報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「リサの調子」

2022-09-04 20:22:58 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月16日18:00.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日の業務を終え、私は事務所から徒歩数分のマンションへ帰って来た。

 愛原:「ただいまァ」
 高橋:「お帰りなさい、先生」

 夕食の支度の為に、先に帰宅していた高橋が出迎える。

 高橋:「今、夕食作ってますんで」
 愛原:「ああ」

 リサの体調が悪化し、体質に変化があってから1ヶ月が経過した。
 幸いにして食事の嗜好については、時間の経過の問題で良かったようで、今現在は殆ど従来通りに戻っている。
 見た目の問題は、髪であった。
 黒い髪だったのが、どんどん色が抜け落ちてしまい、今では完全に脱色状態になってしまった。
 この事については既に学校に申告し、『病気または体質によるもの』として、認められている。
 本来は、黒染めすれば良いのだろう。
 試しに黒染めしたこともあったが、やはりどうしてもすぐに抜け落ちてしまうのだ。
 髪質も少し変わり、それまでウェーブの掛かった感じだったのが、今はストレートに変わっている。

 リサ:「先生、お帰り」
 愛原:「ああ、ただいま」

 服装の嗜好も変わり、室内では体操着に紺色のブルマーという出で立ちに変わった。
 最初は私を誘うつもりでそういうコスプレをしているのだろうと思っていて、もちろんそれもあるのだろうが、どうも理由がハッキリしない。
 しかし、外に出る時は普通の私服に着替えている。
 先月以降、リサの体内外で色々と変化があったのは事実のようだ。

 リサ:「明日は帰り、少し遅くなる」
 愛原:「そうなのか。何かあるのか?」
 リサ:「新聞部の取材。毎年恒例の『学校の七不思議特集』 。また、わたしが語り部に呼ばれたから」
 愛原:「そうか。くれぐれも、ホラー演出しないようにな」
 リサ:「分かってる。また、あの鬼斬り先輩も出るみたいだから、滅多なことできないし」
 愛原:「おお、栗原さんか」
 リサ:「そう」
 愛原:「それなら、まあそうなるな。リサはどんなこと話すつもりだ?まさか、自分のことじゃないよな?」
 リサ:「違う。私は“花子さん”のことを話そうと思う」
 愛原:「ああ、あれか。大丈夫なのか?」
 リサ:「大丈夫。“花子さん”は、もういないから」
 愛原:「いないって分かるのか」
 リサ:「分かる」

 因みに、今着ている体操服とブルマーは東京中央学園でかつて着用されていたものではない。
 リサが通販で買ったものである。
 恐らくコスプレ用なのだと思う。
 体操服の胸の所に、『りさ・とればー』と、平仮名で大きく名前を書いてある。
 どうして、これを着ようと思ったのかは分からない。
 ただの私服のつもりで買ったのだろうか?
 実際に私を誘う目的で着る場合は、東京中央学園でかつて着用されていた体操服と緑色のブルマーを着用してくる。

 リサ:「だから、皆に忘れさせないように語り継いであげなきゃ」
 愛原:「それでもいいんだけど、この前の代替修学旅行であった話は?」
 リサ:「あー……それはタイミングを見て話すかどうか決める」
 愛原:「そうか。バッドエンドにならないよう、気をつけてな」
 リサ:「分かってる。昨年は神田拓郎さんの幽霊が来て、大騒ぎだった。あれ、わたしの立ち回りが悪かったら、バッドエンドになってたかも……」
 愛原:「そうだな」

[同日18:30.天候:曇 愛原のマンション]

 高橋:「お待たせしました。できましたよ」
 リサ:「おー」
 愛原:「今日は焼肉定食か。リサが好きそうだ。肉は何だ?」
 高橋:「牛カルビです」
 愛原:「そうか。そりゃいい」
 高橋:「先生、どうぞ」

 高橋は缶ビールの蓋を開けると、私のグラスに注いだ。

 愛原:「ありがとう。それじゃ、いただきます」
 リサ:「いただきまーす」
 高橋:「しっかし、アレっすねー」
 愛原:「何だ?」
 高橋:「リサの髪、いっそのことパツキンかシルバーアッシュに染めるってのはどうっスか?」
 愛原:「アホか。オマエじゃあるまいし。校則違反だろうが」
 高橋:「脱色も校則違反じゃ?」
 愛原:「リサの場合はわざとそうしたんじゃないってことくらい、オマエも分かるだろう?体質の変化によってそうなったからしょうがないって、学校にも認めてもらったよ」
 高橋:「うらやまっスね」
 愛原:「オマエだって、髪を金髪に染めてんだろうが」
 高橋:「い、いや、これはその……俺のアイデンティティーっスから」
 愛原:「何がアイデンティティーだよ……」

[同日19:00.天候:雨 愛原のマンション]

