報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「対岸の火事が見えるとは限らない」

2016-05-06 22:05:49 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月8日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区・DCJロボット未来科学館]

「で、一体何だってんだよ?」
 敷島はアメリカ人妻、アリスが働いているデイライト・コーポレーション・ジャパンが運営する科学館へやってきた。
 アメリカ本体の幹部社員が、自分の研究成果を持ち出して独立してしまった。
 独立された方はたまったものではないだろうが、少なくとも敷島の会社に影響は無さそうだった。
「アルバート所長は確かに冷たい人物ではあるが、ロボット・テロを許さない正義感みたいなものはあった。それがどうして、ガチなテロ組織KR団の再来だって言うんだよ?」
「足元をすくわれたみたいだね」
 アリスは腕組みをして鼻を鳴らした。
「は?」
「これを見てみて」
 敷島は会議室内にあるDVDプレイヤーで、とあるDVDを見せられた。
 それはアルバートのプレゼンテーション。
 自分の研究成果を発表する場のはずが、途中からKR団の批判になっていた。

〔「……今、先進国においては人口減が問題化している。国によっては深刻化の一途を辿っている。だが、私は安易な移民政策には断固反対する」〕

「アメリカなんて移民の国じゃないか。それが移民を批判するのか?」
 敷島は訝し気にアリスを見た。
「そういう考えを持つ者もいるの。特に、南部ではメキシコからのヒスパニックとかは歓迎されていない感はあるね」

〔「……では、労働力の代わりとして何が必要か。それはロボットである。……」〕

「まあ、そうだな」
「シッ!」

〔「……しかるにKR団は、『ロボット化を進めて行けば、いずれロボットが人類を脅かす事態を引き起こす。そうなってからでは遅い。だから、断固として反対する』と、テロ活動を行っていたが、それは愚の骨頂である。SF映画の見過ぎである。仮に映画のような事態が引き起こされるのだとしたら、それは制御に失敗した人間の責任である。私はそんな失敗は犯さない。私の製造したマルチタイプは、二重三重の制御が掛かっており、良き人類のパートナーとなってくれるであろう」〕

「……別に、悪い事は言ってないと思うけど?」
「そう思うでしょ?次の映像を見て」
 アリスは映像を切り替えた。
「!!!」
 そこに映っていたのは、信じられないものだった。
 暴れ回って、研究所を破壊するマルチタイプ達の姿だった。
「極秘映像よ」
「な、何だァ!?所長、自分で失敗しないとか言って、失敗してんじゃんよー!?」
「制御に失敗したんじゃないの」
「は?」
「これは、アーノルドが仕組んだことよ」
「いや、ちょっと待って!あれだけテロを憎んでる人がだよ!?あんなテロ行為……」
「私も理解しがたい人物だとは思っていたけど、事実は事実だからね」
「ど、どうするんだよ?」
「シンディ。あいつらと戦って勝てる自信ある?」
 アリスは腕組みして、険しい顔をするシンディに振った。
「ご命令があれば、そのように致します」
「では命令……」
「ちょっと待て!シンディの投入はまだ早い!」
「どうして?既に新型マルチタイプがテロ行為を行っているのよ?」
「段階というものがある!」
「だったら、エミリーも投入しようかしら?」
「デイライトさん直営の警備会社が対応するんだろ!?」
「……人間のセキュリティがマルチタイプに勝てると思う?」
「そ、そりゃあ……!でも、警備員がダメなら警察、警察がダメなら軍隊……」
「会社が潰れちゃうわ、そんなことしたら」
「いや、しかしだな!」
「まあ、待ちなさい待ちなさい」
 そこへ西山館長が入って来た。
「アメリカからの情報がまだ少ない。もっと詳細な情報が入ってからの方がいいだろう。アルバート氏自身に何かあったのかもしれないしな」
「どういうことですか?」
 と、敷島。
「実はこの映像が公開されてから、アルバート氏の居場所が分からなくなっているんだよ」
「そりゃ、こんな犯罪行為やったら、雲隠れするに決まってるでしょ、ボス?」
 アリスが眉を潜めて上司に言った。
「これはまだ裏が取れていないから黙っていたが、彼はどうやら前々から独立自体は考えていたようなんだ」
「えっ?」
「あれだけ優秀なマルチタイプを作っておきながら、会社からの報酬が少ないことに不満を持っていたという噂がある。マルチタイプが既にテロ対策ロボットとして、十分な機能を果たしていることは証明されたわけだから、彼らを抱えて独立しようと考えたことは想像に難くない」
「確かに……」
「会社がそんなこと許すわけないでしょう?」
 と、アリス。
「だからこそ、情報が少ないのかもしれない。実は、会社とアルバート氏がモメたことも想像できるよね」
「ふーむ……。だからって、あのテロ行為は無いよなぁ……」
「アルバート本人か、あのマルチタイプの1機でも捕まえることができればね、何とか事情を聞くことができるんだけど……」
「アルバート所長本人は生身の人間だからいいけど、マルチタイプは難しいぞ?」
「だから、そこをシンディに頑張ってもらうのよ」
「任せてください」
 シンディは大きく頷いた。
「まあ、まずはアメリカ側からの情報を待つとしよう。日本側も、本社が情報収集しているとのことだ」
 西山は右手を挙げて言った。
「そもそも、アルバート所長の開発したマルチタイプとはどんな奴らなんですか?」
「後で資料を持ってきますよ。本来はまだ極秘内容ですが、さすがに今となってはそうも言ってられんでしょう」
「シンディみたいなヤツが2機もいるのか……。確かにこりゃ、エミリーも呼ばんといけないかもな。……ってか、姉弟の結束が強いマルチタイプなら、シンディが一喝すりゃおとなしくなるんじゃないのか?」
「あー、なるほど」
 シンディはポンと手を叩いた。
「だけどアタシの通信じゃ、海外まで電波が届かないよ?」
「スカイツリーのてっぺんからなら大丈夫か?」
「そういう問題じゃないでしょ」
「とにかく、資料を持ってきますから」

