報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「雨の帰り道」

2021-04-30 21:07:11 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月4日18:17.天候:雨 秋田県鹿角市十和田錦木 JR十和田南駅]

〔「まもなく十和田南、十和田南です。1番線に入ります。お出口は、左側です。十和田南から先は、列車の進行方向が変わります。乗務員交替を行いますので、しばらく停車致します。発車は18時23分です。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 窓には雨粒が当たっていた。
 私達が今乗っている車両は最後尾だから、この駅から先は先頭車へと変わるわけである。
 リサはとっくに駅弁を食い尽くし、今はポッキーを齧っていた。
 私は18時過ぎてからようやく駅弁に箸をつけたところで、まだ食べている。

 リサ:「6分停車かぁ。ジュース買いたいな」
 愛原:「おい」
 リサ:「ホームに無い?」
 愛原:「どうだろう?」

 列車はゆっくりと1面2線の島式ホームに到着した。
 ホームの手前でポイントを渡った感じだ。
 これが下り列車は同じくポイントを渡って、隣のホームに入るのだろう。
 しかし、この駅では上下列車の交換は行われないようだ。
 花輪線は好摩~盛岡間を除いて全線単線である為、途中駅で対向列車との交換が行われることがある。
 その時は数分の停車時間が設けられている。

〔「十和田南です。当駅で列車の進行方向が変わります。乗務員交替を行いますので、しばらく停車致します。発車は18時23分です。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 この駅は無人駅なのだろうか?
 改札口に駅員の姿は見られなかった。
 或いは昼間だけ勤務していて、早朝や夜間は配置されていないのかもしれない。
 だいたいそれは“みどりの窓口”の営業時間を見れば分かる。

 リサ:「駅の外にあった」

 リサは目ざとく自販機を見つけた。

 愛原:「分かったから買って来い。乗り遅れるなよ?」
 高橋:「先生、俺がちょっぱやで買ってきますよ。先生は何にしますか?」
 愛原:「じゃあ、食後のコーヒーってことで。ホットの缶コーヒー」
 リサ:「オレンジジュース」
 高橋:「行って来ます」

 降りしきる雨の中、高橋は列車を降りて行った。
 因みに高橋も早食いなので、もう食べ終わっている。
 現役探偵、元警備員たる私も、本来なら早食いでないといけないのは分かっている。
 だが、今はもう帰るだけなので、少しくらい旅情に浸らせてくれても良いではないか。

 リサ:「お兄ちゃん、タバコ持ってったよ?」
 愛原:「あの野郎、タバコが真の目的か」

 あいつ、長い停車時間の度に吸う気か?
 だが一応、車掌に断って行く辺り、あいつも律儀だな。
 本来、改札口を通る時点で途中下車と見做されてしまうのだが。
 恐らく、他にも喫煙者などが列車から降りて一服しに行く光景など、こういうローカル線では当たり前なのかもしれない(尚、作者は20年ほど昔、南東北のとあるローカル線を旅した際、対向列車の行き違いで5~6分ほど停車するような駅で、喫煙者達がホームの喫煙所で一服する光景を見ている。それだけならまだしも、乗務員も一緒になって喫煙しているのである。今なら問題になりそうな光景だが、一緒に吸っていた乗客達は誰一人文句を言うわけでもなく、私のような非喫煙者も温かい目で見ていたものである。また、東北地方の駅では、立ち食いソバを乗員乗客が一緒になって食べている光景を今でも見ることはできる)。

 ジュースを買うだけなら、すぐに戻って来れただろうに。

〔「お待たせ致しました。18時23分発、普通列車の盛岡行き、まもなく発車致します」〕

 構内踏切がカンカン鳴り始める中、高橋は戻って来た。

 高橋:「お待たせしました!」
 愛原:「おま、ギリギリだぞ!」
 高橋:「サーセン!」

 高橋はリサの隣に座った。
 と、列車が逆方向に走り出した。

〔「お待たせ致しました。普通列車の盛岡行きです。次は柴平、柴平です」〕

 高橋に買って来てもらった缶コーヒーは、窓の桟に置く。
 リサは早速、ペットボトル入りのジュースに口をつけた。

 愛原:「雨はどうだった?」
 高橋:「傘無いとキビしいっスね」
 愛原:「そうか」

[同日19:16.天候:雨 岩手県八幡平市荒屋新町 JR荒屋新町駅]

