[4月2日07:30.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学のマンション→都営地下鉄菊川駅]
リサは試着以外で初めて、高校の制服に袖を通した。
中等部の制服と比べて大きく変わった所は、シングルからダブルに変わったこと。
細部のデザインとしては名札を取り付ける箇所が無くなり、代わりに学年を表す階級章みたいなワッペンを取り付ける部分があることくらいだった。
リサ:「それじゃ、行ってきます」
愛原:「ああ。俺も後から行くから」
高等部の入学式も、新型コロナウィルス対策が取られていた。
1日組と2日組の2回に分けられ(1組から5組が1日組、6組から10組が2日目)、しかもそのうち2クラスか3クラスが2つある体育館に、それぞれ分かれて行うという徹底したソーシャルディスタンスぶりだった。
愛原:「俺も間違えないようにしないとな。高橋、送迎頼むぞ」
高橋:「うっス」
いや、リサ達は電車で行く。
せっかく通学定期を買ったのだから。
ルートは菊川~岩本町まで都営地下鉄新宿線、岩本町駅からは徒歩で秋葉原駅に移動し、そこから山手線か京浜東北線で上野といった感じにした。
岩本町駅と秋葉原駅は別駅ながら、定期券であれば連絡運輸の適用を受けられる(つまり、定期券を1枚に纏めることができる)。
リサ:「サイトー、おはよう」
斉藤絵恋:「お、おはよう、リサさん。何だか緊張するね」
リサ:「入学前オリエンテーションで一度行ってるから迷わない」
絵恋:「そ、そうなんだけど……」
3月30日と31日とに分かれて、入学前のオリエンテーションが行われた。
この時はまだ身分は中等部の学生だったので、制服は中学生のものを着ていた。
リサ:「早く行こう」
絵恋:「う、うん」
菊川駅に行くと、朝のラッシュで多くの利用者が入口に吸い込まれていた。
絵恋:「中等部の頃は徒歩通学だったから、こういうのも緊張するね」
リサ:「地上の電車だったらなぁ……」
もう1つのルートとして、岩本町駅から東京メトロ銀座線の神田駅乗り換えという案もあった。
ただ、岩本町駅から歩く距離は秋葉原駅とそんなに変わらないのと、そもそも神田駅では連絡運輸の適用は無く、なるべくなら地下を嫌うリサのトラウマを更に抉ることになるので、秋葉原乗り換えとした。
秋葉原から上野なら、実は東京メトロ日比谷線も並行していて、もしもJRが事故で止まったとしても、日比谷線でエスケープできるという選択肢もある(当然、振替輸送が適用される)。
斉藤:「凄い人ね……」
リサ:「『1番』のヤツ、聖クラリス女学院にこれで通ってたのか……」
地下鉄新宿線には振替輸送で乗っていたのだろう。
〔まもなく1番線に、各駅停車、笹塚行きが、短い8両編成で到着します。ドアから離れて、お待ちください〕
斉藤:「げっ!こんなに混んでるのに短い編成ですって!?」
リサ:「さすがに殺意が湧く」
斉藤:「ええっ!?」
リサ:「……って、愛原先生が言ってた」
東京発19時14分の宇都宮線、宇都宮行きが平日帰宅ラッシュ時にも関わらず、短い10両編成で運転する理不尽さよ(byさいたま市内在住だった頃の雲羽百三)。
〔「先頭車両1号車は、新宿まで女性専用車両です。ご理解とご協力をお願い致します」〕
リサ:「! サイトー、先頭車に行こう」
サイトー:「そうね」
リサ:(ていうか私、1番前か後ろに乗らないといけないんだった。BSAAが出動する)
リサに渡されたスマホにインストールされた特殊GPS。
リサはBOWとしてBSAAの監視下に置かれており、通学などの事情を除いて単独行動は許されていない。
鉄道車両に乗る時も、3両編成以上は先頭車か最後尾に乗るよう指示されている(先頭車や最後尾が機関車だったり、荷物車だったりする場合を除く)。
これは万が一リサが暴走した時、外部から攻撃する際に目標を定めやすいようにとのことだ。
これが守られない時、リサが暴走したと見做される。
〔1番線の電車は、各駅停車、笹塚行きです。きくかわ~、菊川~〕
東京都交通局の車両がやってくる。
先頭車も賑わってはいたが、乗り込むのにも苦労するほど混んでいる後部車両ほどではない。
〔1番線、ドアが閉まります〕
JR東海の車両と同じドアチャイムを鳴らす京王電車と違い、都営車はJR東日本と同じドアチャイムを鳴らして閉扉する。
斉藤は吊り革に掴まったが、リサはどこにも掴まらずにバランスを取った。
〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
以前は次の森下駅で都営大江戸線に乗り換え、そこから上野御徒町駅まで行って、更にJRに乗り換え、上野駅を目指すというルートも候補に挙がっていた。
しかし乗り換えが多く、却って不便なので、例えば雨が降っているのに傘を忘れたとか(このルートが一番雨に濡れにくい)、都営新宿線が止まっているとか(当然、振替輸送は適用される)、そういう選択肢に留めることにした。
斉藤:「いざとなったら、お父さんから渡されてるタクシーチケットを使うわよ」
リサ:「いざとなったら、ね」
[同日08:15.天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校]
岩本町駅で地下鉄を降り、多くの人で賑わう昭和通り(国道4号線)の歩道を秋葉原駅に向かって進む。
実は乗り換えが便利なのは、JRよりも東京メトロ日比谷線なのである。
途中で神田川に架かる和泉橋を渡るが、日比谷線の乗り場はそこを渡った所にある。
JR秋葉原駅は、もう少し先、更に信号を1つ渡った所にある。
また、どうやら定期代もメトロ経由の方が安いようである(初乗り運賃はJRの方が安いのだが)。
ただ、高校生の定期代なら同じ通学定期でも一般用よりは安いし、リサたっての希望ということもあるので、愛原はJR経由で買ってくれた。
秋葉原駅から京浜東北線の南浦和行きに乗り換えると、その電車は空いていて、2駅分着席した。
そして上野駅。
駅から歩いて行くと、しばらくして校門が見えて来る。
校門の入口には、入学式の看板が立てられていた。
入学生の中には、しっかり看板の前で記念撮影している者もいる。
斉藤:「リサさん!私達も一緒に撮りましょ!」
リサ:「ん」
斉藤とリサが互いのスマホで撮影していると……。
写真部員A:「写真部でーす!良かったら、撮りますよ!?この一眼レフカメラで!」
写真部員B:「良かったら写真部に入りませんかー!?」
斉藤:「早くも新入部員の勧誘やってる……」
リサ:「そこは中等部と変わらないね」
そして敷地内に入る。
リサが向かったのは、教育資料館という名の旧校舎。
東京中央学園創立時から存在する木造2階建ての旧校舎である。
中には入れないので、外から回った。
リサ:「おはようございます。今日からよろしくお願いします」
リサはある場所に向かって御辞儀をした。
そこは2階の女子トイレ。
お辞儀をした後で見上げると、いつの間にか開いている窓から、日本版リサ・トレヴァーが着けるような白い仮面を着け、リサと同じおかっぱ頭で、この学園の旧制服である夏用のセーラー服を着ている“トイレの花子さん”が見下ろしていた。
ただそれだけなので、“花子さん”がリサを歓迎してくれたのかは分からない。
だが、睨み付けるような視線は感じなかったので、『招かざる者めが!』ということはないようだ。
栗原蓮華:「こんな所に真っ先に行ったら、変な噂立てられるよ?この高校、噂話が好きだから」
そこへ蓮華がやってきた。
制服の階級章には、星が2つ付いている。
つまり、2年生という意味だ。
絵恋:「栗原さん」
リサ:「鬼斬りの蓮華……先輩」
蓮華:「ようこそ。高等部へ」
義足の左足からカチャカチャ金属音を鳴らして、蓮華が近づいて来た。
そして、右手を差し出す。
リサ:「よろしくお願いします」
斉藤:「よ、よろしくお願いします!」
リサが驚くほど素直に挨拶したので、絵恋も慌ててそれに倣った。
坂上:「おい、こんな所で何をしている!?」
そこへスーツ姿の男性教師がやってきた。
普段はジャージ姿の体育教師、坂上修一である。
実は斉藤絵恋の父親、斉藤秀樹の同級生でもある。
蓮華:「女子剣道部の入部勧誘ですよ。他意はありません」
坂上:「というか、お前達……」
リサ:「あ、どうも……」
斉藤:「その節は、父がお世話になりました」
坂上:「本当に入学したのか……。そうか……。まあいい。これから色々あると思うが、頑張れよ。とにかく、早く教室に入れ。栗原も戻れ。本当はこのタイミングで入部勧誘は違反なんだぞ?」
蓮華:「すいません。取りあえず先輩として、このコ達を教室まで案内してきます」
坂上:「ああ、分かった」
……在校生と入学生が立ち去ったのを見届けた坂上は、旧校舎の2階を見上げた。
坂上:「まだ彷徨ってるんですか」
坂上がつぶやくように言うと、“花子さん”はスーッと消えた。
もちろんそれは成仏したのではなく、一時的に姿を消しただけであると坂上は知っていた。
