[5月10日12:00.天候:曇 東京都江東区豊洲・豊洲アルカディアビル18F・敷島エージェンシー]
敷島の会社を訪ねて来ているアリス。
「HAHAHA.私の要求、全部FAXで送ったわよ」
「俺んとこの会社だからって、タダ回線使いやがって……」
送り先はデイライト本社である。
「それで結局、向こうでは何が起きてるんだ?テロが頻発しているんだとしたら、いくら何でもこっちでもニュースになっているだろう?」
敷島は訝し気に聞いた。
「その前にランチにしない?」
事務室の方から12時のチャイムが鳴った。
これは、事務室内に掛けてある壁時計に仕掛けておいたチャイムである。
社員を十数名雇い入れた敷島。
時間が分かるようにと、その時計を導入した。
事務職には必要かもしれないが、ボカロのマネージャー達はボカロに付いて回っているので、あまり事務所にいない。
ボカロは自分でスケジュール管理ができるとはいえ、さすがに売れっ子にマネージャーを付けないのも問題になってきた。
井辺をプロデューサーとし、マネージャーは別に用意することとなった。
「話の途中だぞ。出前でも取ろう」
敷島は机の上のPCのキーボードを叩き、出前サイトを出した。
「アタシ、鰻重」
「いきなり高いモン頼むな!」
「じゃあ、カツ丼」
「それも高い部類だが……。鰻重よりはマシか。じゃあ、俺も。……俺はソースカツ丼派だ。とんかつソースたっぷりな」
「そうなの?」
「そうだよ」
「邪道」
「トンカツにケチャップ掛けて食うお前に言われたくねぇっ!」
敷島はエンターキーを押して、出前を頼んだ。
「タカオ、財団時代は電話で注文してたのにね」
「あー、そんなこともあったっけ。あの時は出前サイトなんて無かったんじゃなかったっけ?」
敷島は首を傾げた。
「それじゃ、カツ丼が来る前に話の続きだ。今、アメリカでは何が起きてるんだ?」
「何も起きてないわよ」
「は?」
「あのマルチタイプ2機、あれから暴れてないって。だから本社では、研究所が破壊されたことについては、『実験中の事故』ってことにするみたいよ」
「だったら何も問題は無いだろう。少なくとも、俺にとってはな。アルバート所長の独立騒ぎなんて、俺には関係の無いことだ」
「そのアルバートが行方不明になってるのが問題なのよ。マルチタイプ2機も含めてね」
「マルチタイプごと行方不明なのか?」
「そうよ。だから、困るのよ。もし変なことに使われたら大変でしょう?」
「少なくとも、テロ活動に使うことはないと思うぞ。あれだけテロへの憎悪を俺に見せてくれたんだからな」
「犯罪は何もテロだけとは限らないからね」
「銀行強盗でもやるのか?」
「あ、それ近いかも」
「わざわざマルチタイプ使って銀行強盗かよ?こっちなんか、逆に銀行強盗を捕まえたんだぞ。なあ、シンディ?」
「お役に立てて何よりです」
敷島はアリスの後ろに控えているシンディに向かって言った。
普段は敷島の後ろに控えているが、今回はシンディにとって敷島より立場が上のアリスが来ている為である。
シンディと萌が逃走する銀行強盗を捕まえたことについては、マスコミにも取り上げられている。
かつてのテロ用途マルチタイプが、今では正義のロイドに変わったことを伝える内容であった。
「アルバートが独立を企てようとしたのは、会社からの報酬が気に入らなかったんだって」
「そういうのも、契約で予め決めていたんだろう?」
「マルチタイプの製造に成功したものだから、欲をかいて更に増給を要求したって話よ。で、会社も応じようとしたんだけど、その額が気に入らなかったんだって」
「ったって、どうせ研究費は豊富に振り分けられてたんだろ?結構、経費で落とせる部分はあったんじゃないのか?」
「そこんとこは知らないけどね。でも、日本とは文化も違うし」
「んん?」
「なーんかね、テロ組織ではないけど、マフィアに狙われてた部分もあるから、そっちじゃないかって」
「マフィアだぁ?何で?」
「そりゃあ、マルチタイプを抱えたら最強だしね」
