報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔の者からの贈り物」

2015-11-29 21:42:52 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月26日19:00.マリアの屋敷1F・食堂 稲生勇太、マリアンナ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 イリーナの元に“クイーン・アッツァー”号の絵画が送られて来たのは、全くの偶然だった。
 クレア師の死亡現場を訪れたイリーナが見たのは、変わり果てた旧友の姿である。
 水晶球で過去の出来事を追って行くと、クレア師が“魔の者”と相討ちになったことが分かった。
 弟子のジェシカが“魔の者”に取り込まれたことから、瀕死の重傷を負いながらも、最後の力を振り絞って“クイーン・アッツァー”号の中に閉じ込めたらしい。
 その絵は冥界鉄道公社との損害賠償の話し合いの後で焼却処分する予定だったが……。
「あのクソ船長がフライングしやがったわけだから、賠償の話はナシだわ。自業自得ってことで。とっとと焼却処分してやろうかと思ったけど、逃げられたみたいね」
「な、なるほど……。その絵が再び現れる恐れは?」
 稲生が聞くと、イリーナはワインを口を運びながら、
「当然ある。だから稲生君、船の絵を見たら絶対に触らないように」
「わ、分かりました」
「師匠、飲み過ぎですよ」
 稲生が頷いた直後に、マリアが師匠に苦言を呈した。
「たまには飲ませてよ〜」
(いつも寝てるくせに……)
 マリアは師匠の言動に呆れた。
 一瞬、イリーナの契約悪魔が“嫉妬”のレヴィアタンから、“暴食”のベルゼブブに替わったのかと思ったくらいだ。
「まあまあ、マリアさん。クレア先生が殺されて辛いのに、僕も随分と御心配をお掛けしましたから」
 稲生がイリーナの肩を持つと、
「ただでさえ使用期限が迫ってるのに、体を酷使したら大変ですよ」
 と、マリアは言い放った。
「そうよねぇ……」
 イリーナはグラスのワインを飲み干した。
「このくらいにしておくわ。じゃ、私はベッドに潜り込んで泣いてるからね」
「……素直過ぎて、何て答えたらいいか分かりません」
「……あ、えーと……誰か、イリーナ先生をお部屋までお連れして」
 マリアが呆れた様子で反応している中、稲生が人形に命じた。
 メイド人形が素直に稲生の言う事を聞いて、イリーナの前と後ろに立った。
「……じゃあ、おやすみね」
「おやすみなさい」
 イリーナは、奥の部屋に続く廊下に出る方のドアに向かった。
 その先にある階段を登れば、イリーナの部屋は近い。
「あ、そうそう」
 ドアの前まで来たところで、イリーナは目を細めた状態で振り向いた。
「マリアの再登用(再・免許皆伝)なんだけど、“魔の者”の騒動が落ち着くまで延期だってさ」
「そ、そうなんですか?」
「最初はユウタ君まで行方不明になったから延期だったんだけど、さっきダンテ先生に問い合わせたら、そうだってさ」
「す、すいません、マリアさん!僕のせいで……」
「いや、ユウタのせいじゃない。師匠!それじゃ、ユウタが悪いみたいじゃないですか!」
「あー、そうだねぇ……。ユウタ君も被害者だからね、言い方悪かったらゴメンねー」
「い、いえ、別に……。ご迷惑お掛けしたのは事実ですし……」
「だから、ユウタは悪くないって」
「それじゃね」
 イリーナは今度こそ、食堂を出て行った。

[同日21:00.天候:雨 マリアの屋敷2F東側 稲生勇太]

