[12月19日00:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷2F東側ゲストルーム(211号室)]
勇太:「答えを言うよ。これは祖父が言ってたことだけど、さっきの話では、まるで隣村(高祖父が宿泊した村)は無関係のように見えるじゃない?実は違うんだよ。他言が無用な秘密の祭りなら、田舎の鉄道で1駅分の距離がある隣村まで出張る必要も無い」
地方ローカル線の駅間距離は概して長い傾向にある。
勇太が話した村々には、今は鉄道が通っているのだが、両村の駅間は所要時間5分掛かるという。
つまり、隣の駅まで列車で5分掛かる距離を、江戸時代歩いたら……意外と結構な距離があることが分かる。
勇太:「祖父は、こう考えた。『やっぱり、無関係だと思われた隣村の村民も、牛追いの祭りに関わっていた』と」
エレーナ:「どう関わっていたんだぜ?」
勇太:「祖父の見解では、『牛追いの祭り』を決行したのは、大木の村ではなく、隣の村。隣村の村民が飢えに苦しむあまり、隣の大木の村に攻め入って『牛追いの祭り』を決行し、村民全員や家畜を殺して食ったというのが真相だろうと」
エレーナ:「なっにーっ!?」
勇太:「高祖父が大木の村に行った時、既に人骨や牛骨は丁寧に埋められた後だったんだよ。もしも大木の村の村民が、普通に全員餓死したんだとしたら、誰がその遺体を埋めるんだい?」
マリア:「隣村の住民が様子を見に行った時、既に全員死亡していて、それで埋めてあげただけというのは?」
勇太:「だったら素直にそう言えばいいと思う。別に悪い事じゃないんだから。『大木の村で牛追いの祭りが行われた』というのは本当。でも、主催者は『隣村』。『牛追いの祭り』が終わった後、罪悪感を少しでも消す為に、ちゃんと埋めて供養したつもりだったんだと思うね」
エレーナ:「そして、それにいち早く気づいた高祖父の先輩氏は、『あれから何十年も経っているわけだから、今さら隣村にその事を問うのは無理だ』と言ったんだな?」
勇太:「そういうことなんじゃないかと、祖父は言ってた」
エレーナ:「あえてゴーストでもモンスターでもなく、『生きた人間がゾンビ化』した話をしてくれたか。さすが稲生氏、センスがいいぜ」
リリアンヌ:「フヒヒヒ……、お、面白かったです……」
エレーナ:「とはいうものの、やっぱりゴーストやモンスターが出る話も聞きたいぜ。せっかくだから、そういう話をあと1話してくれないか?」
勇太:「幽霊や魔物が出る話ねぇ……」
勇太は腕組みをして、考え込んだ。
勇太:「やっぱり東京中央学園であった怖い話でもしようか?」
エレーナ:「で、更に稲生氏の体験発表も聞きたいんだぜ」
勇太:「うーん……分かった。じゃあさっき、皆でトランプをやったじゃない?それにまつわる話をしよう」
エレーナ:「おー!……でも、それが稲生氏の母校と、どう関係あるんだぜ?」
勇太:「まあ、聞いてよ。僕にこの話をしてくれた当時の先輩、すっごいトランプ好きでね。といっても、トランプを使ったギャンブルが好きなだけなんだけど。さっきやったポーカーとか、ブラックジャックね。で、僕が契約することになっている悪魔って、アスモデウスで内定しているじゃない?あれってどうしてだと思う?」
エレーナ:「? イリーナ先生の紹介なんじゃないか?」
リリアンヌ:「フヒヒ……。た、大抵は、師匠の紹介だと聞きます……」
マリア:「……多分、表向きにはそうだ。だけど師匠は、何故か浮かない顔だった」
エレーナ:「イリーナ先生は何て言ってるんだぜ?」
マリア:「何か……『アスモデウスの方から売り込みに来た』って言ってたな」
エレーナ:「それはつまり、稲生氏がアスモデウスの方から気に入られたというわけか。それはどうしてなんだぜ?稲生氏、キリスト教の信仰なんてしたことないだろ?」
