報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「広布の青嵐」

2015-11-04 19:30:17 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月26日11:20.大石寺裏門前 敷島孝夫、平賀太一、1号機のエミリー、3号機のシンディ]

「さっき車で通った時は結構、人が多そうに見えたんだけども、今は静かですな」
「御開扉とやらは午後に行われるそうなので、どこかで待機しているのでしょう」
 そんな話をしている敷島達。
「それにしても、浅草の浅草寺は都心にあるから当然だとしても、ここにも仲見世はあるんですね」
「昔は創価学会員が大挙して押し寄せて来たので、もっと賑わっていたそうです」
 と、平賀。
「うちの大学の学生に、ここの信者がいるので、ぼんやり聞いたことがあるんですよ」
「そうなんですか」
「まあ、仙台市内の末寺ですが。先祖代々、ここの宗派だそうで」
「ほお……。それで、吉塚氏はどこに?」
「分かりません」
「本当に、このお寺に来てるのかなぁ……」
「と、思いますが。……って、敷島さんの情報でしょう?」
「まあ、そうなんですけどね」
「それに社長」
 シンディが口を開いた。
「何だ?」
「実際に吉塚氏の顔は誰か知ってるの?」
「!」
「姉さんや平賀博士の入手した顔写真って、かなり昔の写真なんでしょう?白黒の」
「あー、まあそうだな。敷島さんは?敷島さんは直に会ったんでしょう?」
「会いましたけど、まさかこんなことになるとは思わなかったし、次々と参列者の相手をしなければならなかったので、それどころじゃなかったんですよ」
 敷島が覚えているのは、70代の老婆という感じであった。
 白黒写真に写る、若かりし頃の吉塚広美と思しき女性研究者。
 30代程度の年齢の時に撮ったものと思われる。
「今から40年も前に、妖精型ロイドがいたんですか?」
「信じられない話です。まあ、このマルチタイプはもっと前から稼働していましたが。東西冷戦の最中、宇宙開発の影で、ロボット技術の開発も進められていたんですよ。マルチタイプのように強くて大きいロイドはともかく、これだけ小型で精密化したロイドができるのは驚きです。しかし、自分も知らなかったし、南里先生からも聞かされてなかったなぁ……」
 そして、平賀は思う。
「当時、それだけの技術を持っていたのなら、堂々と発表すれば良かったのに。電子工学のレベルが、もっと飛躍的に上がっていただろうになぁ……」
 平賀の本業は、電子工学博士である。

 裏門の近く、大日蓮出版の販売所を訪れる。
「……創価学会の批判ばっかりだ。ここは、自分らの来る所ではないようです」
「別に、私らは学会員じゃないですよ?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「すいません。今日はゴカイヒがあると聞いたんですが、もうここの信者さん達は会場に?」
 と、敷島がレジにいた女性に聞くと、
「この時間は皆さん、布教講演に参加していると思いますよ」
「布教講演?」
「今日は総二坊で行われていますよ」
「総二坊?」
「三門前の道路を挟んで向こう側にある宿坊です」
 
 ※実際、9月26日の布教講演がどこで行われたかまでは把握していません。あくまで、フィクションです。

 店舗を出て、総二坊へ向かう敷島達。
「総本山のお坊さん、もしくは末寺の住職さんが信者に向かって説法する時間のことか。布教講演って」
「そのようですね。ちょうど、終わった所を押さえましょう」

[同日11:50.日蓮正宗大石寺・総二坊1階エントランスホール 上記メンバー]

「ま、まさか、総坊が2棟建てだったとは……」
「だから総坊っていうんですね」
 間違えて総一坊に行った敷島達だった。
 因みにマルチタイプ達のデータにもこの大石寺のことは入っていないので、境内においてのナビは全くできない状態だ。
「向こうと同じ造りになっている。総二坊というか、相似坊だ」
 エミリーがあちこちスキャンしている。
「どうしたの、姉さん?別に、ロイドやロボットの反応は無いけれど……」
「ここ……あの・屋敷に・似ている」
「えっ?」
「あの屋敷って?……井辺君が誘拐された、あのKR団の偽装洋館のこと?」
 敷島が聞くと、
「イエス。私は・新館を・探索・しましたが・エントランスホールの・造りが・全く・同じ・です」

