報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「愛原公一の行方」

2024-01-04 20:56:50 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[2月10日11時15分 東京都港区新橋 都営バス新橋停留所→業10系統車内]

 善場主任に対する報告、そして打ち合わせは小一時間ほどで終わった。

 善場「いいですか?“青いアンブレラ”に関する情報、並びに愛原公一容疑者に関する情報を掴みましたら、どんな小さなことでも良いので、私共に御連絡ください。明日から土日を挟みますが、メールで報告して頂ければ結構です」

 と、念押しされた。
 こりゃもしかすると、私達が高野君に接触したこと、薄々気づかれたかもしれない。
 私達は事務所に帰所するのに、バスを利用した。
 これなら多少遠回りでも、乗り換え無しで帰れるからである。
 今のところは、特に何もすることがない。
 善場主任の言う通り、“青いアンブレラ”や公一伯父さん、そして栗原蓮華に関する情報でも入らない限りは。

〔「豊洲駅前、木場駅前経由、とうきょうスカイツリー駅前行きです」〕

 私と高橋はバスに乗り込むと、後ろ座席に座った。
 バスの中は暖房が効いて暖かい。
 座席に座ってから、高橋が言った。

 高橋「先生。善場のねーちゃん、もしかして、俺達がアネゴと接触したこと、気づいたんじゃないスかね?」
 愛原「お前もそう思うか?」
 高橋「随分、念押ししてましたよね?」
 愛原「お前もそう思うか……」

 私は何とも言えない顔になってしまった。

 高橋「も、もしかして俺達、タイーホですか?」
 愛原「い、いや、それは無いだろう。ただ、泳がされている状態ではあるだろうな」
 高橋「泳がされてる?どういうことっスか?」
 愛原「お前の言う通り、もしもあの場で俺達を高野君隠避の容疑で逮捕するとするだろう?そうなると、もう高野君はもちろん、公一伯父さんも俺達に接触できなくなるわけだ」
 高橋「そうっスね」
 愛原「デイライトだって、情報が欲しい状態だ。そして、実質的にその窓口となっているのが俺達なんだ。公一伯父さんも俺の身内である以上、今後、何らかの形で接触してくるかもしれない。それなのに俺達を先に逮捕してしまうと、その窓口を潰してしまうことになるんだ。だから、少々の事は目を瞑る。その代わり、ちゃんと手に入れた情報は寄こせよということなんだろう」
 高橋「そ、そうでしたか……」
 愛原「高野君もそれを知ってて接触してきたんだとしたら、凄いよな」
 高橋「うー……アネゴならやりかねません」
 愛原「事務所に帰って、リサの相手をしている方が楽に思えて来たよ」
 高橋「俺はパールの……」
 愛原「だろうな」

 座席が殆ど埋まった状態になると、発車時刻になる。
 そしてバスは、折り戸式の前扉を閉めた。

〔発車致します。お掴まり下さい〕

 バスは定刻通りに発車した。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは銀座四丁目、勝どき橋南詰、豊洲駅前経由、とうきょうスカイツリー駅前行きでございます。途中、お降りの方は、お近くのブザーでお知らせ願います。次は銀座西六丁目、銀座西六丁目でございます。日蓮正宗妙縁寺へおいでの方は、本所吾妻橋で。日蓮正宗常泉寺と日蓮正宗本行寺へおいでの方は、終点とうきょうスカイツリー駅前でお降りになると便利です。次は、銀座西六丁目でございます〕

 愛原「このバスで行けば、菊川にはお昼頃に到着するだろう。昼飯、途中で食って行かなくてもいいな」
 高橋「良かったら俺、着いたら作りますよ。ホットドッグ辺りでいいっスか?」
 愛原「おっ、いいね。お前の手作りホットドッグは美味いんだ。頼むよ」
 高橋「了解です」

 これだけの為に、調理器具を事務所側にも置いてある徹底ぶり。
 給湯室はあって、そこにシンクもあるのだが、そこにもガスコンロがある。
 私はスマホを取り出すと、それでパールにLINEを入れた。
 これからバスで帰ること、事務所には昼頃到着する見込みであること。
 昼食は高橋が作ると言っている旨を送信した。
 返信は早く来て、了解とのことだった。

 愛原「リサも、お前のホットドッグは気に入ってたなぁ……」
 高橋「ありがとうございます。あれもネンショー(少年院)にいた時に、さんざんっぱら作らされてましたからねぇ……」

 高橋の料理の腕は、少年院や少年刑務所で習ったもの。
 同時にパールも、女子少年院にいた時に料理は覚えたらしい。

 愛原「でも、あれだろ?お前の場合、変な意味でキャリアが長いから、他にも色々やってきたんだろ?」
 高橋「ええ。自動車整備工や洋裁の職業訓練なんかもやりましたよ。資格を取るまでには至りませんでしたがね」
 愛原「洋裁かぁ……」

 私は首を傾げた。

 愛原「洋裁ということは、刺繍もできるわけか?」
 高橋「ええ、まあ。ミシンでしたら……。多分、パールもできますよ。あいつ、斉藤家からミシン持ち出してましたから」
 愛原「そうなのか」
 高橋「それが、どうかしましたか?先生も特攻服に興味が?」
 愛原「いや、そうじゃない。……まあ、機を見て話すよ」
 高橋「はあ……」
 愛原「ていうか、特攻服作る為に洋裁習ったのか?」
 高橋「いや、ハハハ……」
 愛原「多才なのは素晴らしいけど、方向性を間違えるなよ?」
 高橋「も、もちろんです」

[同日12時15分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原学探偵事務所2階]

 事務所に着いたのは、新橋でバスに乗ってから凡そ1時間後。

 愛原「ただいまァ」
 パール「お帰りなさいませ。特に午前中は来客はありませんでした」
 愛原「そっか……」

 もしもこのまま暇になるようなら、事故物件の調査の依頼でも受けるしかない。

 高橋「それじゃ先生、今からホットドッグ作りますんで、ちょっと待っててください」
 愛原「ああ、分かった」

 高橋は奥の給湯室に向かった。
 給湯室にも冷蔵庫はあって、そこに具のウィンナーやキャベツ、フライパンに引くバターなんかも入っている。
 また、背割りのコッペパンは普通のスーパーでもなかなか手に入らないので、普通のコッペパンを買って来て、それを包丁で割るということをしている。

 パール「マサがホットドッグを作っている間、私はコーヒーをお淹れしますね」
 愛原「ああ、悪いな」

 ネスカフェバリスタで淹れるわけだから、当然、ホットドッグよりも先にできる。

 パール「お待たせしました」
 愛原「ありがとう」

 給湯室からはザクザクとキャベツを切る音が聞こえて来る。

 愛原「そういえばパールは、ミシンができるんだったな?」
 パール「あ、はい。できますが……」
 愛原「刺繍もできるのか?」」
 パール「できますよ。名前でもお入れになりますか?」
 愛原「うん、まあ、そうだな……」
 パール「先生のスーツですか?それとも、コート?」
 愛原「いや、俺のスーツもコートも、スーツ屋で買った時に入れてもらってるから大丈夫だ」

 既製服しか買えない貧乏人でスマン。

 パール「他の服ですか?……まさか、先生も特攻服に興味が?」
 愛原「何でそこで特攻服って発想が出て来るかなぁ、お前らは……」

 確かに高橋とパール、似た者同士かもしれない。
コメント
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