報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「秋深し」

2015-11-07 19:24:01 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月7日14:00.都内の写真スタジオ 井辺翔太&MEGAbyte]

「はい、撮りまーす!」
 サンタクロースをモチーフにした衣装を着て、ポスター撮影に挑むMEGAbyteの3人。
「はい、次!笑ってー!」
 カメラマンの掛け声に合わせて、色々とポーズを取る。
 クリスマス商戦のイベントの仕事が取れたので、今からポスターの撮影をしているのだ。
 実はこれ、業務的には遅い方。
 どうしても売れっ子の方が優先的になってしまうので、まだ新人の3人は撮影も後回しになってしまうのが実情だ。
「はい、OK!」
「お疲れさまです」
「ありがとうございました!」
 セットから移動する3人。
「お疲れさまでした。いい笑顔でした」
 井辺が3人を労う。
「お安い御用です」(Lily)
「まだまだ行けますよ!」(結月ゆかり)
「いい写真になるといいですね」(未夢)
 3人の反応に頷いた井辺は口を開いた。
「頼もしい言葉です。それでは1度、事務所に戻りましょう。今日はアグレッシブな仕事が多いので、バッテリーの交換が必要です」
「そっかぁ……。夕方はMEIKOさんとKAITOさんのデュエットライブのバックがありましたね」
 ムーディ✩アポ山さんな歌謡曲を歌うミニライブなのだが、バックダンスは結構ダンサブルなものらしい。
「昨日入ったばかりの仕事でしょ?」
「本当は別の人間のバックダンサーさんが務めることになっていたのですが、急きょ来れなくなりまして、それならうちの事務所で完結してしまおうということです。ボーカロイドなら、ダンスもパターンを入力すればノーレッスンで踊れますので」
「確かに……」
「ミク先輩が製造された当初は、本当にパターン化された動きしかできなかったんだけど、今のバージョンならもっとファジィな動きもできるしね」
「技術の進歩です。では、私は車を持ってきますので、着替えてお待ちください」
「はい!」
 ボーカロイドから見れば『パターン化された動き』だが、人間から見れば『機械的な動き』である。
 後者の表現の方が、いかにもつまらなく見えるだろう。
 正に、そういうことだ。
 因みに今の初音ミクのバージョンも、だいぶ進歩して、滑らかな動きでダンスができる。

 都内の幹線道路を進む井辺達。
「プロデューサーさん」
 リアシートに座るゆかりが話し掛けた。
「何ですか?」
「最近、社長さんが『もう1つのお仕事』をされていないようですけど、もう終わったんですか?」
「粗方、概ねは……。ただ、まだ謎は解けていないようです。それが解けるまで……というか、そのとっかかりを掴むまでは、こちらの本業に専念されるそうです」
「そうですか」
 パッと顔を明るくするゆかり。
「それって、ほぼ95パーセントは平和になったってことですよね?」
「そういうことです。KR団自体は既に崩壊しましたし、後は脅威的なロボットが隠されているそうで、それの在り処……と言いますか、詳細な情報が入らないと動くに動けないそうです」
「つまり、その情報の入り待ちってことか……」
「95パーセント平和になったのに、社長さんも大変ですね」
「その辺は社長も完璧主義の御方です。100パーセントをお望みです」
「ロボット・テロを完全に封じる為にも、社長さんに協力してあげなくちゃね」
 と、未夢。
「はい!」
「シンディさんの仕事、無くなっちゃいません?」
「いや……むしろシンディさんには、引き続き社長秘書と皆さんの護衛を務めれば良いと思うので、その心配は無いと思いますが」
 井辺がルームミラー越しに言うと、
{「あ!?ゆかり、何か言った!?」}
 通信機を通して、シンディが何か言ってきた。
「何でもないですぅ!」
 ゆかりは慌てて、口を押さえて頭を低くした。
「大丈夫だって。いくらシンディでも、事務所からこんな場所まで撃ってこないから」
 Lilyがゆかりの肩に手を置いた。

