報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「悪魔の情報」

2015-11-22 21:47:26 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月26日13:15.天候:晴 マリアの屋敷2F・読書室 稲生勇太、マリアンナ・スカーレット、ベルフェゴール]

 この先の廊下に書庫がある。
 その手前の部屋には読書室があって、そこでは白い壁に向かって映像を見ることもできる。
「まあ、適当に座ってくれたまえ」
「何だよ。もったいぶらずに言え」
 そう言いながら、稲生とマリアは室内の椅子に座る。
「実は今回の“魔の者”なんだが、前回キミ達が戦った相手とは別モノだ。キミ達と戦った“魔の者”はヤノフ城崩壊の際、辛くも脱出してしまっている」
「何だと?」
「だが、安心したまえ。向こうでも敗者に対しては冷遇されるのか、人間界にいられなくなって、魔界で震えているとのことだ。魔界でも“魔の者”に対する取り締まりが厳格化しているので、いずれ魔界正規軍治安部隊に捕えられることだろう」
「さすがルーシー女王!」
 今の“魔王”は、ヴァンパイアが出自の女魔王である。
 稲生が最終決戦で魔王城で戦った後、本物の魔王は王権を委託していたルーシーに対し、正式に王権を移譲している。
「……で、問題なのは今度の“魔の者”だ」
「一体、何だ?」
「前回の“魔の者”は亡霊や一介の人間に憑依していただけだったが、今回はそうとは言い切れない。口では、なかなか説明しきれないんだがね」
「説明できないのならしなくていい。それより、“魔の者”の次の狙いは誰か?」
 マリアは近日中に再契約予定の悪魔を見据えた。
 すると、ベルフェゴールは稲生を指さした。
「いっ、僕ですか!?」
「……と、思わせて、やっぱり……」
 マリアを指し直す。
「また私か」
「ボクがもし“魔の者”だったら、キミを狙うと思うね。理由は、キミが中途半端に強い魔道師だからだ」
「中途半端で悪かったな」
「まあまあ。そして、“魔の者”も中途半端に強い」
「!」
「ボク達が面倒臭く思うほどにね」
「ベルフェゴールは、それでなくても面倒臭がりなんじゃないのか?」
 マリアが言い返すと、怠惰の悪魔は肩を竦めた。
「まあまあ。実はまだ新聞は書いていないと思うけど、“魔の者”の狙いはクレア師ではないようなんだ」
「えっ?」
「は?」
「本当の狙いはその弟子、ジェシカ師だ」
 ベルフェゴールの言葉と連動しているかのように、室内の映写機が勝手に動きだし、白い壁にジェシカ師の姿が映し出された。
 イリーナのような赤い髪に、緑色の目が特徴だ。
「何で?」
「考えてもごらん?ジェシカ師とキミの強さはほぼ互角だ。彼女は免許皆伝を受けたばかり。そして、キミにあってもこれから再登用の予定だ。立場的にもよく似ている」
「それで?」
「クレア師はジェシカ師が狙われていたことを当然知っていた。そこで色々な案を立てたが、どれも“魔の者”には効果が無かったというべきかな……」
「大魔道師の先生が立てた対策が効かないなんて……」
 稲生は冷や汗を浮かべた。
「で、ジェシカはどこにいる?」
「人間界にはいない。しかし、魔界にもいない」
「だから、どこだよ?地獄界か?」
「そこのキミが見た夢の中だ」
「は?!」
「ユウタ?」
「い、いや、まあ……その……昼食前に寝てた時に見た夢……どこかの海の上を走る豪華客船みたいな船がいましたが……。ボクの夢の中に、どうやって行くんです?」
「……そこ、本当にボコッとやったら命に関わるからね?」
 慌てる稲生の背後で、魔法の杖を大きく振り上げたマリアの姿があった。
 稲生の頭をボコッと殴って気絶させるつもりだったか?
「幸いなことに、ここは魔道師の屋敷だ。色々な手掛かりはある。探してみてはいかがかな?」
「もったい付けやがって、この野郎!」
 マリアはベルフェゴールを睨みつけた。
「これ以上の情報提供は“有料”になるからね。ボクが求める“有料”とは何か、当然知ってるよね?払えるのかい?」
 ベルフェゴールが要求する報酬は、人間の魂1つである。
「くっ……足元見やがって!ユウタ、行こう!資料室に探せばあるはずだ!」
「は、はい!」
 ユウタはマリアの後をついて、読書室を出ようとした。
「……!」
 その時、ふと稲生は思い出したことがあった。
 マリアが先に資料室に向かったことを確認する。
「ベルフェゴール。ちょっと別に聞きたいことがある。タダでいいか?」
「やれやれ……。最近の人間は、図々しくなってきたね。有料のものと無料のものがあるよ?何だい?アスモとの契約内容と条件は、彼女に直接聞きなよ」
「いや、そうじゃない。近日中にあなたはマリアさんと再契約の予定だよね?」
「ああ。おかげさまで」
「当然、それに当たっては、また契約料として魂1つを要求するつもりか?」
「もちろん、当然だよ。ボクを誰だと思っているんだい?」
「……誰の魂を受け取るか、聞いてるか?」
「うーん……。ちょっと、その先は有料情報だなぁ……まあいい。キミもアスモと契約してくれるみたいだし、仲間のそれに免じて、特別サービスしてあげよう。誰の魂かはさすがに、今は言えない。だが、結論だけ教えてあげよう。ボクは、これから改めて人間の魂は要求しない
「……は?」
 ユタは首を傾げた。
「もう1度言おう。ボクは、これから改めて人間の魂を彼女に要求しないよ」
「え?どういうことだ?だって、再契約に当たっては、改めて人間の魂を……」
「そうだよ。もちろん頂くよ」
「だけど、改めて要求しないって……」
「ボクの言ってる意味、分からない?まあ、じっくり考えてくれたまえ。アスモと今、契約してくれたら教えてあげてもいいし、アスモが教えてくれるかもしれない」
「い、いや、僕は勝手に契約できないよー」
 稲生はそう言うと、読書室を出ていった。

