[5月2日14:56.天候:晴 埼玉県蕨市 JR蕨駅→同県川口市 稲生家]
〔まもなく蕨、蕨。お出口は、右側です〕
〔The next station is Warabi.JK41.The doors on the right side will open.〕
〔「浦和、大宮方面ご利用のお客様は、お乗り換えです」〕
隣の汽車線を轟音を立てて中距離電車が通過して行く中、電車が電車線ホームに滑り込む。
〔わらび、蕨。ご乗車、ありがとうございます〕
稲生勇太とマリアは電車を降りた。
勇太:「この蕨市にも、ウクライナからの避難者が住んでいるらしいよ」
マリア:「そうなのか」
勇太:「蕨駅で募金活動があったらしいね」
マリア:「その中にエレーナもいたんじゃないだろうな?」
勇太:「いや、ネットで見た限り、募金活動をしたのは日本人だけらしいけど……」
マリア:「そうなのか。まあ、日本人が日本で何をしようが別に問題無い」
〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕
2人は階段を昇って改札口を出た。
さいたま市よりも外国人を多く見るのは、蕨市と川口市は移民の割合が多いからだろう。
だが、少なくとも作者は凡そ3年ほど住んでいて、英語を話す外国人を見たことがない(つまり、英語圏の外国人は殆どいない)。
その為か、英語圏の、それも白人のマリアは目立つようである。
マリア:「素顔を晒していては目立つか?」
勇太:「多分」
マリア:「分かった」
マリアはローブのフードを被った。
蕨駅東口から外に出て、更に東へ100メートルほど歩くと川口市である。
そこから北に向かって歩くと住宅街があり、そこに新築された稲生家があった。
門扉はもちろんのこと、玄関ドアもカードキーで開けるシステム。
もっとも、魔道士の解錠魔法で開けることは可能である。
勇太:「ただいまァ」
マリア:「こんにちは。今日もお世話になります」
マリアはフードを取ると、ローブの裾を両手で少し広げて、ちょこんと御辞儀した。
御辞儀というより、片足を下げる感じ。
佳子:「お帰り。マリアちゃん、いらっしゃい。どうぞ、上がって」
マリア:「失礼します」
マリアは家に上がって、ふと気づいた。
マリア:「……?」
気づいたといえば気づいたのだが、勇太は気づいていないのだろうか。
マリア:(勇太のお母さん、少し白髪が増えたな。無理もない。この人達は、普通の人間だ。しかし、息子は……)
アスモデウス:「ちょっと、ステッキは傘立てにでも入れておきなさいよ」
ベルフェゴール:「しかし、ボクのウェポンだし……」
アスモデウス:「ただの変装の小道具でしょ!」
玄関で騒ぐ悪魔二柱。
アスモデウスは、まるでポルノ女優のような風体をしていたが、彼女が勇太と契約を結ぶ悪魔だと正式に決定した為(まだ契約は結んでいない)、既に悪魔からその力の片鱗の影響は受けている。
そのうちの1つが、加齢の停止。
悪魔としては、契約者が使える間は長く使いたいと思っているので、その間の寿命は保証する。
但し、使えなくなったと判断したら【お察しください】。
特に魔道士との契約は、悪魔側にとっても大きなメリットがある為、殆どの悪魔は標準的に加齢や老化を止めることを行う。
マリアは18歳でベルフェゴールと正式再契約した為(人間だった頃に一度契約しているが、その時、ベルフェゴールは加齢を止めることはしなかった。その後のマリアの運命を見る限り、その辺りを予想して、あえてそのオプションを外したのだろう)、肉体年齢はほぼその状態で止まっている。
マリア:「あまり騒ぐと、家の人に怪しまれるぞ」
マリアは振り向いて、悪魔達を窘めた。
佳子:「ん?どうしたの?マリアちゃん」
マリア:「いえ、何でもありません」
悪魔の姿は、魔道士などの一部の者にしか見えない。
ましてや、一般人には見えるはずがない。
勇太:「母さん、マリアさんの部屋は大丈夫?」
佳子:「もう用意してあるわよ」
勇太:「じゃあ、3階に行って来る。マリア、こっちへ」
マリア:「うん」
勇太はホームエレベーターに、マリアと一緒に乗った。
エレベーターは3人乗りで、広さは一般的な家庭のトイレくらい。
トイレから便器を外した広さくらいである。
それで3階まで行くと、部屋は2つ。
1つは勇太の部屋。
もう1つは、イリーナとマリアが泊まりに来る時用の部屋(親族等が泊まる際の部屋は別にある)。
今回はイリーナがいないので、マリアが1人で泊まることになる。
その為か、今回は折り畳みベッドが1つだけ置いてあった。
折り畳みベッドの上に、布団が敷いてある。
明らかに来客用の予備ベッドだった。
佳子:「2人とも、16時くらいになったら出掛けるわよ」
勇太:「分かった」
佳子:「モールのJTBに行くから、お父さんから封筒は預かった?」
勇太:「実際は秘書の人が来たけどね」
その秘書もまた、代理の者だった。
