[2月24日15時50分 天候:曇 東京都台東区上野 JR東北新幹線6033B列車1号車内]
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、上野です。上野を出ますと、次は、大宮に止まります〕
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日はこれから2泊3日の予定で、仙台に帰省する予定だ。
今は私と助手の高橋、そして住み込み事務員のパールと一緒に新幹線に乗っている。
実質的に、帰省にかこつけた慰安旅行だな。
今、リサはこの列車には乗っていない。
彼女は学校が終わってからすぐ乗るようにする為、上野駅でこの列車を待っているはずである。
何事も無ければ良いのだが。
〔「まもなく上野、上野です。お出口は、左側です。上野を出ますと、次は大宮に止まります。上野駅からご乗車のお客様がいらっしゃいます。空いている座席には、お荷物など置かぬようお願い致します」〕
列車が地下深くのホームに停車する。
新幹線の駅で、地下ホームにあるというのは珍しいだろう。
私は上野駅以外に、あまり思い当たらない。
高橋「先生、リサが乗って来ます」
愛原「そうか。ちゃんと間に合ったようだな」
全車両指定席の“はやぶさ”号では、上野駅で下車する乗客もいまい。
ドアが開くと、リサはすぐに乗って来た。
リサ「先生!」
リサは制服姿に、何やら食べ物や飲み物の入ったビニール袋を持っていた。
愛原「ちゃんと乗れたな。よしよし」
すぐに発車時間になる為、ホームから発車ベルの音が聞こえて来る。
私は一瞬席を立つと、リサを窓側に座らせた。
その隣に私が座る。
高橋とパールは、その後ろに座っていた。
リサは自分の荷物をヒョイと持ち上げて、網棚に乗せた。
小柄な体なので、持ち上げる時にピョッと背伸びをするところが可愛い。
荷物を乗せると、列車はドアを閉めて発車した。
リサは座席からテーブルを出して、おやつと飲み物を置いた。
愛原「しっかり買い食いか」
リサ「学校帰りはお腹が空くんだよ。……あ」
愛原「何だ?」
リサは着替えなどの入っているキャリーバッグではなく、網棚には置かなかった通学鞄の中を開けた。
そこから、充電器を取り出す。
リサ「スマホ充電する」
愛原「窓の下にあるよ、コンセント」
窓の下にあるので、実質的に窓側席専用のようなものか。
リサは前屈みになると、充電コンセントを挿した。
リサ「あとはWiFiに接続」
愛原「あー、新幹線にはWiFiがあるな……」
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日も東北新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は、“はやぶさ”号、仙台行きです。次は、大宮に止まります。お客様にお願い致します。車内はデッキ、トイレも含めまして全車両禁煙です。……〕
リサ「『新幹線なう』と」
リサはデッキに出るドアの上にあるLED表示板を撮影して、それをLINEにアップした。
そのLINEとは、『魔王軍』のグループLINEである。
リサ「ヨドバシとコジマとレイチェルにお土産頼まれた」
愛原「何だ?」
リサ「萩の月」
愛原「萩の月か」
リサ「甘くて美味しいんだって」
愛原「そうだな。もう、仙台定番の土産だぞ。ほら」
私は進行方向右側を指さした。
列車はトンネルから出て、高架線を走行している。
在来線で言えば、田端~上中里間くらいだろうか。
その辺りの進行方向右側には、萩の月の大きな看板が掲げられているのだ。
リサ「おー!あれがコジマの言ってた看板か」
愛原「そうか。小島さん、王子だったか東十条だかに住んでるんだっけか」
リサ「そうそう。朝は東十条始発の各駅停車で座って行くんだって」
愛原「始発駅、いいなぁ」
但し、東十条始発の電車は、朝方は6時56分発で無くなるので、それに乗って来たとしても、上野にはかなり早く着く。
その為、小島さんは予習の時間に当てているのだとか。
日直の仕事も、元々早く来てるので苦にならないと。
『魔王軍』の中では、優等生なのだ。
リサ「ヨドバシも北千住だから、地下鉄で始発駅だよね」
愛原「あー、確かにな」
たまにJRで帰ることもあるという。
日比谷線が止まった時とか、今回みたいにリサの見送りついでとか。
JRはJRで上野始発の電車があるので、こちらも座って帰れるわけだ。
愛原「何だな……。お前の為に、始発駅の近くに引っ越しても良かったなぁ」
リサ「わたしは別にどっちでもいいけどね」
リサはそう言うと、おやつに買ったビーフジャーキーに噛み付いた。
[同日17時17分 天候:曇 宮城県仙台市青葉区中央 JR東北新幹線6033B列車1号車内→JR仙台駅]
“はやぶさ”号の最高時速は320キロ。
大宮以北でその真価が発揮される。
ドアの上の表示板にも、『只今、時速320kmで走行中です』と表示されたりする。
普通鉄道では最高速度の京成スカイライナーはその半分だが、特にそういった表示がされた記憶は無い。
今は徐々に速度を落としている。
ATCによる自動ブレーキで減速しているといった感じだ。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、仙台です。仙石線、仙山線、常磐線、仙石東北ライン、仙台空港アクセス線、仙台市地下鉄南北線と東西線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
