[12月27日11:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
まもなく、仕事納めを迎えようとしているが、私はある場所に電話を掛けていた。
女将:「はい、ホテル天長園でございます」
愛原:「あ、もしもし。私、以前お世話になりました愛原と申しますが……」
女将:「愛原様……ああ!その節はどうもありがとうございました」
愛原:「いえいえ。お元気そうで何よりです」
女将:「おかげさまで……。ですが残念なことに、白井伝三郎は未だにここには来ていないのですよ」
愛原:「いや、いいですよ。恐らく白井は……私達、民間の探偵では探せない所にいるかもしれませんから。それより、うちのリサ……つまり、あなたの姉から聞いた情報なんですが……」
宗教法人天長会が運営する、那須塩原のホテル天長園。
見た目は普通の温泉ホテルだが、館内には天長会に関する展示コーナーがあったり、信者達の保養施設や祈祷施設として運営されている。
大きな行事があったりすると、ホテル全体が貸切状態となる為、一般客の宿泊はできないが、そうでない場合は一般客も宿泊できる。
これもまた、天長会の布教活動の1つなのだそうだ。
白井伝三郎が天長会の信者だということは分かった。
但し、信者の中では比較的地位は高いが、聖職者側ではない。
あくまで、信者だ。
女将:「何でしょう?」
愛原:「女将さんの娘さん、東京中央学園を受験されるんですって?」
女将:「あ、はい。そういう話になりまして……」
愛原:「どういう経緯なんですか?」
女将:「デイライトの人達がやってきまして、娘を東京で預かりたいと……」
やはり、デイライトはBOWとその血を引く者を管理しやすいように都内に置いておきたいらしい。
女将さんは純血のBOW(それでもリサと同じく、元人間ではある)であるが、立場上、母娘で東京に呼ぶことはしないようだ。
もっとも、そうなると、女将さんにも仕事を紹介しなければならなくなるし、女将さんが今更逃亡したり、人を襲うことはないと私は思っている。
そしてそれは、善場主任達もそう判断したらしい。
だが、年若いリサや上野凛さんは別だ。
先日のリサと同様、ふとした拍子に感情を爆発させ、暴走してしまう恐れがある。
純血のリサと混血の凛さんを同様に扱っていいものか首を傾げるところだが、デイライトはそうするつもりらしい。
愛原:「そうですか。まあ、東京中央学園の偏差値は中の上または上の下といったところのようです」
国立大学への進学者もいれば、高卒での就職者もいる。
入学後の進路は、本人次第ということだ。
リサは私との結婚を望んでいるが、善場主任は自身も大卒だからか、大学に進学してほしいと思っているらしい。
それにしても、善場主任はどこの大学に行ったのだろうか?
まあ、あの仕事をしているくらいだから、国立だとは思うが……。
女将:「うちの娘はどちらかというと、勉強よりは運動の方が好きなコでして……。成績の方は、本当に推薦入試を受けられるかどうかって所なんですよ」
愛原:「あ、そうなんですか」
リサは凛さんの学校の成績は良いと言っていたが、全体的にという意味では無かったのだろうか。
体育とか、そういう特定の科目の成績が良いという意味で言ったのかな。
まあ、それにしてもだ。
話してみた限り、そんなに頭の悪そうなコでもなかったから、例え推薦入試はダメでも、一般入試なら合格できるのではないかと勝手に思っている。
女将:「今のところ一応、受験勉強は頑張っているみたいですけど……。何しろ、塾へやることはできなくて……」
愛原:「独学で勉強ですか。それは大変ですね」
女将:「いえ、うちの信者さん達で、ボランティアで家庭教師をやってくれる人達がいますので、その人達が教えてくれてます」
愛原:「な、なるほど」
宗教団体のネットワーク!
しかし、顕正会や日蓮正宗では有り得ないだろう。
創価学会は【お察しください】。
女将:「それで、御用件は……?」
愛原:「あー……えーっと……」
私は迷ってしまった。
今、受験勉強を頑張っている凛さんに話を聞こうと思っていたのだが、却って邪魔になるだけだろうか。
女将:「御宿泊して頂けるんですか?」
愛原:「実はそのつもりだったんです。凛さんと、その受験のことについてお話ししたくて……」
女将:「まあ。そうだったのですか」
愛原:「ただ……あれですよね?今のこのこ行ったところで、却って受験勉強の邪魔になるだけですよね?」
女将:「いらっしゃるのは愛原様だけですか?」
愛原:「いえ。この前行った、高橋という金髪のチャラ男と、あとうちのリサも連れて行こうとは思っているのですが……」
高橋:「俺、チャラ男っスか!?」
チャラ男だよ!