 
(総二坊1階エントランスホール。しかし、KR団地下秘密研究所の上にある偽装洋館の新館エントランスホールと酷似している)

「そ、そういえば、自分が研究所を探索しに行った時も、確かこんなのがあったような……」
「どういうことなんだ!?まさか、KR団と日蓮正宗が繋がっている?」
「突拍子も無い話です」
 と、その時、階段の上からガヤガヤと賑やかな話し声が近づいて来た。
 どうやら、布教講演とやらが終わったらしい。
 敷島達は目を皿のようにした。
 エミリーやシンディも、あの白黒写真の人物と照合率の高い人物を捜さんと、スキャナーを起動させている。
 階段から下りて来る者が多数だったが、中にはエレベーターで下りて来る者もいる。
「……いません」
「エレベーターからも確認できないわ。本当に、階段はここだけなの?」
「しまったな……」
「あの妖精型ロイドを連れて来れれば良かったんですがね。老化しても、製作者の顔は忘れないでしょうから」
「鷲田警視に電話して、今からでも解放してもらいます?」
「また、東京まで取りに行くのも大変ですよ」
 と、その時、マルチタイプ姉妹に通信が入った。
 従妹機である8号機のアルエットからだった。
{「お姉ちゃん達、さっき事務所に警察の人達が来たんだけど、何か知らない?」}
「ケーサツ?鷲田警視でも来たの?」
{「それと村中課長。南里志郎博士のお知り合い?について聞きたいんだって。南里博士のお葬式の参列者名簿があったら見せて欲しいって」}
 それを聞いていた敷島達、
「ヤベッ!ついに警察が嗅ぎ付けたか!」
「吉塚氏の所に来るのも、時間の問題ですね」
「いい、アル?今、社長は『営業回り』で忙しいの。しばらく戻って来ないから、出直して来てもらって」
 と、シンディは従妹に言った。
{「あ、ゴメンなサーイ。『静岡県富士宮市まで行ってます』って言っちゃった。(∀`*ゞ)テヘッ」}

 ズコーッ!!

「こらーっ!!」
「こ、こりゃ、いきなりタイムリミットが迫って来たぞ……」
「アルエットぉ〜……」
「後で・説教・して・おきます」
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“新アンドロイドマスター” 「地涌讃徳」

2015-11-04 16:41:52 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月26日10:25.静岡県富士宮市下条 敷島孝夫、平賀太一、1号機のエミリー、3号機のシンディ]

