[1月24日09:30.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]
久しぶりに、事務所に電話が掛かって来る。
高橋が電話を取った。
高橋:「お電話あざーす!愛原学探偵事務所っス!」
ボス:「私だ」
高橋:「渡田さんっスか!どうもっス!」
ボス:「仕事の依頼だ。愛原君に換わってくれ」
高橋:「お待ちください。先生、ワタシダさんから電話っス!」
愛原:「ええっ?もう正体バレてるだろうが……」
私は自分の机の電話を取った。
愛原:「もしもし。お電話換わりました。愛原です」
ボス:「私だ」
愛原:「斉藤社長、もう正体バレてるのに、どうなさったんですか?」
ボス改め斉藤秀樹:「いや、ハハハ。たまに、やってみたくなるものでしてね」
斉藤社長は、世界探偵協会日本支部の理事でもある。
秀樹:「世界製薬企業連盟の理事も、BSAAに対して似たようなことをしているらしいですよ」
愛原:「暇人の集まりじゃあるまいし……」
秀樹:「それより、依頼書は見て頂けましたか?」
愛原:「はい。今日にでもお伺いできますが、如何でしょう?」
秀樹:「ありがとうございます。午後に来て頂けると助かります」
愛原:「午後ですね。それでは、13時にお伺いさせて頂くということで、如何でしょうか?」
秀樹:「結構です。お待ちしております」
愛原:「……また、お嬢さんのお守りですか?」
秀樹:「それに近いのですが、今回は少し違います。それまでは、うちの娘に付きっ切りでお願いしていたのですが、今回は少し違うのですよ」
愛原:「そうなんですか」
秀樹:「詳細は後程お話し致します」
愛原:「わかりました。それでは午後、よろしくお願い致します」
秀樹:「お引き受け頂き、ありがとうございます」
私は電話を切った。
愛原:「うーん……。どうやら、社長の娘さんのことだけではないらしいな」
高橋:「不祥事のせいで、脅迫状でも送りつけられましたかね?」
愛原:「それだったら警察に通報すればいいだろう。いくら不祥事を起こしたとはいえ、脅迫状を送り付けて良いってわけじゃない」
高橋:「それもそうっスね」
愛原:「ま、とにかく午後に行くぞ。オマエもスーツに着替えろ」
高橋:「分かりました」
[同日13:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 大日本製薬本社]
遅れてはいけないので、私達は事務所からタクシーで丸の内に向かった。
丸の内に林立する超高層ビルの1つに、大日本製薬の本社がある。
受付で来訪した旨を伝えると、ゲストカードを渡される。
他の来訪者と違い、色がゴールドなのは、役員室エリアへの立ち入りが許可された証拠。
その為、セキュリティゲートも普通のエレベーターではなく、役員室エリアへ直行するエレベーターホールを通る。
一般のセキュリティゲートは、駅の自動改札口みたいな雰囲気だが、役員室エリアの方は金属探知機まで設置されている。
警備員:「こちらへどうぞ」
愛原:「ありがとう」
ビー!(金属探知機が鳴る音)
高橋:「あぁ?!」
高橋が金属探知機に引っ掛かる。
警備員:「失礼、お客様、こちらへ」
高橋:「あぁ?何だァ?裏に連れ込んでボコす気か!?」
愛原:「違うよ。何に引っ掛かったのか確認するんだよ」
高橋のヤツ、何に引っ掛かったのかというと……。
警備員:「お客様、これは?」
高橋:「見りゃ分かんだろ!プラスドライバーだ!」
愛原:「分かってるよ。問題は、どうしてこれをオマエが持っているんだってことだ」
高橋:「本当はマイナスドライバーがいいんスけど、あれはサツに見つかったらパクられるって聞いたんで、それでプラスドライバーなんスよ」
マイナスドライバーは、バールの代わりになる為であるという。
いや、それにしても……。
