[7月30日06:22.天候:晴 東京都墨田区菊川 都営地下鉄菊川駅→都営新宿線615T電車先頭車内]
〔まもなく1番線に、各駅停車、笹塚行きが、10両編成で到着します。ドアから離れて、お待ちください〕
出発当日になり、私と高橋、そしてリサと我那覇絵恋さんは、早朝の最寄り駅にいた。
トンネルの向こうから轟音と強風が近づいて来る。
やってきたのは、都営地下鉄の車両だった。
週末の早朝ということもあり、乗客はそんなに多くない。
〔1番線の電車は、各駅停車、笹塚行きです。きくかわ~、菊川~〕
先頭車に乗り込み、ラインカラーとよく似た色合いの座席に腰かけた。
〔1番線、ドアが閉まります〕
すぐに発車メロディが鳴って、ドアが閉まる。
ホームドアも閉まり切ってから、ようやく運転室から微かに発車合図のブザーが聞こえたと思うと、ガチャッと運転士がハンドルを操作する音が聞こえた。
そして、エアーの抜ける音がし、電車は静かに走り出した。
〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
絵恋さんは、上京最後の旅行を名残惜しそうにしている。
今日の1泊2日の旅行を終えた後、次の日にはまた沖縄に帰らないといけないからだ。
高橋:「先生、あの姉妹とはどこの駅で待ち合わせで?」
愛原:「東京駅だ。まあ、ラチ内で待ち合わせになるだろうな」
高橋:「ラチ内?」
リサ:「改札内ってこと。お兄ちゃん、先生は鉄ヲタなんだから」
高橋:「くっ……!」
愛原:「悪いな。さらっと専門用語使っちゃって……」
高橋:「さ、サーセン……」
[同日06:40.天候:晴 東京都千代田区外神田 JR秋葉原駅]
愛原:「なに?もうキップ買ってあるの?」
地下鉄は岩本町駅で降り、そこから徒歩でJR秋葉原駅に向かった。
地上乗換とはいえ、副駅名に『秋葉原』が採用されているだけあり、岩本町駅からは徒歩圏内である(尚、地下鉄日比谷線の秋葉原駅はもっと近い)。
昭和通り口にも“みどりの窓口”はあったが、2021年3月に廃止されている。
JR東日本は合理化政策をどんどん進めており、都心のそこそこ大きい駅であっても、“みどりの窓口”を廃止に追い込んでいる。
代わりに指定席券売機を設置しているわけだが、窓口対応でないと困るものもあるので、ちょっと……とは思う。
リサ:「うん。既に往復」
絵恋:「今回の交通費は、デイライトさんから出るんですよね?これ、領収証です」
愛原:「いや、多分、申し訳ないけど、絵恋さんの分は出ないと思うぞ?うちの事務所の関係者じゃないし」
絵恋:「ええっ!?」
高橋:「金持ちなんだから、別にいいだろうが……」
因みにリサ達がどうして先にキップを購入したのかというと、学生の特権、学割を利用したからである。
これは学校で発行された学割証を出札窓口に持って行き、学生証を提示すると、乗車券が2割引きされるというもの。
私も学生の頃は、そうしていた記憶がある。
学校は夏休みだが、平日であれば事務室は開いている為、そこに行って発行申請を行うわけである。
そういえばリサ達、何日か前、制服を着て学校に向かったことがある。
最初は夏期講習とか、部活関係とかかと思ったのだが、どうやら違ったようだ。
愛原:「でもよく知ってるな?あんまり学校の方から、そういう説明は無いというイメージなんだが……」
生徒手帳に書いていることが殆どなので、それをよく読む真面目な生徒ほど、学割を使用することが多い。
リサ:「あの鬼斬り先輩から聞いた」
愛原:「なるほど。学校の先輩から聞いたか」
ということは、恐らく栗原蓮華の妹の愛理も学割を使うのだろう。
中学生からは、大人運賃になるからだ。
蓮華は恐らく学割よりもっと割引率の高い、障害者手帳を使うものと思われる(栗原蓮華は左足を失う大怪我を負っており、第2種障害者となっていて、これは鉄道運賃半額の対象となる)。
愛原:「俺と高橋は定額だな」
私は指定席券売機で、往復新幹線自由席特急券と乗車券を2人分購入した。
もちろん、領収証の発行も忘れない。
乗車券は『東京山手線内』なので、この駅から既にこの乗車券を利用できる。
愛原:「どうせ、後でデイライトさんに請求できるけど」
高橋:「いっそのこと、グリーン車にしますか?w」
愛原:「アホ。さすがにムリあるわ」
すぐ調子に乗る高橋を窘め、私達は乗車券だけを自動改札機に通し、コンコースに入った。
[同日06:51.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東日本・東京駅→JR東海・東京駅]
