報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ワンスターホテルでの一夜」

2022-05-13 20:22:41 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月1日20:00.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル・レストラン“マジックスター”]

 夜はホテルに併設されたレストランで懇親会が行われた。

 藤谷:「しゃ、しゃんばん!藤谷春人、歌います!ヒック!」
 稲生:「班長、酔っ払い過ぎですよ!」
 藤谷:「なにおっ!この麒麟送子!」
 稲生:「誰が妖怪大戦争ですか!」

 学生時代における、妖怪達から見た稲生勇太の通り名。
 法華講員2人が言い争っている間、歌い始める魔女2人。

 マリア:「ずっとずっと♪握る手は離れないと♪窓に♪ついた手に♪いつしか伝う♪涙~♪」
 エレーナ:「『上りには偶数の番号を付けるのよ』♪得意気に笑ってる♪キミがただ可愛くて♪」
 藤谷:「うぁ!先越された!」

 レストランを貸し切りにし、カラオケで盛り上がる参加者達。

 藤谷:「めんそーれ沖縄♪ちゅちゅちゅらちゅら沖海♪レッツゴー!」
 エレーナ:「レッツゴー!」
 マリア:「何でエレーナ、この歌知ってるんだよ?」
 稲生:「さてはエレーナも、“海物語”相当やってるな……」
 ウクライナ人:「Japanese casino?」
 稲生:「カジノじゃないです!」
 マリア:「カジノじゃないなら、何なんだ?」

 それから……。

 稲生:「走れ走れ♪ウマ娘♪フッフー!本命、穴ウマかき分けて♪走れ走れ♪ウマ娘♪追い付け追い越せ♪引っこ抜け♪」

 昭和の原曲、『はしれコウタロー』。
 平成のアレンジ、『はしれマキバオー』。
 そして令和のリメイク、稲生の歌っているのは『はしれウマ娘』。

 稲生:「どう!?クールジャパンでしょ!?」
 エレーナ:「稲生氏のはともかく、藤谷さんのパチンコはコリア系だろ?」
 藤谷:「大丈夫だ。俺の行きつけの店は、ちゃんと日本人が経営してるから」
 稲生:「いや、そういう問題じゃないと思います」

 しばらくして、鈴木がやってくる。

 鈴木:「こんばんはー」
 稲生:「鈴木君!」
 鈴木:「おおっ、稲生先輩!こんばんは!」
 稲生:「久しぶりだね!」
 鈴木:「しばらくです!それより、エレーナは?」
 エレーナ:「おう、鈴木!例の物は持って来たか!?」
 鈴木:「OK!アネゴ!」

 鈴木が持って来たキャリーバッグを開けると、そこから出て来たのは……。

 稲生:「PS5にニンテンドースイッチ、PSV……。ありとあらゆる据置型ゲーム機と携帯ゲーム機のオンパレードじゃないか」
 鈴木:「避難民に子供もいるっていうから、ゲーム持ってきたんだけど……」
 エレーナ:「この前、リリィへのプレゼント、ありがとうだぜ!よくPS5手に入ったもんだぜ!・・・・・・!・・・・・・・!」

 エレーナは最後、避難民の子供達に、ウクライナ語で何かを言った。
 日本人の鈴木が、ゲーム機を持って来たことを話したようだ。

 稲生:「この半導体不足の時代に、よくPS5、簡単に手に入るね?」
 鈴木:「功徳です!」
 藤谷:「ああ。出自の福運を駆使した功徳だ」

 鈴木の実家は稲生家よりも更に裕福であり、PS5を簡単に手に入れられるコネがあるのだろう。

 藤谷:「転売ヤーから買ったんじゃないだろうな?」
 鈴木:「違いますよ。ちゃんとした正規の裏ルートから真っ当なお金を払って手に入れましたよ」
 稲生:「正規の裏ルートって日本語自体がおかしくない?」
 鈴木:「そんなことないですよ」
 エレーナ:「リリィも喜んでプレイしているが、おかげで修行サボりが出てくるようになったんで、そろそろ没収しようかと思ってるんだぜ」
 鈴木:「厳しいねぇ。当のリリィは?」
 エレーナ:「魔界の学校だぜ。学校が再開したんで、また寮に戻ったんだぜ」
 鈴木:「そうなのか」

 学校にも持っていたのだろうか?

