報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「マリア邸の夜」

2021-12-22 19:54:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月19日00:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷2F東側ゲストルーム(211号室)]

 勇太:「答えを言うよ。これは祖父が言ってたことだけど、さっきの話では、まるで隣村(高祖父が宿泊した村)は無関係のように見えるじゃない?実は違うんだよ。他言が無用な秘密の祭りなら、田舎の鉄道で1駅分の距離がある隣村まで出張る必要も無い」

 地方ローカル線の駅間距離は概して長い傾向にある。
 勇太が話した村々には、今は鉄道が通っているのだが、両村の駅間は所要時間5分掛かるという。
 つまり、隣の駅まで列車で5分掛かる距離を、江戸時代歩いたら……意外と結構な距離があることが分かる。

 勇太:「祖父は、こう考えた。『やっぱり、無関係だと思われた隣村の村民も、牛追いの祭りに関わっていた』と」
 エレーナ:「どう関わっていたんだぜ?」
 勇太:「祖父の見解では、『牛追いの祭り』を決行したのは、大木の村ではなく、隣の村。隣村の村民が飢えに苦しむあまり、隣の大木の村に攻め入って『牛追いの祭り』を決行し、村民全員や家畜を殺して食ったというのが真相だろうと」
 エレーナ:「なっにーっ!?」
 勇太:「高祖父が大木の村に行った時、既に人骨や牛骨は丁寧に埋められた後だったんだよ。もしも大木の村の村民が、普通に全員餓死したんだとしたら、誰がその遺体を埋めるんだい?」
 マリア:「隣村の住民が様子を見に行った時、既に全員死亡していて、それで埋めてあげただけというのは?」
 勇太:「だったら素直にそう言えばいいと思う。別に悪い事じゃないんだから。『大木の村で牛追いの祭りが行われた』というのは本当。でも、主催者は『隣村』。『牛追いの祭り』が終わった後、罪悪感を少しでも消す為に、ちゃんと埋めて供養したつもりだったんだと思うね」
 エレーナ:「そして、それにいち早く気づいた高祖父の先輩氏は、『あれから何十年も経っているわけだから、今さら隣村にその事を問うのは無理だ』と言ったんだな?」
 勇太:「そういうことなんじゃないかと、祖父は言ってた」
 エレーナ:「あえてゴーストでもモンスターでもなく、『生きた人間がゾンビ化』した話をしてくれたか。さすが稲生氏、センスがいいぜ」
 リリアンヌ:「フヒヒヒ……、お、面白かったです……」
 エレーナ:「とはいうものの、やっぱりゴーストやモンスターが出る話も聞きたいぜ。せっかくだから、そういう話をあと1話してくれないか?」
 勇太:「幽霊や魔物が出る話ねぇ……」

 勇太は腕組みをして、考え込んだ。

 勇太:「やっぱり東京中央学園であった怖い話でもしようか?」
 エレーナ:「で、更に稲生氏の体験発表も聞きたいんだぜ」
 勇太:「うーん……分かった。じゃあさっき、皆でトランプをやったじゃない?それにまつわる話をしよう」
 エレーナ:「おー!……でも、それが稲生氏の母校と、どう関係あるんだぜ?」
 勇太:「まあ、聞いてよ。僕にこの話をしてくれた当時の先輩、すっごいトランプ好きでね。といっても、トランプを使ったギャンブルが好きなだけなんだけど。さっきやったポーカーとか、ブラックジャックね。で、僕が契約することになっている悪魔って、アスモデウスで内定しているじゃない?あれってどうしてだと思う?」
 エレーナ:「? イリーナ先生の紹介なんじゃないか?」
 リリアンヌ:「フヒヒ……。た、大抵は、師匠の紹介だと聞きます……」
 マリア:「……多分、表向きにはそうだ。だけど師匠は、何故か浮かない顔だった」
 エレーナ:「イリーナ先生は何て言ってるんだぜ?」
 マリア:「何か……『アスモデウスの方から売り込みに来た』って言ってたな」
 エレーナ:「それはつまり、稲生氏がアスモデウスの方から気に入られたというわけか。それはどうしてなんだぜ?稲生氏、キリスト教の信仰なんてしたことないだろ?」
 勇太:「無いよ。顕正会と日蓮正宗しか無い。当然ながら、どちらも仏教だし、キリスト教なんか外道の邪教認定している所も同じだ」
 エレーナ:「そうなんだぜ。普通、キリスト教系の悪魔ってのは、魔女が人間だった頃に、キリスト教の信仰をしていたことがあるってのが前提なんだぜ。稲生氏は違うはずなのに、どうしてなんだろうとは思ってたぜ」
 勇太:「その理由、僕には心当たりがある。それをこれから話そう」

