報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「タイラントから逃げろ」

2019-02-17 19:12:07 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月20日12:00.天候:曇 千葉県銚子市 ニューグランドホテル犬吠・旧館1F→B1F]

 2個目のメダルを台座に嵌め込むと、今度は鉄格子が開いた。
 その先には扉があるが、鍵が掛かっている。
 しかも鍵穴も閂も無い。
 どうやら3個目のメダルを嵌めて、やっと扉が開く仕掛けのようだ。

 高橋:「先生!」

 エレベーターのドアをこじ開けて、そいつは姿を現した。

 タイラント:「…………」

 身長はざっと2mはある。
 顔はまるで石膏像のように白く、眉毛などは生えていない。
 ただ、灰色の瞳をこちらに向けるだけ。
 表情も全く変えず、無表情のまま。
 そして、一言も喋らない。
 ドスッドスッと足音を立てて、私達の所へ歩いて来る。

 愛原:「逃げるぞ高橋!」
 高橋:「はい!」

 私達はタイラントから逃げた。
 奴は走って追い掛けて来ることは無かった。
 ただ大股に歩いて向かって来る。
 大柄な体と革靴から発せられる足音が不気味だ。
 ゾンビと違うのは、奴らはドアをブチ破ることしかできないが、タイラントは鍵の掛かっていないドアは普通に開けて出入りできる知能は持ち合わせているということだ。

 高橋:「先生、電気室はどこですか!?」
 愛原:「さっきのトイレのもっと奥の階段だ!」

 私は途中にある防火戸を閉めた。
 トイレを探索する前、隙間風で何かの呻き声に聞こえたあの防火扉だ。

 タイラント:「…………」

 重厚な防火戸ではあったが、鍵は付いていない。
 タイラントにとってはただの衝立程度のもので、片手で簡単に開けてきた。
 だから、ほんの一瞬の足止めにしかならなかったわけだ。

 愛原:「あっちだ」
 高橋:「はい!」

 大浴場に行く途中に非常階段があり、私達はその階段室に飛び込んだ。
 普段使いはしていなかったのか、階段室側から内鍵を掛けられるようになっていた。
 私達はその内鍵を閉めた。
 そして、地下1階への階段を駆け下りた。

 ガチャガチャ!……ドン!ドンドンドン!!

 愛原:「ヤバい!タイラントがドアをブチ破ろうとしてる!」
 高橋:「急いで電気室に!」

 私達は電気室までやってきた。
 しかし、ここも鍵が掛かっていた。
 これもフロントで手に入れたマスターキーで解錠した。
 そして中に入ると、また鍵を掛けた。

 愛原:「よし、これでしばらくは大丈夫だろう」

 タイラントは私達がここに入った所を見ていない。

 高橋:「何で俺達を追うんですかね?」
 愛原:「タイラントにとっては、俺達は侵入者だからな。それも、旧アンブレラの秘密施設を探そうって賊だ。そういう奴らがいたら殺せと命令されているんだろう。リサの方が上位種みたいだから、リサがいれば言う事聞かせられるんだがな」
 高橋:「今更無理ですよ」
 愛原:「まあな。とにかく、早いとこメダルを探そう」
 高橋:「はい」

 見取り図によると、メダルのある場所は……。

 愛原:「自家発電機の上らしいな」

 と、その時だった。
 ドンドンドンと階段を駆け下りて来る足音が聞こえて来た。

 高橋:「先生!」
 愛原:「シッ!」

 私は静かにドアの所へ移動した。
 そして電気室内の電気を消す。
 非常階段の僅かな非常灯の明かりだけが、うっすらとドアの隙間から差し込んでくるだけだ。

 ガチャガチャガチャ!

 愛原:「!!!」
 高橋:「!!!」

 ドンドンドン!!

