報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「脱出後」

2019-02-21 18:52:38 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月20日16:00.天候:晴 千葉県銚子市]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 いやはや、とんだ慰安旅行になってしまったものだ。
 霧生市のは堂々たる旧・日本アンブレラ社の開発センターとして営業していたが、仙台と銚子に地下秘密研究所があったとは。
 この分だと『二度あることは三度ある』で、他にもありそうだな。

 高橋:「先生、ここどこなんですかね?」
 愛原:「銚子市のどこかには間違い無いさ」

 地下秘密研究所のトロッコは自動運転だった。
 それで上手く脱出したはいいものの、肝心の研究所は自爆装置が作動して跡形も無くなってしまった。
 あの様子だと、地上にあるホテル旧館も危ないんじゃないか?
 で、ついでに今営業中の新館もヤバかったりしてな。
 地上に出た途端、線路はプッツリと切れており、雑木林の中に生えている立木に激突してトロッコは止まった。
 幸い私達にケガは無く、仕方が無いので線路が続いていたであろう方向に歩いているわけだ。

 愛原:「ん?」

 しばらく歩くと、私達の前を電車が通り過ぎて行った。

 愛原:「銚子電鉄だ!」
 高橋:「あの線路はこの線路に繋がっていたわけですか?」
 愛原:「分からんな……」

 試しに銚子電鉄の線路を見てみたが、どこにも分岐器は無く、さっきのトロッコの線路と繋がっていた形跡は見当たらなかった。

 愛原:「とにかく、電車が行った方向に行こう。向こうに駅があるはずだ」
 高橋:「はい!」

 急いで電車の後を追うと、すぐに駅が現れた。
 それは銚子電鉄線の終点駅、外川駅だった。
 木造の古めかしい佇まいの駅だ。
 東京住まいの私達からすれば、これだけで非日常の光景だが、もっと非常識な非日常を体験した身とあれば、こういうのも日常の光景に感じてしまう。

 高橋:「先生、これに乗れば帰れますよ。早いとこ乗りましょう」
 愛原:「待て待て。その前に、高野君達がどこにいるかだ。途中の駅の近くにいるのなら、連絡しておかないと」

 私はスマホを取り出して、それで高野君に連絡してみた。
 すると、高野君達は銚子ポートタワーの後で銚子駅に向かう所だという。

 愛原:「そうか。俺達も今、外川駅にいるんだ。今、電車で俺達も銚子駅に向かうよ。……ああ、それじゃ」

 私は電話を切った。

 高橋:「銚子駅までっスね!キップ買ってきます!」

 高橋は急いで出札窓口へ向かった。
 そう、自動券売機ではなく、駅員が配置されている窓口で購入するタイプだ。
 これもまた昔懐かしい。
 尚、JR線連絡乗車券も発売しているらしいが、さすがに特急券までは販売していないようだ。
 それは銚子駅で購入することになる。

 高橋:「先生、すぐに発車するみたいです」
 愛原:「おっ、そうか」

 しかもキップは往路の車補と違い、これまた懐かしい硬券であった。
 自動改札が無いわけだ。
 電車は往路と同じく、京王井の頭線で走行していた中古車。
 私達が最後の乗客らしく、私達が乗り込むと、車掌が笛を吹いてドアを閉めた。
 電車が走り出すと、ここで私はようやく日常に戻ったような気がした。
 だが、後ろの車両に乗っている私はどうしても後ろが気になった。
 後ろを見ると、静態保存されている旧型電車がまず目につく。
 それを破壊し、死に切れなかったタイラントがまた追って来そうな気がして……。
 リサに言わせれば、量産型のタイラントは基本的に走らないという。
 暴走を抑える為に、走らないよう設定されているのだそうだ。
 だからリサも、滅多なことでは走らない。
 学校の体育の授業の時くらいだそうだ。
 つまり、電車の速度には追い付けないということだ。
 例えゆっくり走る銚子電鉄線(営業最高速度、時速40キロ)であっても。

[同日16:35.天候:晴 同市内 JR銚子駅]

 私達を乗せた電車は無事に銚子駅に着いた。
 ここまで来れば、いくら何でももう安全だろう。
 硬券なので、JRの改札口は有人改札口を出なければならない。
 で、1番線には特急列車が停車していて、銚子電鉄線からの乗り換え客に急ぐよう何度も放送が流れていた。
 同じホームから出るわけじゃないから、本当に乗り換えようとすると大変だな。

 高橋:「先生、アネゴ達はどこで?」
 愛原:「駅の待合室で待っているそうだ」
 高橋:「でも東京行きの電車、出ちゃいますよ」
 愛原:「あれが終電ってわけじゃないだろ。次の電車でいい」
 高橋:「はあ……」

 跨線橋を渡り、1番線ホームに足を付けると同時に特急“しおさい”号が発車していった。
 なるほど。
 本当に乗り換えようとするならば、少し走るくらいの勢いでないとダメなようだな。
 有人改札口にいるJRの駅員に、銚子電鉄の硬券を渡すと素直に受け取ってくれた。
 尚、JR銚子駅のキップ売り場は、さすがに“みどりの窓口”以外は自動券売機になっていて、そこで銚子電鉄線のキップも買えるようだ。
 そこで買ったキップは、この駅の自動改札機を通れるらしい。

