[1月21日14:10.天候:晴 東京都千代田区丸の内 都営バス東京駅丸の内北口バス停]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は銚子のホテル旧館に隠された旧・日本アンブレラ社の秘密研究所跡の調査結果を斉藤秀樹社長に報告しに行った。
我が事務所も日本政府エージェントや大手製薬企業から仕事を依頼されるまでになった。
霧生市のバイオハザードを生き抜いただけで、こうも変わるとは……。
ま、更に大きな転換を齎したのはリサの存在が大きいことだな。
愛原:「……ああ。というわけだ。今から事務所に戻るから」
私は事務所で留守番をしている高野君に電話連絡を入れた。
高橋:「先生、バス来ました」
愛原:「おう」
私は電話を切った。
全日本製薬の本社が丸の内にあって便利だ。
帰りのバス停もすぐ近くだからな。
社長室のある超高層ビル上階から、このバス停が見下ろせるんじゃないか。
〔「14時15分発、門前仲町、東京都現代美術館前、菊川駅前経由、錦糸町駅前行きです」〕
やってきた都営バスに乗り込む。
意外と本数は少なく、例えば錦糸町駅側から乗ろうとすると、この前の慰安旅行の帰りに乗って来た最終の特急列車が到着する時間には、とっくに終バスが終わっている有り様である。
それだけ利用者数が少ないということなのだろう。
少なくとも確かにこの時点では、まだ私達を含めて7〜8人しか乗り込まなかった。
愛原:「高橋、暑苦しいからくっつくな」
高橋:「先生、こういう所では詰めて1人でも多くの人が座れるようにするのがマナーじゃないですか」
愛原:「バスの1番後ろの席は4人用だからいいの!(※)」
※都営バスにおいては日野自動車ブルーリボンシティのみ。つまり、愛原達はその車種に乗っていることになる。都営バスのそのタイプは中央に大型の肘掛けがある為。
愛原:「それより、お前もスーツくらい買えよ」
高橋:「俺には似合わないです」
高橋は相変わらずのジャンパーにジーンズ姿だ。
そのジャンパーのデザインも……まあ、真面目な性格の人間は着ることはないだろうというもの。
短髪の金髪にピアスという出で立ちだから、その恰好は物凄くマッチするのだが、とても大企業の経営者を訪ねに行くような恰好ではないだろう。
その為、如何にアポイントを取っていることを主張しても、高橋だけは警備員に止められていた。
秘書さんが迎えに来てくれて、何とかOKになったから良かったものの……。
斉藤社長はこの事について大笑いしていたが。
愛原:「クライアントの中には社長のようなVIPもいるんだからさぁ……」
まあ、ドラマや映画なんかじゃ、こういう私みたいなスーツの者とラフな格好をしている後輩または部下の組み合わせって結構あるにはあるが、やっぱりそれはドラマや映画の中だけに通用する話だ。
高橋:「あの様子じゃ、高報酬確実ですね」
愛原:「まあな。銚子のことは、お前の働きぶりを評価するよ」
高橋:「ありがとうございます!」
愛原:「リサも今のところ安定しているし、政府機関からの報酬も定期的に入って来てる。当分の間は何とかうちの事務所も凌げるだろう。お前や高野君にも、十分な給料が払えそうだ」
そんなことを話しているうちに、バスのエンジンが掛かった。
〔「東京都現代美術館前、菊川駅前経由、錦糸町駅前行き、発車致します」〕
一部を除いてノンステップバスの前扉、内側方向に両側に開く2枚扉のことをグライドスライドドアという。
引き戸と折り戸のいいとこ取りを期待した設計らしい。
引き戸のように戸袋を必要とせず、折り戸のように内側に大きく開くスペースを必要としない。
〔発車します。お掴まりください〕
バスは定刻に発車した。
〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用くださいまして、ありがとうございます。このバスは東京都現代美術館前経由、錦糸町駅前行きです。次は呉服橋、呉服橋。……〕
高橋:「北区王子にいた頃は貧乏事務所でしたね」
愛原:「ああ。元々俺1人でやってたようなものだから、お前に給料が払えなかったな」
高橋:「俺が無理に頼んで弟子にしてもらったんです。むしろ俺が月謝を払わなくてはなりません」
愛原:「いいよいいよ。確かお前が押し掛け弟子になった初日、住み込みの為の部屋代と称して俺に大金寄越して来たじゃないか」
高橋:「そうでしたね」
愛原:「! あの大金、どこから持って来たんだ?」
高橋:「親の遺産ですよ」
愛原:「おい、オマエ、いいのかよ?」
高橋:「いいんです。俺は探偵の仕事をライフワークにしたいんで、その為には惜しまないです」
愛原:「そうか……」
確か1000万円くらいあったような気がするんだが、そういえばリサもそうだが、高橋の素性もあんまり知れてないなぁ……。
というか高野君もだ。
ここは1つ、近いうちに皆で腹を割った話でもする機会を設けようかな。
[同日15:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 都営バス菊川駅前バス停]
〔ピンポーン♪ 次は菊川駅前、菊川駅前でございます。都営地下鉄新宿線をご利用のお客様は、お乗り換えです。次は、菊川駅前でございます〕
愛原:「おっ、次だな。高橋、ピンポンよろしく」
高橋:「へい」
高橋、バッグの中から卓球のラケットと……。
愛原:「そのピンポンじゃねぇ!」
〔次、止まります。……〕
そんなやり取りをしている間に、他の乗客が降車ボタンを押してくれた。
ていうか、ボケようと思ったのか、わざわざそんなものまで持って来て、こいつは……!
