[8月11日09:30.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]
私の名前は愛原学。
都内で探偵事務所を経営している。
今日は山の日という祝日なのだが、ボスから電話があるような気がして、自主的に事務所に来た。
まあ、私の個人経営だから、その辺は自由だろう。
ところが、そこに事務員の高野君が出勤していた。
何でも昨日、やり残した事務作業があるという。
リサも一緒に事務所に来たのだが、どうやら彼女に初潮が来たらしく、高野君がトイレに連れて行った。
で、私1人になった時にボスから電話が掛かって来たのだが、どうも私と話が噛み合わない。
リサに関する人間時代の情報は一切無いものだと思っていた。
ところが昨年の私は、リサに関する人間時代の情報を掴み、それをレポートに纏めていたのだという。
全く記憶が無い。
確かに私は、昨年末から先月7月始めくらいまでの記憶が無かった。
これは世界探偵協会から豪華客船クルーズに招待された時、そこで発生したバイオテロに巻き込まれ、どうもその時のケガなどが原因で記憶喪失になったようだ。
だが、昨年末以前の記憶は確かなはずだ。
霧生市のバイオハザードの時なんか、まるで昨日あったことのように鮮明に記憶している。
もちろん、無事に脱出した後のことなんかも。
その後はマスコミにもてはやされたこともあって、一時期、休みが1日も無いくらいまで仕事の依頼が殺到したんだっけ。
今はだいぶ落ち着いた……どころか、落ち着き過ぎてヒマになってしまった。
私がそんなことを考えていると、やっと高野君達が戻って来た。
高野:「先生、ちょっと出掛けて来ますね。やっぱりリサちゃん、今日から女の子になったみたいで……」
やはり幼女を卒業して少女になったか。
いや、それよりも……。
愛原:「その前にちょっと教えて欲しいんだ」
高野:「何ですか?」
愛原:「実はさっきボスから電話があって……」
私はボスからの電話の内容と、私の記憶に大きな相違がある点について話した。
高野:「私は前の事務所の時から事務職でしたからねぇ……」
高野君は首を傾げた。
愛原:「それでも書類の整理とかやってくれてるじゃないか。リサの過去に関する情報なんて、とても重大なことだからキミに話していると思うんだ」
高野:「申し訳無いですけど、私も記憶にありません」
愛原:「じゃあ、ボスの記憶違いか?」
高野:「最悪それも考えられますけど、でもやっぱり『火のない所に煙は立たぬ』と言いますからねぇ。それに……」
愛原:「それに?」
高野:「前の事務所は先生の活躍を恨んだテロ組織によって、爆破テロされたんですよ」
愛原:「知ってる。俺が入院している最中にあったらしいな。それで、事務所兼住居をこの町に引っ越したんだろう?……ん?待てよ。てことは……」
高野:「はい。焼け残った書類とかは持ち出せたんですけど、そうでないものについては灰になってしまって……」
愛原:「んが!」
高野:「仮に先生の方が記憶違いをされていて、実はそういう書類があったとしても、もしそれが前の事務所の時の話であるとしたら……」
愛原:「だって俺がこの事務所に移ってから、まだ1ヶ月くらいしか経ってないんだぞ?リサの過去を洗い出しなんてしてるわけないじゃないか」
高野:「ええ。てことは、その書類は既に灰となってしまった可能性が……」
愛原:「うへー……」
あんまりだ!
しかし、それにしても私とボスの記憶に大きく相違があるとはどういうことなのだろう?
高橋に聞くべきか?