 会議室のテレビで衛星放送が見られる。
 それでアメリカのニュースを見たが、どういうわけだかデイライト・コーポレーションのことは報道されていなかった。
 ネットのニュース検索をしてみたが、ようやくアーカンソー研究所で実験中に事故があったということくらいであった。
 実験中にロボットが暴れ出し、研究施設に損害が出たとのこと。
 ただ、それだけであった。
「どうも、よく分からないな……」
 デイライト・コーポレーションが、事件のもみ消しでも図っているのだろうか。
 それくらい勘繰りたくなる内容であった。
(アルバート所長の独立なんてどうでもいい話だが、マルチタイプがテロ行為となると、聞き捨てならないな……)
 と、敷島は思った。
 シンディは同型の姉機、エミリーとも連絡を取った。
 エミリーは初耳だったらしいが、さすがに異国の地とはいえ、自分達がモデルの後継機がテロ行為を行うということ自体は許せないと言っていた。
「お待たせしました」
 西山館長が会議室に、資料を持って来る。
「本当は敷島社長など、外部の人にはまだ見せられない代物なので、内密でお願いしますよ」
「分かりました」
 敷島とアリスは、資料を覗き込んだ。

 そこにあったのは……。
コメント (4)
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“Gynoid Multitype Cindy” 「対岸の火事」

2016-05-06 14:15:55 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月7日11:00.天候:雨 東京都江東区豊洲・豊洲アルカディアビル18F・敷島エージェンシー]

 ビルの正面エントランスから入って来た男2人。
 どちらもスーツを着用しているが、どちらも30代半ばから後半くらいの年齢である。
 その2人を出迎えるのはシンディ。
「都議会議員の勝又先生でございますね?」
「はい、そうですが……」
「お待ちしておりました。私、敷島エージェンシー社長、敷島の秘書を務めさせて頂いておりますシンディ・サードと申します。お迎えに上がりました」
「なるほど。あなたが噂の……。確かに、まるで人間のようだ」
「どうぞ。ご案内致します」
 シンディはエレベーターに勝又という名の若手議員と、その秘書を乗せた。

