[1月27日19:00.天候:曇 埼玉県さいたま市中央区 稲生家1F・ダイニングルーム]
夕食を囲む稲生家とイリーナ組。
稲生宗一郎:「ささ、イリーナ先生、どうぞ一献」
イリーナ:「すいませんねぇ、いきなり押し掛けちゃって……」
宗一郎:「いえ、勇太から事前に話は聞いていたので、どうぞお気になさらず……」
稲生佳子:「どうぞ、ごゆっくりなさって行ってくださいね」
イリーナ:「スゥパスィーバ。ありがとうございます」
宗一郎:「つきましては、来年度の我が社の行く末等について占って頂きたいと……」
イリーナ:「ええ、そりゃもう。一宿一飯の御礼がそんなもので申し訳無いですぅ」
宗一郎:「先生の占いは、かのプーチン大統領も求めたというではありませんか。私も占ってもらえて光栄です」
イリーナ:「全幅の信頼、ありがとうございます」
マリア:(プーチン大統領が『日本との外交はどうするべきか?』と聞かれて占ってたことは、日本人達には内緒にしておこう。多分、『北方領土は絶対に返すな』とか言ったはずだから、バレたら勇太がキレる)
稲生勇太:「マリアさんもどうぞ。ワインなら行けますよね?」
マリア:「ああ、うん。ありがとう。勇太はビールなんだね」
勇太:「あまりアルコール度数が高いのは苦手で……」
マリア:「甘い酒なら大丈夫なんじゃないの?私だって、ワインは甘口の方が飲める」
勇太:「どうですかねぇ……」
宗一郎:「明日はどのようなご予定で?」
イリーナ:「お恥ずかしい話、特段決めてないのですよ。私のスケジュール調整が上手く行かず、息子さんを年末年始に帰省させてあげられなかったもので、取りあえずということで……」
宗一郎:「お気遣い、ありがとうございます」
マリア:「師匠、明日から天気が悪くなるみたいですが……」
イリーナ:「そうみたいね。それも予定を決めかねる原因なのよ」
勇太:「別に家の中で過ごしててもいいんじゃないですか?マリアさんのことだから、魔導書の一冊くらいもって来ているでしょうし……」
マリア:「何だよ、私のことだからって……。合ってるけど」
イリーナ:「じゃ、明日は自習でよろしく」
マリア:「勇太の帰省ですよね?勇太の希望は聞かないんですか?」
勇太:「あ、いや、マリアさん。別にいいんですよ。強いて言うなら、帰りのキップでも買って来ようかなとは思うんですが」
イリーナ:「そりゃいいねぇ。明日カード預けるから、いい席を頼むよ?」
宗一郎:「勇太、幸い北陸新幹線にはグランクラスがある。それだぞ?」
勇太:「あ、いや、その……」
イリーナ:「勇太君のお父さん、私はファーストクラスには乗らない主義なんです」
宗一郎:「そ、そうなんですか?」
イリーナ:「私とてダンテ流魔法門創始者の弟子の身分です。なので、ビジネスクラス以下に乗る主義なんです。……ぶっちゃけ、荷馬車に便乗して旅したこともありましたし、特にこだわりは無いんですよ」
宗一郎:「そういうものですか」
イリーナ:「そういうものです」
すると宗一郎、カードケースの中から1枚のゴールドカードを出す。
宗一郎:「勇太、これで先生方のキップを買ってこい」
イリーナ:「いいんですよ。帰りのアシくらい、自分達で……」
宗一郎:「これから先生に占って頂けるんですから、これくらい当然です」
勇太:「う、うん。分かった」
雄太はクレカを受け取った。
勇太:(これで夜行バスの乗車券なんか買って来たら、メチャクチャ怒られそうだな……)
新幹線にしたって、結局長野駅で特急バスに乗り換えて白馬に行くのだから似たようなものなのだが……。
イリーナ:「勇太君、私は特にこだわりは無いからね?」
イリーナは相変わらず目を細めたまま微笑を浮かべて言った。
勇太:(もしかして、読まれてる?)
