[1月3日22:04.天候:晴 静岡県富士市 JR新富士駅]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
昨日から仕事で富士山の麓の町に来ていたのだが、その旅行も間もなく終わろうとした時、バイオテロに巻き込まれてしまった。
私達は間接的なもので済んだが、リサと斉藤絵恋さんが直接的に巻き込まれてしまった。
幸いリサの活躍により、絵恋さんにこれといったケガは無くて済んだ。
私達は絵恋さんが運ばれた病院に行って、やっと合流できたわけだ。
しかし、バイオテロとあっては、ケガが無いからと言って安心はできない。
リサはともかく、無傷の絵恋さんも様々な検査を受けさせられた。
で、ウィルスへの感染も陰性が確認できたということで、ようやっと退院できた頃には夜になっていた。
そして、善場主任らに送られて新幹線の駅までやってきたというわけだ。
善場主任らはその後の調査の為、富士宮市に残るという。
斉藤社長からはホテルを取るので、もう一泊休んでから帰京しても良いと言われた。
しかし、絵恋さんは肉体的なケガは無くても、精神的なケガはしていた。
即ち、スプラッターホラー映画でしか見れない光景をリアルで見てしまったという重大な精神的ダメージだ。
さすがにそれは、地元の救急医療センターでは治療できない。
一刻も早く帰京して受けさせるべきと私が判断したものだ。
〔♪♪♪♪。新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく1番線に、“こだま”684号、東京行きが到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に停車致します。グリーン車は8号車、9号車、10号車。自由席は1号車から7号車までと、13号車、14号車、15号車です。尚、全車両禁煙です。お煙草を吸われるお客様は、喫煙ルームをご利用ください。……〕
愛原:「新幹線の終電に乗るのも2回目だ。東海道新幹線は初めてかな」
〔「……当駅発車の“こだま”号、東京行きの最終電車です。ご利用のお客様は、お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕
N700系がポイントを渡って、副線上りホームに入ってくる。
夜の上り電車、しかも“こだま”号ということもあって、列車は空いていた。
これなら自由席でも、余裕で座れるな。
〔新富士、新富士です。新富士、新富士です。ご乗車、ありがとうございました〕
往路と同じ、1号車に乗り込んだ。
往路では先頭車だったが、今度は最後尾ということになる。
別に某魔導士見習いのようなことをしたわけではなく、いざという時、最後尾の方が安全だと思ったからだ。
あの埼京線最終電車の時も、最後尾に乗ったから助かったようなものだし。
愛原:「リサは絵恋さんと一緒に乗ってやってくれ」
リサ:「うん、そうする」
リサは絵恋さんを窓側に座らせると、自分は通路側に座った。
私達は3人席に座る。
往路と同じでこんな時間でも後続の“のぞみ”などに抜かれるらしく、停車時間が5分ほど取られていた。
愛原:「高橋」
高橋:「何でしょう?」
愛原:「ホームの自販機で飲み物を買って来てくれないか?俺はホットの缶コーヒーでいい。俺が好きな味は分かるな?」
高橋:「もちろんです」
愛原:「このコ達にも買って来てあげて。リサは何がいい?」
リサ:「オレンジジュース」
絵恋:「…………」
リサ:「サイトー」
絵恋:「……はっ!あ、あの……わ、私もリサさんと同じので」
愛原:「そういうわけだ。頼むぞ」
高橋:「分かりました」
高橋は頷くと、ホームに降りた。
と、同時に後続列車が轟音を立てて私達の列車を揺らしながら通過していった。
高野:「絵恋ちゃん、結構ショックを受けてますよ。ああやってボーッとしているのも、精神的ショックを受けた時の症状の1つです」
愛原:「いい思い出作りをするはずが、とんでもないことになってしまったな。こりゃ、報酬はカットされるかもしれん」
高野:「まさかあのタイミングでバイオテロが起きるなんて、誰も想像しませんでしたから。しょうがないですよ」
愛原:「それより、善場主任の指摘は本当に間違いなんだろうな?」
高野:「当たり前ですよ。私がエイダ・ウォンなわけないじゃないですか」
愛原:「いや、誰もそんなこと言ってねーし!」