「やあ、どうもどうも。お久しぶりですなー」
 議員が来たというのに、結構フレンドリーな敷島。
 それもそのはず。
 この勝又議員は、敷島の大学の同級生だからである。
「シンディ。コーヒーを出してあげて」
「かしこまりました」
 敷島と勝又はソファに向かい合って座った。
「まさか、敷島君が会社を経営するなんて思ってもみなかったよ」
「勝又君も偉い地位に就いたね」
 敷島の言葉に勝又がフッと笑って、
「本来ならこのバッジ、キミのだよ」
 と言った。
 実は東京決戦の後で、敷島が都営バスを無断拝借してバージョン・シリーズの軍団に突っ込んで行ったことや、ウィリーのビルを崩壊させて大手町周辺に多大な被害を出したことに対し、都議会議員になって弁償するみたいな発言をしていたことがあった。
 大手町のことは全部ウィリーのせいにできたが、都営バスについては何とも誤魔化しようが無かったため、その後、敷島は東京都にバス1台を新車で弁償している。
 実は今回、勝又が来たのは、敷島が更にあの時のお詫びとして、東京都交通局にまたバスを1台寄付したことから始まっていた。
 バージョン4.0の鉄塊を何体か分、業者に売り払えば、それなりの額になるものだ。
「私が都議会議員になったら、東京都が【お察しください】だよ」
「でも、今は埼玉に住んでるんだって?」
「アリス……うちの奥さんが埼玉で働いてるものだからね、そっちに合わせた」
「そうなのか」
「勝又先生のおかげで、東京決戦の時は助かりましたよ」
「さすがに都バスは弁償してもらったけどね。本来なら、無断拝借して全損させたんだから、刑事罰モノだよ?」
「反省しています……」
「まあ、そのおかげで、テロ・ロボット達を怯ませることはできたってことだけど……」
「今度は“エアポート・リムジン”で突っ込んでみようかとォ……」
「本当に反省しているのかい?」
 シンディはコーヒーをテーブルの上に起きながら、
(この社長なら、やりかねないわねぇ……)
 と、思った。
「で、親父さんの会社の経営を引き継ぐのはやめて、都議会議員になったと」
 と、敷島。
 つまりは、勝又が『社長』になっているはずだった。
「弟がいたから、弟にやってもらうことにしたよ」
 勝又はコーヒーを啜りながら答えた。
「それより、東京決戦なんてカッコいい四字熟語を使っているけど、実態はロボット・テロを許してしまった恥部であることに変わりは無い。2度とあんな事件は起きて欲しくないんだ」
「同感だね。その意気で都議になったんだ。偉いよ」
「それより、彼女だね?キミが『倒した』ロボットというのは?」
 勝又は敷島の後ろを控えているシンディを見た。
「倒したわけじゃないけどさ。今は違うボディを使っているし、プログラムも大幅に変えているから、もう彼女に人殺しはさせないよ」
「使えるものは敵の兵力をも使う。学生の頃から、キミはそんなタイプだったかな」
「無節操と言われりゃそうかもしれないけど、でも実際それで成功しちゃってるわけだからね。しょうがないよ」
「ふむ……」
「それで、勝又先生としては、シンディ……マルチタイプをどのように使えるとお考えで?」
「やっぱり東京の守りとして……。昔、そんなアニメがあったような気がするけど、それを実用化すること自体は悪くないと思う。警視庁にでも導入させれば、かなり頼もしい存在になるんじゃないかな」
「それだったら、まず警視庁から改革してもらいませんと」
「?」
「ロボットがお嫌いのキャリア組がいるみたいなんで、そっちから何とかしてもらいませんとなー」
「ええっ?そんな人がいるのかい?」
(鷲田警視のことか……)
 シンディは該当人物をメモリーからダウンロードした。

 敷島と勝又との対談が終わり、敷島はビルの出口まで見送った。
「それじゃまた」
「ええ。ありがとうございました」
 タクシーに乗り込んだ議員と秘書を見送り、敷島達はまたビル内に戻る。
「あの勝又先生は、頼りになるの?」
 エレベーターホールに向かうまでの間、シンディが敷島に聞いた。
「いわゆる『若手議員』ってヤツだからな、ちょっと分かんないな。ただ、東京決戦後のゴタゴタを何とかしてくれたことは事実だよ。もしかしたら、表立ってはいないけど、勝又君……先生を更に背後から支えるベテラン議員さんがいるのかもしれないな」
「なるほどね」