勇太:「無いよ。顕正会と日蓮正宗しか無い。当然ながら、どちらも仏教だし、キリスト教なんか外道の邪教認定している所も同じだ」
エレーナ:「そうなんだぜ。普通、キリスト教系の悪魔ってのは、魔女が人間だった頃に、キリスト教の信仰をしていたことがあるってのが前提なんだぜ。稲生氏は違うはずなのに、どうしてなんだろうとは思ってたぜ」
勇太:「その理由、僕には心当たりがある。それをこれから話そう」
勇太は、高校生だった頃に起きた話をした。
それは当時、先輩だった男子生徒が話してくれた『悪魔のトランプ』のことだった。
エレーナ:「それってアレか?魔界で製作されたヤツで、ジョーカーがドクロの両目に2匹の蛇が絡まってるヤツか?」
勇太:「やっぱりエレーナ、知ってたか……」
エレーナ:「あれはなかなか有名な一品だからな。まさか、稲生氏と関わっていたとは、世間は狭いんだぜ」
勇太:「トランプの絵柄が悪魔なんでしょ?その先輩、トランプの持ち主と契約しちゃったんだ」
エレーナ:「マジかよ……」
勇太:「やっぱりあれは有効なのかい?」
エレーナ:「有効……だな。まさか、稲生氏も契約書を書いたのか?」
勇太:「僕は書いていない。だけど、つまらないギャンブルに参加させられて、それで負けたせいで、その先輩の契約を負うことになってしまった。先輩が持っていたのは、絵柄が女の悪魔のトランプだった。不気味な絵柄なのに、何故か色っぽい。そんなタッチで描かれていたな」
エレーナ:「それがアスモデウスか。多分、アスモデウスの使い魔か何かが潜んでいたトランプだったんだろう。そして、当時から魔力を持っていた稲生氏に注目し、アスモデウスに御注進といったところか」
勇太:「やっぱりそういうことだったのか……」
マリア:「私と会った時はそんな気配無かったけどな?」
エレーナ:「マリアンナ。そういう上級悪魔が、必要無い時は気配を消すなんて技、上等中の上等だろ?」
マリア:「それもそうか」
現にマリアは“怠惰の悪魔”ベルフェゴール、エレーナは“物欲の悪魔”マモンと契約しているのだが、気配は全く感じさせない。
勇太:「もしかしたら、アスモデウスが全部差し向けたことだったのかもね。僕が魔道士になることも……」
マリア:「私は師匠の差し向けだと思っていたけど……。まあ、師匠も“嫉妬の悪魔”レヴィアタンと契約してるからな……」
尚、エレーナとリリアンヌの師匠ポーリンは、“傲慢の悪魔”ルシファーである。
リリアンヌはまだ見習いである為、悪魔と契約はしていない。
もっとも、キリスト教系ではないものの、契約悪魔の目星は付いているもよう。
そうでなければ、体の成長や老化が止まる(実際には極端に遅くなる)ことはない。
エレーナ:「念の為に聞くが、例のトランプ、稲生氏が持ってるなんてことは……?」
勇太:「無いよ。結局はあの先輩が持ったままだ。あの先輩、今はどうしているのやら……」
エレーナ:「名前とか教えてくれれば、私が様子を見に行くぜ」
マリア:「そして無事なようなら、トランプを法外な値段で買い取るつもりか。守銭奴魔女め」
エレーナ:「そこは商売上手と言って欲しんだぜ」
リリアンヌは欠伸をした。
勇太:「もう1時だよ。そろそろお開きにして、寝ようかい?」
リリアンヌ:「そ、そうしましょう」
エレーナ:「分かった。じゃあ、お開きにしようぜ」
今夜はこれでお開きになった。
降霊会という名の怪談座談会であった。
マリアは屋敷西側にある自分の部屋に戻ろうとした。
勇太:「マリア」
勇太は自分の部屋のドアから少し身を乗り出して手招きした。
勇太:「良かったら……いいかい?」
マリア:「勇太。……分かった」