リサ「だいぶ、外が暗くなってきた」
リサは自分の顔を窓ガラスに押し付ける勢いで、窓の外を見た。
それまで何にも無かった車窓に、少しずつ街の明かりが見えてくるようになる。
愛原「少しずつ日は長くなっているんだろうが、今日は曇りだからかな」
リサ「なるほど。雪、降るのかな?」
愛原「仙台の平野部は雪が少ないからな。まあ、天気が悪くなったら雪が少し降るって感じかな」
リサ「ふーん……」
〔「……11番線に入ります。お出口は、右側です。ホーム進入の際、ポイント通過の為、電車が大きく揺れる場合がございます。お立ちのお客様は、ご注意ください。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕
電車が更に速度を落とし、在来線電車とそんなに変わらないスピードて走る頃、車窓はもう市街地の風景になる。
愛原「荷物下ろすか」
私は席を立って、まずは自分の荷物を下ろし、座席の上に置いた。
それから、リサの荷物。
愛原「はいよ」
リサ「ありがとう!」
高橋「外は寒そうっスね」
愛原「そりゃ東北だからな。東京よりは寒いよ」
列車は仙台駅・新幹線下り副線ホームに入線した。
〔ドアが開きます〕
東海道新幹線のドアチャイムと違い、東北新幹線では自動放送で持ってドアが開閉する。
〔「ご乗車ありがとうございました。仙台、仙台、終点です。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。階段、エスカレーターご利用のお客様は……」〕
ホームに降りると、確かに気温は東京駅より低いように思われた。
ホームでアナウンスする駅員、東京駅では着ていなかったのに、仙台駅ではコートを着ている。
〔「……11番線に到着の電車は、車庫に向かう回送列車です。ご乗車にはなれませんので、ご注意ください」〕
ここで言う車庫とは、新利府駅前にある車両基地のことだろう。
確かに在来線でも行けるが、博多南線のように営業運転すれば、利府方面の需要が……無いか。
博多南線の場合、それまで在来線すら無かったから需要があるのだ。
愛原「あー、確かにちょっと冷えるな」
私はコートのボタンを一番上まで止めた。
風は少し吹いていて、それが東京より冷たい。
こんな時でもリサはブレザーの上には、何も羽織っていない。
せいぜいマフラーを締めているだけ。
ブレザーの下には、ニットのベストを着用しているだけである。
高橋「先生、ここからどうするんスか?」
愛原「地下鉄に乗り換えるよ。ついて来てくれ」
私達はエスカレーターに乗り、まずは改札口に向かった。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、上野です。上野を出ますと、次は、大宮に止まります〕
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日はこれから2泊3日の予定で、仙台に帰省する予定だ。
今は私と助手の高橋、そして住み込み事務員のパールと一緒に新幹線に乗っている。
実質的に、帰省にかこつけた慰安旅行だな。
今、リサはこの列車には乗っていない。
彼女は学校が終わってからすぐ乗るようにする為、上野駅でこの列車を待っているはずである。
何事も無ければ良いのだが。
〔「まもなく上野、上野です。お出口は、左側です。上野を出ますと、次は大宮に止まります。上野駅からご乗車のお客様がいらっしゃいます。空いている座席には、お荷物など置かぬようお願い致します」〕
列車が地下深くのホームに停車する。
新幹線の駅で、地下ホームにあるというのは珍しいだろう。
私は上野駅以外に、あまり思い当たらない。
高橋「先生、リサが乗って来ます」
愛原「そうか。ちゃんと間に合ったようだな」
全車両指定席の“はやぶさ”号では、上野駅で下車する乗客もいまい。
ドアが開くと、リサはすぐに乗って来た。
リサ「先生!」
リサは制服姿に、何やら食べ物や飲み物の入ったビニール袋を持っていた。
愛原「ちゃんと乗れたな。よしよし」
すぐに発車時間になる為、ホームから発車ベルの音が聞こえて来る。
私は一瞬席を立つと、リサを窓側に座らせた。
その隣に私が座る。
高橋とパールは、その後ろに座っていた。
リサは自分の荷物をヒョイと持ち上げて、網棚に乗せた。
小柄な体なので、持ち上げる時にピョッと背伸びをするところが可愛い。
荷物を乗せると、列車はドアを閉めて発車した。
リサは座席からテーブルを出して、おやつと飲み物を置いた。
愛原「しっかり買い食いか」
リサ「学校帰りはお腹が空くんだよ。……あ」
愛原「何だ?」
リサは着替えなどの入っているキャリーバッグではなく、網棚には置かなかった通学鞄の中を開けた。
そこから、充電器を取り出す。
リサ「スマホ充電する」
愛原「窓の下にあるよ、コンセント」
窓の下にあるので、実質的に窓側席専用のようなものか。
リサは前屈みになると、充電コンセントを挿した。
リサ「あとはWiFiに接続」
愛原「あー、新幹線にはWiFiがあるな……」
