[1月2日08:46.天候:晴 東京都墨田区菊川 都営バス菊川駅前停留所]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は斉藤社長の依頼で、一人娘の斉藤絵恋さんを接待……もとい、旅行に連れて行くというミッションを行うところだ。
行先やルートまで決めてくれているので、それに従って目的地に行けばいいことになっている。
但し、それはおおまかな話。
宿泊先のホテルとか、長距離便が決まっているというだけだ。
例えば私達はこれから東京駅に行くわけだが、その東京駅に行くルートまでは指定されていない。
愛原:「みんな、ちゃんと付いてきて偉いな?」
高橋:「当たり前っすよ!俺は先生の為なら、地獄の果てまで付いていく覚悟ですから!」
絵恋:「私もリサさんの為なら、どこまでも付いて行きます!」
高橋:「おっ、そうだぜクソガキ!その意気だ!」
LGBTのG(自称)の高橋と、L(ガチ?)の絵恋さんが初めて意気投合した。
……いや、初めてじゃなかったかな。
絵恋:「あ、バスが来ましたよ」
愛原:「ああ」
休日ダイヤの始発のバスがやってきた。
〔東京都現代美術館前、門前仲町、日本橋経由、東京駅丸の内北口行きでございます。……〕
先日初詣に行った富岡八幡宮の前を通るバスだから混んでいるかなと思ったが、そうでもなかった。
私達は後ろの席に座った。
〔発車致します。お掴まりください〕
何の変哲もないノンステップバスは数えるほどの乗客を乗せて発車した。
〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。この都営バスは東京都現代美術館前、門前仲町、日本橋経由、東京駅丸の内北口行きでございます。次は森下五丁目、森下五丁目でございます。……〕
愛原:「しかし……」
2人席に座る私が資料を出して首を傾げた。
高橋:「何ですか?」
隣に座る高橋が案の定、リアクションしてくれる。
愛原:「この前は東北に行かされてエラい目に遭ったわけだけど……。今度は静岡か」
高橋:「意外と近いっスね。東名なら何度も走ってましたから、俺に言ってくれれば車出しますよ」
高野:「なーに言ってるの。この免停野郎」
私達の1つ前の1人席に座る高野君が振り向いて、高橋にツッコんだ。
本来ならそこで反発する高橋だが、姉貴分の高野君には頭が上がらず……。
高橋:「ぐ……!」
愛原;「メイドさんがチラっと言ってたんだが、やっぱり本当は東北に行ってもらいたかったらしいぞ?表向きは『スキー旅行』ということで」
高野:「ああ。まだ雪が少ないですから、今はスキー場がフル営業できないらしいですよ。私の友達が山形蔵王にスキーに行ってるんですけど、滑れるゲレンデが少なくて困ってるそうです」
豪雪地帯でそれか。
今冬は暖冬かな?
それとも2月に赤字補填分のドカ雪が降るか。
愛原:「キミ達は昨年、学校のスキー教室でガーラ湯沢まで行ったでしょ?今年は行かないの?」
絵恋:「スキー教室に行くのは1年生です。2年生は山か海で野外活動ですよ。で、3年生は修学旅行です」
私立は行事が多いな。
これの参加費用だけでも、貧困層の家庭には辛いところだろう。
これだけなら私立だからしょうがないという言い訳もできるが、少子化による児童・生徒争奪戦は公立校にも及んでいるそうで、その一環なのか、修学旅行の豪華化があるという。
公立校であっても、修学旅行の行先選択が海外しか無く、貧困層の家庭の子が費用を捻出できずに参加ができない問題が発生しているのだとか。
見かねた学校によっては、1泊2日で近場の温泉旅行という選択肢を盛り込んだ所もあったらしいが、それでも費用が捻出できないと。
貧富の差は、ますます激しくなっている。
愛原:「そうか。さぞかし、タヒチとかバリ島とか、豪華な行き先なんだろうな」
絵恋:「北海道もありますし、沖縄もありますよ。でも、リサさんはパスポートも持っていないんですって?」
愛原:「ああ、そうなんだ」
世界機関の取り決めで、BOWの国家間移動が禁止されているからな。
そのせいだ。
絵恋:「でもたまに、熱海1泊2日とかイミフなコースが出ることがあるらしいんですけど、これって何なんでしょうね?PTAで聞いてます?」
愛原:「さぁ……?」
それが貧困層の家庭対策だよ!このセレブ娘め!
