報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「アメリカ製マルチタイプ」

2016-05-07 20:31:28 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月8日11:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区・DCJロボット未来科学館・会議室]

 アメリカ製の2足歩行人型ロボットというくらいだから、敷島はつい“ロボコップ”みたいなものを想像していた。
 それはアリスも同じ。
 せいぜい、“ターミネーター”みたいなものだろうと……。
「これが、アルバート氏の開発・製造したマルチタイプです」
 西山が極秘資料を見せてくれた。
「これは……」
「!?」
 因みに人間そっくりのロボットを作ろうという発想は、日本だけらしい。
 エミリーやシンディは旧ソ連製だが、これは冷戦時代、スパイ用として開発されたから。
 アメリカだとそんな発想も無いだろうから、ゴッツイのを作ったのだろうと思った。
「……普通に人間そっくりですな」
 敷島が首を傾げたのは、2機同時製造されたということだから、双子機なのだろう。
 それはつまり、ボーカロイドでいう鏡音リン・レンと同じだ。
 実際、金髪・碧眼の顔立ち、そして1号機(α)が姉で2号機(β)が弟という設定もよく似ていた。
 違うのは設定年齢。
 リンとレンが14歳という設定なのに対し、そちらは20歳から25歳というややアバウトな設定。
 つまり、リンとレンを大人にしたと見て良い。
 これではまるで、シンディではなく、リンとレンをモデルにしたようだ。
 因みに、名前はα号機をジャニス、β号機をルディという。
 西洋人のような、そうでないような名前である。
 スペックを見ると、右手を銃火器に自動換装したり、左手から高圧電流を放つといった内容はこちら側のマルチタイプとほぼ同じである。
 動力がアルエットと同じく、燃料電池ということから、もし仮に暴走しているとするならば、そこを叩けば爆発させることができるだろう。
 最新の資料によると、アメリカ内部に潜んでいたイスラム国(IS)の下部組織を殲滅する際、抵抗をやめた者まで射殺したという。
「これ、マズいんじゃないですか?」
「アメリカの感覚では、テロリストの射殺にロイドを使うことはいいのかもしれないが、両手を挙げた者まで射殺するとは、ちょっとやり過ぎだね」
「アルバート所長の命令でしょうか?」
 敷島の疑問に、西山は首を傾げた。
「いや、本社からは聞いてないなぁ……。とにかく私も聞いた限り、この2体だけで、ほぼ警察の特殊部隊の介入など必要無いくらいに活躍したそうだ」
「日本ではアウトですね。日本の警察は変にプライド高いから、シンディはあくまでも後衛にさせないと気が済まないんですよ。誤射と見せかけて、ついでに鷲田警視の頭を1発、ズガーンと……」
「ほお?誰の頭をズガーンとやるのかね?」
「だから、頭がカッチカチのスーパーキャリア刑事、鷲田警視の……って、ああーっ!?」
 いつの間にか、鷲田警視と村中課長がいた。
「キミにだけは、何かしら予防拘禁が必要かもしれんな」
「1ヶ月と1週間遅れのエイプリル・フールですw」
「タチの悪いエイプリル・フールはやめてもらおう!」

 というわけで、会議には警視庁の鷲田警視と村中課長も加わった。
「日本の警察が動いているということは、対岸の火事がこっちに飛び火して来ましたか?」
 と、敷島。
「それなんだが、向こうの警察から依頼があったんだ。インターポール(国際刑事警察機構)を通じてな」
 鷲田が腕組みをして答えた。
「向こうの警察?」
「デイライトのアーカンソー研究所のある州警察がな、マルチタイプと、とても太刀打ちできないらしい」
「へえ?だったら、軍隊が出動すれば?」
「そんなことをしたら、州警察の面目も潰れてしまうし、そもそもデイライトさんの面目も潰れるだろうね」
 と、村中課長が皮肉っぽく言った。
「まだ警察が対応しているレベルに抑えておけば、今回のことは開発中のロボットがたまたま暴走してしまった。1人の研究者、つまりアルバート氏だね。彼に責任を負わせて厄介払いすれば、それで話を済ませることができるというわけだ」
「何か、卑怯だなぁ……。でも、本当にアルバート所長って悪者なのかなぁ?」
 と、敷島。
「今さら何よ?『結構冷たそうな人間だった』って言ってたじゃない!」
 アリスがダンナの発言をなじる。
「いや、確かにクールな人物ではあったけど、テロへの憎悪は人一倍って感じだった。そんな人が“ブーメラン”投げるようなことするかなぁ……」
「敷島社長は、結局何が起きてると思っているんだい?」
 と、中村課長。
「このマルチタイプが暴走したってところですかねぇ……。変に自信家な人でもあった感じだったから、自分の作ったロイドが制御不能に陥ったなんて恥ずかしくて言えないでしょうしねぇ……」
「そんな簡単に制御不能に陥るものなのかね?だとしたら、そこの殺人機械も危険だということになるな?」
 鷲田は侮蔑するように、シンディを見ながら言った。
 シンディは特段表情を変えることは無かったが、代わりに、
「ちょっと!シンディを侮蔑するのはやめてよね!じー様の最高傑作なんだから、そこらの並の人間よりよっぽど優れてるんだからっ!」
「だからこそ、制御できる人間も限られているということだな。ま、世界的なマッドサイエンティストの孫娘と、テロリストを泣かせる不死身男が管理しているんだから当然か」
 鷲田の言葉に西山が頷いた。
「元は軍事用として開発された彼女達です。警視の仰る通りですな」
「敷島社長の予想が本当だとして、館長はどうしてアルバート氏が制御に失敗したと思いますか?」
「うーん……。色々と考えられるので、何とも言えませんな。少なくともあのマルチタイプ達は、アメリカ側に取っては試作機であったわけです。つまり、製造してからも色々な実験を行うわけですね。その課程で、何かミスがあったのかもしれません」
「……よし。分かった」
 鷲田はポンと膝を叩いた。
「すぐにアメリカに行く準備をしろ」
「は!?」
「向こうの警察から協力依頼が来てると言っただろう?まだ今のところ、件の殺人ロボット達は大人しくしているようだが、いつまた暴れ出すか分からん。これはキミ達にとっても、重要な話であると思わんかね?」
「えっ?」
「いいか?それは『対岸の火事』ではない。『他山の石』だ。このまま奴らを野放しにしておくと、こちら側の評判も悪くなるとは考えんのかね?」
「し、シンディはもう人殺しなんかさせないわよ!」
「だから、それを証明する為に現時点で殺人を犯しているロボット達を取り締まりに行くのだ。そうすれば、頭がカッチカチの私も納得することができるだろう」
「そうかなぁ……」
 敷島は腕組みをして考えた。
「ああ、そうそう。因みに交通費や宿泊費、その他輸送費は全部向こうさんで出してくれるそうだ。それどころか、協力内容が成功したら報酬も出すということだよ」
「シンディ!すぐにリトルロック(アーカンソー州の州都)までの航空チケットを買って来なさい!」
 シンディかシンディに命令した。
「かしこまりました。マスター」
「マジかよ……。パスポート更新してたっけ、俺?」
「おいおい。世界デビューを目指すボーカロイド事務所の社長さんが何を言ってるんだい?」
 村中が皮肉めいた顔で言った。
コメント (9)
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