[2月24日18時30分 天候:雪 宮城県仙台市若林区某所 愛原家1階ダイニング]
帰省最初の夕食は、予想通りすき焼き鍋が出て来た。
母親「公一伯父さんが『学達の為に』って、仙台牛を融通してくれたのよ」
愛原「そ、そうなの」
リサ「わー!美味しそうなお肉!」
父親「仙台牛といっても、最高等級までは行けなかった仙台黒毛和牛のことだろう。いくら兄さんが農学の研究者で、自ら農薬や化学肥料を造れるほどだとはいえ、農家さんがそんな高い肉をタダで融通してくれるわけがないよ」
愛原「いきなり現実的……」
母親「でも、2種類のお肉を用意してくれたみたいよ?」
父親「そっちは赤身が多いな。やっぱり、等級が低くて、売ると却って赤字になるような安肉を融通されたんだろう」
リサ「赤身がある方が噛み応えがあって美味しいですよ」
と、リサ。
高橋「リサには赤身の肉食わせとけばいいっス!」
リサ「血の滴る赤い肉……」
愛原「それはいいとして、伯父さんは一緒に食べないの?」
父親「なーんかね、『隠遁の身が、堂々と一緒に食事はできん』と言ってるんだ。学達が帰ってこないと、どうせ夫婦2人だけの夕食になるから、別にいいって言ったんだけどね」
指名手配されているという自覚はあるのだろうな。
その割には、交番とかには貼られていないが。
伯父さんは、この家の地下にできている空洞をいつの間にか改築し、そこを隠れ家兼研究室として使っているとのこと。
もちろん寝泊まりする為のスぺースはあるから、私とリサはそこで寝れば?という話だった。
研究室みたいな場所に寝るのは嫌だと、リサは拒絶したが。
愛原「伯父さん、食事はどうしてるの?」
母親「仕方が無いから、後で持って行ってあげるのよ。学、後で持って行ってくれる?」
愛原「ああ、分かった」
両親達は、伯父さんが指名手配食らっていることを知らないのだろうか?
愛原「伯父さんが、どうしてここの地下に住んでいるのか聞いてるの?」
父親「何か、『悪い奴らに追われてる』って言ってたな。伯父さんが造った農薬だか肥料だかは、そんなに怖い物なのか?」
愛原「う、うん。まあ、バイオテロ組織が、何故か喉から手が出るほど欲しがってる」
母親「世の中、何が売れるか分かんないわねぇ……」
愛原「い、いや、そういう問題じゃないと思うけど……」
私は苦笑した。
[同日19時30分 天候:曇 愛原家1階ダイニング→地下1階・公一の隠れ家]
公一伯父さんの夕食は、私達が食べてからでいいらしい。
母親「『どうせ居候の身だから、残り物でいい』なんて言ってたけど、さすがにねぇ……」
すき焼きの食材ではあるが、1人鍋に盛られていた。
パールが洗い物を手伝っている。
本当は高橋やリサも手伝おうとしたのだが、公一伯父さんに早く夕食を持って行くよう言われた。
なので、地下には私とリサが行くことになった。
私はお盆にすき焼きの入った1人鍋と御飯や漬物、お茶の入ったポットを乗せたワゴンを押した。
地下までどうやって運ぶのだろうと思ったが……。
父親「ここから行くんだ」
愛原「あれ?!ここって、掃除用具入れじゃなかった!?」
それがホームエレベーターになっていた。
父親「公一伯父さんが、いつの間にか設置したんだよ。これならワゴンも乗るだろう」
愛原「そういうことか……」
エレベーターを呼び戻し、それに乗り込む。
家庭用なので、サイズは小さい。
業務用で最も小さいサイズの物が設置されている私の事務所だが、それでも定員は4人である。
それに対して、このエレベーターの定員は3名であった。
荷物であるワゴンの大きさ的に、私とリサがギリギリ乗れるほど。
それで伯父さんが住んでいる地下階へと向かう。
リサ「富士宮の民宿みたいに、ハンターとかいたりしてね」
愛原「実際、ただの空洞だった頃はハンターが潜んでたんだよな」
リサ「まあ、その時は私がブッ殺すから」
ハンターとは、アンブレラが製造した生物兵器のことである。
