報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「温泉へ行こう」 2

2021-04-08 19:56:24 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月28日09:57.天候:晴 東京都八王子市高尾町 JR高尾駅→中央本線437M列車6号車内]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 京王経由で東京都の西側に移動した私達は、ここでJRに乗り換えた。
 京王線の高尾駅はこぢんまりとしたものであるが、JRの方はホームが4番線まである(京王線は5番線と6番線)。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。4番線に停車中の列車は、9時57分発、普通、松本行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 中央線のホームで電車を待っていると、6両編成の中距離電車がやってきた。
 かつては高崎線や宇都宮線辺りで活躍したと思われる211系だ。
 多くは例え長距離運用でもロングシート車が割り当てられることも多いが、今回はボックスシート車が来た。
 乗車時間は短いとはいえ、そちらに乗ってみた。
 行楽には向いている座席だろう。
 これで一気に旅気分になる。
 藤野には何回か行ったが、電車の場合は通勤電車を利用した中央特快に乗ることもあったので、どちらかというと、そんなに旅気分は味わえなかった。
 それが今や……。
 自販機でジュースを買い、窓の桟に置けば完璧(211系には窓の下にテーブルは無い)。

〔「お待たせ致しました。9時57分発、中央本線、普通列車の松本行き、まもなく発車致します」〕

 ホームに発車メロディが鳴り響く。
 ドアが閉まる際、大きなエアー音が鳴り、ドアチャイムが無い所は旧国鉄車両を思わせる。
 そう、211系は旧国鉄時代に製造された車両である。
 185系が運用離脱するに当たって、撮り鉄が騒ぎを起こしてくれたが、あくまでも国鉄型特急車両がJR東日本から全廃されただけで、普通列車用のそれとしてはまだ地方線区に残っている。
 ガクンと発車するところは、デジタル制御された最近のJR車両とは違うアナログ感がある。

〔「本日もJRご利用頂きまして、ありがとうございます。ご乗車の列車は9時57分発、中央本線下り、普通列車の松本行きです。これから先、相模湖、藤野、上野原、四方津、梁川、鳥沢、猿橋、大月の順に、終点の松本まで各駅に停車致します。【中略】電車は6両編成での運転です。お手洗いは1番前の車両と、1番後ろの車両にございます。【中略】次は相模湖、相模湖です」〕

 愛原:「どうだ?一気に旅気分になれるだろう?」
 リサ:「うん、そうだね。地下鉄だとずっと地下だし、京王線でも通勤電車だったからね。これなら、本当に旅気分……」

 しかし、電車がトンネルに入ってしまった。
 湯の花トンネルだろう。
 第二次世界大戦末期、走行中の列車が米軍戦闘機P51に捕捉され、機銃掃射の集中砲火を浴びた現場である。
 高尾駅、当時は浅川駅という名前だったが、その駅に当該列車が停車していた時点で空襲警報は発令されていたが、空爆されやすい駅に留まるよりは、なるべく彼らの攻撃目標から離れ、且つトンネルの中に逃げ込んだ方が安全なのではという判断から、列車は出発した。
 しかしその判断は誤りだったのか、米軍側は爆撃機であるB29だけが飛んで来たわけではなかった。
 P51のパイロットはすぐさま、逃げる列車を捕捉して機銃掃射を開始、列車の先頭部分や2両目がトンネルに入った所で走行不能に陥らせ、集中砲火を浴びせたという。
 この列車は電気機関車が牽引しており、運転士がトンネルに入った所で非常ブレーキを掛けて停車したという説と、空爆後の現場は架線が切られていたことから、機銃掃射の際に架線が切れて停電してしまい、走行不能になった場所がトンネル内だったという説がある。
 今ではトンネルの外側に慰霊碑が建てられている。
 惨劇のあった場所柄、90年代のオカルトブームでは怪奇スポットとして紹介されたことがあるという。
 もちろん、今はそんなことはない。
 多分、リサなら第二次大戦の機銃程度では死なないだろうな。
 2013年、香港で起きたバイオハザードの際、ネオ・アンブレラを名乗るテロ集団に中国海軍の空母が乗っ取られたという事件があったが、この時、BSAAのクリス・レッドフィールド隊長は副隊長のピアーズ・ニヴァンスと共にハリアーで立ち向かったという記録がある。
 空母にハリアー1機で立ち向かうなんてハッキリ言って無謀だと思うが、さすかに空母は沈没まではしなかったものの、船橋などは火災を起こし、操舵不能にまではしたというから驚きだ。
 BSAAアメリカは米軍出身の隊員が多く、戦闘機乗りは例え自軍が1機でも、敵と見做した相手には集中砲火を浴びせるという習慣でもあるようだ。