〔「ご乗車ありがとうございました。菊川駅前です。菊川駅の入口はバスの進行方向にございます」〕
バスが到着し、私達は中扉から降りた。
愛原:「急いで事務所に戻るぞ。今度は善場さんに連絡しなくちゃいかん」
高橋:「はい」
私達は菊川駅の方向に歩いた。
もちろん、菊川駅そのものに用があるわけではない。
私達を乗せて来たバスは、私達を追い越して行く。
そして、駅前の交差点まで来た時だった。
リサ:「愛原さんとお兄ちゃん!」
下校途中のリサと遭遇した。
今のリサは完全に人間に化けており、BOWの片鱗は全く見せていない。
ここまで上手く化けられるBOWは初めてではなかろうか。
記録では人間の姿を保ったままのBOW自体は過去にもあったようだが、理性や知性が落ちてしまい、とても社会に溶け込める状態では無かったという。
愛原:「おう、リサ。今帰りか。斉藤さんは?」
リサ:「さっきそこで別れた」
愛原:「そうか」
菊川地区もなかなか広いもので、同じ地区で徒歩圏内とはいえ、斉藤絵恋さんが住んでいるマンションと私達の事務所は少し離れている。
リサ:「銚子のぬれ煎餅を皆に配ったら喜んでくれた」
愛原:「それは良かった」
一瞬学校にそんなもの持って行かせて大丈夫かと思ったが、そこまで厳しい校則ではないようだ。
愛原:「俺達、事務所に戻る途中だけど、一緒に来るか?」
リサ:「うん」
というわけで私達はリサと合流して、事務所へ向かった。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は銚子のホテル旧館に隠された旧・日本アンブレラ社の秘密研究所跡の調査結果を斉藤秀樹社長に報告しに行った。
我が事務所も日本政府エージェントや大手製薬企業から仕事を依頼されるまでになった。
霧生市のバイオハザードを生き抜いただけで、こうも変わるとは……。
ま、更に大きな転換を齎したのはリサの存在が大きいことだな。
愛原:「……ああ。というわけだ。今から事務所に戻るから」
私は事務所で留守番をしている高野君に電話連絡を入れた。
高橋:「先生、バス来ました」
愛原:「おう」
私は電話を切った。
全日本製薬の本社が丸の内にあって便利だ。
帰りのバス停もすぐ近くだからな。
社長室のある超高層ビル上階から、このバス停が見下ろせるんじゃないか。
〔「14時15分発、門前仲町、東京都現代美術館前、菊川駅前経由、錦糸町駅前行きです」〕
やってきた都営バスに乗り込む。
意外と本数は少なく、例えば錦糸町駅側から乗ろうとすると、この前の慰安旅行の帰りに乗って来た最終の特急列車が到着する時間には、とっくに終バスが終わっている有り様である。
それだけ利用者数が少ないということなのだろう。
少なくとも確かにこの時点では、まだ私達を含めて7〜8人しか乗り込まなかった。
愛原:「高橋、暑苦しいからくっつくな」
高橋:「先生、こういう所では詰めて1人でも多くの人が座れるようにするのがマナーじゃないですか」
愛原:「バスの1番後ろの席は4人用だからいいの!(※)」
※都営バスにおいては日野自動車ブルーリボンシティのみ。つまり、愛原達はその車種に乗っていることになる。都営バスのそのタイプは中央に大型の肘掛けがある為。
愛原:「それより、お前もスーツくらい買えよ」
高橋:「俺には似合わないです」
高橋は相変わらずのジャンパーにジーンズ姿だ。
そのジャンパーのデザインも……まあ、真面目な性格の人間は着ることはないだろうというもの。
短髪の金髪にピアスという出で立ちだから、その恰好は物凄くマッチするのだが、とても大企業の経営者を訪ねに行くような恰好ではないだろう。
その為、如何にアポイントを取っていることを主張しても、高橋だけは警備員に止められていた。
秘書さんが迎えに来てくれて、何とかOKになったから良かったものの……。
斉藤社長はこの事について大笑いしていたが。
愛原:「クライアントの中には社長のようなVIPもいるんだからさぁ……」
まあ、ドラマや映画なんかじゃ、こういう私みたいなスーツの者とラフな格好をしている後輩または部下の組み合わせって結構あるにはあるが、やっぱりそれはドラマや映画の中だけに通用する話だ。
高橋:「あの様子じゃ、高報酬確実ですね」