 勇太は、高校生だった頃に起きた話をした。
 それは当時、先輩だった男子生徒が話してくれた『悪魔のトランプ』のことだった。

 エレーナ:「それってアレか?魔界で製作されたヤツで、ジョーカーがドクロの両目に2匹の蛇が絡まってるヤツか?」
 勇太:「やっぱりエレーナ、知ってたか……」
 エレーナ:「あれはなかなか有名な一品だからな。まさか、稲生氏と関わっていたとは、世間は狭いんだぜ」
 勇太:「トランプの絵柄が悪魔なんでしょ?その先輩、トランプの持ち主と契約しちゃったんだ」
 エレーナ:「マジかよ……」
 勇太:「やっぱりあれは有効なのかい?」
 エレーナ:「有効……だな。まさか、稲生氏も契約書を書いたのか?」
 勇太:「僕は書いていない。だけど、つまらないギャンブルに参加させられて、それで負けたせいで、その先輩の契約を負うことになってしまった。先輩が持っていたのは、絵柄が女の悪魔のトランプだった。不気味な絵柄なのに、何故か色っぽい。そんなタッチで描かれていたな」
 エレーナ:「それがアスモデウスか。多分、アスモデウスの使い魔か何かが潜んでいたトランプだったんだろう。そして、当時から魔力を持っていた稲生氏に注目し、アスモデウスに御注進といったところか」
 勇太:「やっぱりそういうことだったのか……」
 マリア:「私と会った時はそんな気配無かったけどな?」
 エレーナ:「マリアンナ。そういう上級悪魔が、必要無い時は気配を消すなんて技、上等中の上等だろ?」
 マリア:「それもそうか」

 現にマリアは“怠惰の悪魔”ベルフェゴール、エレーナは“物欲の悪魔”マモンと契約しているのだが、気配は全く感じさせない。

 勇太:「もしかしたら、アスモデウスが全部差し向けたことだったのかもね。僕が魔道士になることも……」
 マリア:「私は師匠の差し向けだと思っていたけど……。まあ、師匠も“嫉妬の悪魔”レヴィアタンと契約してるからな……」

 尚、エレーナとリリアンヌの師匠ポーリンは、“傲慢の悪魔”ルシファーである。
 リリアンヌはまだ見習いである為、悪魔と契約はしていない。
 もっとも、キリスト教系ではないものの、契約悪魔の目星は付いているもよう。
 そうでなければ、体の成長や老化が止まる(実際には極端に遅くなる)ことはない。

 エレーナ:「念の為に聞くが、例のトランプ、稲生氏が持ってるなんてことは……?」
 勇太:「無いよ。結局はあの先輩が持ったままだ。あの先輩、今はどうしているのやら……」
 エレーナ:「名前とか教えてくれれば、私が様子を見に行くぜ」
 マリア:「そして無事なようなら、トランプを法外な値段で買い取るつもりか。守銭奴魔女め」
 エレーナ:「そこは商売上手と言って欲しんだぜ」

 リリアンヌは欠伸をした。

 勇太:「もう1時だよ。そろそろお開きにして、寝ようかい?」
 リリアンヌ:「そ、そうしましょう」
 エレーナ:「分かった。じゃあ、お開きにしようぜ」

 今夜はこれでお開きになった。
 降霊会という名の怪談座談会であった。
 マリアは屋敷西側にある自分の部屋に戻ろうとした。

 勇太:「マリア」

 勇太は自分の部屋のドアから少し身を乗り出して手招きした。

 勇太:「良かったら……いいかい?」
 マリア:「勇太。……分かった」

 マリアは勇太の部屋に入った。
 明け方になるまで、マリアは自分の部屋に戻ることは無かったという。
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“大魔道師の弟子” 「稲生勇太が話した怖い話」

2021-12-22 15:15:22 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月18日23:30.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷東側2Fゲストルーム(211号室)]

 因みに稲生勇太が自室として与えられているゲストルームは205号室であり、この前、勇太の両親が宿泊した部屋は201号室である。
 この屋敷のゲストルーム、何故か部屋番号の1の位が奇数しか無いが……。