 愛原:「あれ?どこにいるんだ?」
 高橋:「全く。素直に改札の前で先生をお出迎えしろってんだ」
 高野:「悪かったね」

 と、そこへ高野君がやってきた。

 愛原:「おっ、高野君」
 高野:「お疲れ様です。先生」
 愛原:「何とか無事に終わったよ。で、リサ達は?」
 高野:「あっちです」
 愛原:「ん?」

 私達が高野君について行くと、ピアノの音色が聞こえて来た。
 それと歌声も。
 実はこの駅、改札外通路にアップライトピアノが置かれていて、誰でも弾くことができるのである。
 そこに斉藤絵恋さんが座っていてピアノを弾いていた。
 それに合わせて歌っているのはリサ。
 何だか、聴いていてとても心地良い。

 斉藤:「リサさん、歌がとても上手いんですよ」

 ピアノを弾き終わった斉藤さんが私にそう言った。

 愛原:「へえ……。ってか、斉藤さんもピアノが上手じゃない」
 斉藤:「私は小さい頃から習ってましたから」
 愛原:「空手だけじゃないんだね」
 斉藤:「護身術として空手、文科系としてピアノを習いました」
 愛原:「それは凄い」
 リサ:「お仕事、終わった?」
 愛原:「ああ、何とかな。それより、帰りの電車のキップをゲットしよう」

 指定席券売機の所に行き、それで帰りの特急“しおさい”号のキップを購入する。
 次の電車が東京行きの終電であった。

 愛原:「19時15分発、しおさい14号が最終か。結構ギリギリだったんだな」
 高橋:「指定席にするんですか?」
 愛原:「斉藤社長からの報酬が期待できるからな、帰りは少し奮発しよう」

 日曜日夜の上り電車ということもあって、指定席は空いていた。

 愛原:「これで良し」
 高橋:「先生、俺は先生の隣に!」
 斉藤:「私はリサさんの隣でお願いします!」
 愛原:「分かってる。分かってるから」
 高野:「19時15分発では、まだ時間がありますね」
 愛原:「早めに夕食でも取って、それから帰るか」
 高橋:「仕事の打ち上げっスね!さすがっス!」

 そういうつもりではないのだが、実質的にそうなるわけか。
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“私立探偵 愛原学” 「地下研究所からの脱出」

2019-02-21 10:10:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月20日15:00.天候:不明 千葉県銚子市 旧アンブレラコーポレーション・ジャパン地下研究所]

 アンブレラコーポレーション・インターナショナルが正式名称で、日本法人名がアンブレラコーポレーション・ジャパンなのだが、長いので『日本アンブレラ社』と呼んだり、『アンブレラ日本支部』と呼んだりと的を得ない。
 彼らの名刺には実際何て書いてあったのだろう。
 正規・非正規問わず、日本法人だけで何百人もの社員がいたはずだが、彼らはどこに行ったのやら。
 斉藤社長が経営する全日本製薬(ゼンニチ)で再雇用しているのなら、是非とも彼らから話を聞きたいものだ。

 高橋:「ダメですね。資料らしい物はさっぱり」
 愛原:「やっぱり世の中そんなに甘くなかったか」

 衣装部屋らしき部屋で、リサがかつて着ていた服と同じものが見つかった。
 それはどこかの学校の制服のようなセーラー服であったが、リサに言わせれば、リサを含む彼女の仲間全員がまるで学校の制服のようにこれを着させられていたのだそうだ。
 因みにリサのそれも未だに家に保管してある。
 リサにとっては辛い研究所生活の嫌な思い出の服なので、2度と着たくないらしい。
 だから、今通学している東京中央学園の制服がブレザーであることに安心しているわけだ。

 高橋:「服だけ置いて行っても、何の証拠にもならないから放置したのでしょうか?」
 愛原:「そうかもしれないな。いっそのこと、リサの仲間も捜してみるか?」
 高橋:「それは危険ですよ。基本、あいつらは俺達の敵でしょう?あのリサだけが特別で」
 愛原:「それもそうか」

 彼女らはタイラントと同様、侵入者は即殺するようにインプットされている。
 霧生市で会ったリサだけはある意味で暴走状態だったので、却って私達のことをただの侵入者と捉えず、違った意味で『遊び相手』のように思ったわけだ。

 高橋:「仮にいたとしても、あのカプセルの中にいたと思います。もうここにはいないですよ」
 愛原:「そうか。そいつは残念だ」
 高橋:「それより早く脱出を……」
 愛原:「待て。もう少し探してみよう」
 高橋:「ええっ?」
 愛原:「探偵というのはな、証拠集めに貪欲でないとダメなんだ。どこかに忘れられた物的証拠があるかもしれない」
 高橋:「! メモっておきます!……でも、タイラントが……」
 愛原:「分かった。じゃあ、お前は廊下で見張ってろ。どうせトロッコの乗り場は、あの先だ。タイラントがやってきたら、全力ダッシュで逃げるぞ」
 高橋:「分かりました」