[同日同時刻 東京都墨田区・敷島エージェンシー 敷島孝夫&3号機のシンディ]

「全く。最近のMEGAbyte、調子に乗ってない?」
 シンディは自分の右耳を押さえながら言った。
 あたかも、インカムを押さえるかのようだ。
「ははははっ(笑)!売れる為には少しくらい調子に乗る方がいいんだよ」
 敷島は社長室内の椅子に座り、窓の前に立つシンディの方を向いて言った。
「俺もこうして本業に専念することができたし、何かこのままバージョン1000とやらは無かったことにしたいな」
「いや多分あるって」
「まあな。だけども、噂程度の域をいい加減出てくれないと、俺達も動きようが無いしな」
「警察の方はどうなの?」
「ダメだ。鷲田警視達、情報を独占しやがって、こっちに提供してくれない」
 ていうか普通、一般人に情報を提供することはない。
 まあ、敷島や平賀は既に半分一般人ではないようなものだが。
「アタシが警視庁にスパイに行く?」
「お前じゃ潜入作戦ムリだよー。映画の女スパイはお前みたいな感じだけど、モノホンのスパイは小柄な地味女だぞ?」
「悪かったわね」
 とはいえ、敷島の発言も半ば独断と偏見だったりする。
 潜入先によっては、シンディみたいな高身長の美女の方がスパイとして成り立つ場合もあるだろう。
「ま、警視庁をテロる作戦に至った時には頼むわ」
「その言葉、平賀博士の前で言える?」
「……多分、エミリーを使って殺されると思う」
 平賀は自分の姉を殺した犯人がKR団の関係者と知って、尚更ロボット・テロを蛇蝎の如く嫌うようになった。
 主に情報戦であっても敷島が主体で行っていたのが、今では平賀が率先して行うようになっている。
 敷島がこうして暢気に本業に専念しているのも、平賀が率先してくれているからだったりする。
「その平賀先生をして情報が手に入らないんだからな。まあ、『果報は寝て待て』って言うし、慌てずに年越ししようと思うよ」
 その時、社長室の電話が鳴った。
「はい、もしもし?」
{「社長、一海です。富士宮市の吉塚様と仰る方からお電話ですが、お繋ぎしてよろしいですか?」}
 事務室にいる一海からだった。
 本来の用途はメイドロイドだが、七海のデータを活用して、事務作業用に転用している。
 衣装としてメイド服は持っているが、普段は事務服である。
「おー、吉塚さんか。いいよ、繋いで」
 敷島が言うと、電話の向こうから聞こえて来たのは広美という老婆の声ではなかった。
{「……敷島エージェンシーの敷島社長さんですか?」}
「はい、そうですが?えーと……富士宮市の吉塚さん、ですよね?」
{「はい」}
「広美さんとはお声が違うようですが、ご家族の方ですか?」
{「私は広美の娘の佐野……旧姓が吉塚ですが、佐野瑞穂と申します」}
「そうでしたか。……もしかして、お母様に何かありましたか?」
{「母が先月他界しましたので、遺品を整理していましたら、社長さんの名刺が見つかりまして……」}
「そうですか。お亡くなりに……」
 10月に入ってから急に具合が悪くなり、あっという間に急逝したそうである。
 既に告別式まで終えたわけであるが、敷島の名刺が見つかり、その裏に、
{「この名刺を見つけたら、社長さんに連絡するようにと書かれていましたので……」}
「そう、ですか。それはどういった理由なのでしょう?」
{「もう1枚、大学教授の平賀太一……先生の名刺には、母の遺品をお渡しするように書かれていましたので……」}
(俺と平賀先生の2枚に分けて、遺言を書いたのか?)
 確かに9月26日に会った時、敷島と平賀は吉塚広美に名刺を渡している。
 だから家族が連絡してくること自体は、何ら不自然ではない。
「その遺品、私達に渡しても大丈夫なのですか?もし値打ち物だったとしたら、御親族の方で問題にされたりとかは……」
{「いえ、特に値打ち物ではないみたいです。母が以前勤めていた仕事に関することのようで、私達には何も分からない物ですから」}
「そうですか。では早速、お伺いさせて頂きます。御都合のよろしい日にちと時間を教えてください」