愛原:「まあな。銚子のことは、お前の働きぶりを評価するよ」
高橋:「ありがとうございます!」
愛原:「リサも今のところ安定しているし、政府機関からの報酬も定期的に入って来てる。当分の間は何とかうちの事務所も凌げるだろう。お前や高野君にも、十分な給料が払えそうだ」
そんなことを話しているうちに、バスのエンジンが掛かった。
〔「東京都現代美術館前、菊川駅前経由、錦糸町駅前行き、発車致します」〕
一部を除いてノンステップバスの前扉、内側方向に両側に開く2枚扉のことをグライドスライドドアという。
引き戸と折り戸のいいとこ取りを期待した設計らしい。
引き戸のように戸袋を必要とせず、折り戸のように内側に大きく開くスペースを必要としない。
〔発車します。お掴まりください〕
バスは定刻に発車した。
〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用くださいまして、ありがとうございます。このバスは東京都現代美術館前経由、錦糸町駅前行きです。次は呉服橋、呉服橋。……〕
高橋:「北区王子にいた頃は貧乏事務所でしたね」
愛原:「ああ。元々俺1人でやってたようなものだから、お前に給料が払えなかったな」
高橋:「俺が無理に頼んで弟子にしてもらったんです。むしろ俺が月謝を払わなくてはなりません」
愛原:「いいよいいよ。確かお前が押し掛け弟子になった初日、住み込みの為の部屋代と称して俺に大金寄越して来たじゃないか」
高橋:「そうでしたね」
愛原:「! あの大金、どこから持って来たんだ?」
高橋:「親の遺産ですよ」
愛原:「おい、オマエ、いいのかよ?」
高橋:「いいんです。俺は探偵の仕事をライフワークにしたいんで、その為には惜しまないです」
愛原:「そうか……」
確か1000万円くらいあったような気がするんだが、そういえばリサもそうだが、高橋の素性もあんまり知れてないなぁ……。
というか高野君もだ。
ここは1つ、近いうちに皆で腹を割った話でもする機会を設けようかな。
[同日15:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 都営バス菊川駅前バス停]
〔ピンポーン♪ 次は菊川駅前、菊川駅前でございます。都営地下鉄新宿線をご利用のお客様は、お乗り換えです。次は、菊川駅前でございます〕
愛原:「おっ、次だな。高橋、ピンポンよろしく」
高橋:「へい」
高橋、バッグの中から卓球のラケットと……。
愛原:「そのピンポンじゃねぇ!」
〔次、止まります。……〕
そんなやり取りをしている間に、他の乗客が降車ボタンを押してくれた。
ていうか、ボケようと思ったのか、わざわざそんなものまで持って来て、こいつは……!
〔「ご乗車ありがとうございました。菊川駅前です。菊川駅の入口はバスの進行方向にございます」〕
バスが到着し、私達は中扉から降りた。
愛原:「急いで事務所に戻るぞ。今度は善場さんに連絡しなくちゃいかん」
高橋:「はい」
私達は菊川駅の方向に歩いた。
もちろん、菊川駅そのものに用があるわけではない。
私達を乗せて来たバスは、私達を追い越して行く。
そして、駅前の交差点まで来た時だった。
リサ:「愛原さんとお兄ちゃん!」
下校途中のリサと遭遇した。
今のリサは完全に人間に化けており、BOWの片鱗は全く見せていない。
ここまで上手く化けられるBOWは初めてではなかろうか。
記録では人間の姿を保ったままのBOW自体は過去にもあったようだが、理性や知性が落ちてしまい、とても社会に溶け込める状態では無かったという。
愛原:「おう、リサ。今帰りか。斉藤さんは?」
リサ:「さっきそこで別れた」
愛原:「そうか」
菊川地区もなかなか広いもので、同じ地区で徒歩圏内とはいえ、斉藤絵恋さんが住んでいるマンションと私達の事務所は少し離れている。
リサ:「銚子のぬれ煎餅を皆に配ったら喜んでくれた」
愛原:「それは良かった」
一瞬学校にそんなもの持って行かせて大丈夫かと思ったが、そこまで厳しい校則ではないようだ。
愛原:「俺達、事務所に戻る途中だけど、一緒に来るか?」
リサ:「うん」
というわけで私達はリサと合流して、事務所へ向かった。