私の探偵の仕事には、常に彼が付いている。
もしボスの記憶が正しいのだとしたら、高橋君が覚えているじゃないか。
恐らく高橋君は、昼ぐらいまでは寝ていることだろう。
一応、彼のスマホに、具合が良くなったら事務所に来てもらうようにLINEを入れておこう。
愛原:「後で高橋君に聞いてみるよ」
高野:「その方がいいかもしれませんね。じゃ、ちょっと出てきますので」
愛原:「ああ。リサ、高野君の言う事ちゃんと聞けよ」
リサ:「はーい」
高野:「あの、先生……」
愛原:「何だ?」
高野:「リサちゃんの生活費は、エージェントさんから支給してくれるんですよね?」
愛原:「そういう話になってるよ」
高野:「リサちゃんが女の子になったので、色々と用意したいものがあるんです」
愛原:「ああ、分かったよ。領収証切っといて。後で纏めてエージェントに請求するから」
高野:「ありがとうございます」
高野君とリサは事務所を出て行った。
愛原:「うーむ……」
まず私はLINEで高橋君に、起きたら事務所に来るように入れておいた。
すると、また電話が掛かって来た。
ボス:「私だ」
愛原:「ボス!」
ボス:「それで、書類の方はどうなのかね?」
愛原:「はあ、それが……」
私は高野君に確認した内容をボスに話した。
ボス:「本当に無いのかね?」
愛原:「事務員の高野君が知らないそうですし、だいいち、前の事務所がテロされたことで、もう既に無くなってしまった可能性が……」
ボス:「高橋君はどうなのだ?」
愛原:「今連絡したところです。……ボス、もしも彼も記憶に無いとなったらどうされますか?」
ボス:「どうもこうもあるか。リサ・トレヴァーは今現存しているBOWとしては、完全体としての存在だ。欲しがっているのは日本政府やBSAAだけではない。テロ組織も喉から手が出るほど欲しがっているのだ」
愛原:「も、もしかして、私の前の事務所がテロられた理由って……」
ボス:「犯行声明は出ていないが、その書類を狙ったものだったのかもしれんな」
愛原:「ですが、私はそもそも記憶が無いんですよ。昨年末の豪華客船のバイハザードの後遺症なのかなぁ……」
ボス:「キミはそう言うが、私も私でキミが嬉々として語っていたことを記憶しているのだ。あいにくと録音はしていないがな」
愛原:「録音ですか」
ボス:「因みにこの電話は、万が一のことを考えて録音させてもらっている」
愛原:「別にいいですけど……。それにしても、何だか気味悪い話ですね」
ボス:「キミは……ああ、そうか。記憶が無いんだったな。キミはリサ・トレヴァーに関する情報を、どれだけ周囲に話したか覚えてるかね?」
愛原:「そんなの覚えてないですよ。少なくとも、高野君は聞いていないみたいですね。だから、後で高橋にも確認しようと思っているんです。で、高橋君も知らなかった場合、どうしてテロ組織はそのことを知ったのだろう?という薄気味悪いことに……」
ボス:「おおかた、キミが調査活動をしているのをどこかで察知したんだろうとは思うがね。しかし、肝心の本人にその記憶が無い」
愛原:「すいません……」
ボス:「キミ、これは由々しき事態だよ。既にテロ組織が、リサ・トレヴァーを狙って動いている可能性が高い」
愛原:「! 今、高野君がリサを連れて買い物に行ってるんです!」
ボス:「エージェントは何と言ってるかね?」
愛原:「いえ、今のところ何も……」
ボス:「エージェントが何も言ってないからといって油断はできん。出歩くなとは言わんが、警戒を怠らないようにはした方がいいかもしれんな」
愛原:「分かりました。すぐに高野君に伝えます。……はい、高橋君にはなるべく早く……はい。……はい。分かりました。それでは、失礼します」
私は電話を切った。
今日の私の仕事は、電話応対と書類整理になりそうだ。
私の名前は愛原学。
都内で探偵事務所を経営している。
今日は山の日という祝日なのだが、ボスから電話があるような気がして、自主的に事務所に来た。
まあ、私の個人経営だから、その辺は自由だろう。
ところが、そこに事務員の高野君が出勤していた。
何でも昨日、やり残した事務作業があるという。
リサも一緒に事務所に来たのだが、どうやら彼女に初潮が来たらしく、高野君がトイレに連れて行った。
で、私1人になった時にボスから電話が掛かって来たのだが、どうも私と話が噛み合わない。
リサに関する人間時代の情報は一切無いものだと思っていた。
ところが昨年の私は、リサに関する人間時代の情報を掴み、それをレポートに纏めていたのだという。
全く記憶が無い。
確かに私は、昨年末から先月7月始めくらいまでの記憶が無かった。
これは世界探偵協会から豪華客船クルーズに招待された時、そこで発生したバイオテロに巻き込まれ、どうもその時のケガなどが原因で記憶喪失になったようだ。
だが、昨年末以前の記憶は確かなはずだ。
霧生市のバイオハザードの時なんか、まるで昨日あったことのように鮮明に記憶している。
もちろん、無事に脱出した後のことなんかも。
その後はマスコミにもてはやされたこともあって、一時期、休みが1日も無いくらいまで仕事の依頼が殺到したんだっけ。
今はだいぶ落ち着いた……どころか、落ち着き過ぎてヒマになってしまった。
私がそんなことを考えていると、やっと高野君達が戻って来た。
高野:「先生、ちょっと出掛けて来ますね。やっぱりリサちゃん、今日から女の子になったみたいで……」
やはり幼女を卒業して少女になったか。
いや、それよりも……。
愛原:「その前にちょっと教えて欲しいんだ」
高野:「何ですか?」
愛原:「実はさっきボスから電話があって……」
私はボスからの電話の内容と、私の記憶に大きな相違がある点について話した。
高野:「私は前の事務所の時から事務職でしたからねぇ……」
高野君は首を傾げた。
愛原:「それでも書類の整理とかやってくれてるじゃないか。リサの過去に関する情報なんて、とても重大なことだからキミに話していると思うんだ」
高野:「申し訳無いですけど、私も記憶にありません」
愛原:「じゃあ、ボスの記憶違いか?」
高野:「最悪それも考えられますけど、でもやっぱり『火のない所に煙は立たぬ』と言いますからねぇ。それに……」
愛原:「それに?」
高野:「前の事務所は先生の活躍を恨んだテロ組織によって、爆破テロされたんですよ」
愛原:「知ってる。俺が入院している最中にあったらしいな。それで、事務所兼住居をこの町に引っ越したんだろう?……ん?待てよ。てことは……」
高野:「はい。焼け残った書類とかは持ち出せたんですけど、そうでないものについては灰になってしまって……」
愛原:「んが!」
高野:「仮に先生の方が記憶違いをされていて、実はそういう書類があったとしても、もしそれが前の事務所の時の話であるとしたら……」
愛原:「だって俺がこの事務所に移ってから、まだ1ヶ月くらいしか経ってないんだぞ?リサの過去を洗い出しなんてしてるわけないじゃないか」
高野:「ええ。てことは、その書類は既に灰となってしまった可能性が……」
愛原:「うへー……」
あんまりだ!