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日も東北新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は、“はやぶさ”号、仙台行きです。次は、大宮に止まります。お客様にお願い致します。車内はデッキ、トイレも含めまして全車両禁煙です。……〕
リサ「『新幹線なう』と」
リサはデッキに出るドアの上にあるLED表示板を撮影して、それをLINEにアップした。
そのLINEとは、『魔王軍』のグループLINEである。
リサ「ヨドバシとコジマとレイチェルにお土産頼まれた」
愛原「何だ?」
リサ「萩の月」
愛原「萩の月か」
リサ「甘くて美味しいんだって」
愛原「そうだな。もう、仙台定番の土産だぞ。ほら」
私は進行方向右側を指さした。
列車はトンネルから出て、高架線を走行している。
在来線で言えば、田端~上中里間くらいだろうか。
その辺りの進行方向右側には、萩の月の大きな看板が掲げられているのだ。
リサ「おー!あれがコジマの言ってた看板か」
愛原「そうか。小島さん、王子だったか東十条だかに住んでるんだっけか」
リサ「そうそう。朝は東十条始発の各駅停車で座って行くんだって」
愛原「始発駅、いいなぁ」
但し、東十条始発の電車は、朝方は6時56分発で無くなるので、それに乗って来たとしても、上野にはかなり早く着く。
その為、小島さんは予習の時間に当てているのだとか。
日直の仕事も、元々早く来てるので苦にならないと。
『魔王軍』の中では、優等生なのだ。
リサ「ヨドバシも北千住だから、地下鉄で始発駅だよね」
愛原「あー、確かにな」
たまにJRで帰ることもあるという。
日比谷線が止まった時とか、今回みたいにリサの見送りついでとか。
JRはJRで上野始発の電車があるので、こちらも座って帰れるわけだ。
愛原「何だな……。お前の為に、始発駅の近くに引っ越しても良かったなぁ」
リサ「わたしは別にどっちでもいいけどね」
リサはそう言うと、おやつに買ったビーフジャーキーに噛み付いた。
[同日17時17分 天候:曇 宮城県仙台市青葉区中央 JR東北新幹線6033B列車1号車内→JR仙台駅]
“はやぶさ”号の最高時速は320キロ。
大宮以北でその真価が発揮される。
ドアの上の表示板にも、『只今、時速320kmで走行中です』と表示されたりする。
普通鉄道では最高速度の京成スカイライナーはその半分だが、特にそういった表示がされた記憶は無い。
今は徐々に速度を落としている。
ATCによる自動ブレーキで減速しているといった感じだ。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、仙台です。仙石線、仙山線、常磐線、仙石東北ライン、仙台空港アクセス線、仙台市地下鉄南北線と東西線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
リサ「だいぶ、外が暗くなってきた」
リサは自分の顔を窓ガラスに押し付ける勢いで、窓の外を見た。
それまで何にも無かった車窓に、少しずつ街の明かりが見えてくるようになる。
愛原「少しずつ日は長くなっているんだろうが、今日は曇りだからかな」
リサ「なるほど。雪、降るのかな?」
愛原「仙台の平野部は雪が少ないからな。まあ、天気が悪くなったら雪が少し降るって感じかな」
リサ「ふーん……」
〔「……11番線に入ります。お出口は、右側です。ホーム進入の際、ポイント通過の為、電車が大きく揺れる場合がございます。お立ちのお客様は、ご注意ください。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕
電車が更に速度を落とし、在来線電車とそんなに変わらないスピードて走る頃、車窓はもう市街地の風景になる。
愛原「荷物下ろすか」
私は席を立って、まずは自分の荷物を下ろし、座席の上に置いた。
それから、リサの荷物。
愛原「はいよ」
リサ「ありがとう!」
高橋「外は寒そうっスね」
愛原「そりゃ東北だからな。東京よりは寒いよ」
列車は仙台駅・新幹線下り副線ホームに入線した。
〔ドアが開きます〕
東海道新幹線のドアチャイムと違い、東北新幹線では自動放送で持ってドアが開閉する。
〔「ご乗車ありがとうございました。仙台、仙台、終点です。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。階段、エスカレーターご利用のお客様は……」〕
ホームに降りると、確かに気温は東京駅より低いように思われた。
ホームでアナウンスする駅員、東京駅では着ていなかったのに、仙台駅ではコートを着ている。
〔「……11番線に到着の電車は、車庫に向かう回送列車です。ご乗車にはなれませんので、ご注意ください」〕
ここで言う車庫とは、新利府駅前にある車両基地のことだろう。
確かに在来線でも行けるが、博多南線のように営業運転すれば、利府方面の需要が……無いか。
博多南線の場合、それまで在来線すら無かったから需要があるのだ。
愛原「あー、確かにちょっと冷えるな」
私はコートのボタンを一番上まで止めた。
風は少し吹いていて、それが東京より冷たい。
こんな時でもリサはブレザーの上には、何も羽織っていない。
せいぜいマフラーを締めているだけ。
ブレザーの下には、ニットのベストを着用しているだけである。
高橋「先生、ここからどうするんスか?」
愛原「地下鉄に乗り換えるよ。ついて来てくれ」
私達はエスカレーターに乗り、まずは改札口に向かった。