マリアは勇太の部屋に入った。
明け方になるまで、マリアは自分の部屋に戻ることは無かったという。
勇太:「答えを言うよ。これは祖父が言ってたことだけど、さっきの話では、まるで隣村(高祖父が宿泊した村)は無関係のように見えるじゃない?実は違うんだよ。他言が無用な秘密の祭りなら、田舎の鉄道で1駅分の距離がある隣村まで出張る必要も無い」
地方ローカル線の駅間距離は概して長い傾向にある。
勇太が話した村々には、今は鉄道が通っているのだが、両村の駅間は所要時間5分掛かるという。
つまり、隣の駅まで列車で5分掛かる距離を、江戸時代歩いたら……意外と結構な距離があることが分かる。
勇太:「祖父は、こう考えた。『やっぱり、無関係だと思われた隣村の村民も、牛追いの祭りに関わっていた』と」
エレーナ:「どう関わっていたんだぜ?」
勇太:「祖父の見解では、『牛追いの祭り』を決行したのは、大木の村ではなく、隣の村。隣村の村民が飢えに苦しむあまり、隣の大木の村に攻め入って『牛追いの祭り』を決行し、村民全員や家畜を殺して食ったというのが真相だろうと」
エレーナ:「なっにーっ!?」
勇太:「高祖父が大木の村に行った時、既に人骨や牛骨は丁寧に埋められた後だったんだよ。もしも大木の村の村民が、普通に全員餓死したんだとしたら、誰がその遺体を埋めるんだい?」
マリア:「隣村の住民が様子を見に行った時、既に全員死亡していて、それで埋めてあげただけというのは?」
勇太:「だったら素直にそう言えばいいと思う。別に悪い事じゃないんだから。『大木の村で牛追いの祭りが行われた』というのは本当。でも、主催者は『隣村』。『牛追いの祭り』が終わった後、罪悪感を少しでも消す為に、ちゃんと埋めて供養したつもりだったんだと思うね」
エレーナ:「そして、それにいち早く気づいた高祖父の先輩氏は、『あれから何十年も経っているわけだから、今さら隣村にその事を問うのは無理だ』と言ったんだな?」
勇太:「そういうことなんじゃないかと、祖父は言ってた」
エレーナ:「あえてゴーストでもモンスターでもなく、『生きた人間がゾンビ化』した話をしてくれたか。さすが稲生氏、センスがいいぜ」
リリアンヌ:「フヒヒヒ……、お、面白かったです……」
エレーナ:「とはいうものの、やっぱりゴーストやモンスターが出る話も聞きたいぜ。せっかくだから、そういう話をあと1話してくれないか?」
勇太:「幽霊や魔物が出る話ねぇ……」
勇太は腕組みをして、考え込んだ。
勇太:「やっぱり東京中央学園であった怖い話でもしようか?」
エレーナ:「で、更に稲生氏の体験発表も聞きたいんだぜ」
勇太:「うーん……分かった。じゃあさっき、皆でトランプをやったじゃない?それにまつわる話をしよう」
エレーナ:「おー!……でも、それが稲生氏の母校と、どう関係あるんだぜ?」
勇太:「まあ、聞いてよ。僕にこの話をしてくれた当時の先輩、すっごいトランプ好きでね。といっても、トランプを使ったギャンブルが好きなだけなんだけど。さっきやったポーカーとか、ブラックジャックね。で、僕が契約することになっている悪魔って、アスモデウスで内定しているじゃない?あれってどうしてだと思う?」
エレーナ:「? イリーナ先生の紹介なんじゃないか?」
リリアンヌ:「フヒヒ……。た、大抵は、師匠の紹介だと聞きます……」
マリア:「……多分、表向きにはそうだ。だけど師匠は、何故か浮かない顔だった」
エレーナ:「イリーナ先生は何て言ってるんだぜ?」
マリア:「何か……『アスモデウスの方から売り込みに来た』って言ってたな」
エレーナ:「それはつまり、稲生氏がアスモデウスの方から気に入られたというわけか。それはどうしてなんだぜ?稲生氏、キリスト教の信仰なんてしたことないだろ?」