愛原:「だから、必要の無い工具を持ち歩く時点でアウトなの!分かった!?」
高橋:「探偵の心得っスね!メモっておきます!」
警備員:「恐れ入りますが、退館までこれは防災センターで預からせて頂きます」
愛原:「すいませんねぇ、お手間取らせてしまって……」
そしてようやく、私達はエレベーターに乗ることができた。
愛原:「全く。いらん不始末しやがって!」
高橋:「さ、サーセン。いや、すいません……」
〔ピンポーン♪ 30階です〕
役員室エリアに到着する。
〔下に参ります〕
秘書:「お疲れ様でございます。ご案内させて頂きます」
斉藤社長の女性秘書がエレベーターまで迎えに来てくれた。
スラッと背の高い、美人秘書だ。
秘書:「こちらへどうぞ」
愛原:「ありがとうございます」
高橋:「先生、あまりジロジロ見てるのがリサにバレたら、ブチギレますよ?」
愛原:「み、見てないって」
善場主任を見るだけでも、嫉妬してくるリサだったが、最近はそういうことはない。
リサ・トレヴァーの先輩に睨まれるだけで、おとなしくなるからだ。
強さやコールド・スリープ期間はリサの方が上だろうに、どういう序列なのだろうか。
秀樹:「やあ、愛原さん。御足労ありがとうございます」
社長室に通されると、斉藤社長がにこやかに迎えてくれた。
秀樹:「ささ、どうぞ、こちらへ」
そして、室内の応接セットを勧められる。
愛原:「失礼します」
私はソファに腰かけた。
秘書:「失礼致します」
秘書さんがお茶を持ってきてくれた。
愛原:「それで、仕事の依頼の件なんですが……」
秀樹:「はい。単刀直入に申し上げます。……あ、いや、その前に……」
斉藤社長は咳払いをした。
そして、机の上から1枚のプリントを持ってくる。
それは、昨日リサが私に見せてくれたものと同じだった。
秀樹:「娘達の学校で、中等部の時にできなかった修学旅行の代わりを行うということは聞いていますね?」
愛原:「はい」
秀樹:「当然、先生方が引率することになっていますが、PTAの役員も若干名同行することになっています」
愛原:「あらま。すると、PTA会長の秀樹社長も?」
秀樹:「そういうことになりますが、あいにくと年度末に近い為、多忙で行けないのです。何しろ……役員人事が大きく動くことになりますので……」
斉藤社長は不祥事の責任を取ることになる。
本当だったら年度末を待たずに解任されるところだが、それまでの功績を考慮され、年度末までは社長の席に座ることが許された。
解任後は、関連会社の社長の椅子に座ることになるという。
秀樹:「ただ、それは他のPTA役員も同じです」
東京中央学園は、比較的裕福な家庭の子女が通うことが多い。
その親も、会社や役所ではそれなりの地位に就いている事が多い為、年度末の忙しさは皆同じなのだろう。
愛原:「それで私に依頼とは?」
秀樹:「私の代役をお願いしたいのです」
愛原:「ええっ!?私はPTA役員じゃありませんよ?」
秀樹:「会則には、こう記されています。『会長はPTA役員または保護者会の中から、その代役を選任することができる』と」
愛原:「『但し、代役は祭事や旅行の監督のみとする』って、ええっ!?」
秀樹:「修学旅行の監督者として、ですから、愛原さんでも大丈夫です」
役員は誰でもなれるわけでもないが、保護者会は生徒の保護者は必ず入らなければならないことになっている。
だから私も、リサの保護者として、そこに名前を連ねているわけだ。
秀樹:「委任状なら既に作成してあります。これなら他の役員、教員も文句は言えません」
愛原:「いや、ですが……」
秀樹:「報酬なら、弾ませて頂きます!」
斉藤社長、バンとテーブルの上に契約書を置いた。
そこに書かれている報酬は……。
愛原:「私で宜しければ、お引き受け致します」
秀樹:「その言葉を待っていましたよ」
高橋:「せ、先生!?」
後に高橋は、自分の手帳にこのやり取りの感想を書いた。
