“私立探偵 愛原学” 「日帰り温泉旅行」

［２月２３日０７時００分　天候：晴　東京都墨田区菊川２丁目　愛原家４階・愛原の部屋→３階ダイニング］

　枕元のスマホがアラームを鳴らす。
　私は手を伸ばして、アラームを止めた。

　愛原「ううーん……」

　今日は天皇誕生日で祝日であり、事務所も休みなのだが、明日は普通の平日という中途半端な祝日である。
　よって今日は、日帰り温泉を堪能することにした次第。
　私はベッドから這い出ると、寒い廊下を洗面所に向かった。
　４階にもトイレと洗面所が後付けで設置されている。
　その隣は中途半端な３畳くらいの納戸になっているが、殆ど使用していない。
　掃除用具入れ程度の用途しか無く、それなら３階にもあるからである。
　また、物置としての用途も、１階のガレージに倉庫があるので、そこを物置として活用している。
　元々はトイレや洗面所も無く、６畳間であったという。
　それを最初の家主が、住居部分のトイレと洗面所が３階にしか無いのは不便と思ったか、後で６畳間を潰し、半分の３畳部分をトイレと洗面所に改築した。
　噂では残りの３畳部分も潰してシャワールームに改築するつもりだったが、これ以上水回りを増築しようとすると、かなり大規模な工事になるらしく、それだけ予算も掛かるということで断念したそうである。
　ただ、それは改築を一気にやろうとした場合の値段。
　改めてシャワールームだけ造ろうとする場合は、そんなでもないらしい。
　恐らく、施工会社によって見積額が異なるのだろう。
　私も普段は３階の風呂を使用している為、特に不便は感じないのだが、来客などがあったりした場合、来客に遠慮せずに体が洗えるシャワールームはあった方が便利かなと思った。
　もしも今は証拠品として押収されている金塊や札束が私達の事務所に返ってきたなら、それを改築費用に充てられないかなと思っている。
　洗顔と歯磨きが終わり、私服に着替えて３階に下りる。

　パール「おはようございます」
　愛原「おー、おはよう」

　ダイニングに行くと、トーストを焼く匂いがした。
　基本的に平日は米食で、土休日はパン食にしている。
　なので、今日はトーストだ。
　こちらの方が調理が簡単なので、従業員達の負担も少ないというメリットがある。

　パール「厚切りトーストが焼けました」
　愛原「ありがとう」
　高橋「先生、今、ベーコンエッグ焼いてますんで」
　愛原「そうなの？後片付けとか、大変じゃない？」
　高橋「いや、大丈夫っスよ。ソッコーで片付けますんで」
　愛原「そうかい？」
　リサ「先生、おはよう！」

　リサが奥の洗面所から走って来た。
　さすがに今は私服に着替えている。
　白いＴシャツに黒いスカートを穿いている。
　Ｔシャツには赤文字でＢｉｏｈａｚａｒｄと書いており、☣のマークも入っていた。
　趣味が悪いが、学校でシルクスクリーン同好会なる物があり、そこでプリントしてもらったものだという。
　リサらしいと言えば、リサらしいが……。
　他にも、オリジナルのリサ・トレヴァーのイラストが入ったものまである。

　愛原「おはよう。今日は趣味に付き合わせて悪いな」
　リサ「いいよ！先生が連れて行ってくれる所ならどこでも！」
　高橋「っつーことで、研究所に行きたいそうです」
　リサ「だしゃぁーっ！」

　リサは一気に鬼形態になると、長い爪を振り上げた。

　愛原「こらこら、２人とも。リサが研究所に行くのは、３月の春休み、藤野に行くだけだ。さすがに背中から触手が出て来るのはカンベンだろう？」
　リサ「オリジナルの先輩と同じではあるんだけどね」

　その為、リサの背中には大きな赤紫色の痣がある。
　第２形態以降は、そこから触手が生えてくるからだ。
　第３形態になると、そこが瘤のように膨らんで、更に触手も長く、数も増える。
　が、そこが弱点であり、そこを集中攻撃すると、さすがのリサもダウンする。
　とはいえ、それでも倒せない。
　リサ曰く、向う脛を攻撃されるようなもので、痛みと痺れでしばらく動けなくなる感覚と似たようなものであるという。
　銃弾を何発も撃ち込んでも、向う脛を攻撃される程度の痛みでしかないという、正に化け物である。
　藤野では、その触手が出て来る『穴』をまずは塞ぐことに第１の目的がある。
　同時に弱点も無くなるわけだが、どのみち倒せないのでは、むしろ弱体化させる方が現実的だろうとの考えである。
　当初の目的、人間に戻す為の手術から大きく離れてしまった形だ。
　今はリサもだいぶ自分で制御できるようになっており、第２形態以降まで変化することは、ここ最近では無い。