[同日21:00.天候:曇 稲生家2F・勇太の部屋]
稲生勇太は部屋におり、自分のスマホで電話していた。
相手は威吹邪甲。
かつて勇太と盟約を交わし、一時期この家に逗留していた妖狐である。
今では魔界王国アルカディアの王都アルカディアシティの南部郊外の日本人街に居住し、人間の女禰宜と結婚して一男を設けている。
また、住み込みの弟子もいる。
勇太:「新年の挨拶ができなくてさぁ、申し訳無かったね」
威吹:「いやー、寒中見舞いのハガキをくれただけでも嬉しいよ」
年賀状を送ることも忘れていた勇太だった。
で、気づいて送ろうとした時、既に年賀状のシーズンが過ぎていたので、急いで寒中見舞いを送った由。
それにしても、魔界に電話したり、寒中見舞いのハガキを送ったりと、魔道士の世界は凄い。
威吹:「まだ、魔女の屋敷にいるの?」
勇太:「いや、今は家。イリーナ先生が気を使ってくれて、旅先から帰る途中に寄ってくれたの」
威吹:「ほお、キミの家か。懐かしいな」
勇太:「まだ子供が小さいから大変だと思うけど、是非遊びに来なよ。さくらさんや威織君も連れてさ」
さくらとは威吹が結婚した人間の巫女である。
後に神職となり、禰宜になった(巫女は神職ではない)。
そして威織とは息子の名前である。
勇太:「うちの両親も喜ぶよ」
威吹:「是非そうさせてもらうよ。……ユタは、いつ結婚するの?相手はあの魔女か?」
勇太:「威吹!」
ユタとは勇太の愛称。
何故か妖怪がそう呼んで来ることが多く、何か意味があるのかと勇太は今でも首を傾げている。
つまり、今でも意味が分からない。
威吹:「ボクが先に結婚しちゃって本当に良かったのかな?」
勇太:「いいんだよ!恋愛はキミの方が先だったんだから!僕のことは気にしないでくれ」
威吹:「う、うん。だけど、今ではユタの気持ちを尊重できるよ。あの魔女が結婚相手でも、ユタが幸せならそれでいいと思う。もし決まったら教えてくれよ?ボクも何かお祝いがしたいから」
勇太:「威吹……」
威吹:「いででででっ!?こ、こら、威織!尻尾踏んでる!放せ、こら!引っ張るな!」
どうやら、小さい息子にじゃれつかれているようである。
勇太:「た、大変だね。それじゃ、また」
勇太は電話を切った。
勇太:(マリアとの子供かぁ……)
魔女と結婚すると、高確率で女の子が生まれてくるらしい。
『蛙の子は蛙』、『魔女の子は魔女』ということらしい。
勇太:(威吹と使い魔契約の話をしたかったけど、また後ででいいか)
勇太はそっと部屋の外を覗いてみた。
部屋の斜め向かいにはシャワールームがある。
マリアが好んでそこを使うのだが、どうやら出たようだ。
と、同時に階段を駆け下りて行く音が聞こえた。
勇太:(もしかしてマリア……今の話、聞いてたのかな?)
電話の話だから、魔法でも使わない限り盗聴はできないはずだが……。
夕食を囲む稲生家とイリーナ組。
稲生宗一郎:「ささ、イリーナ先生、どうぞ一献」
イリーナ:「すいませんねぇ、いきなり押し掛けちゃって……」
宗一郎:「いえ、勇太から事前に話は聞いていたので、どうぞお気になさらず……」
稲生佳子:「どうぞ、ごゆっくりなさって行ってくださいね」
イリーナ:「スゥパスィーバ。ありがとうございます」
宗一郎:「つきましては、来年度の我が社の行く末等について占って頂きたいと……」
イリーナ:「ええ、そりゃもう。一宿一飯の御礼がそんなもので申し訳無いですぅ」
宗一郎:「先生の占いは、かのプーチン大統領も求めたというではありませんか。私も占ってもらえて光栄です」
イリーナ:「全幅の信頼、ありがとうございます」
マリア:(プーチン大統領が『日本との外交はどうするべきか?』と聞かれて占ってたことは、日本人達には内緒にしておこう。多分、『北方領土は絶対に返すな』とか言ったはずだから、バレたら勇太がキレる)
稲生勇太:「マリアさんもどうぞ。ワインなら行けますよね?」
マリア:「ああ、うん。ありがとう。勇太はビールなんだね」
勇太:「あまりアルコール度数が高いのは苦手で……」
マリア:「甘い酒なら大丈夫なんじゃないの?私だって、ワインは甘口の方が飲める」
勇太:「どうですかねぇ……」
宗一郎:「明日はどのようなご予定で?」
イリーナ:「お恥ずかしい話、特段決めてないのですよ。私のスケジュール調整が上手く行かず、息子さんを年末年始に帰省させてあげられなかったもので、取りあえずということで……」
宗一郎:「お気遣い、ありがとうございます」
マリア:「師匠、明日から天気が悪くなるみたいですが……」
イリーナ:「そうみたいね。それも予定を決めかねる原因なのよ」