勇太:「父さんはそんなに忙しいのかな?」
佳子:「どうなのかしらねぇ……」
佳子は首を傾げた。
[同日16:10.天候:曇 同県川口市芝新町 蕨駅東口バス停→国際興業バスSC01系統車内]
出発の時間になり、3人で家を出る。
その足でバス停に向かった。
歩道が狭いので、並ぶ時は気を使う。
バスの本数は多く、昼間は12分に1本の割合。
やってきたバスは、都営バスと同様のノンステップバスだった。
都営バスの路線車はもうノンステップバスしか存在しないが、国際興業だとワンステップも存在する。
ここでは後ろから乗って、前から降りる。
まあ、埼玉県まで来ると間違える者はいないのだが、同じ都内の23区内と多摩地域の境付近はよく間違う。
多摩地域では、後ろ乗り前降りなので。
佳子:「私は前の方に座るから、あなた達は好きな席に座りなさい」
と、佳子は車椅子スペースの折り畳み椅子に座った。
稲生とマリアは、中扉から後ろの2人席に座る。
平日の夕方前なので、そんなに混んでいなかった。
が、発車直前の時点では完全に空いている座席は無くなっていた。
尚、首都圏では1番前の席はコロナ対策と称して使用禁止になっている。
〔発車致します。ご注意ください〕
発車時間になり、引き戸式の中扉が閉まる。
昔はブザーだったが、今では電車みたいなドアチャイムが主流になっている。
ブザー式は、地方に行けばまだあるだろうか。
〔♪♪♪♪。毎度、国際興業バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは、イオンモール川口前川行きです。次は猫橋、猫橋でございます。……〕
バスは五差路の交差点を左折した。
そこから県道に向かう途中、ビルに入居したキリスト教の教会の前を通過する。
但し、あまり霊的なものを感じ取らなかったのか、或いはバスの中だからと安心しているのか、マリアが特に気にする様子は無かった。
もっとも、キリスト教全ての宗派が魔女狩りを行っているわけではないし、肯定しているわけではない(むしろ、今では否定派が多いだろう。何しろ、ローマ法王自身が否定している)。
怖いのは、むしろイスラム教。
あそこは宗派を挙げての魔女狩り肯定派だ。
マリア:「ショッピングモールで、何か買うのだろうか?」
勇太:「多分ね。まずはJTBに行って、引換券を宿泊券に引き換えてこないと。買い物はそれからだろうね」
マリア:「そうか……」
バスは県道111号線(蕨桜町線)を東に向かって進んだ。
〔まもなく蕨、蕨。お出口は、右側です〕
〔The next station is Warabi.JK41.The doors on the right side will open.〕
〔「浦和、大宮方面ご利用のお客様は、お乗り換えです」〕
隣の汽車線を轟音を立てて中距離電車が通過して行く中、電車が電車線ホームに滑り込む。
〔わらび、蕨。ご乗車、ありがとうございます〕
稲生勇太とマリアは電車を降りた。
勇太:「この蕨市にも、ウクライナからの避難者が住んでいるらしいよ」
マリア:「そうなのか」
勇太:「蕨駅で募金活動があったらしいね」
マリア:「その中にエレーナもいたんじゃないだろうな?」
勇太:「いや、ネットで見た限り、募金活動をしたのは日本人だけらしいけど……」
マリア:「そうなのか。まあ、日本人が日本で何をしようが別に問題無い」
〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕
2人は階段を昇って改札口を出た。
さいたま市よりも外国人を多く見るのは、蕨市と川口市は移民の割合が多いからだろう。
だが、少なくとも作者は凡そ3年ほど住んでいて、英語を話す外国人を見たことがない(つまり、英語圏の外国人は殆どいない)。
その為か、英語圏の、それも白人のマリアは目立つようである。
マリア:「素顔を晒していては目立つか?」
勇太:「多分」
マリア:「分かった」
マリアはローブのフードを被った。
蕨駅東口から外に出て、更に東へ100メートルほど歩くと川口市である。
そこから北に向かって歩くと住宅街があり、そこに新築された稲生家があった。
門扉はもちろんのこと、玄関ドアもカードキーで開けるシステム。
もっとも、魔道士の解錠魔法で開けることは可能である。
勇太:「ただいまァ」
マリア:「こんにちは。今日もお世話になります」
マリアはフードを取ると、ローブの裾を両手で少し広げて、ちょこんと御辞儀した。
御辞儀というより、片足を下げる感じ。
佳子:「お帰り。マリアちゃん、いらっしゃい。どうぞ、上がって」
マリア:「失礼します」
マリアは家に上がって、ふと気づいた。
マリア:「……?」
気づいたといえば気づいたのだが、勇太は気づいていないのだろうか。
マリア:(勇太のお母さん、少し白髪が増えたな。無理もない。この人達は、普通の人間だ。しかし、息子は……)