リサ:「私、温泉好き。熱海でもいいかも」
絵恋:「えぇえ?リサさんがそういうなら、一緒に行ってもいいわよぉ」
愛原:「国内だったらどこでもいいよ」
幸いリサの学費は政府機関が面倒を看てくれている。
リサが成人し、大学まで卒業させた後は政府エージェントとして使うつもりらしい。
BOWではないが、アメリカには幼少時にウィルスに感染し、それが違う形で体に残ったおかげで驚異的な身体能力を手にしたエージェントが存在するという。
日本も負けてはいられないというわけか。
カルロス・ゴーン逃がした時点で、【お察しください】。
[同日09:15.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]
私たちを乗せた都営バスは、無事に東京駅に着いた。
愛原:「じゃあ、ここから新幹線に乗り換えるよ」
リサ:「混んでる?」
愛原:「冬休みだし、正月三ヶ日だからな。でもまあ、東京駅は始発だし、“こだま”は空いてるから大丈夫だろう」
私は渡された新幹線のキップを見た。
自由席である。
恐らく急なことだったので、指定席が取れなかったのだろう。
例え“こだま”であったとしても。
愛原:「それじゃ行こう。少しは早めに行って、並んでる方がいいかもしれない」
高橋:「はい!」
私達はレンガ造りの駅舎が特徴の丸の内側から東京駅に入った。
吹き抜け天井のホールから見える改札内コンコースは、多くの旅客で賑わっているのが分かった。
まずは乗車券を改札機に突っ込んで、在来線コンコースへ……。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は斉藤社長の依頼で、一人娘の斉藤絵恋さんを接待……もとい、旅行に連れて行くというミッションを行うところだ。
行先やルートまで決めてくれているので、それに従って目的地に行けばいいことになっている。
但し、それはおおまかな話。
宿泊先のホテルとか、長距離便が決まっているというだけだ。
例えば私達はこれから東京駅に行くわけだが、その東京駅に行くルートまでは指定されていない。
愛原:「みんな、ちゃんと付いてきて偉いな?」
高橋:「当たり前っすよ!俺は先生の為なら、地獄の果てまで付いていく覚悟ですから!」
絵恋:「私もリサさんの為なら、どこまでも付いて行きます!」
高橋:「おっ、そうだぜクソガキ!その意気だ!」
LGBTのG(自称)の高橋と、L(ガチ?)の絵恋さんが初めて意気投合した。
……いや、初めてじゃなかったかな。
絵恋:「あ、バスが来ましたよ」
愛原:「ああ」
休日ダイヤの始発のバスがやってきた。
〔東京都現代美術館前、門前仲町、日本橋経由、東京駅丸の内北口行きでございます。……〕
先日初詣に行った富岡八幡宮の前を通るバスだから混んでいるかなと思ったが、そうでもなかった。
私達は後ろの席に座った。
〔発車致します。お掴まりください〕
何の変哲もないノンステップバスは数えるほどの乗客を乗せて発車した。
〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。この都営バスは東京都現代美術館前、門前仲町、日本橋経由、東京駅丸の内北口行きでございます。次は森下五丁目、森下五丁目でございます。……〕
愛原:「しかし……」
2人席に座る私が資料を出して首を傾げた。
高橋:「何ですか?」
隣に座る高橋が案の定、リアクションしてくれる。
愛原:「この前は東北に行かされてエラい目に遭ったわけだけど……。今度は静岡か」
高橋:「意外と近いっスね。東名なら何度も走ってましたから、俺に言ってくれれば車出しますよ」
高野:「なーに言ってるの。この免停野郎」
私達の1つ前の1人席に座る高野君が振り向いて、高橋にツッコんだ。
本来ならそこで反発する高橋だが、姉貴分の高野君には頭が上がらず……。
高橋:「ぐ……!」
愛原;「メイドさんがチラっと言ってたんだが、やっぱり本当は東北に行ってもらいたかったらしいぞ?表向きは『スキー旅行』ということで」
高野:「ああ。まだ雪が少ないですから、今はスキー場がフル営業できないらしいですよ。私の友達が山形蔵王にスキーに行ってるんですけど、滑れるゲレンデが少なくて困ってるそうです」
豪雪地帯でそれか。
今冬は暖冬かな?