勇太:「別に家の中で過ごしててもいいんじゃないですか?マリアさんのことだから、魔導書の一冊くらいもって来ているでしょうし……」
マリア:「何だよ、私のことだからって……。合ってるけど」
イリーナ:「じゃ、明日は自習でよろしく」
マリア:「勇太の帰省ですよね?勇太の希望は聞かないんですか?」
勇太:「あ、いや、マリアさん。別にいいんですよ。強いて言うなら、帰りのキップでも買って来ようかなとは思うんですが」
イリーナ:「そりゃいいねぇ。明日カード預けるから、いい席を頼むよ?」
宗一郎:「勇太、幸い北陸新幹線にはグランクラスがある。それだぞ?」
勇太:「あ、いや、その……」
イリーナ:「勇太君のお父さん、私はファーストクラスには乗らない主義なんです」
宗一郎:「そ、そうなんですか?」
イリーナ:「私とてダンテ流魔法門創始者の弟子の身分です。なので、ビジネスクラス以下に乗る主義なんです。……ぶっちゃけ、荷馬車に便乗して旅したこともありましたし、特にこだわりは無いんですよ」
宗一郎:「そういうものですか」
イリーナ:「そういうものです」
すると宗一郎、カードケースの中から1枚のゴールドカードを出す。
宗一郎:「勇太、これで先生方のキップを買ってこい」
イリーナ:「いいんですよ。帰りのアシくらい、自分達で……」
宗一郎:「これから先生に占って頂けるんですから、これくらい当然です」
勇太:「う、うん。分かった」
雄太はクレカを受け取った。
勇太:(これで夜行バスの乗車券なんか買って来たら、メチャクチャ怒られそうだな……)
新幹線にしたって、結局長野駅で特急バスに乗り換えて白馬に行くのだから似たようなものなのだが……。
イリーナ:「勇太君、私は特にこだわりは無いからね?」
イリーナは相変わらず目を細めたまま微笑を浮かべて言った。
勇太:(もしかして、読まれてる?)
[同日21:00.天候:曇 稲生家2F・勇太の部屋]
稲生勇太は部屋におり、自分のスマホで電話していた。
相手は威吹邪甲。
かつて勇太と盟約を交わし、一時期この家に逗留していた妖狐である。
今では魔界王国アルカディアの王都アルカディアシティの南部郊外の日本人街に居住し、人間の女禰宜と結婚して一男を設けている。
また、住み込みの弟子もいる。
勇太:「新年の挨拶ができなくてさぁ、申し訳無かったね」
威吹:「いやー、寒中見舞いのハガキをくれただけでも嬉しいよ」
年賀状を送ることも忘れていた勇太だった。
で、気づいて送ろうとした時、既に年賀状のシーズンが過ぎていたので、急いで寒中見舞いを送った由。
それにしても、魔界に電話したり、寒中見舞いのハガキを送ったりと、魔道士の世界は凄い。
威吹:「まだ、魔女の屋敷にいるの?」
勇太:「いや、今は家。イリーナ先生が気を使ってくれて、旅先から帰る途中に寄ってくれたの」
威吹:「ほお、キミの家か。懐かしいな」
勇太:「まだ子供が小さいから大変だと思うけど、是非遊びに来なよ。さくらさんや威織君も連れてさ」
さくらとは威吹が結婚した人間の巫女である。
後に神職となり、禰宜になった(巫女は神職ではない)。
そして威織とは息子の名前である。
勇太:「うちの両親も喜ぶよ」
威吹:「是非そうさせてもらうよ。……ユタは、いつ結婚するの?相手はあの魔女か?」
勇太:「威吹!」
ユタとは勇太の愛称。
何故か妖怪がそう呼んで来ることが多く、何か意味があるのかと勇太は今でも首を傾げている。
つまり、今でも意味が分からない。
威吹:「ボクが先に結婚しちゃって本当に良かったのかな?」
勇太:「いいんだよ!恋愛はキミの方が先だったんだから!僕のことは気にしないでくれ」
威吹:「う、うん。だけど、今ではユタの気持ちを尊重できるよ。あの魔女が結婚相手でも、ユタが幸せならそれでいいと思う。もし決まったら教えてくれよ?ボクも何かお祝いがしたいから」
勇太:「威吹……」
威吹:「いででででっ!?こ、こら、威織!尻尾踏んでる!放せ、こら!引っ張るな!」
どうやら、小さい息子にじゃれつかれているようである。
勇太:「た、大変だね。それじゃ、また」
勇太は電話を切った。
勇太:(マリアとの子供かぁ……)
魔女と結婚すると、高確率で女の子が生まれてくるらしい。
『蛙の子は蛙』、『魔女の子は魔女』ということらしい。
勇太:(威吹と使い魔契約の話をしたかったけど、また後ででいいか)
勇太はそっと部屋の外を覗いてみた。
部屋の斜め向かいにはシャワールームがある。
マリアが好んでそこを使うのだが、どうやら出たようだ。
と、同時に階段を駆け下りて行く音が聞こえた。
勇太:(もしかしてマリア……今の話、聞いてたのかな?)
電話の話だから、魔法でも使わない限り盗聴はできないはずだが……。