しばらくして発車時刻になると、列車は定刻通りに走り出した。
と、高橋が戻ってくる。
高橋:「結構ギリギリでした!」
愛原:「いや、すまんね」
私は高橋から缶コーヒーを受け取った。
愛原:「サンクス」
高橋:「お安い御用です。……ほら、アネゴ」
高野:「あら?私にも買って来てくれたの?」
高橋:「後でゴネられると困るからな。アネゴは午後ティーでいいだろ」
高野:「そうね。ありがとう」
高橋:「ほらよ、オメーラ」
リサ:「ありがとう、お兄ちゃん。ほらサイトー、ジュース」
絵恋:「リサさん、もうこれで安心なんだよね?東京に帰れば、もう安全なんだよね!?」
リサ:「そのはず。それにもし奴らが現れたとしても、好き勝手させない。サイトーは私が守るもの」
もちろんリサの台詞は頼もしいものである。
だが、私の性格が悪いのだろうか。
当たり前と言えば当たり前なのだが、リサがどうもBOW視点で喋っているような気がしてならなかったのだ。
BOWの中には殺戮欲や食欲よりも独占欲が強い者もいて、リサ・トレヴァーもそうではないかと言われる。
アメリカのオリジナル版は気味の悪いマスクを被って、突入した特殊部隊の前に現れたとのことだが、このマスクは何人もの人間の女性の顔の生皮を剥いで繋ぎ合わせたものだという。
こっちのリサはそんな趣味は無いが、明らかに身近にいる私達を獲物として見ることがある。
まだ常識的な範囲ではあるが、ある程度食欲が強く、独占欲も強いようである。
前者は大の大人である私や高橋よりも食事量が明らかに多く、後者はこうして絵恋さんを独占しようとしているし、私もその候補に入っていて、高橋のいない所では結構ベッタリくっつかれていることも多々ある。
まだ御愛嬌の範囲で済んでいるが、度が過ぎると、さすがに注意しなくてはならないだろう。
絵恋:「ありがとう。リサさんなら絶対助けてくれると思った……」
絵恋さんが突然眠りに入った。
リサ:「! 先生、サイトーが気絶した!」
愛原:「大丈夫。怖い目に遭った場所からどんどん離れて、安全な所に向かっているという安心感で寝ちゃったんだよ」
高野:「そうよ。リサちゃんのことを全面的に信頼してるんだから、必ず守ってあげてね」
リサ:「なるほど。分かった」
リサは大きく頷くと、絵恋さんの手を握った。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
昨日から仕事で富士山の麓の町に来ていたのだが、その旅行も間もなく終わろうとした時、バイオテロに巻き込まれてしまった。
私達は間接的なもので済んだが、リサと斉藤絵恋さんが直接的に巻き込まれてしまった。
幸いリサの活躍により、絵恋さんにこれといったケガは無くて済んだ。
私達は絵恋さんが運ばれた病院に行って、やっと合流できたわけだ。
しかし、バイオテロとあっては、ケガが無いからと言って安心はできない。
リサはともかく、無傷の絵恋さんも様々な検査を受けさせられた。
で、ウィルスへの感染も陰性が確認できたということで、ようやっと退院できた頃には夜になっていた。
そして、善場主任らに送られて新幹線の駅までやってきたというわけだ。
善場主任らはその後の調査の為、富士宮市に残るという。
斉藤社長からはホテルを取るので、もう一泊休んでから帰京しても良いと言われた。
しかし、絵恋さんは肉体的なケガは無くても、精神的なケガはしていた。
即ち、スプラッターホラー映画でしか見れない光景をリアルで見てしまったという重大な精神的ダメージだ。
さすがにそれは、地元の救急医療センターでは治療できない。
一刻も早く帰京して受けさせるべきと私が判断したものだ。
〔♪♪♪♪。新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく1番線に、“こだま”684号、東京行きが到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に停車致します。グリーン車は8号車、9号車、10号車。自由席は1号車から7号車までと、13号車、14号車、15号車です。尚、全車両禁煙です。お煙草を吸われるお客様は、喫煙ルームをご利用ください。……〕
愛原:「新幹線の終電に乗るのも2回目だ。東海道新幹線は初めてかな」
〔「……当駅発車の“こだま”号、東京行きの最終電車です。ご利用のお客様は、お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕
N700系がポイントを渡って、副線上りホームに入ってくる。
夜の上り電車、しかも“こだま”号ということもあって、列車は空いていた。
これなら自由席でも、余裕で座れるな。
〔新富士、新富士です。新富士、新富士です。ご乗車、ありがとうございました〕
往路と同じ、1号車に乗り込んだ。
往路では先頭車だったが、今度は最後尾ということになる。
別に某魔導士見習いのようなことをしたわけではなく、いざという時、最後尾の方が安全だと思ったからだ。
あの埼京線最終電車の時も、最後尾に乗ったから助かったようなものだし。
愛原:「リサは絵恋さんと一緒に乗ってやってくれ」
リサ:「うん、そうする」
リサは絵恋さんを窓側に座らせると、自分は通路側に座った。
私達は3人席に座る。
往路と同じでこんな時間でも後続の“のぞみ”などに抜かれるらしく、停車時間が5分ほど取られていた。
愛原:「高橋」
高橋:「何でしょう?」
愛原:「ホームの自販機で飲み物を買って来てくれないか?俺はホットの缶コーヒーでいい。俺が好きな味は分かるな?」
高橋:「もちろんです」
愛原:「このコ達にも買って来てあげて。リサは何がいい?」
リサ:「オレンジジュース」
絵恋:「…………」
リサ:「サイトー」
絵恋:「……はっ!あ、あの……わ、私もリサさんと同じので」
愛原:「そういうわけだ。頼むぞ」
高橋:「分かりました」
高橋は頷くと、ホームに降りた。
と、同時に後続列車が轟音を立てて私達の列車を揺らしながら通過していった。
高野:「絵恋ちゃん、結構ショックを受けてますよ。ああやってボーッとしているのも、精神的ショックを受けた時の症状の1つです」
愛原:「いい思い出作りをするはずが、とんでもないことになってしまったな。こりゃ、報酬はカットされるかもしれん」
高野:「まさかあのタイミングでバイオテロが起きるなんて、誰も想像しませんでしたから。しょうがないですよ」
愛原:「それより、善場主任の指摘は本当に間違いなんだろうな?」
高野:「当たり前ですよ。私がエイダ・ウォンなわけないじゃないですか」
愛原:「いや、誰もそんなこと言ってねーし!」
しばらくして発車時刻になると、列車は定刻通りに走り出した。
と、高橋が戻ってくる。
高橋:「結構ギリギリでした!」
愛原:「いや、すまんね」
私は高橋から缶コーヒーを受け取った。
愛原:「サンクス」
高橋:「お安い御用です。……ほら、アネゴ」
高野:「あら?私にも買って来てくれたの?」
高橋:「後でゴネられると困るからな。アネゴは午後ティーでいいだろ」
高野:「そうね。ありがとう」
高橋:「ほらよ、オメーラ」
リサ:「ありがとう、お兄ちゃん。ほらサイトー、ジュース」
絵恋:「リサさん、もうこれで安心なんだよね?東京に帰れば、もう安全なんだよね!?」
リサ:「そのはず。それにもし奴らが現れたとしても、好き勝手させない。サイトーは私が守るもの」
もちろんリサの台詞は頼もしいものである。
だが、私の性格が悪いのだろうか。
当たり前と言えば当たり前なのだが、リサがどうもBOW視点で喋っているような気がしてならなかったのだ。
BOWの中には殺戮欲や食欲よりも独占欲が強い者もいて、リサ・トレヴァーもそうではないかと言われる。
アメリカのオリジナル版は気味の悪いマスクを被って、突入した特殊部隊の前に現れたとのことだが、このマスクは何人もの人間の女性の顔の生皮を剥いで繋ぎ合わせたものだという。
こっちのリサはそんな趣味は無いが、明らかに身近にいる私達を獲物として見ることがある。
まだ常識的な範囲ではあるが、ある程度食欲が強く、独占欲も強いようである。
前者は大の大人である私や高橋よりも食事量が明らかに多く、後者はこうして絵恋さんを独占しようとしているし、私もその候補に入っていて、高橋のいない所では結構ベッタリくっつかれていることも多々ある。
まだ御愛嬌の範囲で済んでいるが、度が過ぎると、さすがに注意しなくてはならないだろう。
絵恋:「ありがとう。リサさんなら絶対助けてくれると思った……」
絵恋さんが突然眠りに入った。
リサ:「! 先生、サイトーが気絶した!」
愛原:「大丈夫。怖い目に遭った場所からどんどん離れて、安全な所に向かっているという安心感で寝ちゃったんだよ」
高野:「そうよ。リサちゃんのことを全面的に信頼してるんだから、必ず守ってあげてね」
リサ:「なるほど。分かった」
リサは大きく頷くと、絵恋さんの手を握った。