 何やら大きく動き出しそうであった。
 敷島は早速平賀にも今の件を連絡すると、再び静岡へ向かう算段をしたのである。
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“大魔道師の弟子” 新編導入部

2015-11-07 13:50:12 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月18日18:00.長野県白馬村郊外 マリアンナ・スカーレット邸 稲生ユウタ、マリアンナ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 “魔の者”との戦いから5ヶ月ほどの時が過ぎた。
「えーと……魔道書は持って行った方がいいな。まだ修行中だし」
 自室として与えられた部屋で、何故か荷物をまとめている稲生。
「あと、忘れちゃいけいない時刻表」
 そこへ、ジリリリリリリと古めかしい黒電話が鳴った。
 日本製ではなく、外国製の背の高いタイプの黒電話である。
 いきなりベルが鳴るので、最初は慣れずに鳴る度にビックリしたものだった。
 とはいえ、これは外線ではなく、内線電話。
「はい、もしもし」
 電話に出ると、
{「・・・・・・・・・」}
「ああ、そうか。もうそろそろ夕食の時間かい?分かってるよ。今行く」
 電話の向こうに、マリアの人形がいるのが分かった。
 大きな洋館の維持は、マリアの人形達が行っている。
 デフォルメ体型の本当の人形形態になったり、人間と変わらぬ姿・動きをする人間形態と様々だ。
 食事の支度をするのは、人間形態になったミク人形ことミカエラとかクラリスだろう。
 言わば、ここでは屋敷のメイドのようなものである。

 1階の食堂に行くと、既に2人の魔道師師弟が座っていた。
「じゃあ、揃ったところで頂きましょうか」
「頂きます」
「すいません、お待たせしました」
「いいのよ。半年ぶりの帰省だものね」
 イリーナはワイングラスを口を運んで言った。
「せっかくのシルバーウィークなんだから、ゆっくりしてきなー。準備はできたの?」
「あと少しです」
「そう。行き帰りはどういうルート?」
「明日は9時のアルピコ交通で新宿まで行って(※)、そこから埼京線ですね。帰りは同じく新宿から“ムーンライト信州”で帰ります」
 ※いわゆる、“中央高速バス”。京王バスが商標登録しているが、白馬線においてはアルピコ交通と共に京王バスも共同運行しているため、それも中央高速バスの一部である。
「そう」
「魔の者、何も仕掛けてきませんね」
「大丈夫。あれはアタシの見込みであって、向こうがその見込み通りに動くとは限らないから」
「えっ?」
「アタシがもし魔の者なら、次はユウタ君を狙うところだけど、もしかしたら、まだマリアのことは諦めていないかもしれないからね。意地でもマリアを狙おうとするかもしれないし」
「大丈夫なんですか?」
「ユウタ君の活躍のおかげで、魔の者も魔界で震え上がってるわよ。もうしばらくはこっちに来ないでしょう」
「ということは、いずれは来るんですね」
「態勢が整い次第ね。でも、またやっつければいいさ。そうして何度も倒して行くうちに、やっとこさ諦めるでしょう」
「何だか、面倒臭そうな話ですね」
「ま、そういうものよ」
 その時、エントランスホールから別のフランス人形がダイニングに入ってきた。
 他の人形と同様、人間形態でメイド服を着ている。
「……魔界から速達郵便です」
「魔界から?ということは、大師匠からかしら?」
「夕方届いて、速達ってのも変な話ですね」
 稲生はフォークに刺した肉を頬張った。
「魔界とここじゃ時差があるからね。普通郵便で送ったら、明日になってしまうからね」
 イリーナが封筒の口を破って、手紙を出した。
「ふーむ……」
「大師匠様からですか?」
 と、マリア。
「そうね。……フムフム」
 イリーナが深刻そうな顔になる。
「何ですか?まさか、“魔の者”に関する重大な情報とか?」
「今すぐこっちに向かっているから警戒せよ、ですか?師匠?」
「違うわよ」
 手紙から目を放したイリーナは、目を細めていた。
 元々が細い目で、普段から糸目なのだが。
「この前の“魔の者”との戦いぶりを顕彰するつもりで、そろそろマリアの処分を大師匠名義で解除してあげようかってさ」
「マリアさんの処分?」
「……を解除ということは……」
「アタシはあなたの免許皆伝を剥奪したわけだけど、大師匠がそれを更に解除する。つまり、再・免許皆伝ってことよ」
「おおーっ!」
「それじゃ、またベルフェゴールを召喚しなくちゃね」
「マリアさんと契約する“七つの大罪の悪魔”は、既に決定していたんですね」
「まあ、元々がそれと契約していたわけだから」
 怠惰の悪魔ベルフェゴール。
 マリアの人形を操る魔法も、そこから付与されているもの。
 もっとも魔力自体は既に一人前の魔道師同然なので、今さら剥奪されたところで、その魔法が使えなくなるわけではない。
「結構、長い文章が書いているように見えますが、書いてあるのはそれだけですか?」
「まあね。大師匠も結構回りくどい書き方をするもんだから、結局言いたいことは簡単なのに、回りくどくなって、こんな長い文章になるのよ」
「何語で書かれてるんですか?」
 稲生は目を細めた。
 細かい字の羅列である。
 少なくとも、日本語の類でないことは確かだ。
「ラテン語だよ、ユウタ君」
 隣にいたマリアが言った。
「ああ。……じゃ、読めませんね」
 やっとこさ、英語力が付いたところだ。
「それに当たって、何か儀式でもあるんですか?」
「大したことは無いよ。ただ、杖が変わるだけね」
「杖?魔道師の?そういえばいつだったか、杖を新調していましたね?」
「あれは見習用の杖よ。再びマリアを一人前にしようって話なら、ちゃんとそれらしい杖を用意しないとね」
「なるほど……」