「こっちのヤーさんは接触してきてないぞ。むしろシンディを見たら、逃げて行くぞ?」
「あー、それね……」
シンディは、ばつの悪そうな顔をした。
「ウィリアム博士に接触してきたマフィア……暴力団ね。ウィリアム博士に私を売れって迫って来たことがあったの」
「そうなのか」
「もちろん私は非売品ってことで断ったんだけど、今度は強奪しようとしてきて」
「シンディに?最近のヤーさんはロケットランチャーでも持ってるのか?」
「ううん。せいぜい、ハンドガンと猟銃としてのライフルくらい」
「そんなんでシンディを壊せるとでも思ったのかよ。今言ったロケランでも微妙なくらいだぞ」
シンディにではないが、エミリーには実験済みである。
昔、在日米軍の訓練に協力したことがあって、ロケランを放ってもらったことがある。
エミリーはその弾を殴り返した。
但し、その左手は人間の骨折のようにブラブラとなってしまったが、ロケット弾を殴り返すという荒技をやってのけた為、関係者を騒然とさせたという。
エミリーができるのだから、同型のシンディもできるのだろう。
さすがに腕が折れてしまうのだから、そう何度もできる技ではない。
なので、さすがのマルチタイプも、ロケット弾に関しては数発で壊れてしまうのだろう。
「人間なら肉片と化すところ、腕1本で済むんだから、本当に化け物だ」
「姉さんもさすがに懲りたのか、『ロケット弾が飛んで来たら逃げろ』って言ってたわ」
「あ、そうなのか」
[同日12:45.天候:曇 同場所]
薄暗い社長室。
ブラインドは全て下ろされている。
机の上に置かれているスタンドだけが点いていた。
「え?俺、ちゃんと頼んだよ?」
敷島は机の椅子に座らされ、そのスタンドの光を顔に当てられている
「またまたぁ……。いい加減認めたらどうなの?『私のミスです。ごめんなさい』と言えば、お上にも情けはあるのよ」
「いい加減に、吐けーっ!」
シンディが敷島の胸倉を掴み、両目をギラリと光らせる。
「だ、だから、俺は知らんって!」
ブラインドの隙間から窓の外を見ていたアリスが、
「まあまあ、シンディ。タカオ、正直に喋って、カントリー(故郷)のパパやママを安心させてあげようよ」
「俺の両親は、ウィリーのテロで死んでるっての!」
尚、この時はシンディは整備中でおらず、バージョン・シリーズや他のテロ・ロボットによるテロであった。
「てか、一体何なんだこの展開?」
「だって、日本じゃカツ丼はこうして食べるんでしょ?」
机の上には出前で届いたカツ丼が乗っていた。
「思い出した!財団の時もお前、同じギャグやってただろ!?」
「そうだったかしら?」
「そうだよ!とにかく、普通に食え!」
敷島はブラインドを開けて、室内の照明を点けた。
代わりに、スタンドの照明は消す。
「で、アタシは卵とじが良かったんだけど、どうしてソースカツが2つも来たの?アンタの注文ミスでしょ?」
「あー、分かったよ。謝るから、さっさと食おうぜ」
「アタシ、ウスターソースは苦手なのよねー」
「だからケチャップつけてたのかよ。大丈夫だって。これも結構美味いから」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
ウスターソースは醤油並みにさらっとした液体だが、とんかつソースはどろっとしている。
「? このソースは少し不思議な味ね」
「俺もトンカツは中濃以上のソースで食いたいな。この店のソースは特製の特濃ソースを使ってるんだ」
「Hum,Hum...これなら、アタシでも食べられそうね」
「そうか?それならいいんだが……」
但し、どういうわけだが、一緒についてきた味噌汁は即席のものだった。
シンディが使い捨てカップにその味噌汁を入れて持って来た。
あと、ついでにお茶も。
「アメリカに行ったら、こういうのは食えないからな。今のうちに食っておこう」
「そうね。多分、アーカンソー研究所のある町は田舎だから、そもそも日本食のレストランすら無いだろうし」
