報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「実際には取調室でカツ丼は出ない」

2016-05-10 19:18:26 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月10日12:00.天候:曇 東京都江東区豊洲・豊洲アルカディアビル18F・敷島エージェンシー]

 敷島の会社を訪ねて来ているアリス。
「HAHAHA.私の要求、全部FAXで送ったわよ」
「俺んとこの会社だからって、タダ回線使いやがって……」
 送り先はデイライト本社である。
「それで結局、向こうでは何が起きてるんだ?テロが頻発しているんだとしたら、いくら何でもこっちでもニュースになっているだろう?」
 敷島は訝し気に聞いた。
「その前にランチにしない?」
 事務室の方から12時のチャイムが鳴った。
 これは、事務室内に掛けてある壁時計に仕掛けておいたチャイムである。
 社員を十数名雇い入れた敷島。
 時間が分かるようにと、その時計を導入した。
 事務職には必要かもしれないが、ボカロのマネージャー達はボカロに付いて回っているので、あまり事務所にいない。
 ボカロは自分でスケジュール管理ができるとはいえ、さすがに売れっ子にマネージャーを付けないのも問題になってきた。
 井辺をプロデューサーとし、マネージャーは別に用意することとなった。
「話の途中だぞ。出前でも取ろう」
 敷島は机の上のPCのキーボードを叩き、出前サイトを出した。
「アタシ、鰻重」
「いきなり高いモン頼むな!」
「じゃあ、カツ丼」
「それも高い部類だが……。鰻重よりはマシか。じゃあ、俺も。……俺はソースカツ丼派だ。とんかつソースたっぷりな」
「そうなの?」
「そうだよ」
「邪道」
「トンカツにケチャップ掛けて食うお前に言われたくねぇっ!」
 敷島はエンターキーを押して、出前を頼んだ。
「タカオ、財団時代は電話で注文してたのにね」
「あー、そんなこともあったっけ。あの時は出前サイトなんて無かったんじゃなかったっけ?」
 敷島は首を傾げた。
「それじゃ、カツ丼が来る前に話の続きだ。今、アメリカでは何が起きてるんだ?」
「何も起きてないわよ」
「は?」
「あのマルチタイプ2機、あれから暴れてないって。だから本社では、研究所が破壊されたことについては、『実験中の事故』ってことにするみたいよ」
「だったら何も問題は無いだろう。少なくとも、俺にとってはな。アルバート所長の独立騒ぎなんて、俺には関係の無いことだ」
「そのアルバートが行方不明になってるのが問題なのよ。マルチタイプ2機も含めてね」
「マルチタイプごと行方不明なのか?」
「そうよ。だから、困るのよ。もし変なことに使われたら大変でしょう?」
「少なくとも、テロ活動に使うことはないと思うぞ。あれだけテロへの憎悪を俺に見せてくれたんだからな」
「犯罪は何もテロだけとは限らないからね」
「銀行強盗でもやるのか?」
「あ、それ近いかも」
「わざわざマルチタイプ使って銀行強盗かよ?こっちなんか、逆に銀行強盗を捕まえたんだぞ。なあ、シンディ?」
「お役に立てて何よりです」
 敷島はアリスの後ろに控えているシンディに向かって言った。
 普段は敷島の後ろに控えているが、今回はシンディにとって敷島より立場が上のアリスが来ている為である。
 シンディと萌が逃走する銀行強盗を捕まえたことについては、マスコミにも取り上げられている。
 かつてのテロ用途マルチタイプが、今では正義のロイドに変わったことを伝える内容であった。
「アルバートが独立を企てようとしたのは、会社からの報酬が気に入らなかったんだって」
「そういうのも、契約で予め決めていたんだろう?」
「マルチタイプの製造に成功したものだから、欲をかいて更に増給を要求したって話よ。で、会社も応じようとしたんだけど、その額が気に入らなかったんだって」
「ったって、どうせ研究費は豊富に振り分けられてたんだろ?結構、経費で落とせる部分はあったんじゃないのか?」
「そこんとこは知らないけどね。でも、日本とは文化も違うし」
「んん?」
「なーんかね、テロ組織ではないけど、マフィアに狙われてた部分もあるから、そっちじゃないかって」
「マフィアだぁ?何で?」
「そりゃあ、マルチタイプを抱えたら最強だしね」
「こっちのヤーさんは接触してきてないぞ。むしろシンディを見たら、逃げて行くぞ?」
「あー、それね……」
 シンディは、ばつの悪そうな顔をした。
「ウィリアム博士に接触してきたマフィア……暴力団ね。ウィリアム博士に私を売れって迫って来たことがあったの」
「そうなのか」
「もちろん私は非売品ってことで断ったんだけど、今度は強奪しようとしてきて」
「シンディに?最近のヤーさんはロケットランチャーでも持ってるのか?」
「ううん。せいぜい、ハンドガンと猟銃としてのライフルくらい」
「そんなんでシンディを壊せるとでも思ったのかよ。今言ったロケランでも微妙なくらいだぞ」
 シンディにではないが、エミリーには実験済みである。
 昔、在日米軍の訓練に協力したことがあって、ロケランを放ってもらったことがある。
 エミリーはその弾を殴り返した。
 但し、その左手は人間の骨折のようにブラブラとなってしまったが、ロケット弾を殴り返すという荒技をやってのけた為、関係者を騒然とさせたという。
 エミリーができるのだから、同型のシンディもできるのだろう。
 さすがに腕が折れてしまうのだから、そう何度もできる技ではない。
 なので、さすがのマルチタイプも、ロケット弾に関しては数発で壊れてしまうのだろう。
「人間なら肉片と化すところ、腕1本で済むんだから、本当に化け物だ」
「姉さんもさすがに懲りたのか、『ロケット弾が飛んで来たら逃げろ』って言ってたわ」
「あ、そうなのか」