 後でマリアがこっそり教えてくれたことだが、ちゃんと手紙には続きが書いてあったそうである。
 あくまでもマリアの再・免許皆伝は予定であって、まだ決定事項ではないから、早まらないようにという釘刺し。
 但し、大師匠ダンテ・アリギエーリの『予定』は大抵イコール『決定』であること。
 そもそもマリアが“魔の者”に狙われてしまったのも、類稀なる能力を持ちながら、それを庇護する強大な悪魔がいなくなっていたのが原因とも言えるため(この場合、ベルフェゴール)。
 今後とも“魔の者”に狙われない保証はどこにも無いので、何とかしてあげたいが、何かしら名目が無いと魔道師の世界からも怪しまれること。
 今回、“魔の者”を撃退できたという功績がその名目になれそうなので、それで再・免許皆伝できそうだということである。
 そして、決定事項と化したら改めて連絡するので、けして早まらないようにという二重の釘刺しであった。

[9月18日07:30.天候:晴 マリアの屋敷 稲生ユウタ]

「行ってきまーす!」
 送迎の車に乗り込む稲生。
 車も運転手も全てイリーナが作り出した魔法である。
 これでまずはバスターミナルへ向かう。
 因みに車は、タクシーでお馴染みのトヨタ・コンフォートに酷似したもの。
 どんな車かは、イリーナの魔法による。
 で、イリーナ自身が乗ろうとすると、ベンツSクラスなどの高級車が来ることから、やはり魔力の強さによるらしい。
 車が八方インフォメーションセンターに向かって走り出す。
(さいたまの皆には連絡してあるからな、向こうで会えそうだ)
 無論、威吹にも連絡済み。
 マリアと離れるのは少し寂しいのは事実だが、1週間ほどの休暇だ。

 車は砂利道を進んで、まずは舗装されている公道に向かった。
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“新アンドロイドマスター” 「引退しても……」

