[5月8日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区・DCJロボット未来科学館]
「で、一体何だってんだよ?」
敷島はアメリカ人妻、アリスが働いているデイライト・コーポレーション・ジャパンが運営する科学館へやってきた。
アメリカ本体の幹部社員が、自分の研究成果を持ち出して独立してしまった。
独立された方はたまったものではないだろうが、少なくとも敷島の会社に影響は無さそうだった。
「アルバート所長は確かに冷たい人物ではあるが、ロボット・テロを許さない正義感みたいなものはあった。それがどうして、ガチなテロ組織KR団の再来だって言うんだよ?」
「足元をすくわれたみたいだね」
アリスは腕組みをして鼻を鳴らした。
「は?」
「これを見てみて」
敷島は会議室内にあるDVDプレイヤーで、とあるDVDを見せられた。
それはアルバートのプレゼンテーション。
自分の研究成果を発表する場のはずが、途中からKR団の批判になっていた。
〔「……今、先進国においては人口減が問題化している。国によっては深刻化の一途を辿っている。だが、私は安易な移民政策には断固反対する」〕
「アメリカなんて移民の国じゃないか。それが移民を批判するのか?」
敷島は訝し気にアリスを見た。
「そういう考えを持つ者もいるの。特に、南部ではメキシコからのヒスパニックとかは歓迎されていない感はあるね」
〔「……では、労働力の代わりとして何が必要か。それはロボットである。……」〕
「まあ、そうだな」
「シッ!」
〔「……しかるにKR団は、『ロボット化を進めて行けば、いずれロボットが人類を脅かす事態を引き起こす。そうなってからでは遅い。だから、断固として反対する』と、テロ活動を行っていたが、それは愚の骨頂である。SF映画の見過ぎである。仮に映画のような事態が引き起こされるのだとしたら、それは制御に失敗した人間の責任である。私はそんな失敗は犯さない。私の製造したマルチタイプは、二重三重の制御が掛かっており、良き人類のパートナーとなってくれるであろう」〕
「……別に、悪い事は言ってないと思うけど?」
「そう思うでしょ?次の映像を見て」
アリスは映像を切り替えた。
「!!!」
そこに映っていたのは、信じられないものだった。
暴れ回って、研究所を破壊するマルチタイプ達の姿だった。
「極秘映像よ」
「な、何だァ!?所長、自分で失敗しないとか言って、失敗してんじゃんよー!?」
「制御に失敗したんじゃないの」
「は?」
「これは、アーノルドが仕組んだことよ」
「いや、ちょっと待って!あれだけテロを憎んでる人がだよ!?あんなテロ行為……」
「私も理解しがたい人物だとは思っていたけど、事実は事実だからね」
「ど、どうするんだよ?」
「シンディ。あいつらと戦って勝てる自信ある?」
アリスは腕組みして、険しい顔をするシンディに振った。
「ご命令があれば、そのように致します」
「では命令……」
「ちょっと待て!シンディの投入はまだ早い!」
「どうして?既に新型マルチタイプがテロ行為を行っているのよ?」
「段階というものがある!」
「だったら、エミリーも投入しようかしら?」
「デイライトさん直営の警備会社が対応するんだろ!?」
「……人間のセキュリティがマルチタイプに勝てると思う?」
「そ、そりゃあ……!でも、警備員がダメなら警察、警察がダメなら軍隊……」
「会社が潰れちゃうわ、そんなことしたら」
「いや、しかしだな!」
「まあ、待ちなさい待ちなさい」
そこへ西山館長が入って来た。
「アメリカからの情報がまだ少ない。もっと詳細な情報が入ってからの方がいいだろう。アルバート氏自身に何かあったのかもしれないしな」
「どういうことですか?」
と、敷島。
「実はこの映像が公開されてから、アルバート氏の居場所が分からなくなっているんだよ」
「そりゃ、こんな犯罪行為やったら、雲隠れするに決まってるでしょ、ボス?」
アリスが眉を潜めて上司に言った。
「これはまだ裏が取れていないから黙っていたが、彼はどうやら前々から独立自体は考えていたようなんだ」
「えっ?」
「あれだけ優秀なマルチタイプを作っておきながら、会社からの報酬が少ないことに不満を持っていたという噂がある。マルチタイプが既にテロ対策ロボットとして、十分な機能を果たしていることは証明されたわけだから、彼らを抱えて独立しようと考えたことは想像に難くない」
「確かに……」
「会社がそんなこと許すわけないでしょう?」
と、アリス。
「だからこそ、情報が少ないのかもしれない。実は、会社とアルバート氏がモメたことも想像できるよね」
「ふーむ……。だからって、あのテロ行為は無いよなぁ……」