多くが2底歩行の爬虫類型だが、中には両生類型もある。
爬虫類型は鋭い爪を持って、獲物に飛び掛かってはその爪で切り裂いたり、一気に首を刎ねたりする『首狩り』攻撃を行う。
両生類型はカエルのような大きな口を持ち、獲物を丸呑みしてしまうのである。
但し、両生類型は欠陥だらけでアンブレラ本体からも見捨てられた。
口を大きく開けた際、口の中に向かって銃弾を放てば簡単に倒せる上、真横にピッタリ付くと振り向けないという性質があるからである。
愛原学「着いた」
ホームエレベーターには、ドアに小窓が付いている。
それで、外の様子が分かる。
愛原公一「おー、来たか。腹が減ったぞ」
地下室は、殺風景なコンクリートの壁が剥き出しになっていた。
かつては地下鉄東西線のトンネルにまで続いていた空洞だったが、今は壁で塞がれてしまっている。
研究室の広さは10帖くらいだろうか。
学「伯父さん。はい、夕食」
公一「うむうむ。やっぱりすき焼きにしたか。どうじゃった?ワシの差し入れの肉は美味かったか?」
学「ま、まあね」
リサ「美味しかったです!」
公一「そうか。そりゃあ良かった」
伯父さんは電子レンジで鍋や御飯を温め始めた。
尚、お茶の入っているポットは魔法瓶になっているので、温め直す心配は無い。
学「伯父さん、一体どういうことなの?指名手配食らってるって自覚はあるよね?」
公一「ワシが何のどういった容疑で指名手配を食らっているのかね?」
学「栗原蓮華を鬼型BOWにする為、栗原重蔵氏に伯父さんの『発明品』を売ったとか」
公一「確かにワシは、栗原重蔵とやらに大金を積まれ、それで発明品を売却した。じゃが、それが何の問題があるのかね?ライセンスはあくまで、開発者のワシにあるのじゃぞ?」
学「だから、それで栗原蓮華が鬼に……」
公一「じゃから、重蔵からはそんな話は聞いとらん。ワシの発明品『だけ』では、そんなことはできんのじゃぞ?お前もとっくに知ってるように、あれは化学肥料じゃ。それを重蔵が、何か変な細工をして、変な事態を招いただけに過ぎん」
学「しかし現に、デイライトが伯父さんを追って……」
公一「デイライトはただのNPO法人であって、警察機関ではない。つまり、組織的にはワシを拘束する権限は無いのじゃ」
学「だったら、コソコソ隠れてないで、堂々とデイライトに説明すればいいじゃないか」
公一「お前は日本政府のことを分かっておらん。政府の意に叶わん者は、何が何でも葬ろうとするのが政府という所じゃ。かつて一国の総理大臣であったはずの安倍晋三ですら、な」
学「んん?」
公一「政府はワシを悪者にして、事態の収束を図ろうとしている。さすがに、栗原家が『鬼を生み出してしまった』という事実は政府にとってもマズい状況らしい」
学「伯父さんは何を言ってるの?」
公一「カビというのは、農作物にも悪い影響を与える。それを取り除く発明品もあるのじゃが、どうもそれ、特異菌をも一気に殺す代物らしくてな。それをお前を融通しよう。それで、鬼を退治するが良い」
学「リサには効く?」
公一「ある程度は効くじゃろうが、このコはGウィルスの方がむしろメインなのじゃろう?特異菌だけ殺したところで、人間には戻れんじゃろうな」
学「くっそ……」
世の中、そんなに甘くないか。
学「あ、そうだ。伯父さん。日野博士って知ってる?」
公一「日野博士?」
学「何か、日本アンブレラにいた研究者らしいんだけど……」
公一「日本アンブレラに、そんなに知り合いがいたわけじゃないからな。その日野博士とやらが、どうかしたのか?」
学「伯父さんの発明品を重蔵氏から受け取って、それにプラス、自分の発明品を調合して、それで蓮華を鬼にしたらしいんだ」
公一「そうなのか。まあ、そやつがアンブレラの人間だったというのであれば、特段驚くべきことではないかな。むしろ、責任があるのは、ワシよりそっちだと思うがな」
学「どこにいるかは分かんないよね?」
公一「ワシが知るわけないじゃろう」