 愛原:「さすがにハリアー相手なら倒せるかな……」
 高橋:「ハリアーでリサ、倒すんスか?先生なら倒せるんスね。さすがっス!」
 愛原:「いや、俺はさすがに(操縦)免許持ってないよ」
 高橋:「えっ?先生、車の免許お持ちですよね?」
 愛原:「あるよ」
 高橋:「えっ?」
 愛原:「えっ?」
 高橋:「トヨタのハリアーで、どうやってリサ倒すんスか?特攻っスか?」
 愛原:「アホ。戦闘機のハリアーのこと言ってんだよ」
 高橋:「ああ、そっちっスか!……どうなんでしょうね」
 愛原:「その前に、ネメシスにロケラン撃ち込まれて墜落するかもしれんな」
 高橋:「はあ……」

[同日10:15.天候:晴 神奈川県相模原市緑区 JR藤野駅]

 山沿いを走ることもあってか、列車はトンネルが断続的に続く区間を走行した。
 中央高速でも名物の小仏トンネルを通過する所がハイライトだ。
 湯の花トンネルで機銃掃射を浴びてしまった列車も、小仏トンネルに逃げ込めれば助かっただろうに。

〔「まもなく藤野、藤野です。お出口は、右側です」〕

 そして列車は最寄りの藤野駅に到着した。
 この辺りは本来、半自動ドアが実施されていた。
 即ち、ドアの開閉は乗客がドア横にあるボタンを押してするというシステムであった。
 これは車内保温の為である。
 しかし昨今の新型コロナウィルス流行により、車内保温よりも車内換気の方が優先され、換気を悪くする半自動方式はワンマン運転列車でしか行われなくなっている。
 ワンマン運転では引き続き行っているのは、不正乗車防止の為だろう。
 確かにJR東海とはいえ、この前利用した身延線ではしっかり半自動ドアとなっていた。

〔ふじの~、藤野~。ご乗車、ありがとうございます〕

 私達は狭いホームに降り立った。
 この辺りは平地が少なく、藤野駅は1面2線ではあるものの、通常の対向式ホームの1面分の幅しか無い。
 そこで藤野駅では上り下りのホームを互いにズラすことで、狭いホームに人が集中しないように対策している。

 リサ:「先生、ここからは?」
 愛原:「バスに乗り換えるぞ。それが最後の乗り換えだ」
 高橋:「実際、あの研修センターからは近いんスか?」
 愛原:「地図で見る限りでは、歩いて行けるというわけではないみたいだな。同じ、相模原市緑区内ではあるんだが……。バスも、研修センターの近くを通る路線ではなく、別の路線だから」
 高橋:「そうですか」

 私達は跨線橋を渡り、改札口へ向かった。
 この辺りは、まだSuicaやPasmoが使える。
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“私立探偵 愛原学” 「温泉へ行こう」

2021-04-08 14:28:28 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月25日12:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 お昼は高橋が給湯室でホットドッグを作ってくれた。
 喫茶店などで出て来る、キャベツの千切りにウィンナーを炒めて、それを背割りコッペパンに挟んでオーブンで焼いたものである。
 因みに善場主任は先ほど退出している。

 高橋:「先生。それで姉ちゃんは、先生への落とし前に何を提案していったんですか?」
 愛原:「俺が日帰り温泉に行くつもりだったのがキャンセルになったということから、別の温泉施設を紹介されたよ。何でも、あの藤野の施設の近くにあるらしい」
 高橋:「そっちっスか」
 愛原:「だから善場主任も知ってるんだろうな」

 国家公務員特別研修センター。
 善場主任の裏の顔は政府機関のエージェント、つまり国家公務員だ。

 高橋:「なるほど。車で行きますか?」
 愛原:「いや、電車とバスで行こう。リサが春休みのうちにな」

 私はカレンダーを見た。

 愛原:「リサが休みで、俺達も休みというと、今週の土日か。そこ狙って行こう」
 高橋:「分かりました」

 私は自分のスマホを取ると、リサにLINEを送った。
 因みに今、リサは斉藤さんの家にいるはずだ。
 斉藤さんも来たがるかな?