何故なら彼は、ここの在校生だった頃にも遭遇していたのだから。
リサは試着以外で初めて、高校の制服に袖を通した。
中等部の制服と比べて大きく変わった所は、シングルからダブルに変わったこと。
細部のデザインとしては名札を取り付ける箇所が無くなり、代わりに学年を表す階級章みたいなワッペンを取り付ける部分があることくらいだった。
リサ:「それじゃ、行ってきます」
愛原:「ああ。俺も後から行くから」
高等部の入学式も、新型コロナウィルス対策が取られていた。
1日組と2日組の2回に分けられ(1組から5組が1日組、6組から10組が2日目)、しかもそのうち2クラスか3クラスが2つある体育館に、それぞれ分かれて行うという徹底したソーシャルディスタンスぶりだった。
愛原:「俺も間違えないようにしないとな。高橋、送迎頼むぞ」
高橋:「うっス」
いや、リサ達は電車で行く。
せっかく通学定期を買ったのだから。
ルートは菊川~岩本町まで都営地下鉄新宿線、岩本町駅からは徒歩で秋葉原駅に移動し、そこから山手線か京浜東北線で上野といった感じにした。
岩本町駅と秋葉原駅は別駅ながら、定期券であれば連絡運輸の適用を受けられる(つまり、定期券を1枚に纏めることができる)。
リサ:「サイトー、おはよう」
斉藤絵恋:「お、おはよう、リサさん。何だか緊張するね」
リサ:「入学前オリエンテーションで一度行ってるから迷わない」
絵恋:「そ、そうなんだけど……」
3月30日と31日とに分かれて、入学前のオリエンテーションが行われた。
この時はまだ身分は中等部の学生だったので、制服は中学生のものを着ていた。
リサ:「早く行こう」
絵恋:「う、うん」
菊川駅に行くと、朝のラッシュで多くの利用者が入口に吸い込まれていた。
絵恋:「中等部の頃は徒歩通学だったから、こういうのも緊張するね」
リサ:「地上の電車だったらなぁ……」
もう1つのルートとして、岩本町駅から東京メトロ銀座線の神田駅乗り換えという案もあった。
ただ、岩本町駅から歩く距離は秋葉原駅とそんなに変わらないのと、そもそも神田駅では連絡運輸の適用は無く、なるべくなら地下を嫌うリサのトラウマを更に抉ることになるので、秋葉原乗り換えとした。
秋葉原から上野なら、実は東京メトロ日比谷線も並行していて、もしもJRが事故で止まったとしても、日比谷線でエスケープできるという選択肢もある(当然、振替輸送が適用される)。
斉藤:「凄い人ね……」
リサ:「『1番』のヤツ、聖クラリス女学院にこれで通ってたのか……」
地下鉄新宿線には振替輸送で乗っていたのだろう。
〔まもなく1番線に、各駅停車、笹塚行きが、短い8両編成で到着します。ドアから離れて、お待ちください〕
斉藤:「げっ!こんなに混んでるのに短い編成ですって!?」
リサ:「さすがに殺意が湧く」
斉藤:「ええっ!?」
リサ:「……って、愛原先生が言ってた」
東京発19時14分の宇都宮線、宇都宮行きが平日帰宅ラッシュ時にも関わらず、短い10両編成で運転する理不尽さよ(byさいたま市内在住だった頃の雲羽百三)。
〔「先頭車両1号車は、新宿まで女性専用車両です。ご理解とご協力をお願い致します」〕
リサ:「! サイトー、先頭車に行こう」
サイトー:「そうね」
リサ:(ていうか私、1番前か後ろに乗らないといけないんだった。BSAAが出動する)
リサに渡されたスマホにインストールされた特殊GPS。
リサはBOWとしてBSAAの監視下に置かれており、通学などの事情を除いて単独行動は許されていない。
鉄道車両に乗る時も、3両編成以上は先頭車か最後尾に乗るよう指示されている(先頭車や最後尾が機関車だったり、荷物車だったりする場合を除く)。
これは万が一リサが暴走した時、外部から攻撃する際に目標を定めやすいようにとのことだ。
これが守られない時、リサが暴走したと見做される。
〔1番線の電車は、各駅停車、笹塚行きです。きくかわ~、菊川~〕
東京都交通局の車両がやってくる。
先頭車も賑わってはいたが、乗り込むのにも苦労するほど混んでいる後部車両ほどではない。
〔1番線、ドアが閉まります〕
JR東海の車両と同じドアチャイムを鳴らす京王電車と違い、都営車はJR東日本と同じドアチャイムを鳴らして閉扉する。
斉藤は吊り革に掴まったが、リサはどこにも掴まらずにバランスを取った。
〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
