報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「リサのバイト」

2022-09-07 20:35:46 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月18日14:30.天候:雨 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 悪の製薬企業として全世界に名を轟かせた“アンブレラ・コーポレーション・インターナショナル”。
 日本では『アンブレラ製薬』と呼ばれ、日本にも現地法人を持っていた。
 名前を『日本アンブレラ製薬』と言い、『アンブレラ日本支部』とか、『アンブレラ・ジャパン』とも呼ばれた。
 名前の由来は、その名の通り雨傘で、様々な病気を雨に見立て、『世界中の人々を、病気の雨から庇護する傘でありたい』という願いを込めて付けられたものだという。
 しかし、実際はそれは後付けの名前とロゴマークであったことが、後の“青いアンブレラ”の活躍で判明することになる。
 そんな悪の製薬会社に立ち向かうべく、立ち上げられたのがNPO法人デイライト。
 日本政府の後押しで作られたものである。
 名前の由来は日光で、『日の光が差すほど晴れれば、雨傘など不要』という痛烈な皮肉が込められている。
 そんなNPO法人デイライト東京事務所で、私達は善場主任から新たなる仕事の依頼を受けた。
 しかしその内容は、私よりもリサが活躍しそうなものだった。

 善場:「あなたのBOWとしての感覚を貸してもらいたいのです」
 リサ:「私が……バイト?」
 善場:「もしかしたら、初仕事かもしれませんね」
 リサ:「学校にバイト許可の申請しなきゃ」
 善場:「それは不要です。あくまで、『試験』の一環なので」
 リサ:「試験?」
 善場:「でも、仕事ですね。報酬は現金ではないようにしましょう」
 愛原:「何の仕事ですか?」
 善場:「来週末、ロシアから件の日本人旅客達が帰国してきます。その乗客達の中に、BOWがいないかリサの感覚を借りたいのです」
 愛原:「そんな情報があるんですか!?」
 善場:「もちろん、内密にお願いしますよ?」
 高橋:「そんなのがいたら、飛行機ん中で暴れるんじゃねーのか?」
 善場:「ロシア側がそのようなヘマをするとは思えません。遅効性のウィルスを投与し、帰国次第発症するように設定している恐れがあります」
 愛原:「ロシアがそんなことを……」
 善場:「ロシアにも、アメリカ版アンブレラみたいな製薬組織があります。BSAA欧州本部はものの見事に混乱に陥れたようですが、未だに落ち着いている極東支部、それも日本地区本部が目障りのようです」
 愛原:「よくそんな情報、手に入りましたね?」
 善場:「北朝鮮の情報と同様、外国政府からの情報は重要です」
 リサ:「……もしかして、ヨンヒ?」
 善場:「!」
 リサ:「最近、ヨンヒの姿が見えないの。一応、『日本のBSAA部隊で講習を受けている』ってことにはなってるけど、でも、韓国の支部の人が、日本の支部の講習を受けるとは思えないし……」
 善場:「よく分かったね。私達がパク・ヨンヒの留学ビザ取得におしたのは、そういった情報を手に入れる為よ」
 高橋:「何だか、政治的な駆け引きってのは面倒だなぁ……」
 善場:「とにかく、ロシアが何か企んでいるのは事実です。ただ、どこまで本当なのか分かりません。あからさまな機器を使えば、怪しまれます。そこでリサは、出迎え客に紛れ込んで、帰国者達の中にウィルスが投与されている人がいないかを見て頂きたいのです」
 リサ:「私の鼻で分かるかなぁ……」
 善場:「BOWは変な臭いがするって言ってたでしょ?この前の実験の時、あなたは『変化する前の姿』の状態でそれを嗅ぎ分けることができました。適任だと思います」
 リサ:「分かった。やってみる」
 善場:「お願いしますね」

[6月25日12:00.天候:晴 東京都中央区丸の内 JR東京駅]

 私達を乗せたタクシーが、東京駅八重洲中央口に到着する。

 愛原:「チケットでお願いします」
 運転手:「ありがとうございます」

 どうして東京駅に来たのかって?
 もちろん、これから新幹線に乗る為だ。
 どうして新幹線なの?成田空港に行くんじゃないの?と、思うかもしれない。
 私達も、そういうものだと思っていた。
 そこなら日帰りもできるだろうと。
 だが、そうではなかった。
 ロシア側は当初、ウラジオストクから成田まで、チャーター便を飛ばすか、日本の航空会社に迎えに来させるように言っていたらしい。
 日本政府も想定内だったのか、日本の航空会社にチャーター便の手配をしていたそうだ。
 そしたら何と、急きょ、ロシア側が『ウラジオストクから船で、新潟港まで日本人乗客を輸送する』と言ってきた。
 つまり、新潟港まで迎えに来いということだ。
 船はロシア側で用意するからと。
 元々、新潟~ウラジオストクには国際航路が通っていた。
 今は休止中だが、正式に廃止なったわけではない。
 これは新潟~北朝鮮(元山)の万景峰号と同じ。

