報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 登場人物紹介 

2015-11-28 19:54:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
 サンモンド・ゲートウェイズ:

 稲生勇太が迷い込んだ幽霊客船クイーン・アッツァー号の同型の姉妹船で、スターオーシャン号の船長を名乗る人物。
 冬用の船長服を着用しているが、浅黒い肌をしていることから、黒人であるらしい。
 船長でありながら盲目に近いほどの弱視であり、外部からは本人の目が視認できない(まるで白いサングラスのような)分厚いレンズの眼鏡を掛けている。
 正体はダンテ一門とは別門の魔道師で、クイーン・アッツァー号の地縛霊達が持つソールピースを集めることを目的として、稲生に協力を持ち掛けた。
 イリーナとは深い因縁があるもようで、稲生を船に招き入れて危険な目に遭わせたことにクレームを付けられた。

 イリーナが免許皆伝を受ける前に出奔した際、世話になっていたことがある。
 実は本当に船乗りで、出奔中のイリーナを自身が船長を務めている客船に乗せていたことがあった。
 魔道師になった後は冥界鉄道公社の役員となり、冥鉄連絡船の総責任者になっている。
 自身が船長を務めるスターオーシャン号も、人間界の船会社の倒産により廃船になった所を冥鉄船舶事業部で引き取ったもの。
 同型の姉妹船クイーン・アッツァー号が“魔の者”に乗っ取られたことで、手をこまねいていた(当然、次に狙われるのはスターオーシャン号の為)。

 ソールピースを集めることで、“魔の者”に対抗する魔法具を作ろうとしていた。
 自身は船長という職務柄、自身の管理する船から離れることができないため、それができる魔道師を探していた。
 たまたま迷い込んできた稲生に白羽の矢を立て、協力を依頼する。
 冥界鉄道公社の役員であるが、本業の鉄道事業本部と船舶事業部は相互の人事交流が無いため、鉄道事業本部に顔は利かない。
 幽霊電車の正体が冥鉄電車であるなら、幽霊船(客船)は冥鉄連絡船ということに。
 あくまで冥鉄は彼岸と此岸を結ぶ鉄道会社であり、魔界へは一部列車が乗り入れしているだけという設定の為、船舶事業部が基本的に魔界に行くことはない。
 サンモンドは人間だった頃に培った船乗りのスキルを、魔道師になった後も活かしたいと考えていた。
 冥界鉄道公社より船舶事業部の拡充が決定し、それに伴う役員登用試験を受けて合格した。
 つまり、稲生が乗り込んだ2隻の船は、冥鉄が保有・運行する“幽霊船”だったわけである。
 そのうちの一隻が“魔の者”に乗っ取られたことで、冥鉄の信用度が落ちているらしい。

 物語が進んで行くと、実はこの2隻の他に、もう1隻、別の幽霊船の存在があるかも……。

 稲生に協力を求めながら、あくまで任意の傍観者ぶろうとするのは、他門の魔道師として越権行為にならないようにしているため。
 しかし乗っ取られた船を取り返す為とはいえ、“魔の者”を退治しなくてはならないという方針は稲生達と変わらない。

 クイーン・アッツァー号の名前のモデルは【お察しください】。
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“大魔道師の弟子” 「元の場所へ」

2015-11-28 15:13:21 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[期日不明 時刻不明(昼間) マリアの屋敷2F・イリーナの部屋 稲生勇太&イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 気がつくと、稲生はクイーン・アッツァー号の絵の前にいた。
「……?」
「ユウタ君、お帰りなさい」
「はっ?!」
 背後から聞き覚えのある声がして振り向くと、そこにはイリーナがいた。
「イリーナ先生!?」
「マリアからね、ユウタ君が行方不明になったって大騒ぎされたのよ」
「ぼ、僕が行方不明ですって!?僕はほんの少しの時間、どこかに……クイーン・アッツァー号という船にテレポートしてしまったようですが……」
「やっぱり、この絵の中に引きこまれていたか」
 イリーナは、いつもの穏やかな顔ではなく、細目を少し開けていた。
「あなたがこの絵の中にいた時間は、ほんの数時間くらいかしら?」
「多分……」
「はい、これ、あなたのスマホ」
 イリーナはポンと稲生のスマホを投げて寄越した。
 受け取った時、電源ボタンに触ったこともあってか、モニタにホーム画面が映り出す。
 そこに表れた日付と時間。
 時間は14時13分を指していた。
 しかし、日付が……。