 エレベーターでまた18Fに上がり、社長室に戻ろうとする。
 すると、事務室から一海が顔を出した。
「あ、社長。奥様からお電話がありましたよ」
「アリスから?何だよ。会社に電話してくるんじゃないよ。俺のスマホに……って、あれ?……ああ。机の上に置きっぱだった」
「後で怒られるわよォ」
「うるさいな」
 社長室に入ってスマホを見ると、確かにアリスから着信が入っていた。
 勝又議員を見送っている最中に来たらしい。
「ああ、悪い悪い。VIPを見送ってたんだよ。で、なに?……ああ、アメリカのアルバート所長ね。覚えてるって。それがどうしたんだ?……は?会社を飛び出した?」
 敷島は椅子に座りながら怪訝な顔をした。
「会社を飛び出したって、それ何?会社を辞めたってこと?……独立でもするのか?日本でもそうだが、アメリカならもっと『よくあること』だろう?」
{「バカ!そうじゃないのよ!あの男、自分が作ったロイドやそのデータまで全部かっさらって出ていったのよ!?」}
「えーと……。で、アリスとしては……デイライトさんとしては、どのような危機意識を持っているんだ?」
 この時点では、敷島エージェンシーには何の関係も無いので、敷島には他人事であった。
 確かに会社の大幹部が退職するだけでなく、更に独立したとあれば大事かもしれない。
 しかしそれはアメリカ本体の話であって、日本法人には何の影響があるのだろうか。
{「新たなKR団が立ち上がるかもしれない……!」}
「おい、それマジか!?またバスでロボット軍団に立ち向かうのは勘弁だぜ!?」
{「今度からトラックで突っ込みなさい!アメリカ側も独自のシークレット・サービスを使って、更なる調査をしているから!」}
「独自のシークレット・サービス?ああ、デイライトさんのアメリカ本体には独自の調査部門があるんだったか。後の祭りになってから右往左往するようじゃ、失礼な話だけど、大した部門じゃなさそうだな。……ま、情報ありがとう。対岸の火事で済んでくれることを祈るよ。それじゃ」
 敷島は電話を切った。
「何の電話?」
「大したことは無いさ。アメリカではよくある話で、勝手に大騒ぎしているだけの話さ。こっちはこっちで、粛々とこっちの業務を進めるだけだ」
「そう」

 対岸の火事で済むような話であるなら、どうしてわざわざアリスが電話してきたのか。
 そこが、敷島の抜けている点である。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「東京は曇り」

2016-05-06 10:57:52 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月6日15:00.天候:曇 東京都江東区豊洲・豊洲アルカディアビル18F・敷島エージェンシー]

 敷島は社長室で雑誌の取材を受けていた。
「私も最初は、ロボットにエンターテイメントなんかできるのかという疑問はありましたね。ですが、最初はミク……初音ミクしかいなかったわけですけども(※)、彼女と接して行くうちに、もしかしたらというのがありました。そのカンは当たっていたということが、今証明されているわけです」

 ※初音ミクよりMEIKOとKAITOの方が製造時期は早いが、ボーカロイドとしての稼働は初音ミクの方が早いという設定。

「なるほど。JARA財団解散後、ボーカロイド専門の芸能事務所を立ち上げようと思われたのも、当然の結果だというわけですね」
「はい、そうです。それまでは財団主導で行われていたボカロのアイドル活動ですが、財団崩壊に伴い、それが一切できなくなる恐れがありました。私もこのまま彼女達を腐らせてしまうのは惜しい。何とかしたいと思ったわけです」
「他の芸能事務所などから引き取り手があったようですが、それを選択しなかったのは何故ですか?」
「あいにくと、同業他社の人達はボカロの価値を分かっていないようでした。その価値を高めてやるのは、私しかいないという自負がありましたね」
「なるほど……。他に理由は?」
 記者が手帳にメモ書きをしながら、敷島に質問していく。
「ボカロも、精密機械の塊であることは事実です。当然、細かいメンテナンスが必要なわけです。幸い私には、身内に専門家がいますし、そのツテで今ではデイライトさんがボカロの整備に当たってくれています。果たして、同業他社にはそういったことができるのかという疑問もありました。恐らく故障を連発させて、最悪、廃棄処分にしていたかもしれません」
「分かりました。敷島社長の、いわゆるオシメンは初音ミクさんのようですが、これにはどういった拘りが?」
「そうですね……」