［同日０８時４２分　天候：晴　同地区　菊川駅前バス停→都営バス業１０系統車内］

　朝食が終わった私達は、住居兼事務所を出て、最寄りのバス停に向かった。

　高橋「バスだけで上野に向かうとは……」
　愛原「マニアックだろー？作者が帰省中で、手元に列車番号の分かる時刻表が無いからなんだ」
　高橋「ほおほお、そうでしたか」

　雲羽「くっ……！」

　リサ「あ、バス来たよ」
　愛原「よーし。俺についてこい」

　バスは私達の前で止まると、前扉を開けた。
　休日は賑わう東京スカイツリーまで行くバスとはいえ、まだ早い時間のせいか、バスは空いている。
　バスに乗り込むと、私達は空いている座席に腰かけた。

〔発車致します。お掴まり下さい〕

　バスは休日で空いている三ツ目通りを北上した。

〔ピンポーン♪　毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは、とうきょうスカイツリー駅前行きでございます。次は立川、立川でございます。日蓮正宗妙縁寺へは本所吾妻橋で、日蓮正宗常泉寺と本行寺へおいでの方は、終点とうきょうスカイツリー駅前でお降りになられると便利です。次は、立川でございます〕

　愛原「レイチェルは起きたのかな？」

　私は隣の席に座るリサに話し掛けた。
　リサはＴシャツの上から、グレーのパーカーを羽織っていた。
　フードが付いているが、今はフードは被っていない。
　一方、別の近くの席に座る高橋は派手なジャンパーを羽織っているし、パールはくすんだ緑色のジャンパーを羽織って、黒いキャップを目深に被っていた。

　リサ「ＬＩＮＥしてみたら、起きてるみたいだよ。『これから地下鉄で向かいます』だって」
　愛原「そうか。時間にルーズってわけじゃないみたいだな」
　リサ「そこは軍人さんだもんね」
　愛原「軍人さんというか、軍人の卵だな」

　私はあえて言い直した。

“愛原リサの日常” 「変な連休前日」

［２月２０日１５時００分　天候：曇　東京都台東区上野　東京中央学園上野高校→京成上野駅］

　リサは廊下にいて、とある教室を覗いていた。
　それは、学年末テストで赤点を取った生徒が追試を受けている会場であった。
　リサは赤点ではないので、対象外。

　リサ（男子が４人、女子が２人か……）
　レイチェル「リサ、お待たせ」
　リサ「ああ。じゃあ、帰ろうか」

　最近ではレイチェルが秋葉原駅まで、一緒に帰ることが多くなった。
　養成員とはいえ、ＢＳＡＡの隊員であることから、リサの監視役に打ってつけとでも思われているのだろう。
　もともとＢＳＡＡの養成学校が、代表生徒を１人留学させているのは、現存するＢＯＷ（生物兵器）に生で接する機会を与える為であるという。

　レイチェル「リサ、追試の人達の中に知り合いが？」
　リサ「いや、あの中にはいない。ただ、偶然だなと思うところがあって」
　レイチェル「偶然？」
　リサ「話せば長くなるよ」

　リサは新校舎の窓から見る旧校舎を指さした。
　現在は再建に向けて工事中で、仮囲いがされている。

　リサ「季節は違うけど、夏休み前のテストで赤点を取った生徒達が追試だか補習だか受けてたんだけど、そこで“トイレの花子さん”に捕まって全員殺された話」
　レイチェル「それは怖いですね。犯人は誰だったのでしょう？」
　リサ「殺されたとされるそいつら」
　レイチェル「Ｈｕｈ？」
　リサ「実際は殺されてない。殺されたのは、勝手に物語からログアウトされていた７人目。それが“トイレの花子さん”。本名は斉藤早苗。それが、この学園の怪奇現象の始まり。“トイレの花子さん”と一緒に補習を受けていた中に、白井伝三郎がいたの。つまり、“花子さん”と白井は同級生」
　レイチェル「それは養成学校のテキストにもありました。Ｊａｐａｎｅｓｅ　ＨｏｒｒｏｒはＨｕｍａｎ　Ｓｔｏｒｙが多いですね」

　その頃まだ高校生だった白井に、特異菌の菌床を仕掛けられるわけがない。
　実際の物語は、残された６人による、たった１人の女子生徒へのイジメによる自殺である。
　担任や副担任の坂上や倉田がここの現役生だった頃には既に怪奇現象が多発していたことから、白井が現役生だった１９７０年代から、２人が現役生だった１９９０年代の２０年の間に特異菌の菌床が仕掛けられたことになる。
　果たして、そんなことをしたのは誰なのか？
　今のところは、アンブレラに就職した白井が、どこかで特異菌を手に入れて仕掛けたということになっているが……。