 私は車内のトイレで踏ん張っている。
 キハ110系のトイレが洋式で良かった。
 私は洋式派なので。

〔「まもなく荒屋新町、荒屋新町です。お出口は、右側です。当駅で対向列車との待ち合わせの為、7分停車致します。発車は19時23分です。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 ローカル線はのんびりしている。
 それでも距離的には、秋田駅経由より近いのだが。
 急いで帰りたかったら、それでも秋田空港から飛行機に乗った方がいいのかもな。
 私がズボンを穿いている時、列車が停車した。
 そして乗降扉のドアチャイムと、ドアの開く音がする。
 その後で、私は自分の席に戻った。

 愛原:「うわ、高橋の奴……」
 リサ:「うん、また吸いに行った」

 ホームには、タバコ片手にスタコラサッサと喫煙所に向かう高橋の姿があった。

 愛原:「それにしても……」

 と、私は思う。
 ここまで随分と牧歌的でローカルな所を走って来た……と思う。
 外はもう真っ暗で天気も悪いのだが、きっと晴れている昼間はそういう雰囲気なのだろう。
 この先にある安比高原駅は、そのままスキー場の名前にもなっているほどである。
 昔は都内からスキー列車が運転されていたほどだ。
 それはさておき、私が気になったのはBOWの存在である。

 愛原:「なあ、リサ」
 リサ:「なぁに?」
 愛原:「例えば新型BOWエブリンは、アメリカの田舎の農場でバイオハザードを起こした。他にも田舎でバイオハザード事件を起こしたBOWの例はいくつもある。もしもリサが、ここまででBOWの気配を感じたなら教えて欲しい」
 リサ:「特に無いよ。ていうか、あったらすぐに言うよ」
 愛原:「そうか」
 リサ:「それに、田舎だからBOWがいるとは限らないよ」
 愛原:「そうか?現にあのラーメン屋は、随分と町から離れた場所にあったじゃないか」
 リサ:「まあ、全体的な傾向としては……かもね。でも、私は?私というリサ・トレヴァー『2番』は東京に住んでるけど?元『12番』で『0番』の善場さんも都内在住だし、『1番』だって一時期都内にいたって話でしょ?」
 愛原:「まあ、それはそうなんだが……」

 私はむしろ都会在住のBOWの方が珍しいと思う。
 それができるのは、上手く人間に化けられる個体だけのような気がする。
 まあ、今回のラーメン屋の店員に化けていたBOWも、上手いこと化けていたようだが……。
 同じBOWのリサの鼻は誤魔化せなかったようだ。

 リサ:「仮にいたとしても、私がここにいる限り、先生達に手出しはさせないよ」
 愛原:「それは頼もしい」

 しかしそれはリサの正義感の発露ではなく、私達を獲物として横取りされたくないという独占欲に基づく物だということは知っていた。
 それでもリサの行いは、結果的に正義へと繋がっている。
 ……まあ、中にはイジメに繋がるものもあったが。

 そんなことを話している構内踏切が鳴って、対向列車が接近してきた。
 何か、高橋が踏切の向こうで絶望の声を上げている。
 もしかして、乗り遅れたとでも思っているのだろうか?
 対向列車がまず来ないと、この列車は発車できないぞ。
 今の運転取扱規則では、交換駅での上下列車の同時到着は禁止されているはずだから。

 高橋:「まだ発車時間前なのに、乗り遅れたと思いましたよ!」

 対向列車が入線して、再び開いた踏切をダッシュして渡って来た高橋。

 愛原:「んなワケない。まずは対向列車が来ないことには、この列車も発車できないから」
 リサ:「お兄ちゃん、アウトー」

 尚、同時入線は禁止されていても、同時発車はOKである。
 これはかつて六軒という駅で上下列車が同時に入線した際、衝突事故が起きた反省に基づくものである。

〔「お待たせ致しました。普通列車の盛岡行き、まもなく発車致します」〕

 下り列車が到着し、信号が開通したことで、この列車は発車することができた。
 
コメント (2)
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