 敷島が記者とやり取りをしている中、社長室のドアの前に固まる者達がいた。
 それは鏡音リン・レン、それにMEGAbyte達である。
「社長さん、さすがに場慣れした感じですね」
 と、結月ゆかり。
「ボクだったら、まだ“緊張”して体温が上がっちゃうなぁ……」
「後でリンもさりげなくアピールするチャンスだねぃ」
「ちょ、ちょっと未夢、押さないでくれる?」
「私も取材、受けてみたいわぁ……」
 すると後ろから、
「コラッ!何やってんの、あんた達!?」
 お茶のお代わりを持って来たシンディに激しく叱責されてしまった。

「すいません、うちのボカロが……」
「いやいや。本当に、人間と間違えるくらいの豊かな感情ですね」
 敷島、慌てて記者達に謝る。
 ボカロ達はシンディの叱責に、蜘蛛の子を散らすかのように逃げて行った。
「それでは次の質問ですが、そのデイライト・コーポレーションさんとの関係についてお聞きします」
「はい」
「先日、アメリカよりアルバート・F・スノーウェル氏が敷島社長を訪ねて来られたとのことですが、敷島社長としてはアメリカ側との関係をどうお考えですか?」
 記者がこんな質問をしたのは、デイライト・コーポレーションのアメリカ本体には、そもそも人間そっくりのロボットを造ろうという発想など無く、ましてやボーカロイドのような存在など微塵も考えられなかったからである。
 デイライト・ジャパン(日本法人)はその辺、もう少し頭が柔らかいのか、最初はボカロとは何ぞや?という探究心から、整備を引き受けたといった感じだったが、ロボット未来科学館まで作ってしまうくらいだから、十分理解してくれたのだろう。
「先日、埼玉のロボット未来科学館を視察されたんですが、一笑に付してしまわれたとのことです」
「それは一体、どういう意味で?」
「『ロボットにエンターテイメント性は必要無い。本当に日本は平和である』とのことでした」
「それは……皮肉ですか?」
「どうですかねぇ……。とにかく、アメリカさんからはあまり、ボカロの人気はけして大きくないようですね。皮肉を言われたわけではないですけど、せっかく日本は平和な国なんですから、アメリカには無いエンターテイメント性を重視していきますよ」

 敷島はエレベーターホールまで記者とカメラマンを見送った。
 そして、また社長室に戻る。
 ドアの前にシンディが待っていて、
「ごめんなさいね。アタシがちょっと目を離した隙に、リン達が……」
「いや、いいさ。記者さん達も笑ってくれたよ。それより、明日は都議さんが来るから、失礼の無いように」
「ええ。明日はリン達も1日中仕事が入ってるから、今日みたいなことは無いと思うわ」
 社長室に入る2人。
「それにしても、アタシを連れて霞ケ関回りをしていたら、都議会議員に目を付けられるなんてね」
「この国は、国会議員よりも官僚の方が力があるからな。クジラを釣ろうとしてマグロが釣れたな」
「そうね。(社長の例え、たまにイミフな所があるなぁ……)」
 要は力のある官僚にマルチタイプを売り込もうとしていた敷島だったが、全くそれに乗ろうする者はおらず、国会議員ですら乗ってこなかった。
 が、ようやくその下の都議会議員の1人が興味を示してくれたらしい。
「アタシ、売られちゃうの?」
 シンディが聞いて来た。
「いや、お前自身を売るわけじゃない。お前をベースにした、新しいマルチタイプだ。アルエットともまた違うタイプの……。要は、そのデータベースを売るということだな」
 と言いつつも、実はこんなことがあった。
 アルバートがロボット未来科学館を視察し、それを一笑に付した後、シンディを引き取りたいと言った。
 その時、オーナーであるアリスも同行していたのだが、

「確かに私はシンディのオーナーだけども、こっちの法人の財産でもあるわ。私の一存では決められないの。日本法人にも尋ねて下さらない?」

 と、暗に断った。
 もちろん、日本法人は日本法人で、断りを入れるだろう。
 例えそれが、アメリカ本体の幹部社員の頼みであっても。
 アルバートはそれ以上食い付いて来ることもなく、程なくしてアメリカに帰って行った。
「ま、日本は日本で独自のことをやるまでだ。それが、デイライトさん全ての方針でもあるわけだからな」
 他にも、先進国などに現地法人を作って活動しているデイライト・コーポレーション。
 それぞれ、国の実情に合わせたロボット開発を行っている。
 その為、本来アルバートの発言はルール違反ということになる。
 データベースなどを融通するのは構わないが……。
「そうね」

 だが、事件は程なくして発生する。
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