 稲生勇太:「東京中央学園の怖い話は、普通の人間が聞けば怖いかもしれない。だから、キミ達魔女が聴くとつまらないかもしれない」
 エレーナ:「今さらポルターガイスト現象なんて、私が魔法で再現できるから、確かに怖くないぜ」
 リリアンヌ:「フヒヒヒ……。わ、私もです……」
 マリア:「リリィのは魔力の暴走だろ?ちゃんと制御しろ」
 リリアンヌ:「フヒッ!?す、すす、すいません……」
 勇太:「そこで僕が話すのは、僕の祖父から聞いた話だよ。要は、祖父がその父親から聞き、僕から見れば曾祖父に当たる人は父親から聞いた話。つまり、僕から見たら高祖父の話だ」
 エレーナ:「その人も稲生氏みたいに、凄い魔力の持ち主だったのか?」
 勇太:「多分、違う。そんな話は聞かない。どちらかというと、高祖父の話を祖父が考察して、意味が分かると怖い話だよ」
 エレーナ:「ほーん……。じゃあ、ちょっと話してみてくれだぜ」
 リリアンヌ:「フヒヒ……。よろしくお願いします」
 勇太:「僕の高祖父は明治政府の役人だったんだ。明治維新後、新政府は新たに全国の戸籍調査をすることになった。つまり、国勢調査だね」

 名前を稲生勇兵衛といった。
 彼は政府からの命令で、東北地方の国勢調査官のような役目を与えられた。
 彼が担当したのは、北東北のある地域。
 その村は既に廃村となっており、村の中心部にある大木の根元には、大量に埋められた人骨とそれを覆うようにして牛の頭らしき動物の骨があったという。
 調査台帳には特記事項としてその数を記載し、その村での調査を終えた稲生勇兵衛は、そこから一番近い隣村へと移動した。
 その隣村は廃村ではなく、今でも住民が生活している集落であった。
 隣村での調査も終えた勇兵衛は、ちょうど日も暮れたので、この村の宿屋に宿泊することにした。

 稲生勇兵衛:「そういえば御主人、ちょっと聞きたいことがあるのだが……」
 主人:「何でございましょうか?」
 稲生勇兵衛:「実は、この隣にあった村を先に調査してきたのだが、そこの大木に謎の人骨が大量に埋められていたのだ。何か知らないか?」
 主人:「隣の村……謎の人骨……」

 勇兵衛は夕食の最中、宿屋の主人に隣村でのことを話した。
 その話を聞いた主人は、困惑した顔で答えた。

 主人:「それと関係があるどうかは分かりませんが……」

 という前置きをした上で、次のような話をした。

 稲生勇太:「話は更に遡って、江戸時代の話になります」
 エレーナ:「もはや、うちの先生達の時代の話になりつつあるな」
 マリア:「イブキは生きてたんだっけ?」
 稲生勇太:「江戸時代後期、天保の頃だから、威吹はまだ封印されてる状態だよ」

 江戸時代で天保と聞けば、日本史に詳しい人なら、もうお分かりだろう。
 天保の大飢饉である。
 その大飢饉は、当時の記録によると、『倒れた馬にかぶりついて生肉を食らい、行き倒れとなった死体を野犬や鳥が食い千切る。親子兄弟においては、情けも無く、食物を奪い合い、それは畜生道にも劣る』といった悲惨な状況であった。
 天保4年の秋頃。
 未だ大飢饉の最中にあったある日の夜、この村(稲生勇兵衛が宿泊している村)に、異形の者が迷い込んで来た。

 勇太:「フラフラとさ迷い歩くその体は人間そのものであったけど、頭部は牛の正にそれだったという」
 エレーナ:「ミノタウロスか?」
 マリア:「ミノタウロスかなぁ……」
 リリアンヌ:「フヒヒ……。ミノタウロスだと思います」
 勇太:「ギリシャ神話の怪物を真っ先に思い浮かぶ時点で、キミ達が欧米人だとすぐに分かるよ。僕は牛頭鬼(ごずき)だと思ったけど」