「アルバート本人か、あのマルチタイプの1機でも捕まえることができればね、何とか事情を聞くことができるんだけど……」
「アルバート所長本人は生身の人間だからいいけど、マルチタイプは難しいぞ?」
「だから、そこをシンディに頑張ってもらうのよ」
「任せてください」
シンディは大きく頷いた。
「まあ、まずはアメリカ側からの情報を待つとしよう。日本側も、本社が情報収集しているとのことだ」
西山は右手を挙げて言った。
「そもそも、アルバート所長の開発したマルチタイプとはどんな奴らなんですか?」
「後で資料を持ってきますよ。本来はまだ極秘内容ですが、さすがに今となってはそうも言ってられんでしょう」
「シンディみたいなヤツが2機もいるのか……。確かにこりゃ、エミリーも呼ばんといけないかもな。……ってか、姉弟の結束が強いマルチタイプなら、シンディが一喝すりゃおとなしくなるんじゃないのか?」
「あー、なるほど」
シンディはポンと手を叩いた。
「だけどアタシの通信じゃ、海外まで電波が届かないよ?」
「スカイツリーのてっぺんからなら大丈夫か?」
「そういう問題じゃないでしょ」
「とにかく、資料を持ってきますから」
会議室のテレビで衛星放送が見られる。
それでアメリカのニュースを見たが、どういうわけだかデイライト・コーポレーションのことは報道されていなかった。
ネットのニュース検索をしてみたが、ようやくアーカンソー研究所で実験中に事故があったということくらいであった。
実験中にロボットが暴れ出し、研究施設に損害が出たとのこと。
ただ、それだけであった。
「どうも、よく分からないな……」
デイライト・コーポレーションが、事件のもみ消しでも図っているのだろうか。
それくらい勘繰りたくなる内容であった。
(アルバート所長の独立なんてどうでもいい話だが、マルチタイプがテロ行為となると、聞き捨てならないな……)
と、敷島は思った。
シンディは同型の姉機、エミリーとも連絡を取った。
エミリーは初耳だったらしいが、さすがに異国の地とはいえ、自分達がモデルの後継機がテロ行為を行うということ自体は許せないと言っていた。
「お待たせしました」
西山館長が会議室に、資料を持って来る。
「本当は敷島社長など、外部の人にはまだ見せられない代物なので、内密でお願いしますよ」
「分かりました」
敷島とアリスは、資料を覗き込んだ。
そこにあったのは……。
「で、一体何だってんだよ?」
敷島はアメリカ人妻、アリスが働いているデイライト・コーポレーション・ジャパンが運営する科学館へやってきた。
アメリカ本体の幹部社員が、自分の研究成果を持ち出して独立してしまった。
独立された方はたまったものではないだろうが、少なくとも敷島の会社に影響は無さそうだった。
「アルバート所長は確かに冷たい人物ではあるが、ロボット・テロを許さない正義感みたいなものはあった。それがどうして、ガチなテロ組織KR団の再来だって言うんだよ?」
「足元をすくわれたみたいだね」
アリスは腕組みをして鼻を鳴らした。
「は?」
「これを見てみて」
敷島は会議室内にあるDVDプレイヤーで、とあるDVDを見せられた。
それはアルバートのプレゼンテーション。
自分の研究成果を発表する場のはずが、途中からKR団の批判になっていた。
〔「……今、先進国においては人口減が問題化している。国によっては深刻化の一途を辿っている。だが、私は安易な移民政策には断固反対する」〕
「アメリカなんて移民の国じゃないか。それが移民を批判するのか?」
敷島は訝し気にアリスを見た。
「そういう考えを持つ者もいるの。特に、南部ではメキシコからのヒスパニックとかは歓迎されていない感はあるね」
〔「……では、労働力の代わりとして何が必要か。それはロボットである。……」〕
「まあ、そうだな」
「シッ!」
〔「……しかるにKR団は、『ロボット化を進めて行けば、いずれロボットが人類を脅かす事態を引き起こす。そうなってからでは遅い。だから、断固として反対する』と、テロ活動を行っていたが、それは愚の骨頂である。SF映画の見過ぎである。仮に映画のような事態が引き起こされるのだとしたら、それは制御に失敗した人間の責任である。私はそんな失敗は犯さない。私の製造したマルチタイプは、二重三重の制御が掛かっており、良き人類のパートナーとなってくれるであろう」〕
「……別に、悪い事は言ってないと思うけど?」
「そう思うでしょ?次の映像を見て」
アリスは映像を切り替えた。
「!!!」
そこに映っていたのは、信じられないものだった。
暴れ回って、研究所を破壊するマルチタイプ達の姿だった。
「極秘映像よ」