以前は次の森下駅で都営大江戸線に乗り換え、そこから上野御徒町駅まで行って、更にJRに乗り換え、上野駅を目指すというルートも候補に挙がっていた。
しかし乗り換えが多く、却って不便なので、例えば雨が降っているのに傘を忘れたとか(このルートが一番雨に濡れにくい)、都営新宿線が止まっているとか(当然、振替輸送は適用される)、そういう選択肢に留めることにした。
斉藤:「いざとなったら、お父さんから渡されてるタクシーチケットを使うわよ」
リサ:「いざとなったら、ね」
[同日08:15.天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校]
岩本町駅で地下鉄を降り、多くの人で賑わう昭和通り(国道4号線)の歩道を秋葉原駅に向かって進む。
実は乗り換えが便利なのは、JRよりも東京メトロ日比谷線なのである。
途中で神田川に架かる和泉橋を渡るが、日比谷線の乗り場はそこを渡った所にある。
JR秋葉原駅は、もう少し先、更に信号を1つ渡った所にある。
また、どうやら定期代もメトロ経由の方が安いようである(初乗り運賃はJRの方が安いのだが)。
ただ、高校生の定期代なら同じ通学定期でも一般用よりは安いし、リサたっての希望ということもあるので、愛原はJR経由で買ってくれた。
秋葉原駅から京浜東北線の南浦和行きに乗り換えると、その電車は空いていて、2駅分着席した。
そして上野駅。
駅から歩いて行くと、しばらくして校門が見えて来る。
校門の入口には、入学式の看板が立てられていた。
入学生の中には、しっかり看板の前で記念撮影している者もいる。
斉藤:「リサさん!私達も一緒に撮りましょ!」
リサ:「ん」
斉藤とリサが互いのスマホで撮影していると……。
写真部員A:「写真部でーす!良かったら、撮りますよ!?この一眼レフカメラで!」
写真部員B:「良かったら写真部に入りませんかー!?」
斉藤:「早くも新入部員の勧誘やってる……」
リサ:「そこは中等部と変わらないね」
そして敷地内に入る。
リサが向かったのは、教育資料館という名の旧校舎。
東京中央学園創立時から存在する木造2階建ての旧校舎である。
中には入れないので、外から回った。
リサ:「おはようございます。今日からよろしくお願いします」
リサはある場所に向かって御辞儀をした。
そこは2階の女子トイレ。
お辞儀をした後で見上げると、いつの間にか開いている窓から、日本版リサ・トレヴァーが着けるような白い仮面を着け、リサと同じおかっぱ頭で、この学園の旧制服である夏用のセーラー服を着ている“トイレの花子さん”が見下ろしていた。
ただそれだけなので、“花子さん”がリサを歓迎してくれたのかは分からない。
だが、睨み付けるような視線は感じなかったので、『招かざる者めが!』ということはないようだ。
栗原蓮華:「こんな所に真っ先に行ったら、変な噂立てられるよ?この高校、噂話が好きだから」
そこへ蓮華がやってきた。
制服の階級章には、星が2つ付いている。
つまり、2年生という意味だ。
絵恋:「栗原さん」
リサ:「鬼斬りの蓮華……先輩」
蓮華:「ようこそ。高等部へ」
義足の左足からカチャカチャ金属音を鳴らして、蓮華が近づいて来た。
そして、右手を差し出す。
リサ:「よろしくお願いします」
斉藤:「よ、よろしくお願いします!」
リサが驚くほど素直に挨拶したので、絵恋も慌ててそれに倣った。
坂上:「おい、こんな所で何をしている!?」
そこへスーツ姿の男性教師がやってきた。
普段はジャージ姿の体育教師、坂上修一である。
実は斉藤絵恋の父親、斉藤秀樹の同級生でもある。
蓮華:「女子剣道部の入部勧誘ですよ。他意はありません」
坂上:「というか、お前達……」
リサ:「あ、どうも……」
斉藤:「その節は、父がお世話になりました」
坂上:「本当に入学したのか……。そうか……。まあいい。これから色々あると思うが、頑張れよ。とにかく、早く教室に入れ。栗原も戻れ。本当はこのタイミングで入部勧誘は違反なんだぞ?」
蓮華:「すいません。取りあえず先輩として、このコ達を教室まで案内してきます」
坂上:「ああ、分かった」
……在校生と入学生が立ち去ったのを見届けた坂上は、旧校舎の2階を見上げた。
坂上:「まだ彷徨ってるんですか」
坂上がつぶやくように言うと、“花子さん”はスーッと消えた。
もちろんそれは成仏したのではなく、一時的に姿を消しただけであると坂上は知っていた。
何故なら彼は、ここの在校生だった頃にも遭遇していたのだから。