[5月13日16:30.天候:曇 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
イリーナ:「悪霊のヤツ、私達を閉じ込めようとしたわ」
イリーナは嘲笑めいた顔で言った。
稲生:「そうなんですか!?」
イリーナ:「ええ、バカよね。この私を閉じ込めようなんて、100年早いわ」
稲生:「そうですね。先生と互角に戦えるのは他の先生方ですし、先生でも叶わないのが大師匠様ですか」
イリーナ:「ま、そんなところね」
イリーナは玄関のドアを開けた。
稲生:「確かに東京中央学園の時なんかも、よく悪霊にトイレに閉じ込められたという話を聞きました」
イリーナ:「それと同類ね。そういう時は、魔力を解放すると簡単に開けられるから。よく覚えといて」
稲生:「魔力を解放する?」
イリーナ:「要は心の中で、『開け、ゴマ!』と叫べばいいのよ」
マリア:「そこは『ア・ヴァ・カ・ムゥ』じゃないですか?」
マリアの突っ込みを華麗にスルーしたイリーナは裏庭に出た。
そこにあったものは……。
イリーナ:「ほら、これ!魔法陣が残ってる!」
稲生:「本当だ」
イリーナ:「マリアでしょ、ここに魔法陣を描いたの!」
マリア:「あ、はい。もしかしたら、まだ使うかもしれないと思って……」
だが、綺麗に残っているわけではなかった。
あっちこっち踏み荒らした跡があって、歪な紋様に変わっていた。
稲生:「草鞋の跡です。これ、威吹の足跡ですね。……あ、そういえばあいつ、ここで剣の鍛練をしてました」
イリーナ:「魔法陣が変な紋様に変わったものだから、霊道と繋がって、悪霊を呼び込んでしまったのね」
稲生:「ど、どうしますか?」
イリーナ:「もちろん魔法陣ごと消すわよ。どいて」
稲生:「はい!」
マリアはそーっと稲生よりも離れようとしたが……。
イリーナ:「マリア!後でお説教だからねっ!」
マリア:「うっ、ぐっ……!」
イリーナはダンテ門流魔法の呪文を唱えると、魔法陣をものの見事に消してしまった。
稲生:「霊道ごと消したわけですか?」
イリーナ:「一応ね。これで、悪霊共の退路は断ったわけだわ。後は家の中にまだ残っていないか、捜索ね。大丈夫。少なくとも、ダダ漏れしていた霊気をシャットアウトしたわけだから、これで新たに悪霊がやってくることは無くなったから」
稲生:「は、はい」
稲生達は再び家の中に入った。
イリーナ:「なるべく換気して、籠った霊気を外に出すといいわね」
稲生:「はい」
だが、すぐにそいつは現れた。
玄関に鏡を設置している家は多いだろう。
稲生家も例外ではなく、姿見を設置していた。
マリアがその鏡に映り込んだ時、そこにマリアは映らなかった。
映ったのは、もっと別の人物。
河合有紗:「殺してやる……!」
稲生:「わあーっ!!」
鏡の中から上半身だけ飛び出した河合有紗が、マリアの首を掴んだ。
マリア:「ぐっ……!」
そして、女とは思えない力で締め上げる。
稲生:「や、やめてくれっ!有紗!」
マリア:「がはっ……!」
有紗:「稲生君……この泥棒猫を殺したら……あなたも……来てもらうわ……。私からは……逃げられないのよ……」
稲生:「先生!助けてください!」
だが、イリーナはニヤけた顔で腕組みをしていた。
イリーナ:「マリア。助けて欲しかったら、反省しなさい。これはあなたが招いたミスよ?」
マリア:「……っ!……!!」
マリアはもがき苦しみながら何度も頷こうとした。
だが、有紗に首を絞め上げられている為になかなか首を縦に触れない。
稲生:「先生!マリアさんは反省すると言っています!だから、どうか……!」
イリーナ:「あいよ。他ならぬ、勇太君の頼みだものね」
イリーナは自分の魔法の杖を構えると、上半身だけ出ている有紗をそれで叩き付けた。
有紗:「ぎゃっ!」
幽霊なのに痛みを感じるのだろうか。
それとも、それは魔法の杖で殴り付けたからか。
イリーナの魔法の杖で叩かれた有紗は、ついにマリアを締め上げる手を緩めた。
稲生:「今だ!」
稲生は有紗からマリアを引き離した。
マリアは激しく咳き込む。
稲生:「大丈夫ですか!?」
マリア:「ゲホッ!ゲヘッ!ガハッ!」
イリーナ:「幽体すらもボコボコにしてやらないと分からないようね?私の愛弟子に手を出した罪、重いわよ?」
イリーナは魔法の杖の尻を有紗の体に突き刺した。
有紗:「ぎゃああああああああっ!!」
まるで本当の肉体を貫通させたかのようだ。
イリーナ:「これに懲りたら、2度と私達の前にツラを見せないことね!」
そして、有紗の幽体を鏡の中へ放り込んだ。
稲生:「先生……?」
イリーナ:「これでもう彼女は出てこれないわよ。安心して」
稲生:「あ、ありがとうございます」
イリーナ:「初恋の人の幽体、傷つけちゃってゴメンね」
稲生:「いえ、いいんです。僕はもう、有紗のことは嫌いになりました。今はマリアさんが好きです」
そう言って稲生は、意識混濁となっているマリアの体を抱き抱えた。
イリーナ:「素晴らしい発言だわ。それじゃ回復魔法を掛けるから、取りあえずベッドまで運んで」
稲生:「はい」
稲生は言われた通り、客間の折り畳みベッドまで運んだ。
イリーナ:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。……ケ・ァル!」
稲生:「ん、ケアル?ホイミじゃないんですか?」
イリーナ:「回復魔法は2系統に分かれてるからね。まあ、どっちでもいいんだけど」
稲生:「はあ……」
すると玄関のドアが開けられた。
稲生は一瞬また別の悪霊かと緊張したが、入ってきたのは稲生の両親だった。
宗一郎:「ただいまァ」
佳子:「先に帰ってたのね。夕飯の材料を買って来たの」
稲生:「あ、お帰り。……うん、多分そういうことだと思ってた」
宗一郎:「マリアさん、どうしたんだい?」
イリーナ:「ちょっとあちこち歩き回ったせいか、少し疲れちゃったみたいです。お腹が空けば、きっと元気になりますわ」
イリーナはニンマリ笑った。
宗一郎:「そうですか。おい、勇太。あまり女性方を無理に連れ回すんじゃないぞ?」
稲生:「わ、分かってるよ」
はっきり言ってとばっちりの稲生だった。
イリーナ:「悪霊のヤツ、私達を閉じ込めようとしたわ」
イリーナは嘲笑めいた顔で言った。
稲生:「そうなんですか!?」
イリーナ:「ええ、バカよね。この私を閉じ込めようなんて、100年早いわ」
稲生:「そうですね。先生と互角に戦えるのは他の先生方ですし、先生でも叶わないのが大師匠様ですか」
イリーナ:「ま、そんなところね」
イリーナは玄関のドアを開けた。
稲生:「確かに東京中央学園の時なんかも、よく悪霊にトイレに閉じ込められたという話を聞きました」
イリーナ:「それと同類ね。そういう時は、魔力を解放すると簡単に開けられるから。よく覚えといて」
稲生:「魔力を解放する?」
イリーナ:「要は心の中で、『開け、ゴマ!』と叫べばいいのよ」
マリア:「そこは『ア・ヴァ・カ・ムゥ』じゃないですか?」
マリアの突っ込みを華麗にスルーしたイリーナは裏庭に出た。
そこにあったものは……。
イリーナ:「ほら、これ!魔法陣が残ってる!」
稲生:「本当だ」
イリーナ:「マリアでしょ、ここに魔法陣を描いたの!」
マリア:「あ、はい。もしかしたら、まだ使うかもしれないと思って……」
だが、綺麗に残っているわけではなかった。
あっちこっち踏み荒らした跡があって、歪な紋様に変わっていた。
稲生:「草鞋の跡です。これ、威吹の足跡ですね。……あ、そういえばあいつ、ここで剣の鍛練をしてました」
イリーナ:「魔法陣が変な紋様に変わったものだから、霊道と繋がって、悪霊を呼び込んでしまったのね」
稲生:「ど、どうしますか?」
イリーナ:「もちろん魔法陣ごと消すわよ。どいて」
稲生:「はい!」
マリアはそーっと稲生よりも離れようとしたが……。
イリーナ:「マリア!後でお説教だからねっ!」
マリア:「うっ、ぐっ……!」
イリーナはダンテ門流魔法の呪文を唱えると、魔法陣をものの見事に消してしまった。
稲生:「霊道ごと消したわけですか?」