[同日12:45.天候:曇 同場所]

 薄暗い社長室。
 ブラインドは全て下ろされている。
 机の上に置かれているスタンドだけが点いていた。
「え?俺、ちゃんと頼んだよ?」
 敷島は机の椅子に座らされ、そのスタンドの光を顔に当てられている
「またまたぁ……。いい加減認めたらどうなの?『私のミスです。ごめんなさい』と言えば、お上にも情けはあるのよ」
「いい加減に、吐けーっ!」
 シンディが敷島の胸倉を掴み、両目をギラリと光らせる。
「だ、だから、俺は知らんって!」
 ブラインドの隙間から窓の外を見ていたアリスが、
「まあまあ、シンディ。タカオ、正直に喋って、カントリー(故郷)のパパやママを安心させてあげようよ」
「俺の両親は、ウィリーのテロで死んでるっての!」
 尚、この時はシンディは整備中でおらず、バージョン・シリーズや他のテロ・ロボットによるテロであった。
「てか、一体何なんだこの展開?」
「だって、日本じゃカツ丼はこうして食べるんでしょ?」
 机の上には出前で届いたカツ丼が乗っていた。
「思い出した!財団の時もお前、同じギャグやってただろ!?」
「そうだったかしら?」
「そうだよ!とにかく、普通に食え!」
 敷島はブラインドを開けて、室内の照明を点けた。
 代わりに、スタンドの照明は消す。
「で、アタシは卵とじが良かったんだけど、どうしてソースカツが2つも来たの?アンタの注文ミスでしょ?」
「あー、分かったよ。謝るから、さっさと食おうぜ」
「アタシ、ウスターソースは苦手なのよねー」
「だからケチャップつけてたのかよ。大丈夫だって。これも結構美味いから」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
 ウスターソースは醤油並みにさらっとした液体だが、とんかつソースはどろっとしている。
「? このソースは少し不思議な味ね」
「俺もトンカツは中濃以上のソースで食いたいな。この店のソースは特製の特濃ソースを使ってるんだ」
「Hum,Hum...これなら、アタシでも食べられそうね」
「そうか?それならいいんだが……」
 但し、どういうわけだが、一緒についてきた味噌汁は即席のものだった。
 シンディが使い捨てカップにその味噌汁を入れて持って来た。
 あと、ついでにお茶も。
「アメリカに行ったら、こういうのは食えないからな。今のうちに食っておこう」
「そうね。多分、アーカンソー研究所のある町は田舎だから、そもそも日本食のレストランすら無いだろうし」
「……だろうな」
コメント (3)
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“Gynoid Multitype Cindy” 「アメリカへ向かう準備」

2016-05-10 08:57:38 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月9日14:00.天候:雨 東京都江東区豊洲・豊洲アルカディアビル18F・敷島エージェンシー]

 降りしきる雨の中、敷島は傘を閉じてビルの中に入った。
 閉じた傘はシンディに渡す。
 そしてエレベーターで、18Fまで上がった。
「社長、お帰りなさい」
 事務所で待機していたKAITOが出迎えた。
「ああ、ただいま。パスポートの更新に、こんなに時間が掛かるとは思わなかったよ」
「社長はともかく、シンディなどはどうするおつもりですか?」
「さすがに、銃火器装備した奴を乗せるわけにはいかないからなぁ……。とはいえ、向こうの警察の要請なんだから、インターポールさん辺りが何とかしてくれるんじゃないの?」
「ご出発はいつですか?」
「分からん。何しろ、俺だけが行くわけじゃないしな。向こうさんとしては、シンディの他にエミリーも御指名だ。ますます、まず日本から出すのに苦労するよ」
「そうですよねぇ……」
「まあ、DHLかフェデックス辺りに乗せてだな……。アルエットやゆかりもそれで輸送したわけだからな」
「そうなるかしらね」
 シンディも頷いた。
 ただ、当然のことながら、電源を切った状態で輸送する。
 そこをKR団に狙われた前例があるので、敷島としてはあまりその手法には賛同できなかった。
「国外持ち出しの手続きとかしなきゃいけないし、別の意味で大変だ」
「まだ電車やバスなら自由に乗れるのにねぇ……」
「日本の陸路には、そんな手続きは無いからな」
「確かに……」
 と、その時、
「社長。警視庁の鷲田警視からお電話です」
 事務室にいる一海が言った。
「またかよ」
 敷島は社長室に入ると、机の電話を取った。
「はい、もしもし。敷島です」
{「あー、多忙のところ申し訳無い。件のアメリカ行きのことで、1つ情報が入った」}
「何ですか?」
{「参加人数の多少に関わらず、私らを含め、キミ達は民間の旅客機で飛んでもらう。先方さん御指名の美人兵器は、貨物輸送サービスで輸送することになる」}
「JALならJALカーゴ、ANAならANAカーゴといったところですか?」
{「そんなところだ」}
 大きく頷く鷲田警視。
{「キミはキミで、そういった手続きを行ってほしい。詳しいことは、また後ほどだ」}
「分かりました」
 電話を切る敷島。
「飛行機の中だからしょうがないが、護衛がいないというのもアレだな」
「そうねぇ。何かあったら、自動で電源がONになるようなシステムでも、ドクターに作ってもらう?」
「それだ!アリスに頼んでみよう」
 敷島は電話を掛けた。
「あー、もしもし。アリスか?実は頼みがあるんだ」

[同日18:00.天候:曇 敷島エージェンシー]

「今日も、お疲れさまでした。明日も皆さんを必要としている人達がいます。その人達の為にも、明日もよろしくお願いします」
 井辺はボーカロイド達と終礼を行っていた。
「はーい。リン、頑張るねー!」
「ボクもです!」
「頼もしい言葉です」
 井辺が大きく頷くと、ボーカロイド達が事務所奥のボーカロイド居住区に戻って行く。
 ビルの図面上は倉庫扱いになっているのだが、そこに『住んでいる』。
「そういえば……」
 敷島がリン達の後ろ姿を見ている時、ふと思い出したことがあった。
「どうしました、社長?」
「アルバート所長はボーカロイドには関心を示さなかったんだが、リンとレンには関心を示したんだ」
「そうなんですか。それはまたどういった理由で?」
「双子だかららしい」
「双子?」
「アルバート所長が開発したマルチタイプも、姉弟双子だから、少し関心があったのかな」
「設定次第で、動きを寸分違わぬ、同じくすることが可能ですからね。これが初音さんや他のボーカロイドとなると、動きを同じ設定にしても、仕様が違うせいで、少しズレますからね」
「うん」