『PTA会長も外部委託とか、どんだけ!』と。
久しぶりに、事務所に電話が掛かって来る。
高橋が電話を取った。
高橋:「お電話あざーす!愛原学探偵事務所っス!」
ボス:「私だ」
高橋:「渡田さんっスか!どうもっス!」
ボス:「仕事の依頼だ。愛原君に換わってくれ」
高橋:「お待ちください。先生、ワタシダさんから電話っス!」
愛原:「ええっ?もう正体バレてるだろうが……」
私は自分の机の電話を取った。
愛原:「もしもし。お電話換わりました。愛原です」
ボス:「私だ」
愛原:「斉藤社長、もう正体バレてるのに、どうなさったんですか?」
ボス改め斉藤秀樹:「いや、ハハハ。たまに、やってみたくなるものでしてね」
斉藤社長は、世界探偵協会日本支部の理事でもある。
秀樹:「世界製薬企業連盟の理事も、BSAAに対して似たようなことをしているらしいですよ」
愛原:「暇人の集まりじゃあるまいし……」
秀樹:「それより、依頼書は見て頂けましたか?」
愛原:「はい。今日にでもお伺いできますが、如何でしょう?」
秀樹:「ありがとうございます。午後に来て頂けると助かります」
愛原:「午後ですね。それでは、13時にお伺いさせて頂くということで、如何でしょうか?」
秀樹:「結構です。お待ちしております」
愛原:「……また、お嬢さんのお守りですか?」
秀樹:「それに近いのですが、今回は少し違います。それまでは、うちの娘に付きっ切りでお願いしていたのですが、今回は少し違うのですよ」
愛原:「そうなんですか」
秀樹:「詳細は後程お話し致します」
愛原:「わかりました。それでは午後、よろしくお願い致します」
秀樹:「お引き受け頂き、ありがとうございます」
私は電話を切った。
愛原:「うーん……。どうやら、社長の娘さんのことだけではないらしいな」
高橋:「不祥事のせいで、脅迫状でも送りつけられましたかね?」
愛原:「それだったら警察に通報すればいいだろう。いくら不祥事を起こしたとはいえ、脅迫状を送り付けて良いってわけじゃない」
高橋:「それもそうっスね」
愛原:「ま、とにかく午後に行くぞ。オマエもスーツに着替えろ」
高橋:「分かりました」
[同日13:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 大日本製薬本社]
遅れてはいけないので、私達は事務所からタクシーで丸の内に向かった。
丸の内に林立する超高層ビルの1つに、大日本製薬の本社がある。
受付で来訪した旨を伝えると、ゲストカードを渡される。
他の来訪者と違い、色がゴールドなのは、役員室エリアへの立ち入りが許可された証拠。
その為、セキュリティゲートも普通のエレベーターではなく、役員室エリアへ直行するエレベーターホールを通る。
一般のセキュリティゲートは、駅の自動改札口みたいな雰囲気だが、役員室エリアの方は金属探知機まで設置されている。
警備員:「こちらへどうぞ」
愛原:「ありがとう」
ビー!(金属探知機が鳴る音)
高橋:「あぁ?!」
高橋が金属探知機に引っ掛かる。
警備員:「失礼、お客様、こちらへ」
高橋:「あぁ?何だァ?裏に連れ込んでボコす気か!?」
愛原:「違うよ。何に引っ掛かったのか確認するんだよ」
高橋のヤツ、何に引っ掛かったのかというと……。
警備員:「お客様、これは?」
高橋:「見りゃ分かんだろ!プラスドライバーだ!」
愛原:「分かってるよ。問題は、どうしてこれをオマエが持っているんだってことだ」
高橋:「本当はマイナスドライバーがいいんスけど、あれはサツに見つかったらパクられるって聞いたんで、それでプラスドライバーなんスよ」
マイナスドライバーは、バールの代わりになる為であるという。
いや、それにしても……。
愛原:「だから、必要の無い工具を持ち歩く時点でアウトなの!分かった!?」