 高橋:「プーチンちん、ボコしていいっスか?」
 愛原:「ボコせるものなら、とっくにゼレンスキー大統領が直接やってるよ。できないから皆苦労してるんだ」
 リサ:「新幹線、久しぶりに乗るー!先生、駅弁買っていい!?」

 リサだけが楽しそう。

 愛原:「ああ、そうだな」

 一泊することになったが、それはデイライト側で手配してくれた。
 善場主任とは、現地で落ち合うことになっている。
 急のことなので、キップは指定席ではなく、自由席だった。
 もっとも、始発駅の東京駅から乗るのだから問題無いわけだし、何よりまだコロナ禍で乗客数がコロナ前に戻ったわけではない。

 愛原:「キップは1人ずつ持とう」
 高橋:「うっス!」
 リサ:「わたし、先生の隣ー!」
 愛原:「自由席だよ。さっさと駅弁買って、ホームに行くぞ」
 高橋:「うっス。あと、タバコも吸い溜めしておきたいっす」
 愛原:「勝手にしろ」

 私はキップを2人に配ると、それで改札口を通った。
 在来線コンコースに入り、次に新幹線改札口を通る。
 東海道新幹線なら直接新幹線コンコースなのだが、東京側では新幹線しかやっていないJR東海と違い、在来線もやっているJR東日本だからそうなる。

 愛原:「何がいい?」
 リサ:「肉系統かな」
 愛原:「やっぱり」

 この時、リサは制服ではなく、やっぱり私服を着ていた。
 制服の方が目立つので、私服で出迎え客に紛れた方が良いという作戦だった。
 今回は白いTシャツの上にグレーのパーカー。
 下は、黒いスカートだった。
 パーカーの袖は捲くっている。
 どうしても感覚を研ぎ澄ます為には第1形態に戻る必要がある為、正体を隠す必要がある。
 もっとも、パーカーのフードだけで正体を隠せる程度の『異形』は珍しいらしい。

 リサ:「これがいい!」
 愛原:「あいよ」
 高橋:「先生、これいいっスか?」
 愛原:「分かったよ。……って、ビールは飲むな!仕事で行くんだから!」
 高橋:「さ、サーセン」

 駅弁と飲み物を購入した後、私達は乗り場へ向かった。
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“愛原リサの日常” 「事件のその後」

2022-09-07 16:24:38 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[6月18日12:00.天候:曇 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校付近のコインパーキング]

 コインパーキングに止められた1台のミニバン。
 その運転席の外側には高橋がタバコを燻らせており、助手席の後ろにはリサが座っていた。
 リサは学校が休みなので、私服姿である。
 黒いTシャツには、血文字のような字体で、『☣Biohazard☣』と書かれていた。
 下はデニムのショートパンツ。

 リサ:「あっ、先生帰ってきた」

 リサは車内では第1形態に戻っていた。
 リアシートの窓はスモークガラスになっているので、外からは見えない。

 高橋:「あっ、先生。お帰りなさい」

 高橋は煙草を消すと、携帯灰皿に吸い殻を入れた。
 別にマナーを意識しているのではなく、『足がつかない』ようにする為だ。
 かつてまだ高橋が半グレだった頃、ポイ捨てしたタバコを抗争相手の半グレに拾われ、そのグループが起こした事件現場に捨てられたことがある。
 煙草の吸い殻にはその喫煙者のDNAが残っており、後で捜査にやってきた警察が高橋のタバコの吸い殻を回収し、高橋が犯人だと疑ったことがあった。
 それ以来、それに懲りた高橋は煙草をポイ捨てするのはやめている。
 愛原からは、「禁煙したら?」と、言われているのだが……。

 愛原:「おー、ただいま」
 高橋:「お疲れ様です」
 愛原:「うん」

 愛原は助手席に乗り込んだ。

 リサ:「先生、お帰り」
 愛原:「ああ」
 リサ:「新しい制服、注文したよ」
 愛原:「そうか」

 車で愛原を学園前に降ろした後、リサは高橋と制服の販売店に向かった。
 リサのサイズについては店のデータに残っており、そのサイズ通りに新しい夏服を注文すれば良かった。
 尚、費用についてはデイライトが持ってくれるとのことである。
 夏服のブラウスについては、ブラウスに校章等の入ったワッペンが縫い付けられているものである。

 高橋:「飯に行きますか、先生?」
 愛原:「そうだな。善場主任とは、午後に会うことにしよう」

 もう昼の時間に入っている為、愛原はLINEかメールで善場に連絡したようだ。

 高橋:「何にします?」
 愛原:「ラーメンでも食うか。リサは?」
 リサ:「ラーメンでいい」
 高橋:「分かりました。じゃあ、そこに寄ります」
 愛原:「頼んだぞ」

[同日13:30.天候:曇 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 新橋まで車で移動する。
 国道4号線の昭和通りと国道15号線の銀座中央通りを通って行くと、新橋まで行ける。
 地下鉄だと、銀座線がその下を走っているだろう。
 新橋駅近くの駐車場に車を止めて、そこから近くのラーメン屋に向かう。
 そこでリサは、大盛りのチャーシュー麺を注文して平らげた。