学「だよね」
話は振り出しに戻るというわけだ。
帰省最初の夕食は、予想通りすき焼き鍋が出て来た。
母親「公一伯父さんが『学達の為に』って、仙台牛を融通してくれたのよ」
愛原「そ、そうなの」
リサ「わー!美味しそうなお肉!」
父親「仙台牛といっても、最高等級までは行けなかった仙台黒毛和牛のことだろう。いくら兄さんが農学の研究者で、自ら農薬や化学肥料を造れるほどだとはいえ、農家さんがそんな高い肉をタダで融通してくれるわけがないよ」
愛原「いきなり現実的……」
母親「でも、2種類のお肉を用意してくれたみたいよ?」
父親「そっちは赤身が多いな。やっぱり、等級が低くて、売ると却って赤字になるような安肉を融通されたんだろう」
リサ「赤身がある方が噛み応えがあって美味しいですよ」
と、リサ。
高橋「リサには赤身の肉食わせとけばいいっス!」
リサ「血の滴る赤い肉……」
愛原「それはいいとして、伯父さんは一緒に食べないの?」
父親「なーんかね、『隠遁の身が、堂々と一緒に食事はできん』と言ってるんだ。学達が帰ってこないと、どうせ夫婦2人だけの夕食になるから、別にいいって言ったんだけどね」
指名手配されているという自覚はあるのだろうな。
その割には、交番とかには貼られていないが。
伯父さんは、この家の地下にできている空洞をいつの間にか改築し、そこを隠れ家兼研究室として使っているとのこと。
もちろん寝泊まりする為のスぺースはあるから、私とリサはそこで寝れば?という話だった。
研究室みたいな場所に寝るのは嫌だと、リサは拒絶したが。
愛原「伯父さん、食事はどうしてるの?」
母親「仕方が無いから、後で持って行ってあげるのよ。学、後で持って行ってくれる?」
愛原「ああ、分かった」
両親達は、伯父さんが指名手配食らっていることを知らないのだろうか?
愛原「伯父さんが、どうしてここの地下に住んでいるのか聞いてるの?」
父親「何か、『悪い奴らに追われてる』って言ってたな。伯父さんが造った農薬だか肥料だかは、そんなに怖い物なのか?」
愛原「う、うん。まあ、バイオテロ組織が、何故か喉から手が出るほど欲しがってる」
母親「世の中、何が売れるか分かんないわねぇ……」
愛原「い、いや、そういう問題じゃないと思うけど……」
私は苦笑した。
[同日19時30分 天候:曇 愛原家1階ダイニング→地下1階・公一の隠れ家]
公一伯父さんの夕食は、私達が食べてからでいいらしい。
母親「『どうせ居候の身だから、残り物でいい』なんて言ってたけど、さすがにねぇ……」
すき焼きの食材ではあるが、1人鍋に盛られていた。
パールが洗い物を手伝っている。
本当は高橋やリサも手伝おうとしたのだが、公一伯父さんに早く夕食を持って行くよう言われた。
なので、地下には私とリサが行くことになった。
私はお盆にすき焼きの入った1人鍋と御飯や漬物、お茶の入ったポットを乗せたワゴンを押した。
地下までどうやって運ぶのだろうと思ったが……。
父親「ここから行くんだ」
愛原「あれ?!ここって、掃除用具入れじゃなかった!?」
それがホームエレベーターになっていた。
父親「公一伯父さんが、いつの間にか設置したんだよ。これならワゴンも乗るだろう」
愛原「そういうことか……」
エレベーターを呼び戻し、それに乗り込む。
家庭用なので、サイズは小さい。
業務用で最も小さいサイズの物が設置されている私の事務所だが、それでも定員は4人である。
それに対して、このエレベーターの定員は3名であった。
荷物であるワゴンの大きさ的に、私とリサがギリギリ乗れるほど。
それで伯父さんが住んでいる地下階へと向かう。
リサ「富士宮の民宿みたいに、ハンターとかいたりしてね」
愛原「実際、ただの空洞だった頃はハンターが潜んでたんだよな」
リサ「まあ、その時は私がブッ殺すから」
ハンターとは、アンブレラが製造した生物兵器のことである。
多くが2底歩行の爬虫類型だが、中には両生類型もある。
爬虫類型は鋭い爪を持って、獲物に飛び掛かってはその爪で切り裂いたり、一気に首を刎ねたりする『首狩り』攻撃を行う。
両生類型はカエルのような大きな口を持ち、獲物を丸呑みしてしまうのである。
但し、両生類型は欠陥だらけでアンブレラ本体からも見捨てられた。
口を大きく開けた際、口の中に向かって銃弾を放てば簡単に倒せる上、真横にピッタリ付くと振り向けないという性質があるからである。
愛原学「着いた」
ホームエレベーターには、ドアに小窓が付いている。
それで、外の様子が分かる。
愛原公一「おー、来たか。腹が減ったぞ」
地下室は、殺風景なコンクリートの壁が剥き出しになっていた。
かつては地下鉄東西線のトンネルにまで続いていた空洞だったが、今は壁で塞がれてしまっている。
研究室の広さは10帖くらいだろうか。
学「伯父さん。はい、夕食」
公一「うむうむ。やっぱりすき焼きにしたか。どうじゃった?ワシの差し入れの肉は美味かったか?」
学「ま、まあね」
リサ「美味しかったです!」
公一「そうか。そりゃあ良かった」
伯父さんは電子レンジで鍋や御飯を温め始めた。
尚、お茶の入っているポットは魔法瓶になっているので、温め直す心配は無い。
学「伯父さん、一体どういうことなの?指名手配食らってるって自覚はあるよね?」
公一「ワシが何のどういった容疑で指名手配を食らっているのかね?」
学「栗原蓮華を鬼型BOWにする為、栗原重蔵氏に伯父さんの『発明品』を売ったとか」
公一「確かにワシは、栗原重蔵とやらに大金を積まれ、それで発明品を売却した。じゃが、それが何の問題があるのかね?ライセンスはあくまで、開発者のワシにあるのじゃぞ?」
学「だから、それで栗原蓮華が鬼に……」
公一「じゃから、重蔵からはそんな話は聞いとらん。ワシの発明品『だけ』では、そんなことはできんのじゃぞ?お前もとっくに知ってるように、あれは化学肥料じゃ。それを重蔵が、何か変な細工をして、変な事態を招いただけに過ぎん」
学「しかし現に、デイライトが伯父さんを追って……」
公一「デイライトはただのNPO法人であって、警察機関ではない。つまり、組織的にはワシを拘束する権限は無いのじゃ」
学「だったら、コソコソ隠れてないで、堂々とデイライトに説明すればいいじゃないか」
公一「お前は日本政府のことを分かっておらん。政府の意に叶わん者は、何が何でも葬ろうとするのが政府という所じゃ。かつて一国の総理大臣であったはずの安倍晋三ですら、な」
学「んん?」
公一「政府はワシを悪者にして、事態の収束を図ろうとしている。さすがに、栗原家が『鬼を生み出してしまった』という事実は政府にとってもマズい状況らしい」
学「伯父さんは何を言ってるの?」
公一「カビというのは、農作物にも悪い影響を与える。それを取り除く発明品もあるのじゃが、どうもそれ、特異菌をも一気に殺す代物らしくてな。それをお前を融通しよう。それで、鬼を退治するが良い」
学「リサには効く?」
公一「ある程度は効くじゃろうが、このコはGウィルスの方がむしろメインなのじゃろう?特異菌だけ殺したところで、人間には戻れんじゃろうな」
学「くっそ……」
世の中、そんなに甘くないか。
学「あ、そうだ。伯父さん。日野博士って知ってる?」
公一「日野博士?」
学「何か、日本アンブレラにいた研究者らしいんだけど……」
公一「日本アンブレラに、そんなに知り合いがいたわけじゃないからな。その日野博士とやらが、どうかしたのか?」
学「伯父さんの発明品を重蔵氏から受け取って、それにプラス、自分の発明品を調合して、それで蓮華を鬼にしたらしいんだ」
公一「そうなのか。まあ、そやつがアンブレラの人間だったというのであれば、特段驚くべきことではないかな。むしろ、責任があるのは、ワシよりそっちだと思うがな」
学「どこにいるかは分かんないよね?」
公一「ワシが知るわけないじゃろう」
学「だよね」
話は振り出しに戻るというわけだ。