報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「師匠不在、昇格停止」

2022-05-06 20:03:44 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月1日10:00.天候:雪 長野県北部山中 マリアの屋敷1Fエントランスホール]

 稲生勇太:「先生が慌てて飛び出して行って、エレーナとも連絡が取れなくなった。一体、これからどうなるんだろう?」

 稲生が屋敷の玄関に向かい、届いた郵便物を取りに言った時だった。

 エレーナ:「私が何だって!?」
 稲生:「うわっ!?」

 玄関のドアを開けると同時に、ホウキに跨ったエレーナが飛び込んで来た。

 エレーナ:「いやあ、凄い雪だぜ!」
 稲生:「雪を払い落としてから、中に入ってくれよ!?」
 エレーナ:「だったら玄関前も除雪するんだぜ?ガッツリ積もってるんだぜ」
 稲生:「雪が止んだら、人形達と一緒にやるつもりだったよ。それより、届け物は?」
 エレーナ:「色々あるが、稲生氏には超重要な手紙があるぜ?」
 稲生:「何だい、それ?」
 エレーナ:「大師匠様からの手紙だぜ。きっと稲生氏、ようやっとmasterに昇格だぜ?良かったな」
 稲生:「そうかぁ……」

 稲生は自分が見習いを卒業できたら、マリアにプロポーズするつもりでいた。

 エレーナ:「早速、中を開けて読むんだぜ?」
 稲生:「う、うん」

 稲生は手紙の封を開けてみた。
 すると、黄色い便箋にラテン語で書かれていた。

 エレーナ:「黄色い便箋?……何か、嫌な予感が……」
 稲生:「ええっ?……ううっ、しまった。ラテン語がよく分からない」
 エレーナ:「特に大師匠様のは達筆だからな。こういう時は、この眼鏡を使うんだぜ」

 エレーナはローブのポケットの中から、黒縁眼鏡を取り出した。

 稲生:「それは翻訳メガネ。マリアも時々掛けているヤツだ」

 もっとも、マリアのは赤い縁の眼鏡であるが。

 エレーナ:「今なら1回1000円でレンタルするんだぜ!」

 エレーナはドヤ顔で言った。

 稲生:「故郷がロシアに攻撃されてるってのに、随分と商売熱心なんだな……」
 エレーナ:「この体の持ち主は、確かにウクライナ人だがな……。どうするんだぜ?」
 稲生:「分かったよ!払うよ!」
 エレーナ:「毎度あり!早速掛けて読むんだぜ!」
 稲生:「全く……」

 稲生は早速眼鏡を掛けてみた。
 英文に訳されれば御の字かと思っていたが、さすがにそこは高いレンタル料。
 ちゃんとメガネのレンズ越しに、ラテン語が日本語に訳されていた。

 エレーナ:「昇格おめでとうだぜ!稲生氏!」

 だが、何故か稲生の動きが止まる。

 エレーナ:「? 稲生氏?どうしたんだぜ?」
 稲生:「ああ……あああああああ!」

 稲生はガクッと膝を床についた。

 エレーナ:「え?え?え?何なんだぜ!?」

 エレーナは黄色い便箋を取って読んでみた。
 エレーナもまたラテン語はそんなに得意な方ではないが、何とか読めなくはないだろうと思ったのだ。
 そして、エレーナがラテン語を拙く訳しても、そこからはポジティブな内容が読み取れなかった。

 エレーナ:「この黄色い便箋は、あまりポジティブな内容の手紙を書くわけではない時に使うものだった。マジかよ……」

 エレーナは拙い訳し方であっても、手紙のタイトルは、『昇格延期のお知らせ』と読めてしまった。

 エレーナ:「『第3次世界大戦勃発の動きがある為、門内において緊急事態宣言を発令することになりました。発令中は全ての階級の動き(昇格・降格)を停止します。発令解除の見込みは、経っておりません(最低でも、ロシアのウクライナ侵攻が止まるまでとします)。解除後の動きについては、また改めて連絡します』……的なことが書いてあるようだ」
 稲生:「また……延期か」
 エレーナ:「またって、稲生氏自身は初めての延期だろう?ただ、今まで音沙汰無かっただけの話で。音沙汰があっただけでもマシだと思うが……」
 稲生:「そんなこと言ったって!」
 エレーナ:「今、ロシア人のグランドマスター達が、ロシアに行ってるぜ。イザとなりゃ、大統領を暗殺してでも止めるだろうぜ」
 稲生:「エレーナはどうするの?ウクライナに行くの?」
 エレーナ:「行かない。行くわけないぜ。私は日本に留まらせてもらう。そういうわけで、御愁傷様だが、気をしっかり持つんだぜ。じゃあな」

 エレーナは再びホウキにまたがり、大雪降る中、離陸した。

 エレーナ:(さりげなく第3次世界大戦勃発って書いてあったけど、ヤベェんじゃねえのか?)