しかし、それにしても私とボスの記憶に大きく相違があるとはどういうことなのだろう?
高橋に聞くべきか?
私の探偵の仕事には、常に彼が付いている。
もしボスの記憶が正しいのだとしたら、高橋君が覚えているじゃないか。
恐らく高橋君は、昼ぐらいまでは寝ていることだろう。
一応、彼のスマホに、具合が良くなったら事務所に来てもらうようにLINEを入れておこう。
愛原:「後で高橋君に聞いてみるよ」
高野:「その方がいいかもしれませんね。じゃ、ちょっと出てきますので」
愛原:「ああ。リサ、高野君の言う事ちゃんと聞けよ」
リサ:「はーい」
高野:「あの、先生……」
愛原:「何だ?」
高野:「リサちゃんの生活費は、エージェントさんから支給してくれるんですよね?」
愛原:「そういう話になってるよ」
高野:「リサちゃんが女の子になったので、色々と用意したいものがあるんです」
愛原:「ああ、分かったよ。領収証切っといて。後で纏めてエージェントに請求するから」
高野:「ありがとうございます」
高野君とリサは事務所を出て行った。
愛原:「うーむ……」
まず私はLINEで高橋君に、起きたら事務所に来るように入れておいた。
すると、また電話が掛かって来た。
ボス:「私だ」
愛原:「ボス!」
ボス:「それで、書類の方はどうなのかね?」
愛原:「はあ、それが……」
私は高野君に確認した内容をボスに話した。
ボス:「本当に無いのかね?」
愛原:「事務員の高野君が知らないそうですし、だいいち、前の事務所がテロされたことで、もう既に無くなってしまった可能性が……」
ボス:「高橋君はどうなのだ?」
愛原:「今連絡したところです。……ボス、もしも彼も記憶に無いとなったらどうされますか?」
ボス:「どうもこうもあるか。リサ・トレヴァーは今現存しているBOWとしては、完全体としての存在だ。欲しがっているのは日本政府やBSAAだけではない。テロ組織も喉から手が出るほど欲しがっているのだ」
愛原:「も、もしかして、私の前の事務所がテロられた理由って……」
ボス:「犯行声明は出ていないが、その書類を狙ったものだったのかもしれんな」
愛原:「ですが、私はそもそも記憶が無いんですよ。昨年末の豪華客船のバイハザードの後遺症なのかなぁ……」
ボス:「キミはそう言うが、私も私でキミが嬉々として語っていたことを記憶しているのだ。あいにくと録音はしていないがな」
愛原:「録音ですか」
ボス:「因みにこの電話は、万が一のことを考えて録音させてもらっている」
愛原:「別にいいですけど……。それにしても、何だか気味悪い話ですね」
ボス:「キミは……ああ、そうか。記憶が無いんだったな。キミはリサ・トレヴァーに関する情報を、どれだけ周囲に話したか覚えてるかね?」
愛原:「そんなの覚えてないですよ。少なくとも、高野君は聞いていないみたいですね。だから、後で高橋にも確認しようと思っているんです。で、高橋君も知らなかった場合、どうしてテロ組織はそのことを知ったのだろう?という薄気味悪いことに……」
ボス:「おおかた、キミが調査活動をしているのをどこかで察知したんだろうとは思うがね。しかし、肝心の本人にその記憶が無い」
愛原:「すいません……」
ボス:「キミ、これは由々しき事態だよ。既にテロ組織が、リサ・トレヴァーを狙って動いている可能性が高い」
愛原:「! 今、高野君がリサを連れて買い物に行ってるんです!」
ボス:「エージェントは何と言ってるかね?」
愛原:「いえ、今のところ何も……」
ボス:「エージェントが何も言ってないからといって油断はできん。出歩くなとは言わんが、警戒を怠らないようにはした方がいいかもしれんな」
愛原:「分かりました。すぐに高野君に伝えます。……はい、高橋君にはなるべく早く……はい。……はい。分かりました。それでは、失礼します」
私は電話を切った。
今日の私の仕事は、電話応対と書類整理になりそうだ。