〔とうきょう、東京。ご乗車、ありがとうございます。次は、有楽町に、停車致します〕
秋葉原駅から山手線に乗り込んで、東京駅へ。
在来線コンコースと東海道新幹線コンコースを繋ぐ、南乗換改札口(通称、『南乗り(なんのり)』)を通過した。
通過する際は乗車券と特急券を同時に改札機に入れる。
そのままホームに上がるのではなく、待ち合わせ場所である八重洲南口改札前に向かった。
栗原蓮華:「おはようございます、愛原先生!」
少女達の中では最年長かつ最長身の蓮華が挨拶してきた。
栗原姉妹は制服姿で、蓮華の左足からは義足が伸びている。
霧生市に在住していた時、追跡中の特殊部隊から逃走する『1番』と鉢合わせになったことで、左足を食い千切られた。
それ以外にも、東京の親戚宅にいた愛理を除く他の兄弟達を食い殺されたことで、それを捜索する為と怒りを露わにする為、わざと義足を隠さずに生活していたという。
『1番』の仲間で、妹の愛理を襲った『2番』のリサに、手持ちの刀の刃を振るったこともある。
今は『1番』もこの世からは消えてしまったが、『2番』のリサに対する警告として、今でも義足はこのように晒している。
愛原:「ああ、おはよう。ちゃんとキップは買えたかな?」
蓮華:「当たり前です」
愛原:「学割?」
蓮華:「妹は学割で、私は(障害者)手帳で……」
愛原:「ああ、そう」
予想通りだった。
リサ:「先生、駅弁買うでしょ?」
愛原:「そうだな。2人とも、朝食はまだかい?」
蓮華:「まだです」
愛原:「そうか。じゃあ、駅弁買ってあげるから、それからホームに行こう」
蓮華:「ありがとうございます!」
因みに蓮華の手には、麻袋に包んだ刀剣がある。
リサも恐れるほどに、その刀剣は『鬼の首を斬れる』ものらしい。
リサが本当に先輩と恐れる理由は、その刀剣にある。
愛原:「7時27分発、“こだま”705号、名古屋行き。これの1号車に乗るけど、いいかな?」
私はリサを指さして言った。
BSAAとの取り決めによるものだが、蓮華はそれを理解しているので、了承した。
そして駅弁を買うと、私達は階段を昇ってホームに向かった。
今では階段の昇り降りを慣れた足つきで昇降する蓮華だが、やはり最初は血の滲む訓練をしなければならなかったらしい。
〔まもなく1番線に、各駅停車、笹塚行きが、10両編成で到着します。ドアから離れて、お待ちください〕
出発当日になり、私と高橋、そしてリサと我那覇絵恋さんは、早朝の最寄り駅にいた。
トンネルの向こうから轟音と強風が近づいて来る。
やってきたのは、都営地下鉄の車両だった。
週末の早朝ということもあり、乗客はそんなに多くない。
〔1番線の電車は、各駅停車、笹塚行きです。きくかわ~、菊川~〕
先頭車に乗り込み、ラインカラーとよく似た色合いの座席に腰かけた。
〔1番線、ドアが閉まります〕
すぐに発車メロディが鳴って、ドアが閉まる。
ホームドアも閉まり切ってから、ようやく運転室から微かに発車合図のブザーが聞こえたと思うと、ガチャッと運転士がハンドルを操作する音が聞こえた。
そして、エアーの抜ける音がし、電車は静かに走り出した。
〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
絵恋さんは、上京最後の旅行を名残惜しそうにしている。
今日の1泊2日の旅行を終えた後、次の日にはまた沖縄に帰らないといけないからだ。
高橋:「先生、あの姉妹とはどこの駅で待ち合わせで?」
愛原:「東京駅だ。まあ、ラチ内で待ち合わせになるだろうな」
高橋:「ラチ内?」
リサ:「改札内ってこと。お兄ちゃん、先生は鉄ヲタなんだから」
高橋:「くっ……!」
愛原:「悪いな。さらっと専門用語使っちゃって……」
高橋:「さ、サーセン……」
[同日06:40.天候:晴 東京都千代田区外神田 JR秋葉原駅]
愛原:「なに?もうキップ買ってあるの?」
地下鉄は岩本町駅で降り、そこから徒歩でJR秋葉原駅に向かった。
地上乗換とはいえ、副駅名に『秋葉原』が採用されているだけあり、岩本町駅からは徒歩圏内である(尚、地下鉄日比谷線の秋葉原駅はもっと近い)。
昭和通り口にも“みどりの窓口”はあったが、2021年3月に廃止されている。
JR東日本は合理化政策をどんどん進めており、都心のそこそこ大きい駅であっても、“みどりの窓口”を廃止に追い込んでいる。
代わりに指定席券売機を設置しているわけだが、窓口対応でないと困るものもあるので、ちょっと……とは思う。