 エレーナ:「魔界にはテレビが無いから、携帯ゲーム機だけは持たせてやったぜ」
 稲生:「あ、そうか。魔界はラジオまでしかないもんね」
 鈴木:「俺が入学祝いにあげたニンテンドースイッチだな」
 エレーナ:「私に惚れてたくせに、今じゃリリィとイチャイチャだぜ。このロリコン野郎が」
 鈴木:「ちちち、違うよ!」

[同日22:00.天候:雨 同ホテル]

 子供はとっくに寝る時間。
 時短営業の縛りが無くなったマジックスターも、さすがに閉店時間である。
 懇親会はお開きとなり、藤谷と鈴木も帰宅することにした。
 ……のだが。

 鈴木:「すいません。シングル1つ空いてますか?」
 オーナー:「ありがとうございます」
 稲生:「泊まるんかい!」
 エレーナ:「藤谷さん、タクシー来ましたよ」
 藤谷:「ありがとう」

 ホテルの前に横付けされる東京無線タクシー。

 
(藤谷が乗った東京無線タクシーと同型車種。おや?よく見ると、このタクシー会社の名前は……)

 トールワゴンタイプの車種なので、大柄な藤谷が乗っても窮屈ではないだろう。

 藤谷:「今度、提供するマンションの内見を近々行うので楽しみにしててくださいと伝えてくれる?」
 エレーナ:「分かりました。伝えておきます」

 藤谷はタクシーに乗り込んだ。
 そして、タクシーは走り去って行った。
 タクシーを見送って、ホテルに戻る。

 マリア:「私達も寝るか。今日は朝早かったし」
 稲生:「そうだね」
 鈴木:「先輩方は何階に泊まってるんですか?」
 稲生:「5階だよ」
 鈴木:「いいですねぇ。僕は4階です」
 稲生:「そうなのか」

 鈴木は403号室となっていた。
 1階の自販機で水などを購入し、それからエレベーターに乗った。

 鈴木:「それじゃ、おやすみなさー」
 稲生:「おやすみ」

 鈴木は4階で降りて行った。
 3階はウクライナ人避難者達で賑やかだったが、4階は静かなものだった。
 そして、5階もだ。

 マリア:「明日はどうする?」
 稲生:「午後に家に着くような感じでいいと思うから、7時くらいに起きようか」
 マリア:「いつも通りだな。おやすみ」
 稲生:「おやすみ」

 2人の魔道士は、それぞれ自分の部屋に戻って行った。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「雨のワンスターホテル」

2022-05-13 15:07:05 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月1日15:30.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 森下駅には無事に着いた。
 しかし、駅の外はしとしとと雨が降っている。
 傘を持っていない2人の魔道士は、ローブのフードを被った。
 ただのローブではなく、夏は防暑着になるし、冬は防寒着になる。
 そして、雨の時は完全防水という魔法のローブである。
 新大橋通りから一歩路地に入った所に、ワンスタ―ホテルはあった。
 この辺りの路地は一方通行が多く、タクシーで行こうとすると、なかなか遠回りさせられてしまうような場所だ。

 オーナー:「いらっしゃいませ」

 小さなガラス戸を開けて中に入ると、こぢんまりとしたロビーにフロントがある。
 そのフロントに、オーナーがいた。

 稲生:「オーナーさん、お久しぶりです。今日、お世話になります」
 オーナー:「2名様で御予約の稲生様ですね。お待ちしておりました。それでは、こちらの宿泊者カードに御記入を……」