「な、何だァ!?所長、自分で失敗しないとか言って、失敗してんじゃんよー!?」
「制御に失敗したんじゃないの」
「は?」
「これは、アーノルドが仕組んだことよ」
「いや、ちょっと待って!あれだけテロを憎んでる人がだよ!?あんなテロ行為……」
「私も理解しがたい人物だとは思っていたけど、事実は事実だからね」
「ど、どうするんだよ?」
「シンディ。あいつらと戦って勝てる自信ある?」
アリスは腕組みして、険しい顔をするシンディに振った。
「ご命令があれば、そのように致します」
「では命令……」
「ちょっと待て!シンディの投入はまだ早い!」
「どうして?既に新型マルチタイプがテロ行為を行っているのよ?」
「段階というものがある!」
「だったら、エミリーも投入しようかしら?」
「デイライトさん直営の警備会社が対応するんだろ!?」
「……人間のセキュリティがマルチタイプに勝てると思う?」
「そ、そりゃあ……!でも、警備員がダメなら警察、警察がダメなら軍隊……」
「会社が潰れちゃうわ、そんなことしたら」
「いや、しかしだな!」
「まあ、待ちなさい待ちなさい」
そこへ西山館長が入って来た。
「アメリカからの情報がまだ少ない。もっと詳細な情報が入ってからの方がいいだろう。アルバート氏自身に何かあったのかもしれないしな」
「どういうことですか?」
と、敷島。
「実はこの映像が公開されてから、アルバート氏の居場所が分からなくなっているんだよ」
「そりゃ、こんな犯罪行為やったら、雲隠れするに決まってるでしょ、ボス?」
アリスが眉を潜めて上司に言った。
「これはまだ裏が取れていないから黙っていたが、彼はどうやら前々から独立自体は考えていたようなんだ」
「えっ?」
「あれだけ優秀なマルチタイプを作っておきながら、会社からの報酬が少ないことに不満を持っていたという噂がある。マルチタイプが既にテロ対策ロボットとして、十分な機能を果たしていることは証明されたわけだから、彼らを抱えて独立しようと考えたことは想像に難くない」
「確かに……」
「会社がそんなこと許すわけないでしょう?」
と、アリス。
「だからこそ、情報が少ないのかもしれない。実は、会社とアルバート氏がモメたことも想像できるよね」
「ふーむ……。だからって、あのテロ行為は無いよなぁ……」
「アルバート本人か、あのマルチタイプの1機でも捕まえることができればね、何とか事情を聞くことができるんだけど……」
「アルバート所長本人は生身の人間だからいいけど、マルチタイプは難しいぞ?」
「だから、そこをシンディに頑張ってもらうのよ」
「任せてください」
シンディは大きく頷いた。
「まあ、まずはアメリカ側からの情報を待つとしよう。日本側も、本社が情報収集しているとのことだ」
西山は右手を挙げて言った。
「そもそも、アルバート所長の開発したマルチタイプとはどんな奴らなんですか?」
「後で資料を持ってきますよ。本来はまだ極秘内容ですが、さすがに今となってはそうも言ってられんでしょう」
「シンディみたいなヤツが2機もいるのか……。確かにこりゃ、エミリーも呼ばんといけないかもな。……ってか、姉弟の結束が強いマルチタイプなら、シンディが一喝すりゃおとなしくなるんじゃないのか?」
「あー、なるほど」
シンディはポンと手を叩いた。
「だけどアタシの通信じゃ、海外まで電波が届かないよ?」
「スカイツリーのてっぺんからなら大丈夫か?」
「そういう問題じゃないでしょ」
「とにかく、資料を持ってきますから」
会議室のテレビで衛星放送が見られる。
それでアメリカのニュースを見たが、どういうわけだかデイライト・コーポレーションのことは報道されていなかった。
ネットのニュース検索をしてみたが、ようやくアーカンソー研究所で実験中に事故があったということくらいであった。
実験中にロボットが暴れ出し、研究施設に損害が出たとのこと。
ただ、それだけであった。
「どうも、よく分からないな……」
デイライト・コーポレーションが、事件のもみ消しでも図っているのだろうか。
それくらい勘繰りたくなる内容であった。
(アルバート所長の独立なんてどうでもいい話だが、マルチタイプがテロ行為となると、聞き捨てならないな……)
と、敷島は思った。
シンディは同型の姉機、エミリーとも連絡を取った。
エミリーは初耳だったらしいが、さすがに異国の地とはいえ、自分達がモデルの後継機がテロ行為を行うということ自体は許せないと言っていた。
「お待たせしました」
西山館長が会議室に、資料を持って来る。
「本当は敷島社長など、外部の人にはまだ見せられない代物なので、内密でお願いしますよ」
「分かりました」
敷島とアリスは、資料を覗き込んだ。
そこにあったのは……。