私の向かいの机に座る高橋が、何だか心外そうに言ってきたので、顔で反論してやった。
女将:「姉さ……リサさんも来てくださるのですか!」
愛原:「ええ。どうせリサは今冬休みでヒマですし、まだ1年生じゃ、大学受験のことはまだ考えなくていいですから」
普通は2年生に入ってからだろうな。
栗原蓮華さんは障がい者スポーツとしての剣道の実績を買われ、既に体育大学から目を付けられているそうである。
スポーツ特待生とかの枠で受験できるのではないかと聞いたことがある。
女将:「是非、お待ちしております!」
愛原:「それで、部屋は空いてるんですか?宗教団体は年末年始は行事で忙しかったりするでしょう?」
キリスト教はクリスマスを過ぎれば後はヒマなものだろうが、どちらかというと神道系に近い新興宗教の天長会は年末年始は忙しいのではなかろうか。
女将:「そうですね。大晦日から元旦に掛けては、『年末年越大祈祷会』がございますので、その時は貸切となっております」
愛原:「やっぱり」
女将:「ですが、元旦を過ぎれば天長園での行事はございませんので、一般の方の宿泊も受け付けております」
愛原:「そうですか。三が日ずっと忙しいわけではないんですね」
女将:「さようでございます。因みに1月2日は都内の信濃町という所で抗議デモ行進、翌3日は教祖様の御誕生日会が総本山で行われますので、当施設は一般のお客様のみが宿泊されます」
愛原:「そ、そうですか」
何か、場所がピンポイント過ぎて、んっ?さんに怒られそうなことをするつもりなのか?天長会は……。
愛原:「それでは、1月2日から宿泊でお願いします」
女将:「かしこまりました。良いお部屋が空いておりますので、そちらを御用意させて頂きます」
愛原:「あ、ありがとうございます」
女将:「娘もきっと喜びますわ。姉さ……いえ、リサさんは『鬼』の先輩として尊敬しているみたいですから」
鬼じゃなくて、BOWなんだがな。
愛原:「それは良かった。まあ、それだけじゃなく、東京中央学園の先輩として、何かアドバイスするように言っておきますので」
女将:「大変光栄でございます。それでは、お待ち申し上げてございます」
愛原:「ええ。それでは、失礼致します」
これで年始の予定は決まった。
後でリサにも教えてあげよう。
リサは家で留守番というか、冬休みの宿題に取り掛かっている。
リサの頭なら、さっさと終わらせてしまいそうな勢いだ。
もっとも、高校でも書き初めの宿題はあるようだが、それはさすがに元旦にやるように言っておいた。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
まもなく、仕事納めを迎えようとしているが、私はある場所に電話を掛けていた。
女将:「はい、ホテル天長園でございます」
愛原:「あ、もしもし。私、以前お世話になりました愛原と申しますが……」
女将:「愛原様……ああ!その節はどうもありがとうございました」
愛原:「いえいえ。お元気そうで何よりです」
女将:「おかげさまで……。ですが残念なことに、白井伝三郎は未だにここには来ていないのですよ」
愛原:「いや、いいですよ。恐らく白井は……私達、民間の探偵では探せない所にいるかもしれませんから。それより、うちのリサ……つまり、あなたの姉から聞いた情報なんですが……」
宗教法人天長会が運営する、那須塩原のホテル天長園。
見た目は普通の温泉ホテルだが、館内には天長会に関する展示コーナーがあったり、信者達の保養施設や祈祷施設として運営されている。
大きな行事があったりすると、ホテル全体が貸切状態となる為、一般客の宿泊はできないが、そうでない場合は一般客も宿泊できる。
これもまた、天長会の布教活動の1つなのだそうだ。
白井伝三郎が天長会の信者だということは分かった。
但し、信者の中では比較的地位は高いが、聖職者側ではない。
あくまで、信者だ。
女将:「何でしょう?」
愛原:「女将さんの娘さん、東京中央学園を受験されるんですって?」
女将:「あ、はい。そういう話になりまして……」
愛原:「どういう経緯なんですか?」
女将:「デイライトの人達がやってきまして、娘を東京で預かりたいと……」
やはり、デイライトはBOWとその血を引く者を管理しやすいように都内に置いておきたいらしい。
女将さんは純血のBOW(それでもリサと同じく、元人間ではある)であるが、立場上、母娘で東京に呼ぶことはしないようだ。
もっとも、そうなると、女将さんにも仕事を紹介しなければならなくなるし、女将さんが今更逃亡したり、人を襲うことはないと私は思っている。
そしてそれは、善場主任達もそう判断したらしい。
だが、年若いリサや上野凛さんは別だ。
先日のリサと同様、ふとした拍子に感情を爆発させ、暴走してしまう恐れがある。
純血のリサと混血の凛さんを同様に扱っていいものか首を傾げるところだが、デイライトはそうするつもりらしい。
愛原:「そうですか。まあ、東京中央学園の偏差値は中の上または上の下といったところのようです」
国立大学への進学者もいれば、高卒での就職者もいる。
入学後の進路は、本人次第ということだ。
リサは私との結婚を望んでいるが、善場主任は自身も大卒だからか、大学に進学してほしいと思っているらしい。
それにしても、善場主任はどこの大学に行ったのだろうか?