　レイチェル「先ほどの６人が６人なら、“トイレの花子さん”役をやるのは、リサですね」
　リサ「こんな新校舎で、そんなことはできないよ。それに、今そんなことしたら、レイチェルにロケランぶっ放される」
　レイチェル「Ｏｈ、そうです！その通りです！リサ、分かってますね！」
　リサ「さすがのわたしも、ロケラン直撃したらマズいなぁ……」
　レイチェル「しかしながら、どうしてでしょう？ロケットランチャーを持ってしても、リサを一発で倒せる気がしないのですが？」
　リサ「そーお？わたしは生き返る自身が無いけどなぁ……」
　レイチェル「いや、その場では倒せたように見えても、別のステージで生き返ってきて、リベンジされそうです」
　リサ「わたし、ＢＳＡＡからそういう風に思われてるんだ」
　レイチェル「奥日光で首と胴体を切り離されても死ななかったという話を聞いて、そう思いました」
　リサ「ああ、あれね。あれ、ほんっと偶然だから！たまたま噴き出た血が、首と胴体に繋がっていただけの話だから！」
　レイチェル「それでも、弱いクリーチャーなら死んでるはずですが。というか、ハンターやタイラントも死ぬはずですが？」
　リサ「ま、まあね。それより明日、待ち合わせ場所に遅れないでよ？」
　レイチェル「モチロンです。愛原センセイによろしくお願いします」
　リサ「レイチェルは来日した時、飛行機は成田だった？……それとも、米軍機で横田基地とか？」
　レイチェル「いいえ。基本的に養成学校の留学生は、民間機に一般乗客として乗ることになっています。私はユナイテッドエアラインで、羽田に着きました。恐らく、帰国する時もそこからだと思います」
　リサ「羽田か」
　レイチェル「修学旅行は、どこの空港から乗るのでしょう？」
　リサ「多分、羽田だと思うよ」
　レイチェル「では、どうしてリサ達は成田空港に？」
　リサ「エレンが沖縄の行き帰りに乗った航空会社がジェットスターで、それは成田から発着してるから」
　レイチェル「そういうことでしたか」
　リサ「今度はさすがに羽田発着の飛行機にするって言ってたね。やっぱ、あっちの方が便利だし」
　レイチェル「ですね。でも、羽田空港からＬＣＣは……」
　リサ「あるよ」
　レイチェル「よく御存知ですね」
　リサ「うん。作者が沖縄旅行からの帰り、スカイマークに乗ったから」
　レイチェル「リサ。スカイマークは、厳密に言えばＬＣＣではありませんよ？」
　リサ「そうなんだ！もしかしたら、修学旅行で乗る飛行機、それかもね」
　レイチェル「そうなんですか」
　リサ「ユナイテッド航空はビジネスクラス？」
　レイチェル「いいえ。私のような非正規隊員の留学生はエコノミークラスですよ」
　リサ「そうなんだ。もう１度、待ち合わせ場所と時間、確認しておく？」
　レイチェル「そうですね。まだ時間もありますし、そうしましょう」
　リサ「……わたし、正規の通学路を外れると、ＧＰＳが作動してＢＳＡＡに通報が自動で行くみたいなんだけど？」
　レイチェル「今からＨＱに許可を取ります」

　レイチェルは耳にインカムを着けると、それでＢＳＡＡと交信した。

　レイチェル「……許可が取れました。行きましょう」
　リサ「いいんだ！」
　レイチェル「正規のルートから外れるといっても、そんなに大きく外れるわけではありませんし、一応私もＢＳＡＡの隊員です。その私が同行しているということで、許可が取れました。もちろん、少しでも異常があったら、緊急通報を行うことになります」
　リサ「そんなことしないよ」

　２人はＪＲ上野駅には入らず、そのまま高架下を潜って反対側に出ると、その先にある京成上野駅に向かった。

　レイチェル「あなた達の住所からいって、この駅を経由するのは遠回りなのでは？」
　リサ「先生の趣味も入ってるからね。京成スカイライナーにでも乗りたいんじゃない？」
　レイチェル「そういうことですか」

　京成上野駅の構内は、やはり旅行客が多い。

　リサ「ここの改札口で待ち合わせ。この駅、改札口がここ１つだけしか無いみたいだから」
　レイチェル「承知しました」

　２人は改めて待ち合わせ場所を確認すると、東京メトロ上野駅に向かった。

　レイチェル「？　リサ、ＪＲで帰らないのですか？」
　リサ「東京の地下鉄は迷いやすいって言うでしょ？レイチェルが迷わないように、一緒に行ってあげる」
　レイチェル「Ｏｈ．．．Ｔｈａｎｋ　ｙｏｕ．」
　リサ「１番近い、地下鉄乗り場はここみたいだね……」
　レイチェル「リサの方こそ、秋葉原駅で迷ったりしませんか？」
　リサ「地下鉄のアキバ駅は案外小さいから大丈夫」

　そして、２人で京成上野駅に最も近い出口を確認した。

　リサ「あとは、わたしはアキバまで乗るだけ」
　レイチェル「そこまで御一緒しましょう」

　２人は日比谷線乗り場に向かった。