それとも2月に赤字補填分のドカ雪が降るか。
愛原:「キミ達は昨年、学校のスキー教室でガーラ湯沢まで行ったでしょ?今年は行かないの?」
絵恋:「スキー教室に行くのは1年生です。2年生は山か海で野外活動ですよ。で、3年生は修学旅行です」
私立は行事が多いな。
これの参加費用だけでも、貧困層の家庭には辛いところだろう。
これだけなら私立だからしょうがないという言い訳もできるが、少子化による児童・生徒争奪戦は公立校にも及んでいるそうで、その一環なのか、修学旅行の豪華化があるという。
公立校であっても、修学旅行の行先選択が海外しか無く、貧困層の家庭の子が費用を捻出できずに参加ができない問題が発生しているのだとか。
見かねた学校によっては、1泊2日で近場の温泉旅行という選択肢を盛り込んだ所もあったらしいが、それでも費用が捻出できないと。
貧富の差は、ますます激しくなっている。
愛原:「そうか。さぞかし、タヒチとかバリ島とか、豪華な行き先なんだろうな」
絵恋:「北海道もありますし、沖縄もありますよ。でも、リサさんはパスポートも持っていないんですって?」
愛原:「ああ、そうなんだ」
世界機関の取り決めで、BOWの国家間移動が禁止されているからな。
そのせいだ。
絵恋:「でもたまに、熱海1泊2日とかイミフなコースが出ることがあるらしいんですけど、これって何なんでしょうね?PTAで聞いてます?」
愛原:「さぁ……?」
それが貧困層の家庭対策だよ!このセレブ娘め!
リサ:「私、温泉好き。熱海でもいいかも」
絵恋:「えぇえ?リサさんがそういうなら、一緒に行ってもいいわよぉ」
愛原:「国内だったらどこでもいいよ」
幸いリサの学費は政府機関が面倒を看てくれている。
リサが成人し、大学まで卒業させた後は政府エージェントとして使うつもりらしい。
BOWではないが、アメリカには幼少時にウィルスに感染し、それが違う形で体に残ったおかげで驚異的な身体能力を手にしたエージェントが存在するという。
日本も負けてはいられないというわけか。
カルロス・ゴーン逃がした時点で、【お察しください】。
[同日09:15.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]
私たちを乗せた都営バスは、無事に東京駅に着いた。
愛原:「じゃあ、ここから新幹線に乗り換えるよ」
リサ:「混んでる?」
愛原:「冬休みだし、正月三ヶ日だからな。でもまあ、東京駅は始発だし、“こだま”は空いてるから大丈夫だろう」
私は渡された新幹線のキップを見た。
自由席である。
恐らく急なことだったので、指定席が取れなかったのだろう。
例え“こだま”であったとしても。
愛原:「それじゃ行こう。少しは早めに行って、並んでる方がいいかもしれない」
高橋:「はい!」
私達はレンガ造りの駅舎が特徴の丸の内側から東京駅に入った。
吹き抜け天井のホールから見える改札内コンコースは、多くの旅客で賑わっているのが分かった。
まずは乗車券を改札機に突っ込んで、在来線コンコースへ……。