アスモデウス:「ちょっと、ステッキは傘立てにでも入れておきなさいよ」
ベルフェゴール:「しかし、ボクのウェポンだし……」
アスモデウス:「ただの変装の小道具でしょ!」
玄関で騒ぐ悪魔二柱。
アスモデウスは、まるでポルノ女優のような風体をしていたが、彼女が勇太と契約を結ぶ悪魔だと正式に決定した為(まだ契約は結んでいない)、既に悪魔からその力の片鱗の影響は受けている。
そのうちの1つが、加齢の停止。
悪魔としては、契約者が使える間は長く使いたいと思っているので、その間の寿命は保証する。
但し、使えなくなったと判断したら【お察しください】。
特に魔道士との契約は、悪魔側にとっても大きなメリットがある為、殆どの悪魔は標準的に加齢や老化を止めることを行う。
マリアは18歳でベルフェゴールと正式再契約した為(人間だった頃に一度契約しているが、その時、ベルフェゴールは加齢を止めることはしなかった。その後のマリアの運命を見る限り、その辺りを予想して、あえてそのオプションを外したのだろう)、肉体年齢はほぼその状態で止まっている。
マリア:「あまり騒ぐと、家の人に怪しまれるぞ」
マリアは振り向いて、悪魔達を窘めた。
佳子:「ん?どうしたの?マリアちゃん」
マリア:「いえ、何でもありません」
悪魔の姿は、魔道士などの一部の者にしか見えない。
ましてや、一般人には見えるはずがない。
勇太:「母さん、マリアさんの部屋は大丈夫?」
佳子:「もう用意してあるわよ」
勇太:「じゃあ、3階に行って来る。マリア、こっちへ」
マリア:「うん」
勇太はホームエレベーターに、マリアと一緒に乗った。
エレベーターは3人乗りで、広さは一般的な家庭のトイレくらい。
トイレから便器を外した広さくらいである。
それで3階まで行くと、部屋は2つ。
1つは勇太の部屋。
もう1つは、イリーナとマリアが泊まりに来る時用の部屋(親族等が泊まる際の部屋は別にある)。
今回はイリーナがいないので、マリアが1人で泊まることになる。
その為か、今回は折り畳みベッドが1つだけ置いてあった。
折り畳みベッドの上に、布団が敷いてある。
明らかに来客用の予備ベッドだった。
佳子:「2人とも、16時くらいになったら出掛けるわよ」
勇太:「分かった」
佳子:「モールのJTBに行くから、お父さんから封筒は預かった?」
勇太:「実際は秘書の人が来たけどね」
その秘書もまた、代理の者だった。
勇太:「父さんはそんなに忙しいのかな?」
佳子:「どうなのかしらねぇ……」
佳子は首を傾げた。
[同日16:10.天候:曇 同県川口市芝新町 蕨駅東口バス停→国際興業バスSC01系統車内]
出発の時間になり、3人で家を出る。
その足でバス停に向かった。
歩道が狭いので、並ぶ時は気を使う。
バスの本数は多く、昼間は12分に1本の割合。
やってきたバスは、都営バスと同様のノンステップバスだった。
都営バスの路線車はもうノンステップバスしか存在しないが、国際興業だとワンステップも存在する。
ここでは後ろから乗って、前から降りる。
まあ、埼玉県まで来ると間違える者はいないのだが、同じ都内の23区内と多摩地域の境付近はよく間違う。
多摩地域では、後ろ乗り前降りなので。
佳子:「私は前の方に座るから、あなた達は好きな席に座りなさい」
と、佳子は車椅子スペースの折り畳み椅子に座った。
稲生とマリアは、中扉から後ろの2人席に座る。
平日の夕方前なので、そんなに混んでいなかった。
が、発車直前の時点では完全に空いている座席は無くなっていた。
尚、首都圏では1番前の席はコロナ対策と称して使用禁止になっている。
〔発車致します。ご注意ください〕
発車時間になり、引き戸式の中扉が閉まる。
昔はブザーだったが、今では電車みたいなドアチャイムが主流になっている。
ブザー式は、地方に行けばまだあるだろうか。
〔♪♪♪♪。毎度、国際興業バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは、イオンモール川口前川行きです。次は猫橋、猫橋でございます。……〕
バスは五差路の交差点を左折した。
そこから県道に向かう途中、ビルに入居したキリスト教の教会の前を通過する。
但し、あまり霊的なものを感じ取らなかったのか、或いはバスの中だからと安心しているのか、マリアが特に気にする様子は無かった。
もっとも、キリスト教全ての宗派が魔女狩りを行っているわけではないし、肯定しているわけではない(むしろ、今では否定派が多いだろう。何しろ、ローマ法王自身が否定している)。
怖いのは、むしろイスラム教。
あそこは宗派を挙げての魔女狩り肯定派だ。
マリア:「ショッピングモールで、何か買うのだろうか?」
勇太:「多分ね。まずはJTBに行って、引換券を宿泊券に引き換えてこないと。買い物はそれからだろうね」
マリア:「そうか……」
バスは県道111号線(蕨桜町線)を東に向かって進んだ。