「平賀先生、どうしましょ?」
「どうしましょと言われましても……。取りあえず、一服」
 平賀は煙草とライターを出した。
「先生、新幹線降りた後でも吸ってたじゃないですか」
「最近は家でも大学でも吸い難くて……。井辺プロデューサーは吸いますか?」
「吸いませんよ。うちの事務所は全員嫌煙です」
「あ、そう」
 敷島達、何をやっているのかというと、目的の吉塚家に到着し、インターホンを鳴らしたはいいものの、誰も出てこなかったのである。
「いや、まさか、ここまで来て留守とはな……」
 敷島が苦い顔をしているのは、平賀のタバコの副流煙が来ているからではない……と思う。
 平賀は道路に向かって煙を吐き出しながら、思案していた。
(ディーゼルエンジン駆動のバージョン2.0……)
(ガソリンエンジン駆動のハンター350……)
 2人の鋼鉄姉妹は、平賀の喫煙姿を見て、同じく駆動時に排気ガスを出すロボットを思い出していた。
「……取りあえず、家の中を探索してみましょうか」
 と、平賀。
「ええっ、先生!?」
「法的に住居侵入罪に問われる恐れがあるのは分かります。ですが、ここで引き返すわけにはいかないでしょう」
「住居侵入罪?あ、そうか……」
「ん?人の家だから、建造物侵入罪ではないですよ?」
「あ、いや、そうじゃなくて……」
「?」
「仮にもKR団の研究員の家だから、無断で入ろうとしたら、レーザービームでも飛んでくるのかなぁと思いまして」
「ブッ!」
 敷島の言葉に煙草を吹き飛ばす平賀。
「さ、さすがはテロリズムもいくつも掻い潜って来た敷島さん……」
「いや、何の何の」
「いや、褒めてないんで!」
「あの、ドクター平賀」
「ん?」
 そこへエミリーが1歩前に出て、右手を挙げた。
「私で・よろしければ・調査を・開始します」
「あ、姉さんが行くなら、アタシも行くわ」
 シンディも手を挙げた。
「そうか?じゃあ、お願いしようかな」
「そういうことなら。ただ、家屋内に入る必要は無いぞ。あくまで、外観からスキャンするだけでいい」
「了解!」
「かしこまり・ました」
 鋼鉄姉妹は家の敷地内に入って行った。
 見た目はごく普通の木造2階建て、庭付き。
 門扉の鍵は開いていた。
 都内やその周辺で、これと同じものを買おうとしたなら、相当の額行くと思われる。
 豊洲やお台場のマンションくらいするのではないか。
「KR団の生き残りだとするなら、警察の手に掛からないよう、既に逃げた後かもしれませんね」
 平賀は手持ちのタブレットを取り出して、エミリーの目に映る画像を確認している。
 敷島もまたタブレットで、シンディからの画像を見ていた。
 傍からみれば、人んちの前でタブレットでゲームをやっている変な男達にしか見えない。
 都市部ならこれだけでも通報されるレベルだが、この辺はまだ長閑なのか、パトカーがやってくることは無かった。
「それだけならまだいい方です」
 と、敷島。
「えっ?」
「最悪、証拠隠滅の為に既に組織に消された後かもしれないし、警察以外の敵対組織がもしいるなら、そこからの抹殺があるかもしれません。KR団の構成員が次々逮捕されて、そこから暴力団の組事務所にも家宅捜索が入っていたりしてますから、その辺からの報復もあるかもですし……」
 KR団と銃火器のやり取りをしていた裏が取れたことで、日本では有名な暴力団幹部が逮捕され、本部事務所に家宅捜索が入ったのは3日前のことだ。
「そんな奴らと自分ら戦ってたんですねぇ……」
「ええ。……巻き込まれた井辺君に、後でもう少し謝っておこう」
「今度の冬のボーナス、大幅アップしてあげたら?社長さん」
「考えておきます」

 人間達がそんな会話をしている中、2人の鋼鉄姉妹は結構広い庭を探索していた。
 そこから家屋内に向かってスキャンをしているが、生物の反応は全く無い。
 生物の反応は!
「シンディ!」
「ちっ!」
 家の裏から獰猛なシェパード犬が2頭、吠えながら侵入者たる鋼鉄姉妹に向かって来た。
 シンディは思わず右手をマシンガンに換装したが、
{「シンディ!撃つな!住宅街だぞ!」}
 敷島が通信機で注意した。
「シンディ!直接・制圧・する!」
 近接戦が得意なエミリーは、まずは1頭をねじ伏せた。
「えーい!ちょこまかと!」
 どちらかというと離れた所からの狙撃が得意で、そんなに近接戦は得意ではないシンディは苦労した。
 因みにこの犬達、マルチタイプ姉妹のスキャンには、『DOG』と出ていない。『ROBOT』と出ている。
 エミリーにねじ伏せられた1頭はバッテリーを破壊されて、動きを封じられた。
{「ロボット犬か!」}
「そうね!」
 もう1頭もエミリーがねじ伏せた。
 しかしこのロボット犬の動き、本物の犬そっくりである。
 生物の犬なら、エミリー達が脅かせば逃げて行きそうなものだが、ロボット犬ともなると、そうもいかないようだ。
 もう1頭もバッテリーを破壊されて、行動不能となった。
「やっと静かになったわ。悪いね、役立たずで」
「遠距離の・攻撃は・シンディに・任せる」
 エミリーは妹の自虐的なセリフに笑みを浮かべて答えた。
 シンディの100メートル先からの狙撃の的中率は10発中9発。
 もちろん、動く的である。
 エミリーに至っては、動く的にあっては全弾外れという変なデータが残っている。