「……だろうな」
敷島の会社を訪ねて来ているアリス。
「HAHAHA.私の要求、全部FAXで送ったわよ」
「俺んとこの会社だからって、タダ回線使いやがって……」
送り先はデイライト本社である。
「それで結局、向こうでは何が起きてるんだ?テロが頻発しているんだとしたら、いくら何でもこっちでもニュースになっているだろう?」
敷島は訝し気に聞いた。
「その前にランチにしない?」
事務室の方から12時のチャイムが鳴った。
これは、事務室内に掛けてある壁時計に仕掛けておいたチャイムである。
社員を十数名雇い入れた敷島。
時間が分かるようにと、その時計を導入した。
事務職には必要かもしれないが、ボカロのマネージャー達はボカロに付いて回っているので、あまり事務所にいない。
ボカロは自分でスケジュール管理ができるとはいえ、さすがに売れっ子にマネージャーを付けないのも問題になってきた。
井辺をプロデューサーとし、マネージャーは別に用意することとなった。
「話の途中だぞ。出前でも取ろう」
敷島は机の上のPCのキーボードを叩き、出前サイトを出した。
「アタシ、鰻重」
「いきなり高いモン頼むな!」
「じゃあ、カツ丼」
「それも高い部類だが……。鰻重よりはマシか。じゃあ、俺も。……俺はソースカツ丼派だ。とんかつソースたっぷりな」
「そうなの?」
「そうだよ」
「邪道」
「トンカツにケチャップ掛けて食うお前に言われたくねぇっ!」
敷島はエンターキーを押して、出前を頼んだ。
「タカオ、財団時代は電話で注文してたのにね」
「あー、そんなこともあったっけ。あの時は出前サイトなんて無かったんじゃなかったっけ?」
敷島は首を傾げた。
「それじゃ、カツ丼が来る前に話の続きだ。今、アメリカでは何が起きてるんだ?」
「何も起きてないわよ」
「は?」
「あのマルチタイプ2機、あれから暴れてないって。だから本社では、研究所が破壊されたことについては、『実験中の事故』ってことにするみたいよ」
「だったら何も問題は無いだろう。少なくとも、俺にとってはな。アルバート所長の独立騒ぎなんて、俺には関係の無いことだ」
「そのアルバートが行方不明になってるのが問題なのよ。マルチタイプ2機も含めてね」
「マルチタイプごと行方不明なのか?」
「そうよ。だから、困るのよ。もし変なことに使われたら大変でしょう?」
「少なくとも、テロ活動に使うことはないと思うぞ。あれだけテロへの憎悪を俺に見せてくれたんだからな」
「犯罪は何もテロだけとは限らないからね」
「銀行強盗でもやるのか?」
「あ、それ近いかも」
「わざわざマルチタイプ使って銀行強盗かよ?こっちなんか、逆に銀行強盗を捕まえたんだぞ。なあ、シンディ?」
「お役に立てて何よりです」
敷島はアリスの後ろに控えているシンディに向かって言った。
普段は敷島の後ろに控えているが、今回はシンディにとって敷島より立場が上のアリスが来ている為である。
シンディと萌が逃走する銀行強盗を捕まえたことについては、マスコミにも取り上げられている。
かつてのテロ用途マルチタイプが、今では正義のロイドに変わったことを伝える内容であった。
「アルバートが独立を企てようとしたのは、会社からの報酬が気に入らなかったんだって」
「そういうのも、契約で予め決めていたんだろう?」
「マルチタイプの製造に成功したものだから、欲をかいて更に増給を要求したって話よ。で、会社も応じようとしたんだけど、その額が気に入らなかったんだって」
「ったって、どうせ研究費は豊富に振り分けられてたんだろ?結構、経費で落とせる部分はあったんじゃないのか?」
「そこんとこは知らないけどね。でも、日本とは文化も違うし」
「んん?」
「なーんかね、テロ組織ではないけど、マフィアに狙われてた部分もあるから、そっちじゃないかって」
「マフィアだぁ?何で?」
「そりゃあ、マルチタイプを抱えたら最強だしね」