[同日11:00.天候:雪 同屋敷内西側2F図書室]

 マリア:「……ダメだ。私の占いの力じゃ、あの戦争がいつ終わるか占えない」
 稲生:「ええっ!?」
 マリア:「だけど答えが出ないということは……すぐじゃないのかもしれない」
 稲生:「そんなぁ……」
 マリア:「私達、下級魔道士や見習いではどうすることもできない。あの師匠が血相を変えて出て行くくらいだから、何かあると思ってたけど、まさか戦争だったとは……」
 稲生:「昇格は取り消しなんだろうか……」
 マリア:「そうは書いてない。あくまでも停止だ。緊急事態宣言が解除されたら、改めて昇格の動きがある」

 本来なら稲生は来年度、4月1日付で下級魔道士に昇格されるはずであった。
 マリアにあっては、中級魔道士への昇格審査が行われるはずであった。

 マリア:「それまでは、ここで留守番してるしかないんだ」
 稲生:「うう……」
 マリア:「師匠も日本から出るなと言っていた。この国にいる限りは安全なんだろう。もっとも、コロナ禍でそもそも国際便がロクに無い状態だろうけど」
 稲生:「うん……」

[4月1日10:00.天候:晴 同屋敷1Fエントランスホール]

 エレーナ:「お届け物でーす!」
 稲生:「うわっ、やっぱり来た!」
 エレーナ:「待ち構えてたんだな。ありがとうだぜ。大師匠様からの通達もあるんだぜ。また、眼鏡貸してやるんだぜ。1000円で」
 稲生:「いや、自分の作ってもらったからいいよ」
 エレーナ:「マジか……」

 稲生は大師匠からの手紙を開けた。
 今度は白い便箋が入っていた。
 白い便箋は、ポジティブな内容の手紙である。
 まさか、昇格への動きが再開したのだろうか。
 だが、現実はそんなに甘くなかった。

 稲生:「『西側諸国在住の門下生にあっては、その国内に限り、移動自粛を緩和します』だって」
 エレーナ:「殆ど変わんねーじゃねーか」
 稲生:「まあ、ゴールデンウィークは帰省してもいいってことか」
 エレーナ:「おっ、そういうことか!」
 稲生:「でも、留守番してなきゃいけないからなぁ……」
 エレーナ:「イリーナ先生に聞いてみたらどうなんだぜ?」
 稲生:「その先生が今、どこにいるか分からないんだ」
 エレーナ:「分かった。それなら、アナスタシア組のアンナ捕まえて吐かせてやるよ」
 稲生:「アンナが何で関係あるの?」
 エレーナ:「いや、何かアナスタシア先生とイリーナ先生、ペアで行動しているような気がするんだぜ。アンナならアナスタシア先生の居場所は知ってるだろうから、そこからイリーナ先生の場所が特定できるかもだぜ」
 稲生:「こういう時の行動は早いな」
 エレーナ:「上京したら、うちのホテルに泊まってくれだぜ。その頃には、他のウクライナ人もいるだろうから」
 稲生:「日本人として、避難してくるウクライナ人に何か支援をってことかい?」
 エレーナ:「そうなんだぜ!今、支援金頂くぜ!プリーズ!」
 稲生:「いや、それはやめておこう」
 エレーナ:「何でなんだぜ!?」
 稲生:「今、キミに支援金を渡すと、全額懐に入れそうな気がする」
 エレーナ:「ンな殺生な!」

 後ほどエレーナから連絡があり、見立て通り、イリーナはアナスタシアとペアで行動していることが分かった。
 イリーナに伺いを立てると、稲生の帰省は許可された。
コメント
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