高橋:「探偵の心得っスね!メモっておきます!」
警備員:「恐れ入りますが、退館までこれは防災センターで預からせて頂きます」
愛原:「すいませんねぇ、お手間取らせてしまって……」
そしてようやく、私達はエレベーターに乗ることができた。
愛原:「全く。いらん不始末しやがって!」
高橋:「さ、サーセン。いや、すいません……」
〔ピンポーン♪ 30階です〕
役員室エリアに到着する。
〔下に参ります〕
秘書:「お疲れ様でございます。ご案内させて頂きます」
斉藤社長の女性秘書がエレベーターまで迎えに来てくれた。
スラッと背の高い、美人秘書だ。
秘書:「こちらへどうぞ」
愛原:「ありがとうございます」
高橋:「先生、あまりジロジロ見てるのがリサにバレたら、ブチギレますよ?」
愛原:「み、見てないって」
善場主任を見るだけでも、嫉妬してくるリサだったが、最近はそういうことはない。
リサ・トレヴァーの先輩に睨まれるだけで、おとなしくなるからだ。
強さやコールド・スリープ期間はリサの方が上だろうに、どういう序列なのだろうか。
秀樹:「やあ、愛原さん。御足労ありがとうございます」
社長室に通されると、斉藤社長がにこやかに迎えてくれた。
秀樹:「ささ、どうぞ、こちらへ」
そして、室内の応接セットを勧められる。
愛原:「失礼します」
私はソファに腰かけた。
秘書:「失礼致します」
秘書さんがお茶を持ってきてくれた。
愛原:「それで、仕事の依頼の件なんですが……」
秀樹:「はい。単刀直入に申し上げます。……あ、いや、その前に……」
斉藤社長は咳払いをした。
そして、机の上から1枚のプリントを持ってくる。
それは、昨日リサが私に見せてくれたものと同じだった。
秀樹:「娘達の学校で、中等部の時にできなかった修学旅行の代わりを行うということは聞いていますね?」
愛原:「はい」
秀樹:「当然、先生方が引率することになっていますが、PTAの役員も若干名同行することになっています」
愛原:「あらま。すると、PTA会長の秀樹社長も?」
秀樹:「そういうことになりますが、あいにくと年度末に近い為、多忙で行けないのです。何しろ……役員人事が大きく動くことになりますので……」
斉藤社長は不祥事の責任を取ることになる。
本当だったら年度末を待たずに解任されるところだが、それまでの功績を考慮され、年度末までは社長の席に座ることが許された。
解任後は、関連会社の社長の椅子に座ることになるという。
秀樹:「ただ、それは他のPTA役員も同じです」
東京中央学園は、比較的裕福な家庭の子女が通うことが多い。
その親も、会社や役所ではそれなりの地位に就いている事が多い為、年度末の忙しさは皆同じなのだろう。
愛原:「それで私に依頼とは?」
秀樹:「私の代役をお願いしたいのです」
愛原:「ええっ!?私はPTA役員じゃありませんよ?」
秀樹:「会則には、こう記されています。『会長はPTA役員または保護者会の中から、その代役を選任することができる』と」
愛原:「『但し、代役は祭事や旅行の監督のみとする』って、ええっ!?」
秀樹:「修学旅行の監督者として、ですから、愛原さんでも大丈夫です」
役員は誰でもなれるわけでもないが、保護者会は生徒の保護者は必ず入らなければならないことになっている。
だから私も、リサの保護者として、そこに名前を連ねているわけだ。
秀樹:「委任状なら既に作成してあります。これなら他の役員、教員も文句は言えません」
愛原:「いや、ですが……」
秀樹:「報酬なら、弾ませて頂きます!」
斉藤社長、バンとテーブルの上に契約書を置いた。
そこに書かれている報酬は……。
愛原:「私で宜しければ、お引き受け致します」
秀樹:「その言葉を待っていましたよ」
高橋:「せ、先生!?」
後に高橋は、自分の手帳にこのやり取りの感想を書いた。
『PTA会長も外部委託とか、どんだけ!』と。