 稲生は入浴の後で部屋に戻る最中だった。
 先述した通り、稲生が自室として割り当てられた部屋には、シャワーとトイレしか無い。
 バスタブに浸かりたければ、共用のバスルームを使用するしかない。
 それは2階の東西に1ヶ所ずつあるのだが、東側部分に住んでいるのは稲生だけなので、事実上、稲生専用であった。
 もちろん、来客があって宿泊する場合にはこの限りではない。
 マリア的には、同性の宿泊者を自分と同じ西側、異性の宿泊者は反対側の東側を割り当てるようだ。
 大師匠ダンテが泊まる場合も、東側にVIPルームがある。
「やっぱり、湯船に浸からないと落ち着かないね」
 稲生は一緒に歩くメイド人形のダニエラに話し掛けた。
 必要なことしか喋らず(しかも抑揚の無い口調)、笑みを浮かべる時もニイッと歯を見せるだけの無愛想なメイドであったが、最近は稲生が話し掛けると、口角を上げるくらいの反応をするようにはなった。
 因みに今回はダニエラがたまたまいるだけで、別に稲生の専属メイドとかいうわけではない。
 ただ、稲生自身、マリアの人形を使えるようにまでなったということだ。
「お着替えは……既に、ご用意してございます。稲生勇太さん」
「ありがとう。何かあったら呼ぶよ」
「……かしこまりました……」
 稲生より背が高く、スタイルもイリーナ並みに良いダニエラであるが、やはり機械的な動きや反応などから、人形なのだと分かる。
 稲生は部屋の中に入ると、ベッドの上にダニエラが畳んでくれたと思われる着替えを確認し、シャワールームに入った。
 トイレと一緒になっている。
 入って左手にシャワーがあるが、一応、トイレとの間には仕切り戸がある。
 そこで稲生、トイレを見て気づいた。
「あっ、そうだ。ダニエラさん!」
「……お呼びでございますか……?」
 スーッと足音も無く入って来る。
「トイレットペーパーが切れそうなので、新しいのを持って来てもらえますか?」
「かしこまりました……」
 ダニエラは頷くと、やっぱり足音も無く部屋を出て行った。

 ゴッ!
 ……バタッ!


「? ダニエラさん?」
 外で何か鈍い音がした。
 そして、何かが倒れた音。
 稲生がドアを開けて外の廊下を覗き込むと、ダニエラが倒れていた。
「ダニエラさん!?どうしました!?」
 稲生がダニエラの前にしゃがみ込むと、廊下の明かりを影に映る1人の人影。
 それは何か鈍器のようなものを高く振り上げ……。
「!!!」

 ゴッ!

「……!!」
 稲生の頭に衝撃が走り、目の前が真っ暗になった。
「うふふふふふふふふ……」
 倒れた稲生の後ろに立つ者は……。

[期日不明21:32(または09:32).場所不明 天候:不明 稲生勇太]

「う……」
 稲生が目を覚ますと、そこは稲生の部屋ではなかった。
「ここは……?」
 天井には煌々と明かりが灯っていた。
 稲生はパイプベッドに寝かされていた。
(病院?)
 そう思ったのは、無機質な室内にクレゾールの匂いが立ち込めていたからだ。
(一体どうして……?僕は……)
 稲生は起き上がった。
 ベッドの下には、稲生が履いていた靴があった。
 洋館は土足で歩き回るもので、部屋の中だけはスリッパにしていた。
 つまり、ホテルの部屋と同じだ。
 稲生は風呂の後でマリアの部屋を訪れるつもりでいたので(変な意味ではないぞ!)、靴のまま部屋に入っていたことを思い出した。
 その靴を履いて、部屋の外に出てみる。
「?」
 出た先も病院のようだった。
 病院の診察室のようだ。
 ということは、稲生が寝ていた場所は処置室か何かか。
「あの、すいません」
 稲生が誰かいないか声を掛けてみた。
 すると、
「やあ……。気が付いた……かね?」
「!?」
 診察室で医師が座る椅子が、稲生の方に向かってクルッと回った。
 そこに座っていたのは、まあ、医者であるのだろう。
 あろう、というのは普通に医者だと認識できない状態だったからだ。

 それは何故かというと……。
コメント (21)
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