 稲生がシートに記入していると、マリアが言った。

 マリア:「支払いはアルカディアゴッズで。魔界の店とかは大丈夫でしたか?」
 オーナー:「はい、ありがとうございます。やはり戦禍の影響は受けたそうですが、幸い向こうは停戦状態になりましたので、急ピッチで復興が進められているところだそうです」
 稲生:「向こうはやっと戦争が終わったんですね」
 オーナー:「まあ、終戦ではなく、あくまで『中長期的な停戦』という扱いですが……」

 アルカディアゴッズというのは、魔界王国アルカディアで流通している通貨のことである。
 レートは1ゴッズがおよそ10円。
 如何にアルカディア王国の物価が安いかが分かるだろう。
 RPGをやれば分かると思うが、そういったファンタジー世界を冒険していると、案外金は溜まるものである。
 この2人の魔道士も、魔界王国アルカディアに行って稼いだものだった。

 稲生:「威吹は無事だといいなぁ……」

 早いとこ魔界に行って、威吹の安否を確認したいと思ったが、未だ冥界鉄道公社の魔界行きは運転されていない。

 マリア:「多分、無事だと思うよ。殺しても死なないモンスターだということは、勇太が一番知ってるだろう?あのシルバーフォックス」
 稲生:「ま、まあね」

 宿泊者カードに記入が終わると、オーナーは鍵を2つ持って来た。

 オーナー:「5階の501号室と502号室になります」
 稲生:「ありがとうございます。ウクライナの避難民の方達は、何階に泊まってるんですか?」
 オーナー:「今は3階に泊まってもらっています」
 稲生:「あ、そうですか。取りあえず、荷物置いてきます」

 2人はエレベーターに乗り込んだ。

 稲生:「藤谷さん、まだ来てないみたいだね」
 マリア:「競馬のメインレースが終わってから、こっちに来るんじゃないの?」
 稲生:「あ、なるほど。って、ええっ!?また銀座ウインズで街頭折伏やってるのかなぁ……?」

 5階に辿り着く。
 他の宿泊者がいるのかどうか分からないが、とにかく廊下は静かだ。

 稲生:「それじゃ、僕はこっちで」
 マリア:「ああ。また後で」

 501号室にマリアが、502号室に稲生が入った。
 中に入ると、ごく普通のシングルルームである。

 稲生:「藤谷班長にLINE送っておくか」

 稲生は自分のスマホを取り出すと、それで藤谷にLINEを送った。
 そしたらやはり、マリアの言う通りになった。
 『メインレースが終わったら、そちらに向かう』と。
 どうやら今日は銀座ではなく、錦糸町のウインズにいるらしい。
 当たったらタクシーで向かうが、外れたら都営バスになるとのこと。

 稲生:「案外、当たるんじゃないかな……」

 ふと、稲生はそう思った。

[同日16:30.天候:雨 同ホテル]

 ホテルの前に、1台のタクシーが到着する。
 そこから降りてきたのは、黒いジャケットを羽織った強面の藤谷。

 稲生:「藤谷班長、お久しぶりです」
 藤谷:「おー、稲生君!久しぶり!」
 稲生:「タクシーで来たということは、当たったんですね?」
 藤谷:「おうよ!たまには自分の力で当てるのも、いいもんだな!」
 稲生:「何のレースですか?」
 藤谷:「天皇賞だよ。知ってるか?」
 稲生:「ライスシャワーとメジロマックイーンが出たレースですね!?」
 藤谷:「絶対それ、ウマ娘の知識だろ?」
 エレーナ:「藤谷さん、こんにちは」
 藤谷:「おー、エレーナさん。こんにちは」
 エレーナ:「皆、集まってますよ。早く会議室に」
 藤谷:「そうだった。稲生君達も来るかい?」
 稲生:「いいんですか?」
 エレーナ:「稲生氏とマリアンナも来るんだぜ」
 マリア:「ああ、分かった」