2015-11-07 10:30:16 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月26日15:30.大石寺裏門前売店(仲見世)前の歩道 敷島孝夫、平賀太一、1号機のエミリー、3号機のシンディ、鷲田警視、村中課長]

「ドクター平賀と・敷島社長は・大事な・お話し中です。しばらく・お待ち・ください」
「バカ者!こっちも大事な話だ!」
「そこをどいてもらわないと、公務執行妨害で現行犯逮捕することになる」
「機械を逮捕できるものなら、やってみなさい!!」
「もちろん逮捕するのは、その所有者だ」
 ガラガラとアルミサッシのガラス戸を開けた敷島は、外に出てみた。
「あれ?鷲田警視達、何してんスか、ここで?」
「のんきに参拝に来たとでも思ってるのか!?」
「いや、思ってないっスよ。入信の儀式なら、向こうでやってるってよ」
 敷島は裏門の向こうを指さした。
 正確には各宿坊で執り行っており、特に報恩坊がお勧めである。……ん?
「入信なんかするか!」
「ていうか、新幹線まだ復旧していないのに、どうやってここまで来たの?」
「警察ナメんなよ!」
「汚いな。また警視庁のヘリを無断拝借したの?職権乱用だよ?」
「人聞きの悪いこと言うな!」
「新幹線はダメでも、在来線は動いていたからね。普通に電車を乗り継いで来たよ」
 村中が肩を竦めて答えた。
「警察の方が何か御用ですか?」
 店の中から吉塚が出て来た。
「事情を伺いたいので、ちょっとよろしいでしょうか?」
「構いませんよ」
「というわけだ。キミ達は参拝が終わったら、あとは帰った方がいい」
「新幹線が止まってたんじゃ、帰れませんよ」
 敷島はブーイングを出した。

[同日16:30.静岡県富士宮市・富士急富士宮ホテル 敷島、平賀、エミリー、シンディ]

 今日は市内で一泊することにした。
「僅かだが、吉塚氏に関するメモリーがあるな……」
 平賀はエミリーのメモリーを全部調べていた。
 平賀がまだ子供の頃に初めて会った頃から全部調べていたが、KR団という単語があるのは最近になってから。
 メモリーといっても、せいぜいエミリーが吉塚からの電話を取り次いだというものしかない。
 南里自身は、エミリーと常に行動を一緒にしていたわけではないということだ。
「ケイン・ローズウェル財団という単語も無い」
「それがようやくここまで来れたのだから、いいじゃありませんか。ウィリーとは繋がりが無かったんですかね?南里所長、十条兄弟は繋がりがあったんだから、ウィリーもありそうなものなのに」
「シンディのメモリーも調べてみましょう」
「調べるも何も、ウィリアム博士は『そういう団体があることを知っている』程度だから」
「知っていたのかよ!」
「どうして言わなかったんだ?」
「だって、ケイン・ローズウェル財団とKR団がイコールだなんて普通思わないわよ……」
「参ったなぁ……」
「どうでしょう、平賀先生?明日、また吉塚さん宅を訪問して、お話を伺うというのは?」
「自分もそれを考えていました。まさか、逮捕なんてことはないでしょう。引退して何十年も経つようだし……」
「そうですねぇ……」
「あと、それと……」
「えっ?」

[9月27日02:00.富士宮市下条・吉塚家 ???]

 吉塚家の前に現れる何か。
 時刻がちょうど午前2時になると、それは門扉を突き破って中に入ろうとした。
「そこまでだ!」
 侵入者に眩しいライトが当たる。
 それはバージョン4.0。
 待ち構えていたのは敷島達。
「誰の命令で動いているのか、聞かせてもらおう!」
「無駄な抵抗はするんじゃないよ!」
 エミリーとシンディが個体の両脇を掴んだ。
「よく分かりましたね、敷島さん?」
 一緒にいた平賀が目を丸くした。
「簡単な推理ですよ。もうKR団は崩壊したのに、未だに稼働していたロボット犬。そして、タイムリーに警察の……鷲田警視達の動きを妨害してきたバージョン4.0。そしてこうして、ついに吉塚さんを襲おうとしたバージョン4.0。吉塚さんが未だに誰かに命を狙われているのは明らかです。その理由は、吉塚さんが何か重要な情報を握っているから。それをバラされると困る連中でしょう」
「社長!こいつの遠隔操作元が分かったわ!」
「座標を鷲田警視達に送信してやれ。恐らく、東京のどこからかだ」
「了解!」
「……後でロボット犬を壊したお詫びに、もっと役に立つセキュリティロボットでも作って配置しておこう」
 と、平賀は思った。