勇太:「無いよ。顕正会と日蓮正宗しか無い。当然ながら、どちらも仏教だし、キリスト教なんか外道の邪教認定している所も同じだ」
エレーナ:「そうなんだぜ。普通、キリスト教系の悪魔ってのは、魔女が人間だった頃に、キリスト教の信仰をしていたことがあるってのが前提なんだぜ。稲生氏は違うはずなのに、どうしてなんだろうとは思ってたぜ」
勇太:「その理由、僕には心当たりがある。それをこれから話そう」
勇太は、高校生だった頃に起きた話をした。
それは当時、先輩だった男子生徒が話してくれた『悪魔のトランプ』のことだった。
エレーナ:「それってアレか?魔界で製作されたヤツで、ジョーカーがドクロの両目に2匹の蛇が絡まってるヤツか?」
勇太:「やっぱりエレーナ、知ってたか……」
エレーナ:「あれはなかなか有名な一品だからな。まさか、稲生氏と関わっていたとは、世間は狭いんだぜ」
勇太:「トランプの絵柄が悪魔なんでしょ?その先輩、トランプの持ち主と契約しちゃったんだ」
エレーナ:「マジかよ……」
勇太:「やっぱりあれは有効なのかい?」
エレーナ:「有効……だな。まさか、稲生氏も契約書を書いたのか?」
勇太:「僕は書いていない。だけど、つまらないギャンブルに参加させられて、それで負けたせいで、その先輩の契約を負うことになってしまった。先輩が持っていたのは、絵柄が女の悪魔のトランプだった。不気味な絵柄なのに、何故か色っぽい。そんなタッチで描かれていたな」
エレーナ:「それがアスモデウスか。多分、アスモデウスの使い魔か何かが潜んでいたトランプだったんだろう。そして、当時から魔力を持っていた稲生氏に注目し、アスモデウスに御注進といったところか」
勇太:「やっぱりそういうことだったのか……」
マリア:「私と会った時はそんな気配無かったけどな?」
エレーナ:「マリアンナ。そういう上級悪魔が、必要無い時は気配を消すなんて技、上等中の上等だろ?」
マリア:「それもそうか」
現にマリアは“怠惰の悪魔”ベルフェゴール、エレーナは“物欲の悪魔”マモンと契約しているのだが、気配は全く感じさせない。
勇太:「もしかしたら、アスモデウスが全部差し向けたことだったのかもね。僕が魔道士になることも……」
マリア:「私は師匠の差し向けだと思っていたけど……。まあ、師匠も“嫉妬の悪魔”レヴィアタンと契約してるからな……」
尚、エレーナとリリアンヌの師匠ポーリンは、“傲慢の悪魔”ルシファーである。
リリアンヌはまだ見習いである為、悪魔と契約はしていない。
もっとも、キリスト教系ではないものの、契約悪魔の目星は付いているもよう。
そうでなければ、体の成長や老化が止まる(実際には極端に遅くなる)ことはない。
エレーナ:「念の為に聞くが、例のトランプ、稲生氏が持ってるなんてことは……?」
勇太:「無いよ。結局はあの先輩が持ったままだ。あの先輩、今はどうしているのやら……」
エレーナ:「名前とか教えてくれれば、私が様子を見に行くぜ」
マリア:「そして無事なようなら、トランプを法外な値段で買い取るつもりか。守銭奴魔女め」
エレーナ:「そこは商売上手と言って欲しんだぜ」
リリアンヌは欠伸をした。
勇太:「もう1時だよ。そろそろお開きにして、寝ようかい?」
リリアンヌ:「そ、そうしましょう」
エレーナ:「分かった。じゃあ、お開きにしようぜ」
今夜はこれでお開きになった。
降霊会という名の怪談座談会であった。
マリアは屋敷西側にある自分の部屋に戻ろうとした。
勇太:「マリア」
勇太は自分の部屋のドアから少し身を乗り出して手招きした。
勇太:「良かったら……いいかい?」
マリア:「勇太。……分かった」
マリアは勇太の部屋に入った。
明け方になるまで、マリアは自分の部屋に戻ることは無かったという。