 見取り図だけで分からない、『これ何の部屋?』的なところがあるんだよなぁ。
 衣装部屋だって、ただの『倉庫』ってしか書いてなかったし。
 クロゼットを開けると……うん、やっぱりここにリサの仲間がいたんだろうなぁというものがある。
 それは10代前半の少女が着るであろう下着。
 リサもこういうショーツをはいてるなぁというのが結構入っている。
 最初はこんな所にあるわけないと思い、すぐにクロゼットを閉めたのだが、どうも怪しい。
 いや、変な意味じゃないよ。
 やはり、ここの研究所の関係者は慌てて出て行ったのだろうと思うところがある。
 で、タイラントの服が衣装部屋にあるということは、それ用の下着も無いとおかしいんだ。
 しかし、それは無く、恐らくリサの仲間の少女が着ていたと思われる下着だけが雑多にしまってある。
 そう、雑多に。
 他の服はちゃんとハンガーに掛けてあるのに、下着だけが雑多にしまわれていたのだ。

 高橋:「先生!何か、向こうのドアがブチ破られる音がしました!」
 愛原:「マジか!」
 高橋:「……って、何やってるんスか、先生!」
 愛原:「証拠探しに決まってんだろ!」
 高橋:「見た目だけなら下着ドロですよ?」
 愛原:「悪かったな!」

 そして、私は見つけた。
 白いショーツが何枚も重ねてしまわれている段の1番下に……。

 愛原:「おい、これ!」
 高橋:「あっ!」

 それはUSBメモリー。
 下着の中にわざわざ隠すようなことをしているくらいだから……。

 愛原:「これ、いい証拠じゃないか!?」
 高橋:「……かもしれませんね!」

 中身を確認したいところだが、衣装部屋の外に出るとタイラントが向こう側から歩いて来るのが分かった。

 愛原:「取りあえずこれだけ持って帰るぞ!」
 高橋:「先生、パンツは置いてって下さいよ!?」
 愛原:「おおっと!?」

 私達がトロッコの乗り場に向かうドアに走った時だった。

 愛原:「あれ!?……おい、開かないぞ!?」
 高橋:「ええっ!?電子ロックは解除したはずじゃ!?」
 愛原:「だよな!どうなってんだ、おい!?」
 高橋:「ロックが途中で引っ掛かってますね、これ!」
 愛原:「何だって!?」
 高橋:「このボロドアが!ちょっと待ってください!今、バールで……!」
 愛原:「そんなことしてる場合じゃない!一旦逃げるぞ!」
 高橋:「クソがっ!!」

 ムカついた高橋、ドアを思いっきり蹴っ飛ばす。
 私達は一旦、タイラントから逃げる為にドアから離れた。
 タイラントはあちこち破壊しながら私達を追い回す。

 愛原:「メチャクチャだな、おい!」

〔緊急連絡!所内の自爆プログラムが作動しました。当研究所は、あと10分で爆発します。所内の関係者は、直ちに避難してください〕

 今頃、自爆装置作動かよ!?
 と、その時だった。

 愛原:「!?」

 私のスマホに着信が入った。
 え?なに?ここ電波入るの?
 画面を見ると、リサからだった。
 そういえば中学校の入学祝に、スマホを持たせてあげたんだっけ。
 もっとも、私達が使うものと違って随分とシンプルなヤツだが。
 中学1年生に持たせるヤツだからな。

 愛原:「も、もしもし!?」
 リサ:「愛原さん、今どこにいるの?一緒に観光してくれないとつまんないよ〜」

 ブーたれているリサが電話の向こうにいた。
 で、私は閃いた。

 愛原:「リサ!ちょうどいい!お願いがある!」
 リサ:「お願い?」
 愛原:「俺達、タイラントに追われてるんだ!俺達の追撃をやめるよう言い付けてくれたら助かる!」
 リサ:「タイラント君が!?」

 私はスマホをスピーカーモードにした。

〔「タイラント君!そこの2人を追うのをやめなさい!!」〕

 タイラント:「!」

 タイラントはピタッと足を止めた。

〔「元の場所に戻りなさい!」〕

 タイラント:「御嬢……様……」

 タイラントは目を丸くすると、クルッと踵を返した。

 愛原:「おおっ、さすがだ!」
 高橋:「とんでもないですね……」

〔爆発まで、あと6分……〕

 愛原:「感心してる場合じゃない!早く行くぞ!」
 高橋:「はい!」
 愛原:「リサ、ありがとう!もうちょっとで仕事終わるから!!」
 リサ:「……一体、どこでお仕事してるの?」

 次の問題はトロッコ乗り場に行くドアが開かないことだ。
 だが……。

 高橋:「あれ?開いてる?」
 愛原:「マジか!やったやった。……あれか?さっきお前、思いっ切りガンッて蹴っ飛ばしただろ?」
 高橋:「は、はい」
 愛原:「そのショックで開いたんじゃないか?」
 高橋:「おおっ!」

〔爆発まで、あと5分〕

 愛原:「急ぐぞ!」
 高橋:「はい!」

 私達はトロッコの乗り場へ急いだ。
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