「あー、ちくしょうっ!一体、何なんだ!?」
 1時間くらい資料室を探したが、稲生の夢の内容らしきものを見つけることはできなかった。
 マリアは苛立った様子である。
「僕が見た夢は、霧の立ち込める海の上を航行する豪華客船でしたけどねぇ……」
「だから、それが何だと……!」
「あっ!」
「なに?」
「マリアさん、サンモンド・ゲートウェイズって人、知りませんか?」
「……? 誰だ、それ?」
「いや、夢の中でその名前を名乗る男性がいたんです。声だけで、姿形は現れませんでした」
「ふーん……。取りあえず、一旦戻ろう」
「はい」

[同日14:30.マリアの屋敷1F・エントランスホール 稲生、マリア、エレーナ・マーロン]

「お届け物でーす!」
「まだ、魔女宅やってたのか!?」
 エレーナがホウキと荷物を持って、エントランスから入ってきた。
「これ、イリーナ先生宛の荷物」
「ああ。ご苦労さん」
 マリアはエレーナが差し出した伝票にサインをした。
「ん?代引き?ちょっと待ってくれ。先生は今、お留守だから」
 マリアが手を引っ込めると、エレーナは右手を振って答えた。
「ああ、それなら大丈夫。もう料金はもらってるから」
「何だ。だったら、代引きとは言わないぞ?」
「最初は代引きだったんだけど、イリーナ先生が後で前払いにしてくれたからね。だから、改めてお金を払ってもらう必要は無いよ」
「そうだったのか。稲生君、悪いけど、この荷物を師匠の部屋に……稲生君?」
「……えっ?あっ、すいません!」
「どうしたの、ボーッとしちゃって」
「い、いえ、何でも……」
 稲生は荷物を抱えて、イリーナの部屋に向かった。
「エレーナ。少し、休んでく?」
「暗くなる前に、戻らないといけないんだけどねぇ……」
「今のアンタなら、ワープくらい使えるでしょうよ」
「ワープ1回使う度に、魔力の消費量が大きいからねぇ……」
 荷物運びは稲生に任せ、魔女2人は食堂に入って行った。

 イリーナの部屋に荷物を運んで行く稲生は、エレーナの言葉に確信を得た。
(ベルフェゴールが言ってた、『再契約に当たっては、改めて人間の魂1つを要求する。が、今回は改めて要求することはしない』ってのは……。もしかして、『既に再契約の分の魂はもらっているから、改めて要求しない』って意味なんじゃ?だとしたら、一体誰の魂を……?)
 その謎が解ける日が来ることはあるのだろうか。
コメント
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