『2015年10月26日』

「はあーっ!?」
 まるまる1ヶ月であった。
「この絵の中の世界と、こことは次元が違う。つまり、時間の流れ方が違うのね。浦島太郎の世界と同じ。あなたは数時間だけいたつもりだろうけど、実際ここでは1ヶ月経ってた」
「……!……!?」
 稲生は信じられないという顔をした。
「信じなさい。現実なんだから」
「どうして僕が船の中にいると……?」
「推理するしか無かったわよ。この屋敷から勝手に出ようとすれば、すぐに分かる。何だかんだ言って、人形達が見ているからね。私もしばらく留守にしていたこともあったし、この部屋で寝ることも無かったから、気づくのも遅くなった」
「気づくのも?」
 稲生が首を傾げた。
 すると、イリーナが手持ちの魔道師の杖を持ち上げた。
 カーテンが勝手に閉まり、外が暗くなる。
 すると、絵の中の船が、稲生が引き込まれる前とその後で違いがあった。
 船橋部分の明かりが点灯している。
 確かに稲生が点灯したものだ。
「3日前、久しぶりにここで寝ようとして、何だか絵が明るいのに気づいてね。いや、船の明かりが灯るなんて仕掛け、魔道師が持つ絵画なら当たり前なんだけど、アタシ、たまたまそれが点く瞬間を見たからね」
 マリアの屋敷には、他にもさり気なく風景画などが飾られていたりするが、確かにその絵が動く所を稲生も見たことがある。
 動いている最中は触らないようにという注意を受けた記憶はあるが、この船の絵に触った時、船は動いていなかったようだが、実は動いていたのか。
 そうだよな。
 船橋に行った時、船は自動航行システムが作動していたのだから。
「もしかしたらユウタ君、この絵の中にいたりしてと思ったわけ」
「その通りでした」
 稲生は項垂れる様子で頷いた。
 イリーナが外側から魔法を駆使して、何とか稲生を呼び戻したらしい。
「戻ってきたばかりで何なんだけど、早速その船の中で見聞きしたことを教えてちょうだい」
「……はい」

[10月26日14:30.マリアの屋敷1F食堂 稲生勇太&イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 人形達が入れてくれたお茶とお菓子のセットに手を付ける。
 何だかとても喉が渇き、空腹感があった。
「お茶のお代わり、あるからね」
「はい。……あの、マリアさんは?」
「ユウタ君が見つからなくて、部屋で不貞寝してるわ」
「不貞寝!?」
「人形達には教えたから、そのうちここに来るでしょう」
 大きなテーブルで、1度に十数人が喫食できそうな長方形のテーブルだが、普段は稲生とマリア、それにたまにイリーナが加わるだけだ。
 稲生が絵の中に引き込まれた経緯と船の中での出来事を話しているうちに、段々とイリーナの顔は険しくなった。
「なるほどね……!そうなの……!」
 明らかにイリーナの目が大きく開きつつある。
 明らかに怒りのオーラが漂っているようだった。
(まずい!やっぱ僕、怒られる!?)
 と、その時、エントランスに出るドアとは反対側のドアから、マリアがやってきた。
「ユウタ君……!」
 急いで来たのか、ワンピース型の寝間着のままだ。
「マリアさん、すいません!何か急に……。!?」
 マリアが泣きながら稲生に抱きついて来た。
「良かったよぅ……!」
「御心配、おかけしました……」
 弟子達の涙の再会を見届けることなく、明らかに不機嫌な顔をしているイリーナはガタッと席を立ち、エントランスホールに出る方のドアを開けて出て行った。

[同日15:00.マリアの屋敷2F・イリーナの部屋 イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

「あーっ、ちくしょうっ!逃げられた!!」
 イリーナは大きく目を見開いた。
 室内にはそれまであったはずのクイーン・アッツァー号の絵が、最初から無かったかのように消えていた。
 そして水晶球を出すと、そこに向かって怒鳴りつけた。
「アタシのシマ荒らした上に、弟子まで危険に遭わせやがって!大したタマね!え!?」
{「果てさて、何のことかな?私は船長としての責務を執行しただけだが……」}
 水晶球に映ったのは、サンモンド船長。
「なーにが船長よ!いい!?2度と余計なことしないで!もしまたやったりしたら……!」
{「おいおい、勘違いしては困る。恐らくキミは直弟子のことを言っているのだと思うが、彼が乗り込んだ船は“クイーン・アッツァー”号の方だぞ?」}
「はあ!?」
{「私が管理している船は同型ではあるが、姉妹船の方だ。そこを勘違いしないでくれたまえ」}
「あのね!」
{「それより、こっちも困るよ。彼には使命があるというのに、勝手に船から降ろされては……」}
「うるさい!何が使命よ!金輪際、関わらないでちょうだい!」
 そう言って、イリーナは水晶球の通信を切った。
{「おいおい、それよりクイ……」}
 サンモンドは更に何か言いたそうだったが、イリーナに切られてしまった。
 この2人、顔見知りのようだが、一体何があったのだろうか?