 馬頭鬼(めずき)とペアで、閻魔庁の警備をしている獄卒として有名である。

 勇太:「……話を続けるよ。とにかく、それを見つけた村人達は、その牛頭鬼みたいなヤツを捕まえようとしたらしいんだ」

 しかしその時、松明を手にした隣村(大木の村)の男達が十数人ほど現れ、鬼気迫る形相にて、

 隣村人A:「牛追いの祭りじゃ!他言は無用!」
 隣村人B:「牛追いの祭りじゃ!手出しも無用!」

 口々に叫びながらその異形の者を捕らえ、隣村へ続く道へと消えて行った。
 翌日には村中でその話が噂として広まったが、誰も隣村まで確認しに行こうとする者はいなかった。
 その日食うのにも困る大飢饉のこの状況では、それどころではなかったからである。
 翌年にはようやく藩より徳政令が出され、年貢の軽減が行われた。
 その折に隣村まで行った者の話によると、既にその村には人や家畜の気配は無かったとのことだった。
 それ以後、その村は『牛の村』としばらく呼ばれたが、滅多に近づく者もおらず、今(明治時代)は久しく、その名を呼ぶ者もいない。

 稲生勇太:「重苦しい雰囲気の中で、宿屋の主人はそんな話をした後、そそくさと後片付けの為に席を立ったという。高祖父はその場での解釈や考察は避け、役所に戻り、調査台帳をまとめ終えた後、懇意にしていた職場の先輩に意見を求めたらしい」

 先輩は天保年間の村民台帳を調べながら、考えを述べた。

 先輩:「大飢饉の時には、餓死した者を家族が食した例は聞いたことがある。しかし、その大木があった村では、遺骸だけでなく、弱った者から食らったのだろう。そして、生きた人を食らった罪悪感を少しでも減らす為、牛追いの祭りと称し、牛の頭皮を被せた者を狩ったのではないだろうか。お前の見た人骨の数を考えると、ほぼその村全員に相当する。牛骨も家畜の数と一致する。飢饉の悲惨さは筆舌に尽くしがたい。村民はもちろん、親兄弟も凄まじき修羅・畜生と化し、その様は最早、人の生活とは呼べぬものであったことだろう。この事は他の誰にも語らず、その村の記録は破棄し、廃村として県に届けよ。また、隣村にその咎を求めることもできまい。人が食い合う悲惨さは繰り返されてはならないが、この事が話されるのも、憚りあることだろう」

 この言葉を深く心肝に染めた勇兵衛は、それ以降この話は語らず、心の奥底へしまい込んだ。
 ……はずだった。

 勇太:「それから何十年か経って、日露戦争が始まりました。その戦争は、日に日に激化していったそうです」
 エレーナ:「知ってるぜ。『東洋の小国』が、あの大国ロシアを負かしたって有名だぜ」
 勇太:「その頃すっかり老人となった高祖父は病床に伏せて、戦乱の世を憂い、枕元に息子や孫達を呼び寄せて、心の奥底にしまい込んだあの話を語ったそうです」

 その中に、後に勇太の曾祖父となる者も含まれていた。
 曾祖父は後に息子である祖父にこの話を聞かせ、そして勇太は祖父から話を聞いたのである。

 エレーナ:「悲惨な話だったが、特に怖いとは思わなかったぜ?なあ、リリィ?」
 リリアンヌ:「は、はい……」
 マリア:「アイルランドでも大昔、大飢饉が発生したという話を聞いたことがある。それがアメリカへの移住者を増やした原因にもなったってね。確か、J・F・ケネディ大統領の先祖がそうだったって聞いたような……?」
 勇太:「まだ、分からないのかい?僕はもう、今の話の中で、『意味が分かると怖い話』をしたよ?」
 エレーナ:「なにっ!?」

 勇太の祖父は、曾祖父から聞いた話に対し、いち早くツッコミ所を発見した。
 そして、そのツッコミ所を聞いた曾祖父は震え上がったそうである。

 曾祖父:「そうか!そういうことか!それで親父(高祖父)の先輩は、今更『隣村に咎を求めることはできない』と言ったんだ!」

 どうやら、高祖父の先輩も、早めにツッコミ所を見つけていたようである。
 そして生憎だが、高祖父はそれに気づけなかったようだ。
 それとも、気づいていたのだが、気づかないフリをしていただけなのか……。

 勇太:「さあ……高祖父の体験談、ツッコミ所イコール『意味が分かると怖い部分』はどこだと思う?」

 ヒントは、どうやら隣村にも『牛追いの祭り』に関する咎があるらしい。
 大きなヒント、稲生勇兵衛が廃村の大木に来た時、人骨や牛骨はどのような状態だった?
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