 愛原:「味はどうだ?」
 リサ:「美味しかった!」

 ということは、味覚は人間のままだということか。
 その足で、今度はデイライトの事務所に向かう。

 高橋:「俺はニンニク入りが良かったなぁ……」
 愛原:「これから人に会うのに、それは臭うからダメだ」
 高橋:「はぁーい……」

 事務所に入ると、善場が出迎えた。
 また、事務所には土曜日にも関わらず、他にも何人か職員が出勤しているようだ。

 善場:「お疲れ様です。どうぞ、こちらへ」

 と、善場はリサ達を応接会議室へ案内した。

 善場:「まずは保護者説明会、お疲れ様でした」

 善場が茶を持って来て言った。

 愛原:「ああ、すいません。まあ、何とか終わりました」
 善場:「それで、騒動の真相は何だったのですか?」
 愛原:「元々、自殺志願のケがあったようです。進路がなかなか決まらない悩み、本人にとっては押し付けられたとされる新聞部部長職への重圧。それが積もりに積もって、あのような結果を齎したようです。『7人目が見つからなかったことで、他の語り部や他の新聞部員に責められる。顧問の教師を通じて、評価が落ちるかもしれない』という悩みです」
 善場:「それで、飛び下りたと?」
 愛原:「そのようです。ですが、地面に激突する直前、布団屋が運んでいた布団の山に落ちましてね。ちょうどあの時間、布団屋が保健室や仮眠室で使用されている布団の回収に来ていたみたいで。それに落ちたはいいんですが、それがトランポリンのように弾かれまして、運悪くそこが新聞部の部室の前だったわけです。今度は新聞部の窓ガラスをブチ破って飛び込んで来た、というわけですよ」
 リサ:「ガラスは粉々で、わたしの制服も血だらけになった!」
 善場:「なるほど。状況はよく分かりました。リサはその血だらけの生徒を見て、涎を垂らしましたか?」
 リサ:「う、うん。ちょっとだけ……」

 他のBOW(生物兵器)と違い、人間の食事も難無く受け付けるリサも、それ以上に人間の血肉に対する欲求は大きい。
 それを普段の食事で誤魔化しているだけに過ぎないのだが、人間の体液は臭いが強い。
 ましてやBOWとなったリサは、嗅覚も鋭くなっているので、尚更臭いの強い人間の体液(特に血液)には、すぐに食人衝動が発動してしまうのだ。

 リサ:「鬼斬り……栗原先輩が隣にいたおかげで助かった」
 愛原:「栗原さんも軽傷だったもんな」

 リサの隣の席にいたので、割れた窓ガラスの破片が刺さってしまったのだ。

 リサ:「うん」

 一応、病院に運ばれたが、入院の必要は無く、ケガの治療を受けただけで帰宅したとのこと。

 リサ:「別の意味で伝説回になっちゃったな。2年生の男子に、昔うちの学校で、屋上から飛び下り自殺があって以来、その幽霊が出るなんて話もあったけど、それとリンクしてるみたいで……」
 善場:「それで、その自殺志願の生徒は?」
 愛原:「病院で搬送されましたが、未だに意識不明の重体です。全身にガラスの破片が刺さったもので、出血多量で……」
 リサ:「はぁ……」

 リサは私の言葉に反応し、少し目を見開いた。

 善場:「話を伺った限りでは、事件性は無さそうですね」
 愛原:「警察もそのように見ています。あとは自殺の背景について、調べることでしょう」
 善場:「分かりました。ありがとうございます」
 愛原:「それより、ようやく日本人乗客がロシアから帰って来れるようですな?」
 善場:「そうなんです。『全員のスパイ容疑が晴れたので、日本側に引き渡す』とのことです」

 テロ組織にハイジャックされた日本の旅客機が、ロシアに着陸した。
 ハイジャック犯達は現地の治安当局に拘束されたが、ロシア当局は『日本人乗客の中にスパイがいる!!』という因縁をつけて、『その容疑が晴れるまで全員拘束する!』という暴挙に出た。
 これは、日本のロシアに対する経済制裁に対する報復だとされている。
 その中に、斉藤元社長もいたのだ。

 善場:「まずいことに、斉藤容疑者は帰国者リストの中には入っておりません」
 愛原:「は!?」
 善場:「見事に、ロシアに国外逃亡したということです」
 愛原:「どうやって!?」
 善場:「表向きは、『斉藤元社長がスパイだと判明したので拘束する!日本側に引き渡すつもりはない!』ということにしておいて、裏では逃亡の手筈にしていたということでしょうね」
 愛原:「じゃ、じゃあ、あのハイジャック犯達も?」
 善場:「まだ確たる証拠はありませんが、斉藤容疑者の仲間か、あるいは金で雇われたかしたのかもしれません」
 愛原:「あの社長も、とんだ食わせ物だったか……」

 ロシアに逃げられては、もう日本は手も足も出まい。
 今頃、シベリア鉄道にでも乗っているのだろうか?
 最終的には、カルロス・ゴーンみたいにレバノンに逃げるのだろうか?
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