リサ:「うん。既に往復」
絵恋:「今回の交通費は、デイライトさんから出るんですよね?これ、領収証です」
愛原:「いや、多分、申し訳ないけど、絵恋さんの分は出ないと思うぞ?うちの事務所の関係者じゃないし」
絵恋:「ええっ!?」
高橋:「金持ちなんだから、別にいいだろうが……」
因みにリサ達がどうして先にキップを購入したのかというと、学生の特権、学割を利用したからである。
これは学校で発行された学割証を出札窓口に持って行き、学生証を提示すると、乗車券が2割引きされるというもの。
私も学生の頃は、そうしていた記憶がある。
学校は夏休みだが、平日であれば事務室は開いている為、そこに行って発行申請を行うわけである。
そういえばリサ達、何日か前、制服を着て学校に向かったことがある。
最初は夏期講習とか、部活関係とかかと思ったのだが、どうやら違ったようだ。
愛原:「でもよく知ってるな?あんまり学校の方から、そういう説明は無いというイメージなんだが……」
生徒手帳に書いていることが殆どなので、それをよく読む真面目な生徒ほど、学割を使用することが多い。
リサ:「あの鬼斬り先輩から聞いた」
愛原:「なるほど。学校の先輩から聞いたか」
ということは、恐らく栗原蓮華の妹の愛理も学割を使うのだろう。
中学生からは、大人運賃になるからだ。
蓮華は恐らく学割よりもっと割引率の高い、障害者手帳を使うものと思われる(栗原蓮華は左足を失う大怪我を負っており、第2種障害者となっていて、これは鉄道運賃半額の対象となる)。
愛原:「俺と高橋は定額だな」
私は指定席券売機で、往復新幹線自由席特急券と乗車券を2人分購入した。
もちろん、領収証の発行も忘れない。
乗車券は『東京山手線内』なので、この駅から既にこの乗車券を利用できる。
愛原:「どうせ、後でデイライトさんに請求できるけど」
高橋:「いっそのこと、グリーン車にしますか?w」
愛原:「アホ。さすがにムリあるわ」
すぐ調子に乗る高橋を窘め、私達は乗車券だけを自動改札機に通し、コンコースに入った。
[同日06:51.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東日本・東京駅→JR東海・東京駅]
〔とうきょう、東京。ご乗車、ありがとうございます。次は、有楽町に、停車致します〕
秋葉原駅から山手線に乗り込んで、東京駅へ。
在来線コンコースと東海道新幹線コンコースを繋ぐ、南乗換改札口(通称、『南乗り(なんのり)』)を通過した。
通過する際は乗車券と特急券を同時に改札機に入れる。
そのままホームに上がるのではなく、待ち合わせ場所である八重洲南口改札前に向かった。
栗原蓮華:「おはようございます、愛原先生!」
少女達の中では最年長かつ最長身の蓮華が挨拶してきた。
栗原姉妹は制服姿で、蓮華の左足からは義足が伸びている。
霧生市に在住していた時、追跡中の特殊部隊から逃走する『1番』と鉢合わせになったことで、左足を食い千切られた。
それ以外にも、東京の親戚宅にいた愛理を除く他の兄弟達を食い殺されたことで、それを捜索する為と怒りを露わにする為、わざと義足を隠さずに生活していたという。
『1番』の仲間で、妹の愛理を襲った『2番』のリサに、手持ちの刀の刃を振るったこともある。
今は『1番』もこの世からは消えてしまったが、『2番』のリサに対する警告として、今でも義足はこのように晒している。
愛原:「ああ、おはよう。ちゃんとキップは買えたかな?」
蓮華:「当たり前です」
愛原:「学割?」
蓮華:「妹は学割で、私は(障害者)手帳で……」
愛原:「ああ、そう」
予想通りだった。
リサ:「先生、駅弁買うでしょ?」
愛原:「そうだな。2人とも、朝食はまだかい?」
蓮華:「まだです」
愛原:「そうか。じゃあ、駅弁買ってあげるから、それからホームに行こう」
蓮華:「ありがとうございます!」
因みに蓮華の手には、麻袋に包んだ刀剣がある。
リサも恐れるほどに、その刀剣は『鬼の首を斬れる』ものらしい。
リサが本当に先輩と恐れる理由は、その刀剣にある。
愛原:「7時27分発、“こだま”705号、名古屋行き。これの1号車に乗るけど、いいかな?」
私はリサを指さして言った。
BSAAとの取り決めによるものだが、蓮華はそれを理解しているので、了承した。
そして駅弁を買うと、私達は階段を昇ってホームに向かった。
今では階段の昇り降りを慣れた足つきで昇降する蓮華だが、やはり最初は血の滲む訓練をしなければならなかったらしい。