[同日18:00.マリアの屋敷1F・食堂 稲生、マリア、イリーナ]

 3人で夕食を囲む。
 さすがにマリアも、寝間着からいつもの服に着替えて来ていた。
「イリーナ先生、あのサンモンド・ゲートウェイズ船長って……」
 稲生が聞くと、イリーナはナイフとフォークの手を止めた。
「魔道師さんですか?」
 稲生の質問に、イリーナはナイフとフォークを置くと、ワインに手を伸ばした。
「ええ、そうよ。だけど、ダンテ先生の弟子ではない」
「ということは、他門の魔道師さんですか」
「そう。といっても、表舞台に出ることはないけどね」
「師匠、魔道師自体、表舞台に出ることはないですよ」
 マリアが苦笑いを浮かべるような顔になって言った。
「だからぁ、魔道師の世界においてもなかなか人前に現れないってことよ。アタシらは何だかんだ言って、他の魔道師と交流があるじゃない?」
「まあ、そうですね」
 マリアの反応に、稲生はエレーナやポーリンの姿を思い浮かべた。
「とにかく、あいつは私利私欲で動くヤツだから、ユウタ君も気をつけなさいよ」
「は、はい。あの、それで“魔の者”についてはどうなりました?僕が1ヶ月留守にしている間、何か動きは?」
 それにはマリアが答えた。
「全く無い。あまりにも無いものだから、色々なデマが流れたよ。ジェシカの行方も、全くとして知られることもなかったし」
「では、あの船の中で会った人が……」
「『呪われた絵』だね。正しく」
 イリーナはワイングラスを置いてポツリと言った。
 空になったグラスに、メイド服姿で人間形態になった人形が、徐にワインのボトルを持って来てイリーナのグラスにワインを注いだ。
「あの絵が消えたということですが……」
「正に、あの絵自体が“魔の者”そのものと言っていいでしょう。もし見かけたら直接触らず、私に言ってちょうだいね。すぐに処分するから」
「はい。でも何であの絵が、先生の部屋にあったのでしょう?」
 稲生が疑問を投げかけると、マリアも同調した。
「そうそう、私も気になってた。前からありましたか?あの絵……」
「あの絵はねぇ……」

 イリーナは新しいワインに口を付けながら、その経緯を語り出した。
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“大魔道師の弟子” 「サンモンド・ゲートウェイズ」

2015-11-28 02:44:22 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[期日不明 時刻不明(夜間) 天候:晴 クイーン・アッツァー号(船橋) 稲生勇太]

 幽霊や化け物が徘徊し、または佇む超大型船。
 24時間船員が詰めているはずの船橋でさえ、誰もいない。
 行き先不明のオートパイロットで航行している様が、却って幽霊船を彷彿とさせる。
 船長室で見つけた本が、また稲生の手から離れてフワリと浮いた。
「船橋内にある、その天の川のレリーフ。そこに本を翳すんだ。船内には至る所に、このレリーフがある。船橋区画では、この船橋内だ」
 本から、この船の姉妹船スターオーシャン号の船長を名乗る男の声がした。
 稲生がそのレリーフの前に近づくと、また貧血のような症状が彼を襲った。

[期日不明 時刻不明(夜間) 天候:晴 スターオーシャン号(プロムナード→船橋区画) 稲生勇太]

 スターオーシャン号も幽霊船なのだろうか?
 それとも、ただ単に誰も乗っていないだけか?
 気が付くと、稲生はプロムナードのバックヤード通路にいた。
 観音開きのドアの向こうがプロムナードになっているようだが、舵輪の絵が書いてある鉄扉は施錠されていて開かなかった。
 しょうがないので反対側に行くと、エレベーターが1機あった。
 そこには、『船首甲板、船橋へ』と書かれたプレートが貼ってある。
 もしかして、これがクイーン・アッツァー号では動かなかったエレベーターだろうか?
 ボタンを押してみると、これは作動した。
 ドアが開くが、中は何の変哲も無い。
 豪華客船のエレベーターにしては地味なのは、これが業務用エレベーターであるからか。
 乗り込んで、どこのフロアへ行こうかと思ったが、
「私は船長室で待っている。まずは、船橋区画へ来なさい」
 と、本からあの声がした。
 稲生は、このエレベーターが向かう最上階の船橋のボタンを押した。