イリーナ:「一応ね。これで、悪霊共の退路は断ったわけだわ。後は家の中にまだ残っていないか、捜索ね。大丈夫。少なくとも、ダダ漏れしていた霊気をシャットアウトしたわけだから、これで新たに悪霊がやってくることは無くなったから」
稲生:「は、はい」
稲生達は再び家の中に入った。
イリーナ:「なるべく換気して、籠った霊気を外に出すといいわね」
稲生:「はい」
だが、すぐにそいつは現れた。
玄関に鏡を設置している家は多いだろう。
稲生家も例外ではなく、姿見を設置していた。
マリアがその鏡に映り込んだ時、そこにマリアは映らなかった。
映ったのは、もっと別の人物。
河合有紗:「殺してやる……!」
稲生:「わあーっ!!」
鏡の中から上半身だけ飛び出した河合有紗が、マリアの首を掴んだ。
マリア:「ぐっ……!」
そして、女とは思えない力で締め上げる。
稲生:「や、やめてくれっ!有紗!」
マリア:「がはっ……!」
有紗:「稲生君……この泥棒猫を殺したら……あなたも……来てもらうわ……。私からは……逃げられないのよ……」
稲生:「先生!助けてください!」
だが、イリーナはニヤけた顔で腕組みをしていた。
イリーナ:「マリア。助けて欲しかったら、反省しなさい。これはあなたが招いたミスよ?」
マリア:「……っ!……!!」
マリアはもがき苦しみながら何度も頷こうとした。
だが、有紗に首を絞め上げられている為になかなか首を縦に触れない。
稲生:「先生!マリアさんは反省すると言っています!だから、どうか……!」
イリーナ:「あいよ。他ならぬ、勇太君の頼みだものね」
イリーナは自分の魔法の杖を構えると、上半身だけ出ている有紗をそれで叩き付けた。
有紗:「ぎゃっ!」
幽霊なのに痛みを感じるのだろうか。
それとも、それは魔法の杖で殴り付けたからか。
イリーナの魔法の杖で叩かれた有紗は、ついにマリアを締め上げる手を緩めた。
稲生:「今だ!」
稲生は有紗からマリアを引き離した。
マリアは激しく咳き込む。
稲生:「大丈夫ですか!?」
マリア:「ゲホッ!ゲヘッ!ガハッ!」
イリーナ:「幽体すらもボコボコにしてやらないと分からないようね?私の愛弟子に手を出した罪、重いわよ?」
イリーナは魔法の杖の尻を有紗の体に突き刺した。
有紗:「ぎゃああああああああっ!!」
まるで本当の肉体を貫通させたかのようだ。
イリーナ:「これに懲りたら、2度と私達の前にツラを見せないことね!」
そして、有紗の幽体を鏡の中へ放り込んだ。
稲生:「先生……?」
イリーナ:「これでもう彼女は出てこれないわよ。安心して」
稲生:「あ、ありがとうございます」
イリーナ:「初恋の人の幽体、傷つけちゃってゴメンね」
稲生:「いえ、いいんです。僕はもう、有紗のことは嫌いになりました。今はマリアさんが好きです」
そう言って稲生は、意識混濁となっているマリアの体を抱き抱えた。
イリーナ:「素晴らしい発言だわ。それじゃ回復魔法を掛けるから、取りあえずベッドまで運んで」
稲生:「はい」
稲生は言われた通り、客間の折り畳みベッドまで運んだ。
イリーナ:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。……ケ・ァル!」
稲生:「ん、ケアル?ホイミじゃないんですか?」
イリーナ:「回復魔法は2系統に分かれてるからね。まあ、どっちでもいいんだけど」
稲生:「はあ……」
すると玄関のドアが開けられた。
稲生は一瞬また別の悪霊かと緊張したが、入ってきたのは稲生の両親だった。
宗一郎:「ただいまァ」
佳子:「先に帰ってたのね。夕飯の材料を買って来たの」
稲生:「あ、お帰り。……うん、多分そういうことだと思ってた」
宗一郎:「マリアさん、どうしたんだい?」
イリーナ:「ちょっとあちこち歩き回ったせいか、少し疲れちゃったみたいです。お腹が空けば、きっと元気になりますわ」
イリーナはニンマリ笑った。
宗一郎:「そうですか。おい、勇太。あまり女性方を無理に連れ回すんじゃないぞ?」
稲生:「わ、分かってるよ」
はっきり言ってとばっちりの稲生だった。