[同日10:45.同場所 上記メンバー]

「外観からのスキャンだけど、家屋内に人間の反応無し。庭内にあっても、さっきのロボット犬だけね」
「少なくとも、まだ殺されたという確証は無いわけか……。ロボット犬が稼働していたということは、少なくとも例えばうちの井辺君みたいに連れ去られた線は……無きにしもあらずか」
「せめて、どこに行ったかくらいは分かるといいんですけどねぇ……」
 ロボット犬が何か知ってやいないかとメモリーを調べたが、ただ単に侵入者の警戒を命令されているだけだった。
「ふーむ……。取りあえず、休憩しましょう」
「ええっ?」

 4人は近所のコンビニに入った。
 敷島は缶コーヒー、平賀は煙草を購入する。
 敷島がレジに行った時、応対したのは店長だった。
 そこで、
「さっきそこの吉塚さんちに行ったんだけど、留守でね」
 と、話し掛けてみた。
「あ、そうですか」
「ちょっと急用があって東京から来たんだけど、どこに行ったかご存知ない?」
「今日は土曜日だから、大石寺に行ってると思いますよ」
「大石寺って、あの国道沿いのお寺?」
「ええ。吉塚さん、信心深い人で、大石寺では土日月火と御開扉がありますから」
「ゴカイヒ?」
「まあ、そこの信者さん限定の行事ですね。吉塚さん、熱心な人なんで、毎週土曜日はそこに行ってますよ。留守なのも、そのせいじゃないかな」
「店長も?」
「いや、僕は入ってませんがね」
 店長は苦笑いして手を振った。

 店を出ると、既に会計を終えた平賀が、また店の入口にある吸殻入れの前で一服していた。
「何か情報は得られましたか?」
「ええ、一応。吉塚氏、大石寺に参詣しているようです」
「ということは、日蓮正宗の信者ですか」
「そうなんですか?」
「いや、どうも気になったので、今調べていたんですが、どうやら十条兄弟とも繋がりがありそうなお寺ですよ」
「何ですって!?」
「ええ。レイチェルが指令を受けて狙っていた、達夫博士の仏壇の中身、覚えていますか?」
「確か、掛け軸ですよね。御本尊とかいう……」
「その出所のお寺ですよ」
「ええーっ!?」
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“新アンドロイドマスター” 「竹取飛翔」

2015-11-04 02:31:36 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月26日08:26.天候:晴 JR東海道新幹線“こだま”639号1号車内 敷島孝夫、平賀太一、1号機のエミリー、3号機のシンディ]

   

〔「レピーター、点灯です!」〕

 ホームに、かつて“のぞみ”号で使われていた車内チャイムが、発車メロディとして鳴り響く。

〔18番線、“こだま”639号、名古屋行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「乗降よし!ITVよし!18番線、ドアが閉まります!」〕

 ドアが閉まって、敷島達を乗せた列車が走り出した。
 “のぞみ”や“ひかり”は先頭車でも満席に近い状態で発車していったが、“こだま”はガラガラだった。

 

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。今日も、新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。次は、品川です〕

