、えーと……。まあ、威吹も楽しんでるみたいだし。いいんじゃない?」
「ですが、稲生さんの警護は……」
「心配するな。私がいる」
と、マリア。
「私とて魔道師の端くれだ。いざとなったら、ミカエラやクラリスを召喚して対応に当たるさ」
「むむ……」
「まあ、そういうわけだから、カンジ君も……」
「あのー、すいませーん」
「ほら、カンジ君。またお呼び出しだよ」
「はあ……。全く。これで何度目なのやら……」
カンジは辟易した様子で、逆ナンしてきた女性達に同行していった。
「何か、みんなモテモテだね。同じ男として、何か圧倒されるなぁ……」
ユタは頭をかいた。
マリアが微笑を浮かべて、
「まあ、あいつらはそういう妖怪だから。美形の姿をすることで、獲物となる人間の女を吸い寄せる。その後は【お察しください】。逆も同じことだよ」
「逆?」
「人間の男の精を狙って、美しい姿をした女の妖怪が現れる。ユウタ君の上の人がそうじゃないか?」
「ああ……」
ユタは藤谷と雪女を思い出した。
「あの2人、無事かねぇ……」
「獲物に関する取扱規則は鬼族や妖狐族と、そう変わらないはずだから、人間の方で何か問題を起こさない限りは大丈夫だと思う」
「うーん……」
とまあ、午前中はこんな感じで過ごしていた“仲間たち”であった。