まあ、あの仕事をしているくらいだから、国立だとは思うが……。
女将:「うちの娘はどちらかというと、勉強よりは運動の方が好きなコでして……。成績の方は、本当に推薦入試を受けられるかどうかって所なんですよ」
愛原:「あ、そうなんですか」
リサは凛さんの学校の成績は良いと言っていたが、全体的にという意味では無かったのだろうか。
体育とか、そういう特定の科目の成績が良いという意味で言ったのかな。
まあ、それにしてもだ。
話してみた限り、そんなに頭の悪そうなコでもなかったから、例え推薦入試はダメでも、一般入試なら合格できるのではないかと勝手に思っている。
女将:「今のところ一応、受験勉強は頑張っているみたいですけど……。何しろ、塾へやることはできなくて……」
愛原:「独学で勉強ですか。それは大変ですね」
女将:「いえ、うちの信者さん達で、ボランティアで家庭教師をやってくれる人達がいますので、その人達が教えてくれてます」
愛原:「な、なるほど」
宗教団体のネットワーク!
しかし、顕正会や日蓮正宗では有り得ないだろう。
創価学会は【お察しください】。
女将:「それで、御用件は……?」
愛原:「あー……えーっと……」
私は迷ってしまった。
今、受験勉強を頑張っている凛さんに話を聞こうと思っていたのだが、却って邪魔になるだけだろうか。
女将:「御宿泊して頂けるんですか?」
愛原:「実はそのつもりだったんです。凛さんと、その受験のことについてお話ししたくて……」
女将:「まあ。そうだったのですか」
愛原:「ただ……あれですよね?今のこのこ行ったところで、却って受験勉強の邪魔になるだけですよね?」
女将:「いらっしゃるのは愛原様だけですか?」
愛原:「いえ。この前行った、高橋という金髪のチャラ男と、あとうちのリサも連れて行こうとは思っているのですが……」
高橋:「俺、チャラ男っスか!?」
チャラ男だよ!
私の向かいの机に座る高橋が、何だか心外そうに言ってきたので、顔で反論してやった。
女将:「姉さ……リサさんも来てくださるのですか!」
愛原:「ええ。どうせリサは今冬休みでヒマですし、まだ1年生じゃ、大学受験のことはまだ考えなくていいですから」
普通は2年生に入ってからだろうな。
栗原蓮華さんは障がい者スポーツとしての剣道の実績を買われ、既に体育大学から目を付けられているそうである。
スポーツ特待生とかの枠で受験できるのではないかと聞いたことがある。
女将:「是非、お待ちしております!」
愛原:「それで、部屋は空いてるんですか?宗教団体は年末年始は行事で忙しかったりするでしょう?」
キリスト教はクリスマスを過ぎれば後はヒマなものだろうが、どちらかというと神道系に近い新興宗教の天長会は年末年始は忙しいのではなかろうか。
女将:「そうですね。大晦日から元旦に掛けては、『年末年越大祈祷会』がございますので、その時は貸切となっております」
愛原:「やっぱり」
女将:「ですが、元旦を過ぎれば天長園での行事はございませんので、一般の方の宿泊も受け付けております」
愛原:「そうですか。三が日ずっと忙しいわけではないんですね」
女将:「さようでございます。因みに1月2日は都内の信濃町という所で抗議デモ行進、翌3日は教祖様の御誕生日会が総本山で行われますので、当施設は一般のお客様のみが宿泊されます」
愛原:「そ、そうですか」
何か、場所がピンポイント過ぎて、んっ?さんに怒られそうなことをするつもりなのか?天長会は……。
愛原:「それでは、1月2日から宿泊でお願いします」
女将:「かしこまりました。良いお部屋が空いておりますので、そちらを御用意させて頂きます」
愛原:「あ、ありがとうございます」
女将:「娘もきっと喜びますわ。姉さ……いえ、リサさんは『鬼』の先輩として尊敬しているみたいですから」
鬼じゃなくて、BOWなんだがな。
愛原:「それは良かった。まあ、それだけじゃなく、東京中央学園の先輩として、何かアドバイスするように言っておきますので」
女将:「大変光栄でございます。それでは、お待ち申し上げてございます」
愛原:「ええ。それでは、失礼致します」
これで年始の予定は決まった。
後でリサにも教えてあげよう。
リサは家で留守番というか、冬休みの宿題に取り掛かっている。
リサの頭なら、さっさと終わらせてしまいそうな勢いだ。
もっとも、高校でも書き初めの宿題はあるようだが、それはさすがに元旦にやるように言っておいた。