[5月10日11:00.天候:曇 敷島エージェンシー]

 珍しく今日は事務所にアリスが訪ねて来た。
「珍しいな。キミの方から訪ねてくるなんて……」
「新事務所オープンのセレモニー以来かしら?」
「まあ、そうだな」
 シンディ、すぐに紅茶とコーヒーを持って来る。
「社長秘書やらせてるんだから、もっとスーツとか着せてあげたら?」
「普段はそれでいいの。ケブラー材をふんだんに織り込んだ素材で、防弾・防刃に優れている。いくらシンディが頑丈とはいえ、更にその上から強化する必要があるからな」
「用心深いのね」
「『不死身の敷島』とか『テロリスト泣かせの男』とか言われてるが、それだけ用心深いってことでもあるんだぞ」
「というより、ムチャぶりが人外並みだから泣かれてるんでしょ?」
「ん、そうか?」
「そうだよ!」
 ブラジルで発生した極左ゲリラのテロ事件で、敷島はメンバーの1人を拘束し、日本に拉致したことがある。
 この時既に現地の治安部隊が突入し、その組織のメンバーはほとんどが射殺されたということから、むしろそれで命拾いしたとも言えなくもない。
 鷲田が捜査協力を求める敷島に対し、常に上から目線なのは、そういったことも理由である。
「アメリカでも、何かやらかしそうね」
「向こうの警察は、それに期待して俺も呼んでるんだろ?」
「かもね」
 表向きにはエミリーやシンディを制御できる人も来て欲しいという旨で、けして敷島本人を名指ししているわけではないが、両方1度に制御できるのは敷島だけである。
 平賀はエミリーの言う事を聞かせることは可能だが、シンディはアリスの意向に背く命令はけして聞かない。
 アリスはエミリーのユーザーにもオーナーにも登録された履歴が無いため、そこはアリスよりも敷島の言う事を優先することがある。
 よって、敷島が最も適任ということらしい。
「『エコノミークラスなら行かねーよw』って言っておいたw」
「甘いね、タカオ」
「あ?『エコノミークラスでもいいから、ホテルは星ついてるヤツにしてくれよ?』の方が良かったか?」
「No,no.違う違う。『ファーストクラスにしてよ』って言うの!」
「直接ガチで言うのかよ。これだからアメリカ人は……」
「日本人が甘過ぎるだけよ。はい、これ」
 アリスが書類を出した。
 全て英文で書かれている。
「これまた読みにくいもの持って来たな。デイライトさんか向こうの治安警察が持って来た書類か?」
「違うわよ。これから、こっちから向こうに送る書類よ」
「何だ何だ?」
 敷島は何とか読める英文を読んでみた。
 で、半分くらいで読むのをやめた。
 別に、敷島が完全な英語力を持っているわけではないからではない。
 アリスが作成した、『契約書』であった。
 つまり、これからアメリカに行くに当たって、向こうに求めるサポートから成功報酬についてまで事細かく書き、それを要求するというもの。
「いいのか?」
「いいのよ。これから送るから」
「さすがはアメリカは契約社会だな」
 敷島は半ば呆れた。
 そういえばアリスがデイライト・コーポレーションに入るに辺り、分厚い労働契約書に目を通してサインしていたのを見たことがあるような気がする。
 アリスに言わせれば、『それでも日本は甘い』とのこと。
 外資系であるが、日本法人は日本の慣習に合わせている所もあるからだろう。
「アリス的にはアメリカに飛ぶこと自体は、契約違反にならないのか?」
「それは大丈夫。『本社並びに他国法人より、非常事態が発生し、その解決の為の協力要請があった場合は出来る限りの協力をする。その際、サポートや成功報酬について、自由に交渉可』ってあるの」
「それでこれか!」
 敷島は目を見開いた。
(俺んとこの営業エリア、日本で良かった)
 と、思った。
(飛行機は往復ファーストクラスとか、宿泊先は三ツ星ホテルとかはムリっぽそうだがな)
 とも思った。
 ってか、しっかり書いたんかい!
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