 敷島は東京駅で買った朝食の駅弁を食べていた。
 テーブルを使う関係で、あえて座席は向い合せにしていない。
 自由席に座っているのは、ミク達と違い、何の確証も無い旅だから贅沢はできないからである。
 平賀達も“はやぶさ”は全車指定だから指定席で来たものの、普通車で来たとのこと。
 シンディは通路側ながら、コンセントを通して充電している。
 元々が軍事用として開発されたマルチタイプは、どうしても維持費が高くなりがちで、バッテリーの充電による電気代もその1つである。
 その為、敷島エージェンシーではあえて深夜電力の契約をしていて、ロイド達の充電は(予備バッテリーも含めて)専ら夜に行っている。
 で、合法的にタダで充電できる所も活用すると。
 エミリーは充電はしていないが、シンディよりはバッテリーの消費が少ないとのこと。
 妹機のシンディより軽量化し、何より、新ボディが平賀の持つ最新技術で造られたからだろう。

[同日09:34.JR新富士駅 上記メンバー]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、新富士です。新富士を出ますと、次は静岡です〕
〔「ポイント通過の為、列車が大きく揺れることがあります。お立ちのお客様、十分ご注意ください。お出口は、左側です」〕

 途中、通過線のある駅では、必ずと言って良いほど、後続の“のぞみ”や“ひかり”に抜かれる。
 この駅でもそうだ。
 特に新富士駅は線形が良い為、ダイヤ通りなら通過列車は最高速度で通過するという。
 ドアが開くと、“こだま”しか停車しない駅の割には、意外と多くの乗客が降りて行った。
 ホームに降りて階段に向かうまでの間、通過列車が轟音を立てて“こだま”の横を通過していった。
 駅からは、富士山がよく見える。
 目的地によれば、もっとよく見えると思われる。

 駅前からタクシーに乗り込む。
「富士宮市……までね」
 敷島が住所を言うと、運転手はナビにその住所を打ち込んだ。
 隣町であるものの、土地勘は無いらしい。

[同日10:20.静岡県富士宮市郊外 上記メンバー]

 駅前を出てから、タクシーはひたすら北上した。
 この時点では、富士山は右手に見える。
 国道139号線を走っていたわけだが、富士宮市内に入ってしばらく走り、何やら看板に朝霧高原の文字が見えるようになると、今度は国道から外れて県道に入る。
「朝霧高原にもライブができる会場があるんですよ。今度の『ボカロ・フェス』はそこでやりたいな」
 と敷島が言うと、隣に座る平賀が、
「もう少し交通至便な所の方がいいんじゃないですか?」
 と、反論した。
 ボーカロイドの整備役として呼ばれることが多いだけに、けして他人事ではないと思っているようだ。

 ナビの地図によると、国道369号線を西に向かっているようだ。
 地図にも出てきたが、実際に敷島達の眼前に大きな三門が見えてきた。
「ん?何か、大きなお寺が……?」
「大石寺ですよ」
 敷島の言葉に、運転手が答えた。
「そう、ですか。まあ、富士山が近いからですね」
 この時は、まだ山岳信仰の類なのだろう程度にしか思っていなかった敷島達だった。

「この辺りですよ」
 カーナビも目的地周辺だということで、案内を終了した。
「じゃあ、この辺でいいです」
「よろしいですか」
 敷島達がタクシーを降りた場所は、『大石寺入口』バス停の横。
 実際の大石寺の周辺は長閑な場所だが、この辺りはそこそこ住宅もある。
「よし、ちょっと探してみよう」
 とは言いつつも、東京やさいたま市の住宅街を探すわけではない。
 目的の吉塚家はすぐに見つかった。
「なるほど。ここから、仙台まで来たのか。確かに大変だな」
 敷島はおぼろげながら、南里の告別式の際に参列した吉塚広美との会話を思い出していた。
 確か、『半日掛けてやってきたかいがあった』みたいな内容だ。
「敷島さん、早く行きましょう」
「そうですね」
 敷島は門扉の横のインターホンを押した。
コメント (3)
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