[同日18:00.天候:晴 同地区内 愛原のマンション]

 事務所を閉めて家に帰ると、私は早速リサに話した。
 リサは特に予定も無いということで、同行を申し出た。

 リサ:「リサ・トレヴァーは山奥がお似合いだね」
 愛原:「どうしたんだよ?」
 リサ:「別に」

 確かにアメリカのオリジナル版は、山奥の洋館内を徘徊していたそうだが。
 しかしちゃんと寝床を決めて、しかも日記を書けるほどの知能は残っていたらしい。
 言葉は上手く発することはできなかったそうだが。

 愛原:「今度の日曜日に行こうと思う。地下鉄で行けるから、準備よろしくな?」
 リサ:「分かった。善場さんも行くの?」
 愛原:「いや、行かないらしいな。だから、俺と高橋の3人で行こう」
 リサ:「分かった」

[3月28日08:06.天候:晴 同地区内 都営地下鉄菊川駅→都営地下鉄新宿線771K電車先頭車内]

〔まもなく1番線に、京王線直通、各駅停車、高尾山口行きが10両編成で到着します。ドアから離れて、お待ちください。この電車は京王線内、急行となります〕

 朝食を終えた私達3人は、最寄りの地下鉄駅に向かった。
 休日ダイヤならではの行き先の電車がやってくる。

 高橋:「これで高尾まで行くのなら、相当時間が掛かりますよ?」
 愛原:「でもこれで行くんだなー」
 高橋:「はは、さすが先生っス」

 轟音を立てて、強風を吹かせながら京王電車がやってきた。
 京王線内ではクロスシートにもなれる新型車両ではなく、ロングシートで旧型の9000系電車である。

〔1番線の電車は、各駅停車、高尾山口行きです。きくかわ~、菊川~〕

 平日ならメチャクチャに混んでいる時間帯だが、日曜日とあらば空いていた。
 恐らく平日なら、乗り込むことにすら一苦労させられるのだろうが、今は悠々と乗れるどころか、空いている座席に座れるほど。
 都営地下鉄の車両と違い、ローズピンクの座席に腰かける。
 都営地下鉄の車両だと、座席が硬いのもあるが、京王電車だと新旧問わず、クッションがふんわりしている。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 短い発車メロディの後、すぐに電車とホームのドアが閉まる。
 京王電車のドアチャイムは、JR東海在来線のそれと同じだ。

〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Morishita.S11.Please change here for the Oedo line.〕

 リサはいつものフード付きパーカーを羽織り、デニムのショートパンツをはいている。
 バッグの中からポッキーを取り出して食べ始めた。

 高橋:「よく食うヤツだな」
 リサ:「お兄ちゃんも食べる?」
 高橋:「いや、いらね」
 リサ:「先生は?」
 愛原:「じゃあ、一本もらおうかな?」

 するとリサはニヤッと笑って、ポッキーを1本口に咥えた。

 リサ:「はい、ポッキーゲーム」
 高橋:「くぉらっ!」
 愛原:「やると思ったw」

[同日09:22.天候:晴 東京都八王子市初沢町 京王電鉄高尾駅→JR高尾駅]

〔まもなく、高尾です。中央線は、お乗り換えです。出口は、右側です。高尾の次は高尾山口、終点です〕
〔We will soon arrive at Takao.KO52.Please change trains here for the Chuo line.The doors are right side will open.After Takao will stop at Takaosanguchi.〕

 菊川駅から1時間20分弱。
 笹塚駅から地上に出た電車は、車両が京王電車ということもあり、ようやく高尾に向かっているという実感が湧いて来た。
 また、京王線内は急行ということもあり、そこから速く感じられた(京王線内には特急や準特急など、もっと速い電車は存在する)。

 愛原:「乗り換え無しでここまで来れたんだ。凄い楽だろ?」
 高橋:「さすが先生っス」

 電車は1面2線の京王線ホームに入線した。
 因みに都営地下鉄線内では見かけなかったハイカーなども、京王線内からはチラホラ見かけるようになり、今ではその姿が多い。

 愛原:「でも、目的地はまだ先だ」

 私達はホームに降り、コンコースに向かった。

 愛原:「乗り換え、少し時間あるからトイレに行きたい人は行って」
 高橋:「はい」

 高尾から先のJR中央本線は本数も少なくなり、鉄道会社が違うということもあって、乗り換え接続等は一切考慮されていない。

 愛原:「ていうか、俺も行こう」

 結局、私は高橋と連れションすることになった。
コメント (1)
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