 エレベーターのドアが再び開いて外に出ると、そこはクイーン・アッツァー号と全く同じ造りになっていた。
 違うのは廊下の明かりが点いていなくて、非常灯と窓からの月明かりだけという点だ。
 しかし、化け物や幽霊の気配は全くない。
 それどころか、生きている人間の気配すらない。
 ……船長室を除いては。
 稲生がドアの外から様子を伺っていると、中から、
「鍵は掛かっていないよ。安心して入ってきなさい」
 という男の声がした。
 本から聞こえてきた男の声と一緒だ。
「し、失礼します!」
 稲生がドアを開けると、確かに見覚えがある船長室だった。
 ただ、机の配置などのソフト面においては若干の差異が見られる。
 まるで大企業の役員室みたいに、ドアに向かって船長が座る机の配置になっている。
 応接セットや、本棚の奥に執務机のあったクイーン・アッツァー号のそれとは違う。
「やあ、ようこそ。いらっしゃい。スターオーシャン号へ」
 机の上で手を組む船長は、稲生に優しく語り掛けた。
 しかしバリトンボイスや、黒い船長服などが威圧感を漂わせている。
 黒人なのだろうか、顔は浅黒く、頭髪も黒い。
 船長室内も薄暗いので、これで制帽を被れば999の車掌さんみたいになるのではないか。
 バスケの選手みたいに髪を短く刈り込んでいる。
 メガネを掛けているが、まるで白いサングラスのように透明感が無く、船長の目がよく見えない。
「改めて自己紹介しよう。私はサンモンド・ゲートウェイズ。このスターオーシャン号の船長を務めている者だ」
「ぼ、僕は稲生勇太です」
「どうだね?船の旅は?なかなか楽しそうじゃないか」
 サンモンドはそんなに表情は変えないものの、口元だけは笑みを浮かべていた。
「楽しむなんて……。ていうか、どうしてあなたがそれを知ってるんです!?」
「そう構えなくても良い。私には、少し変わった力があるだけだ。……そう、キミと同じようにね」
「僕と……同じ?」
「私は目が殆ど見えなくてね。代わりに作ったのが、その本だ。……そう、いまキミが持っている本だよ。その本は世界を巡り、私はそこから世界を見ることができる。……今回、私はキミの船旅のお伴をさせてもらうことになったわけだ。フフフフ……」
「ど、どういうことですか!?この本を作った!?船長さんなのに目が見えない?……一体、何が何だか……!」
「まあまあ」
 混乱する稲生に向かって、サンモンドは右手を稲生に向かって挙げた。
 稲生を落ち着かせる為だったのだろうが、その時に何か気づいたようだ。
「……ほう。どうやらキミは、面白い物を持っているようだね?」
「面白い物?」
「キミが見つけた球のことだ。……そう、それだ。今のところ、2つかな?それを私に譲ってはもらえないだろうか?」
「これは何ですか?船員さんの……クイーン・アッツァー号の船員さん達の幽霊が残していったものですが……」
「それは、そうだね……。簡単に言えば、ある種のエネルギー体とでも言おうか。私は勝手に、『ソウルピース』と呼んでいるがね」
「ソウルピース……」
「魂のかけら、となるのかな」
「魂のかけら……」
「私にはある目的がある。その為には、それが必要なんだ。もちろん、それなりの謝礼はしよう。必ず、キミの役に立つはずだ。……どうだろう?了承しては、もらえないかな?」
「それは……その目的とは何ですか?」
「あいにくと、まだそれは現時点では何も言えない。強いて挙げれば、『何かを作る材料にする』といったところかな」
「何かを作る……」
「もちろん、それで私の作ったものは、キミの迷惑になるものではない。……恐らくな。場合によっては、それをキミに譲る機会もあるかもしれない」
 稲生は目の前にいる盲目の船長について、何かモヤモヤしたものがあった。
 そして、そのモヤモヤが晴れそうで晴れない。
 稲生は、そのソウルピースを渡した。
「助かるよ。では、代わりにこれを持って行きなさい。これは私が作り上げた、特別な道具だ」
 稲生が受け取った道具。
 それは、白く透明なパワーストーンのようなもの。
 首から下げるタイプのようだ。
「微弱だが、“魔の者”からの攻撃を払い除ける力がある」
「“魔の者”!?あなたは……!?」
「どうだい?今のキミには、必要なものだろう?何しろ、この“スターオーシャン”と違い、“クイーン・アッツァー”は“魔の者”の住処だからな。フフフフフ……」
「も、もしかして、あなたは魔道師さんですか!?」
「私の正体については、キミの想像に任せる。そして、その本を持っている限り、ここへはいつでも来られる。“クイーン・アッツァー”号には、まだまだキミの救いを待っている者達がいる。また来るといい。待っているよ」
「……失礼します」
 稲生は踵を返して、船長室を出ようとした。
「おっと。大切なことを忘れていたよ。キミに、これを渡しておこう。これは、キミの船旅の命運を握るものだからね」
 稲生に渡されたのは、六角形の星型のブローチ。
 その真ん中には、青い宝石が右半分だけ収まっている。
「これは……?」

 だが、また稲生は目の前が暗くなった。
 どうやら、“クイーン・アッツァー”に戻れということか。
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