 稲生とマリアも、ホテル1階の貸会議室に向かった。
 会議室内には、ニュースで観たような、ウクライナ人の女性と子供が何人かいた。

 エレーナ:「・・・・・、・・・・・・・」

 エレーナはウクライナ語で、出席者達に何か言った。
 残念ながら、稲生の持っている自動通訳魔法具は、ウクライナ語には対応していないので、何を言ってるか分からなかった(ロシア語には対応している)。
 発音やイントネーションがロシア語っぽいのに、通訳されないということは、ロシア語ではない。
 しかし、ウクライナ人が似たような言語を喋るものといったら何かと言えば、それはもうウクライナ語しかない。
 だから稲生は、エレーナが喋ったのはウクライナ語だと思ったのだ。
 実際、出席しているウクライナ人達は、エレーナの言葉に頷いている。

 藤谷:「エレーナさん、俺は日本語ペラペラで、あとは英語が少々しか話せないんだが……」
 エレーナ:「日本語でいいですよ。あとは私が通訳します」
 稲生:「班長、英語話せるんですか?」
 藤谷:「ちょっとだけな。ほら、うちの業界、ベトナム人とかも働いてるから、日本語よりは公用語の英語の方が通じるんだ」
 稲生:「あ、なるほど。そういえば、法道院さんのベトナム人信徒もそうだった」
 藤谷:「そうだろう?」

 藤谷はホワイトボードに、A1サイズのポスターを掲げた。
 それは藤谷建設が新築し、子会社の藤谷不動産が管理・運営している賃貸マンションだった。
 エレーナがウクライナ人参加者に、ウクライナ語で書かれた資料を配る。
 それが終わると、藤谷はマイクを握った。

 藤谷:「えー、我が藤谷建設並びに関連会社の藤谷不動産では、ウクライナ人避難者の皆様の為、今年4月に入居を開始しましたマンションを無償提供致します」

 間取りは2LDKと3LDK。
 父親や長男などを国内に残して日本に避難してきた母子家族が住むには、十分と言えるだろう。

 藤谷:「また、藤谷建設や藤谷不動産、藤谷管財などのグループ会社において、できる仕事も提供したいと思います」
 稲生:「そういうことでしたか!」

 稲生も藤谷の太っ腹支援に感激して拍手をしたが、マリアだけは冷静だった。
 マリアもウクライナ語で書かれた資料に目を通していた。
 何て書いてあるのかは分からないが、マンションの広告みたいに写真がふんだんに使われている為、取りあえず書いていることは何となく分かった。
 で、気になる写真の部分は自動翻訳メガネを掛ける。
 掛けて文字を見ると、それがマリアの母国語である英語に翻訳されるのだ。

 マリア:(『御本尊様も、これで安心!特大サイズの仏壇が置ける仏間付き!』って、何だよ、これ……。勧誘する気満々じゃん)
 藤谷:「大聖人様は必ず御照覧あそばします!日蓮大聖人様に救いを求めるならば、必ず成仏への道を……」
 エレーナ:「あー、こりゃダメだぜ。宗教勧誘始めやがったぜ」
 稲生:「ご、ゴメン。そこは通訳しなくていいから……」
 エレーナ:「専門用語が多過ぎて、通訳しきれないんだぜ」
 稲生:(藤谷班長、空気読んでー!)
 藤谷:「偏に、ロシア正教会なる邪教は……」
 マリア:「う、うん。まあ、そうだね……」

 自分も人間時代はクリスチャンだったが、結局救われることなく、救ってくれたのは悪魔だったので棄教したマリア。
 因みにロシア正教会ではない。
 さすがに後で、エレーナと稲生に連れ出された藤谷だった。

 藤谷:「な、何だよ、稲生君!?折伏の邪魔をすると、大きな罪障を積むぞ!」
 稲生:「班長、まずは空気を読んでください!」
 エレーナ:「さすがに鈴木でも、こんなことはしないぜ……」
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする