[8月12日02:00.天候:(都合良く)雷雨 東京都墨田区菊川 鈴木のマンション]
鈴木はエレーナの拠点であるワンスターホテルの近くいたい為、わざわざ首都圏内にある実家を出て一人暮らしをしている。
エレーナにコミケのサークル運営を手伝ってもらったのはいいのだが、肝心の報酬を渡すのを忘れてしまった。
次の日に渡せば良いと高を括り、この日は眠ってしまった。
しかし、それが鈴木にとってバッドエンドにも等しい悪夢の始まりだった。
鈴木:「うう……ん……」
……ふと寝苦しくて鈴木は目が覚めた。
胸が重い。
胸をグッと押されているような感じがする。
何か、いる。
鈴木の部屋に、誰かがいる。
しかし、鈴木は怖くて目が開けられなかった。
と、鈴木の顔に生暖かい息が吹き掛けられる。
何だか酒の臭いがする。
誰だ?
誰が、鈴木の胸に乗っかっている?
体が動かない。
金縛りである!
まるで蛇の舌が稲生の顔をなめるように、生暖かい息が万遍なく鈴木の顔に吹きかけられる。
その息は、鈴木の耳元で動きが止まった。
何か、呟いている。
ぼそぼそとよく聞き取れない声が、鈴木の耳に忍び込んでくる。
その声は、次第に大きくなっていった。
???:「殺してやる……殺してやる……!」
生暖かく、酒の臭いの混じった息が吐かれるたびに、呪いの言葉が鈴木の耳をなでまわす。
鈴木:「うわあっ!」
鈴木は、あまりの怖さに目を見開いた。
そこに、彼女はいた。
ナイフを手にしたリリアンヌが、鈴木の胸の上に乗っていた。
その姿は覚醒している時のものだ。
稲生を見据える目の瞳孔は収縮し、瞳全体が灰色で中央に黒い点が入っている。
リリアンヌ:「フヒヒヒヒヒヒ……ヒック!お、お前は……エレーナ先輩をタダ働きさせた……!これは大きな罪だ……!」
鈴木:「せ、先輩!?き、キミはエレーナの後輩なのか!?」
リリアンヌ:「エレーナ先輩が大嫌いなタダ働きさせる男なんて大嫌い……!だ、だから、お、おおオマエを殺す……!」
鈴木:「ま、待ってくれ!俺はタダ働きさせるつもりなんて無い!ただ、渡すのを忘れてしまったんだ!明日、渡しに行くはずだったんだよ!」
小柄な魔女っ娘とも言えるリリアンヌ。
だから力任せに跳ね除ければ、そうできそうなものだ。
だが、何故ができなかった。
まるでリリアンヌが巨漢のように重く感じられた。
リリアンヌ:「ヒャーッハッハッハッハッハー!死ねぇぇぇぇぇっ!!」
リリアンヌは手持ちのウィスキーボトルを一気飲みすると、高笑いして大型ナイフを鈴木の胸や喉に何度も突き刺した。
[同日同時刻 天候:曇 同じく鈴木の部屋]
鈴木:「わあーっ!」
鈴木は絶叫を上げて飛び起きた。
鈴木:「ゆ、夢……!?」
鈴木は自分が悪夢を見ていたことに気づいた。
試しにリリアンヌに刺された額や首、胸を触ってみるが、傷痕1つ無かったし、血の一滴も出た痕跡も無い。
鈴木:「はぁ……!びっくりした……!」
鈴木はホッとすると同時に、言い知れぬ不安に襲われた。
鈴木:(でも何であんな夢を見たんだろう?あれはもしかして、報酬を受け取っていないことに気づいたエレーナが怒ってるってことなんだろうか?やっぱり明日は朝一で報酬を持って行こう)
鈴木はそう自分に言い聞かせると、再び布団を頭から被って寝入ろうとした。
が、そこでまた何か違和感を覚える。
何だろうと思って布団から顔を出して部屋を見回してみると、窓が開いていたことに気づいた。
鈴木:「?」
いつの間に窓を開けたのだろうか?
確か部屋はエアコンを入れているから、窓など開けないのに……。
いや、もしかしたら空気の入れ替えで開けたのかもしれない。
なるほど。
その時の記憶が頭の片隅に残って、リリアンヌという最凶魔女の侵入を許してしまったのか。
鈴木はそう考えて、窓を閉めようと起き上がろうとした。
鈴木:「!?」
だがその時、部屋の中に誰かがいることに気づいた。
机の上に座り、足を組んでこちらを見ている者がいた。
それは……。
エレーナ:「お目覚めだね」
鈴木:「え、エレーナ!?どうして!?」
エレーナ:「あら?あなたがこのマンションに住んでると教えたんじゃない」
鈴木:「そ、そりゃそうだけど……」
それにしても様子がおかしいと鈴木は思った。
報酬の取り立てに来たのだろうか。
エレーナ:「それにしてもいくらマンションの5階だからって、鍵を掛けないなんて油断し過ぎるわね」
エレーナは闇に光る目を更に光らせながら、クスクスと笑った。
そして、黒いスカートのポケットの中に手を突っ込む。
そこから出て来たのは折り畳み式のナイフ!
近眼の鈴木の夜目にも、キラリと光る刃が目に入る。
エレーナ:「あなたは約束を破ったね。魔女というものはね、契約や約束を破られるのが大嫌いなの」
鈴木:「ほ、報酬のことなら謝る!あれは踏み倒そうとしたんじゃない!キミに渡すのを忘れただけなんだ!」
エレーナ:「もう日付が変わってるわ。あなたは契約を守らなかった。私も魔道師の端くれ。悪いけど死んでもらうよ。私は契約を守らないヤツを許さない」
エレーナは不気味な笑みを浮かべたままナイフを振り上げた。
鈴木は一か八か、枕元に置いたスマホをエレーナに投げつけた。
それはエレーナの顔面に飛んで行く。
エレーナ:「きゃっ!?」
鈴木はエレーナの横をすり抜け、部屋から飛び出そうとした。
しかしその時、首に熱い衝撃が走った。
鈴木は目だけで見下ろす。
彼の首に突き立っている、折り畳みナイフ。
エレーナ:「危ないところだったわ。でも、私の勝ちだね……」
嬉しそうなエレーナの声が聞こえる。
鈴木は血をまき散らし、冷たい床に転がった。
[同日05:02.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]
ガーッという音がして、正面エントランスの自動ドアが開く。
オーナー:「いらっしゃ……おや?あなたは……」
そこには、まるで戦場などから九死に一生を得た生還者のように疲弊した鈴木の姿があった。
鈴木:「す……すいません……こんな朝早くに……。エレーナと、会えませんでしょうか?」
オーナー:「あ、ああ……そうですね……。エレーナから話は聞いております。エレーナに何か渡す物はお持ちでしょうか?」
鈴木:「これです……」
鈴木はエレーナに昨日渡すはずだった報酬の入った封筒をオーナーに差し出した。
オーナー:「これはお預かりしておきます。必ずエレーナにお渡ししておきますので……」
鈴木:「よ、よろしくお願いします……」
オーナー:「ああ、あとこれを……」
オーナーは鈴木に手紙の入った封筒を渡した。
オーナー:「エレーナから預かったものです」
鈴木:「はあ……」
鈴木はエレーナからの手紙を受け取ると、中を開けた。
すると、『魔道師をナメるな』とか、『報酬支払遅延は、契約不履行以外の何物でもない』とか、『今回は悪夢を見せさせてやるだけで勘弁してやるが、実際はこれがリアルに行われるものと思え』とか、『これに懲りたら2度と魔女に纏わりつくことの無いように』という警告文が書かれていた。
鈴木:「ふ……ふふ……うふふふふふふふ……」
オーナー:「エレーナの機嫌を損ねるようなことをなさったのでしょうが、今後はお気をつけて。他の魔女さんは本当に首を狙って来るそうです」
鈴木:「とんでもない、オーナー……。エレーナに、今後ともよろしくとお伝えください。それじゃ……」
鈴木も鈴木で不気味な笑みを浮かべながら、ふらつく足取りでホテルをあとにしたのだった。
鈴木はエレーナの拠点であるワンスターホテルの近くいたい為、わざわざ首都圏内にある実家を出て一人暮らしをしている。
エレーナにコミケのサークル運営を手伝ってもらったのはいいのだが、肝心の報酬を渡すのを忘れてしまった。
次の日に渡せば良いと高を括り、この日は眠ってしまった。
しかし、それが鈴木にとってバッドエンドにも等しい悪夢の始まりだった。
鈴木:「うう……ん……」
……ふと寝苦しくて鈴木は目が覚めた。
胸が重い。
胸をグッと押されているような感じがする。
何か、いる。
鈴木の部屋に、誰かがいる。
しかし、鈴木は怖くて目が開けられなかった。
と、鈴木の顔に生暖かい息が吹き掛けられる。
何だか酒の臭いがする。
誰だ?
誰が、鈴木の胸に乗っかっている?
体が動かない。
金縛りである!
まるで蛇の舌が稲生の顔をなめるように、生暖かい息が万遍なく鈴木の顔に吹きかけられる。
その息は、鈴木の耳元で動きが止まった。
何か、呟いている。
ぼそぼそとよく聞き取れない声が、鈴木の耳に忍び込んでくる。
その声は、次第に大きくなっていった。
???:「殺してやる……殺してやる……!」
生暖かく、酒の臭いの混じった息が吐かれるたびに、呪いの言葉が鈴木の耳をなでまわす。
鈴木:「うわあっ!」
鈴木は、あまりの怖さに目を見開いた。
そこに、彼女はいた。
ナイフを手にしたリリアンヌが、鈴木の胸の上に乗っていた。
その姿は覚醒している時のものだ。
稲生を見据える目の瞳孔は収縮し、瞳全体が灰色で中央に黒い点が入っている。
リリアンヌ:「フヒヒヒヒヒヒ……ヒック!お、お前は……エレーナ先輩をタダ働きさせた……!これは大きな罪だ……!」
鈴木:「せ、先輩!?き、キミはエレーナの後輩なのか!?」
リリアンヌ:「エレーナ先輩が大嫌いなタダ働きさせる男なんて大嫌い……!だ、だから、お、おおオマエを殺す……!」
鈴木:「ま、待ってくれ!俺はタダ働きさせるつもりなんて無い!ただ、渡すのを忘れてしまったんだ!明日、渡しに行くはずだったんだよ!」
小柄な魔女っ娘とも言えるリリアンヌ。
だから力任せに跳ね除ければ、そうできそうなものだ。
だが、何故ができなかった。
まるでリリアンヌが巨漢のように重く感じられた。
リリアンヌ:「ヒャーッハッハッハッハッハー!死ねぇぇぇぇぇっ!!」
リリアンヌは手持ちのウィスキーボトルを一気飲みすると、高笑いして大型ナイフを鈴木の胸や喉に何度も突き刺した。
[同日同時刻 天候:曇 同じく鈴木の部屋]
鈴木:「わあーっ!」
鈴木は絶叫を上げて飛び起きた。
鈴木:「ゆ、夢……!?」
鈴木は自分が悪夢を見ていたことに気づいた。
試しにリリアンヌに刺された額や首、胸を触ってみるが、傷痕1つ無かったし、血の一滴も出た痕跡も無い。
鈴木:「はぁ……!びっくりした……!」
鈴木はホッとすると同時に、言い知れぬ不安に襲われた。
鈴木:(でも何であんな夢を見たんだろう?あれはもしかして、報酬を受け取っていないことに気づいたエレーナが怒ってるってことなんだろうか?やっぱり明日は朝一で報酬を持って行こう)
鈴木はそう自分に言い聞かせると、再び布団を頭から被って寝入ろうとした。
が、そこでまた何か違和感を覚える。
何だろうと思って布団から顔を出して部屋を見回してみると、窓が開いていたことに気づいた。
鈴木:「?」
いつの間に窓を開けたのだろうか?
確か部屋はエアコンを入れているから、窓など開けないのに……。
いや、もしかしたら空気の入れ替えで開けたのかもしれない。
なるほど。
その時の記憶が頭の片隅に残って、リリアンヌという最凶魔女の侵入を許してしまったのか。
鈴木はそう考えて、窓を閉めようと起き上がろうとした。
鈴木:「!?」
だがその時、部屋の中に誰かがいることに気づいた。
机の上に座り、足を組んでこちらを見ている者がいた。
それは……。
エレーナ:「お目覚めだね」
鈴木:「え、エレーナ!?どうして!?」
エレーナ:「あら?あなたがこのマンションに住んでると教えたんじゃない」
鈴木:「そ、そりゃそうだけど……」
それにしても様子がおかしいと鈴木は思った。
報酬の取り立てに来たのだろうか。
エレーナ:「それにしてもいくらマンションの5階だからって、鍵を掛けないなんて油断し過ぎるわね」
エレーナは闇に光る目を更に光らせながら、クスクスと笑った。
そして、黒いスカートのポケットの中に手を突っ込む。
そこから出て来たのは折り畳み式のナイフ!
近眼の鈴木の夜目にも、キラリと光る刃が目に入る。
エレーナ:「あなたは約束を破ったね。魔女というものはね、契約や約束を破られるのが大嫌いなの」
鈴木:「ほ、報酬のことなら謝る!あれは踏み倒そうとしたんじゃない!キミに渡すのを忘れただけなんだ!」
エレーナ:「もう日付が変わってるわ。あなたは契約を守らなかった。私も魔道師の端くれ。悪いけど死んでもらうよ。私は契約を守らないヤツを許さない」
エレーナは不気味な笑みを浮かべたままナイフを振り上げた。
鈴木は一か八か、枕元に置いたスマホをエレーナに投げつけた。
それはエレーナの顔面に飛んで行く。
エレーナ:「きゃっ!?」
鈴木はエレーナの横をすり抜け、部屋から飛び出そうとした。
しかしその時、首に熱い衝撃が走った。
鈴木は目だけで見下ろす。
彼の首に突き立っている、折り畳みナイフ。
エレーナ:「危ないところだったわ。でも、私の勝ちだね……」
嬉しそうなエレーナの声が聞こえる。
鈴木は血をまき散らし、冷たい床に転がった。
[同日05:02.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]
ガーッという音がして、正面エントランスの自動ドアが開く。
オーナー:「いらっしゃ……おや?あなたは……」
そこには、まるで戦場などから九死に一生を得た生還者のように疲弊した鈴木の姿があった。
鈴木:「す……すいません……こんな朝早くに……。エレーナと、会えませんでしょうか?」
オーナー:「あ、ああ……そうですね……。エレーナから話は聞いております。エレーナに何か渡す物はお持ちでしょうか?」
鈴木:「これです……」
鈴木はエレーナに昨日渡すはずだった報酬の入った封筒をオーナーに差し出した。
オーナー:「これはお預かりしておきます。必ずエレーナにお渡ししておきますので……」
鈴木:「よ、よろしくお願いします……」
オーナー:「ああ、あとこれを……」
オーナーは鈴木に手紙の入った封筒を渡した。
オーナー:「エレーナから預かったものです」
鈴木:「はあ……」
鈴木はエレーナからの手紙を受け取ると、中を開けた。
すると、『魔道師をナメるな』とか、『報酬支払遅延は、契約不履行以外の何物でもない』とか、『今回は悪夢を見せさせてやるだけで勘弁してやるが、実際はこれがリアルに行われるものと思え』とか、『これに懲りたら2度と魔女に纏わりつくことの無いように』という警告文が書かれていた。
鈴木:「ふ……ふふ……うふふふふふふふ……」
オーナー:「エレーナの機嫌を損ねるようなことをなさったのでしょうが、今後はお気をつけて。他の魔女さんは本当に首を狙って来るそうです」
鈴木:「とんでもない、オーナー……。エレーナに、今後ともよろしくとお伝えください。それじゃ……」
鈴木も鈴木で不気味な笑みを浮かべながら、ふらつく足取りでホテルをあとにしたのだった。