[同日10:00.富士宮市下条・吉塚家 敷島、平賀、エミリー、シンディ、吉塚広美]

「昨夜は、どうもありがとうございました」
「KR団は色々な悪の組織と繋がっているので、そいつらがやっているということは想像できました。ロボット犬を未だに稼働させているのも、その為だったんですね」
「ええ。引退して25年の経つのにね」
「引退しても、ああいう組織の幹部だったりすると、情報は入って来るものでしょう?」
「ええ」
「昨日の話の続きですが、御本尊についてです」
「あの話ね。十条兄弟は私が折伏して御受誡したんだけど、罪障が強かったのか、伝助さんの方が創価学会に行ったりして大変だったのよ」
「その辺の話は、私らには分からないことですが……」
「レイチェル戦で燃えてしまって、現物が無くなったものだから、尚更でしてね」
「燃えたのはどっち!?」
「分かりません」
「確か、達夫博士が持っている方でしたよ?」
「でしたっけ?」
「何てこと……。達夫さんの持っている方が、御宗門の御本尊なのに……」
「ということは、伝助爺さんの方が偽物?あれ?」
「乱戦状態でしたからねぇ……」
「藤野の家は崩壊しちゃったし……」
「顕正会本部の地下施設も爆発しましたからぁ……」
「あれ?じゃ、両方燃えたんじゃなかったですか?」
「最悪のパターンだったのか」
「偽本尊の裏に、十条兄弟の開発した最強……いや、最凶最悪のロボットの隠し場所が書いてあるって聞いたことがあるわね」
「それってもしかして……バージョン1000とやらでは?」
「どこまで本当だかは分からないわよ。特に伝助さんの場合、『これから作る』ことを、あたかも『今作った』みたいなことを言う人だったから」
「いるんだよなぁ……。そういう爺さん」
「振り出しに戻るって感じですか。でもまあ、自分にとっては姉の死の真相が知れて良かったですがね」
「もし良かったら、塔婆供養させて頂ける?」
「是非、姉に詫びを入れてください」

[同日13:30.静岡県富士宮市内 富士急静岡バス“やきそばエクスプレス”14号車内 敷島、平賀、エミリー、シンディ]

 帰京の足は高速バスを使うことにした。
 新幹線は復旧していたが、別のルートを使いたかったからである。
「これでKR団の脅威は全て無くなったと言えるのでしょうか?」
「恐らくは……。ただ、それと繋がりのあった別の組織は未だに存在しますからね。まだまだですよ」
「バージョン・シリーズの4.0までは作り方が流出していることもあってか、こっちで集計した数と実際の個体数が合わないという点も発生してますからね」
「ええ。自分はやはり、財団をもう1度立ち上げて、テロ組織に立ち向かうことも必要だと思います」
「同感です。差し当たり、あの妖精型ロイドは取り戻したいですね」
「いや、それは別に……」
「帰ったら早いとこ、通常業務に戻りたいですよ。私の本来の仕事は、ボーカロイドのアイドル活動をプロデュースすることなんですから」
「今日もイベントが?」
「昨日からですよ。また井辺君に仕事を押し付けてしまった。早いとこ、引き継いであげないと」

 脅威的なロイドはもういなくなったと思われるが、結局のところ、バージョン1000とやらがどういう存在なのかまでは分からずじまいだった。
 平賀の過去の謎については解けたが、時間的な都合もあって、中途半端な中、帰京せざるを得ない敷島達であった。
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