 食事が終わる頃、雨が降って来た。

 愛原:「雨が降ってきたな……」
 高橋:「通りでジメジメすると思ったっス」

 こういう時、エアコンは『冷房』の方がいいのか、『除湿』の方がいいのか迷ってしまう。
 リサは体操服姿のまま、リビングのソファに座ってテレビを観ていた。

〔「さあ、今日のゲストは、今話題のスーパーアイドル、尾崎まなみちゃんです!」「どうも、こんばんはー」「何や、またオマエかい」「ど、どーも……」「おま、ゲストに『オマエ』言うなや!」〕

 リサ:「あはははは!」

 リサは食後のデザートと、冷凍庫からカップアイスを取り出して食べている。
 食事の嗜好は、本当に体質変化前と変わらず、食べれるようになった。
 だが、最近はゲームをやらなくなったな……。
 テレビの、こういうバラエティ番組を観るようになったが……。
 そういえば、“トイレの花子さん”も、テレビ観賞が好きだったと聞いたことがあるが、それと関係あるのだろうか。

 リサ:「先生もこっちに来て。一緒に観よう」
 愛原:「何のバラエティだ?」
 リサ:「『事務所対抗、アイドルクイズ大会!』」
 愛原:「何だその昭和のクイズ番組みたいなタイトルは?w」

 まあ、とにかく食事の嗜好は戻り(といっても、まだ悪食はあるらしい)、ファッションセンスについては異常性が見られるものの、何とか普通に戻りつつあって良かった。
 明日は善場主任の所に、リサの動向について報告しに行く日なのだが、普通の報告ができそうだ。
 因みに、部屋着として何故か体操服を着るようになったことについては既に報告済みで、善場主任の反応は、『しばらく様子見で』ということだった。

 善場:「何かのこだわりで着ているのかもしれませんし、一時期の気の迷いなのかもしれません。あくまでも室内限定で着ているというのであれば、このまま様子見としておきましょう。もしかしたら、そのうち飽きて、また普通の私服を着るようになるかもしれませんし」

 とのこと。
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“大魔道師の弟子” 「深夜の帰宅」

2022-09-04 16:04:33 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月19日22:42.天候:晴 長野県北安曇郡白馬村 JR大糸線5355M列車先頭車→白馬駅]

 大糸線では乗り換えが1回ある。
 松本駅から南小谷駅まで走り通す普通列車は少なく、多くの列車が信濃大町で乗り換えとなる。
 これは大糸線の旅客数が、南北で大差あるからだ。
 松本~信濃大町間は、3両1編成で構成される211系という車両が多く充当されており、これはツーマン運転である。
 それが信濃大町~南小谷間は2両編成ワンマン運転の電車となり、更には南小谷~糸魚川間に至っては気動車1両だけのワンマン列車である。
 大糸線で廃止の危機に瀕しているのは、この気動車区間である。
 今回の旅のトップバッターでもあった。

〔ピンポーン♪ まもなく、白馬です。白馬駅では、全ての車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。乗車券、運賃、整理券は駅係員にお渡しください。定期券は、駅係員にお見せください〕

 松本駅から信濃大町駅まで乗った211系電車は、全てロングシートの車両だった。
 これが却って眠れるとばかり、稲生は寝落ちしてしまった。
 今の電車は、ボックスシート付きで、そこに向かい合わせに座っている。
 こちらは勇太だけでなく、マリアも舟を漕いでいた。

 勇太:「は……!」

 車内の自動放送で目を覚ます。
 進行方向逆向きに座っていた勇太は、慌てて後ろを振り向いた。
 運転席右上の運賃表示機には、次駅停車案内も表示されている。
 今時の液晶表示であるが、『まもなく 白馬 です』という表示が見えた。

 勇太:「もう到着だ!マリア、起きて!」
 マリア:「んっ……?あー、つい寝ちゃった……」
 勇太:「白馬駅が見えて来た」

 勇太達の乗っているE127系は、運転室が左半分にしか無い。
 右側はちょっとした仕切りがあるだけで、ブラインドが下ろされることもなく、夜間でも前面展望が楽しめる。
 そのフロントガラス越しに、白馬駅の明かりが見えて来た。
 同時に、運転室からガチャッとハンドルを操作する音が聞こえ、列車が減速する。
 ここで対向列車との行き違いがあると、ATSの警報音なんかも響いてくるのだが(場内信号が黄色、出発信号が赤の為)、こんな時間にそれは無いのか、そのような音が聞こえてくることはなかった。

 勇太:「着いたー」

 そして電車は、本線の1番線に到着する。
 対向電車があったりすると、副線の2番線に止まったりすることもあるが、今回は無いので。
 その為、跨線橋の昇り降りは無い。

〔「ご乗車ありがとうございました。白馬、白馬です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。1番線の電車は、南小谷行きの最終です。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕

 電車を降りると、改札口にいる駅員にキップを渡す。
 白馬駅はまだ自動改札になっていない為、こういう形になるのだ。
 この時は、魔界高速電鉄の高架鉄道線を思い出した。

 勇太:「駅から先は……」
 マリア:「師匠が迎えを寄越すってさ」
 勇太:「そうか」

 駅の外に出ると、ロータリーに黒塗りのベンツSクラスが停車していた。
 勇太やマリアの魔力ではタクシーくらいの車種がせいぜいだが、イリーナが使うと、さすがに高級車が調達できるようだ。
 黒いスーツに白い帽子を目深に被った運転手が、ハイヤーの運転手よろしく、助手席後ろのドアを開ける。
 そして、荷物を入れる為にトランクも開けた。

 勇太:「悪いね」

 本革仕様のシートは、さすがに広かった。
 なかなか滅多に乗れるものではない。
 最後に運転手が乗り込むと、車は夜の駅前ロータリーを出た。

 勇太:「先生が迎えを寄越してくれたってことは、先生はまだ起きてるってこと?」
 マリア:「いや、寝てるだろ」
 勇太:「でも、この車……」
 マリア:「師匠のことだから、魔法石を使っているはず。これに魔力を吹き込めば、本人が寝てても魔法は発動する」
 勇太:「言うは易く行うは難し、かな?」
 マリア:「案外難しいんだ。幸い、人形達は師匠の力を借りてるけどね」

 夜でも人形が夜警を務めていられるのは、イリーナの魔法石によるところが大きい。

[同日23:15.天候:晴 長野県北部山中 マリアの屋敷]

 山道の県道から、突然車は砂利道の林道に入る。
 その林道を突き進むと、レンガ造りのトンネルが現れる。
 林道自体が1車線程度の幅しか無い為、トンネルもその幅だった。
 しかも、トンネル内には長さの割に明かりが全く無い。
 車は県道走行中からヘッドライトをハイビームにしていたが、林道から先はそうでもしないと本当に見えにくいのだ。
 そのトンネルを抜けると、ようやく屋敷が見えてくる。
 そして、深夜にも関わらず、運転手は正面玄関に着ける時にクラクションを鳴らした。
 これが、中にいるメイド人形達に対する到着の合図である。

 勇太:「どうもありがとう」

 車を降りると、メイド人形達が出迎えた。
 そして、トランクの中から荷物を降ろすのを手伝ったりする。

 勇太:「いいのかな?こんな賑やかで……」

 ここから歩いて行ける場所に、他に家など無いから近所迷惑ってことはないのだが、イリーナは寝てないのだろうか。

 イリーナ:「やあやあ。無事に帰って来れたねぇ」

 エントランスホールに入ると、イリーナもやってきた。
 特に寝ていたという感じは無く、いつもの服を着ていることから、起きていたようである。

 勇太:「ただいま帰りました。こんなに夜遅くになってしまって、申し訳ありません」
 イリーナ:「そうねぇ……。別に、もう一泊してきても良かったんだよ。私のカード、まだまだ限度額に余裕があるからねぇ……」
 勇太:「いえ、そんな、先生のカードで無駄遣いは……」
 マリア:「師匠。お土産のワインと“桔梗信玄餅”です」
 イリーナ:「おお~、こりゃどうも悪いねぇ。長旅で疲れたでしょう。今夜のところは、さっさと寝なさい。大事な話は、明日」
 マリア:「大事な話?」
 イリーナ:「アタシが、ただ単に気まぐれで行方不明になっていたと思うかい?もちろん、色々と立ち回っていたのさ。その1つがこれ」

 イリーナは1枚の書類を見せた。

 イリーナ:「あなた達の結婚許可証。アタシは前々からサインしていたけど、ダンテ先生のがまだだったでしょう?だからさ、何とか捜し出してサインしてもらったよ」
 勇太:「ええっ、本当ですか!?」
 マリア:「……だけどこれ、大師匠様のサインではないですが……?」
 イリーナ:「ダンテ先生は捕まらなかったから、代わりに私にとっての大師匠様にサインを頂いたよ」
 勇太:「ええっ!?」
 マリア:「そ、それって、大師匠様の更に上の……?」
 イリーナ:「ラハブ様さ。いやあ、どちらが先に捕まるかギャンブルだったけどねぇ、ようやくラハブ様に会えたというわけさ。事情を説明したら、快くサインしてくれたよ。ダンテ先生には、ラハブ様から仰って下さるってさ」

 ダンテが孫弟子達には優しく振る舞うのと同様、ラハブも孫弟子たるイリーナには優しいらしい。
 そのイリーナが、祖母におねだりする孫娘のような感じでサインを依頼したのかと思うと、この2人の弟子もまた笑みを隠せないのだった(因みにラハブは女性)。
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