報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「出国前日」

2016-05-15 23:10:06 | アンドロイドマスターシリーズ
[5月13日17:00.天候:曇 千葉県成田市某所・DCJ成田営業所]

 エミリーの梱包が終わった後、次は鏡音リン・レンが梱包された。
 ボーカロイドはマルチタイプのような武力は持っておらず、また、余計な装備が付いていない為、比較的簡単に梱包できた。
 取り外したものと言えば、この2人に搭載されたブースターくらいである。
 このボカロ姉弟はライブの時、軽い身のこなしで、ブースターを駆使したバック宙なんかを行う。
 ブースター搭載のまま、航空機積み込みはできないと判断したものである。
 シンディは最後に梱包された。
「何だか……処分されるみたいですね」
 裸足になったシンディは、ポツリとそんなことを言った。
「心配するな。前期型のお前のボディなんか、本当に“死体”みたいな状態にしてからスクラップにしたものだ」
「向こうに着いたら、また組み立てておくからね」
 敷島夫妻の言葉にシンディは微笑を浮かべて、
「よろしくお願いします」
 と、答えた。
 そして、シンディの電源が完全に落とされる。
 この後バッテリーを抜くわけだが、それで梱包できるわけではない。
 バッテリーを抜いても彼女らの体内にはまだ電流が残留しており、そのまま運ぶと衝撃で放電してしまう恐れがある。
 それは彼女達自身の損傷はもちろん、周囲を感電させる恐れがある。
 そこで体内の電気を吸い取るわけで、幸いにして、デイライト・コーポレーションではそのような装置もある。
 それを接続して、彼女達の体内に残った電気を吸い取るのである。
 尚、最新型のアルエットやジャニス、ルディは自動でムリなく放電する装置が付いているらしい。
 実際に見たことが無いので、どういうシステムなのかは敷島には分からない。

 4機のアンドロイド、ガイノイドの梱包が終了すると、早速頼んでおいた業者がやってくる。
「あー、やっぱフェデックスなんだな」
 敷島は苦笑した。
「運賃高いって聞いたけど……」
「全部、本社で面倒見るからタカオは心配しなくていいよ」
 と、アリスが言った。
「リンとレンも本社の依頼なんだから」
「それもそうだな」
 どうやら2体が対になって動くロイドというものに、アメリカ本社は関心を示しているらしい。
 マルチタイプから取り外したパーツは別梱包した為に、ワンボックス1台分の積載量となった。
「彼女達の回収場所はどこになりますか?」
 敷島は鳥柴に聞いた。
「テキサス州ダラスになります」
「なるほど」
 敷島はもらった航空チケットを見た。
「あれ?現場はアーカンソー州ですよね?」
「はい。ダラスにはアメリカのデイライト支社があるんですよ」
「そうなんですか」
「あえて、ヒューストンじゃないのね」
 アリスも笑みを浮かべた。
「まあ、そうですね」
 どちらもテキサス州の町であり、ヒューストンはそこで最大の都市である。
 が、いずれも州都ではない。
 デイライト・アメリカは、あえて支社をテキサス州の最大の町でもなければ、州都にも設けなかったようだ。
 恐らく、ここみたいに支社兼研究所になっているのかもしれない。あるいは工場か。
 1つ言えることはヒューストン同様、成田空港から直行便が飛んでいるということである。
「さて、今日はお疲れさまでした。航空チケットを御覧頂いてお分かり頂けるように、午前中に出発します。これから皆さんがお泊りになるホテルへご案内しますので、車に乗ってください」
「はーい」
 ダラス・フォートワース空港行きは、JAL便で11時20分発である。
 1時間前には空港で手続きをしないといけないから、10時20分には着いていないといけない。

 京成成田駅から乗ったのと同じ黒いミニバンに乗り込む。
 今度はマルチタイプ達がいないので、広く乗れた。
 空港のホテルも取っておいてくれて、至れり尽くせりである。
「鳥柴さん」
 敷島が助手席に座る鳥柴に声を掛けた。
 因みに運転しているのは往路と同じ、黒スーツの男である。
「何でしょうか?」
「それで結局、アーカンソー州まで飛行機で行かないのはどういった理由で?」
「日本からの直行便が無いからですよ」
「あ、なるほどー。……って、いやいや。乗り換えて行けないんですか?アーカンソー州の町にだって、空港くらいあるでしょ?」
「もちろんです。実はアメリカ本社も、今度のアーカンソー研究所の造反の意図については全く分かっていない状態なんですよ」
「アルバート所長が独立を企ててるだけの話でしょ?」
「それにしても新型マルチタイプを持ち出した上、消息不明というのが分からないそうです」
「相手の出方が分からない以上、不用意に飛行機で近づかないようにってことですか」
「そうです。何しろ、マルチタイプですからね。使い方を誤ると、とんでもないことになるのは皆さんも御存知だと思います」
 3人の脳裏に、狂った笑いを浮かべて銃を乱射したり、大型ナイフを振り回すシンディの姿が浮かんだ。
「万が一、あなた達に危害を加えるような命令があのマルチタイプ達に出されている場合、大変危険です。そこでなるべく、こちら側の1号機と3号機を起動させてから動きたいのです」
「テキサス州とアーカンソー州は隣同士だからね。取りあえず、州1つ離れておけば安全とでも考えてるわけ?」
 アリスが聞いた。
「取りあえずは……。それと、アーカンソー州にデイライトの施設が1つも無いからというのも1つの理由です。あの周辺でデイライトの施設があるのが、ダラス支社なんですよ」
「現場に1番近い施設が、ダラスってことね。エミリー達をそこで起動して、現場にはどうやって向かえと?結局、飛行機が無いと行けないんじゃないの?」
 平賀も質問した。
「もちろん、そこは本社も考えています。ですが、変更があるかもしれないとのことで、詳細は現地でお話しするとのことです」
「なるほど……」

[同日17:30.天候:晴 成田空港・成田エアポートレストハウス]

 車がホテルの前に到着する。
「それでは明日、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ……」
 敷島は自分の荷物を車から降ろしながら鳥柴の言葉に応えたが、
「ん?鳥柴さんも御一緒なんですか?」
「はい。皆さんを現地までご案内させて頂く役ですので……」
「それは助かります」
「それで、私達を本社のエージェントに引き合わせてくれるのね?」
「そういうことです。どちらかというと、私は仲介役といったところでしょうか」
「分かったわ」
「第一ターミナルまでは歩いて行ける距離ですが、一応迷わないように確認しておきます。……」

 鳥柴達と分かれて、ようやくホテルの中に入る。
「敷島さん達はダブルですか。いいですねぇ」
 と、平賀。
「やめてくださいよ」
 敷島は苦笑した。
 そういう平賀は、シングルルームである。
「部屋に荷物を置いたら、ここのレストランで夕食にしましょうか」
「そうですね」
 さすがにホテル代はともかく、食事代は自腹のようだ。
 まあ、何を食べるか、どれだけ食べるかは人それぞれだからか。

 しかし、何故か一応、領収書を切る敷島であった。
コメント
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