「こっちのヤーさんは接触してきてないぞ。むしろシンディを見たら、逃げて行くぞ?」
「あー、それね……」
シンディは、ばつの悪そうな顔をした。
「ウィリアム博士に接触してきたマフィア……暴力団ね。ウィリアム博士に私を売れって迫って来たことがあったの」
「そうなのか」
「もちろん私は非売品ってことで断ったんだけど、今度は強奪しようとしてきて」
「シンディに?最近のヤーさんはロケットランチャーでも持ってるのか?」
「ううん。せいぜい、ハンドガンと猟銃としてのライフルくらい」
「そんなんでシンディを壊せるとでも思ったのかよ。今言ったロケランでも微妙なくらいだぞ」
シンディにではないが、エミリーには実験済みである。
昔、在日米軍の訓練に協力したことがあって、ロケランを放ってもらったことがある。
エミリーはその弾を殴り返した。
但し、その左手は人間の骨折のようにブラブラとなってしまったが、ロケット弾を殴り返すという荒技をやってのけた為、関係者を騒然とさせたという。
エミリーができるのだから、同型のシンディもできるのだろう。
さすがに腕が折れてしまうのだから、そう何度もできる技ではない。
なので、さすがのマルチタイプも、ロケット弾に関しては数発で壊れてしまうのだろう。
「人間なら肉片と化すところ、腕1本で済むんだから、本当に化け物だ」
「姉さんもさすがに懲りたのか、『ロケット弾が飛んで来たら逃げろ』って言ってたわ」
「あ、そうなのか」
[同日12:45.天候:曇 同場所]
薄暗い社長室。
ブラインドは全て下ろされている。
机の上に置かれているスタンドだけが点いていた。
「え?俺、ちゃんと頼んだよ?」
敷島は机の椅子に座らされ、そのスタンドの光を顔に当てられている
「またまたぁ……。いい加減認めたらどうなの?『私のミスです。ごめんなさい』と言えば、お上にも情けはあるのよ」
「いい加減に、吐けーっ!」
シンディが敷島の胸倉を掴み、両目をギラリと光らせる。
「だ、だから、俺は知らんって!」
ブラインドの隙間から窓の外を見ていたアリスが、
「まあまあ、シンディ。タカオ、正直に喋って、カントリー(故郷)のパパやママを安心させてあげようよ」
「俺の両親は、ウィリーのテロで死んでるっての!」
尚、この時はシンディは整備中でおらず、バージョン・シリーズや他のテロ・ロボットによるテロであった。
「てか、一体何なんだこの展開?」
「だって、日本じゃカツ丼はこうして食べるんでしょ?」
机の上には出前で届いたカツ丼が乗っていた。
「思い出した!財団の時もお前、同じギャグやってただろ!?」
「そうだったかしら?」
「そうだよ!とにかく、普通に食え!」
敷島はブラインドを開けて、室内の照明を点けた。
代わりに、スタンドの照明は消す。
「で、アタシは卵とじが良かったんだけど、どうしてソースカツが2つも来たの?アンタの注文ミスでしょ?」
「あー、分かったよ。謝るから、さっさと食おうぜ」
「アタシ、ウスターソースは苦手なのよねー」
「だからケチャップつけてたのかよ。大丈夫だって。これも結構美味いから」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
ウスターソースは醤油並みにさらっとした液体だが、とんかつソースはどろっとしている。
「? このソースは少し不思議な味ね」
「俺もトンカツは中濃以上のソースで食いたいな。この店のソースは特製の特濃ソースを使ってるんだ」
「Hum,Hum...これなら、アタシでも食べられそうね」
「そうか?それならいいんだが……」
但し、どういうわけだが、一緒についてきた味噌汁は即席のものだった。
シンディが使い捨てカップにその味噌汁を入れて持って来た。
あと、ついでにお茶も。
「アメリカに行ったら、こういうのは食えないからな。今のうちに食っておこう」
「そうね。多分、アーカンソー研究所のある町は田舎だから、そもそも日本食のレストランすら無いだろうし」
「……だろうな」