 愛原:「…………」

 慌てるな。
 ヤツにはここに入ったことを見られていない。
 恐らく下から順に探すつもりなのだろう。
 リサが前に言っていた。
 タイラントは人の気配を敏感に感じ取って、その対象者をいつまでも追い掛けるのだと。
 ということは、気配を消して、それを感じ取られなければ大丈夫だ。
 すると、しばらくして階段を登る音が聞こえて来た。
 どうやら助かったようだ。
 私は再び室内の照明を点灯した。

 愛原:「よし、上手いこと撒いたようだ」
 高橋:「さすが先生です」
 愛原:「“クロックタワー”シリーズの主人公になった気分だな。えーと……自家発電機はどこだ?」
 高橋:「あれです、先生」
 愛原:「おおっ」

 しかし大きな発電機だ。
 高さはタイラントくらい……いや、それより少し高いくらいだ。

 愛原:「さて、どうやって上に上がる?」
 高橋:「脚立がありました」

 高橋が脚立を持って来た。

 愛原:「やっぱり用意されていたか」

 私は脚立を登って、自家発電機の上を見た。

 愛原:「ああ、あった」

 埃被っていたが、間違い無く今まで入手したメダルと同じものであった。

 愛原:「よし。これであの隠し通路の仕掛けが解けるぞ!早いとこ戻ろう!」
 高橋:「はい!」

 高橋は電気室のドアをそっと開けて、外の様子を伺った。

 高橋:「先生、大丈夫です。ヤツはいません」
 愛原:「よし。まだ近くにいるかもしれないから、別のルートを通って行こう」
 高橋:「別のルート?」
 愛原:「2階から行くんだ」

 私達は非常階段を2階に向かって昇った。
 途中、無残に壊された1階の階段室扉が踊り場に転がっていた。
 一応試しに、その階段室から1階の廊下を覗いてみる。

 愛原:「!!!」

 そして、すぐに顔を引っ込めた。

 高橋:「どうしました!?」
 愛原:「タイラントの後ろ姿だよ」
 高橋:「マジっスか!」

 やはりタイラントは1階にいたようだ。
 どうやら私の『2階から行った方が良い作戦』は利口のようだな。
 どうして2階から行こうとしたのかというと、あのエントランスホールには2階に上がる吹き抜け階段があったからだ。
 つまり、2階から行ってあの吹き抜け階段を下りても良いということだな。
 私達は2階に出ると、そこからエントランスホールに向かった。
 2階は1階や5階よりも荒れていて、あちこちガラスが割れ、その破片が散乱していた。
 こっちは靴を履いているから、それを踏んだくらいでケガすることは無いのだが、踏むとどうしてもガラスがパリッと割れ、それをタイラントが聞きつけて追い掛け来そうな恐怖感があった。

 愛原:「あっ!」

 そしてエントランスホールまで来た時、私は絶望した。

 高橋:「マジかよ……」

 何があったと思う?

 1:タイラントが待ち構えていた。
 2:ゾンビが5〜6匹ほど徘徊していた。
 3:別のクリーチャーが待ち構えていた。
 4:彫像が倒れていた。
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“私立探偵 愛原学” 「タイラント」

2019-02-17 10:21:20 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月20日12:00.天候:曇 千葉県銚子市 ニューグランドホテル犬吠・旧館1F]

 フロントの中に入って、今度はホテル旧館の見取り図を手に入れた。
 但し、地下階以下については書かれていない。
 私がわざわざこれを手に入れた理由は、この見取り図に色々と書き込まれていたからだ。
 誰が書き込んだかは分からない。
 驚くべきことに、裏面は白紙なのだが、そこにも手書きの見取り図が書かれていたのだ。
 私が興味を持ったのは、むしろそこ。
 明らかにエントランスロビーに鎮座する銅像の仕掛けのことが書いてある。
 あの隠し通路から先のことが手書きの図解入りで書かれていたのだ。
 どうやら下に降りる階段があり、その先にエレベーターがあって、更に下に降りるようだ。
 しかしその先の空間については『?』と書かれており、これを書いた人はその先に何があるのかまでは分からなかったようだ。
 そしてその先にまた階段があり、そこから矢印で外に出るようなことが書かれており、最後には『Way out』(脱出路)と書かれていた。
 書いたのはホテル従業員だろうか?
 もし旧アンブレラ・ジャパンが秘密施設を作っていたのなら、ホテル従業員も知らないかもしれない。

 高橋:「このホテルで何かあったのかもしれませんね」
 愛原:「かもな」

 それを新館のホテルスタッフに聞くのは困難だろう。
 今、新館を運営している会社は、この旧館や新館がリニューアルされる前の本館時代とは別会社だからだ。
 旧・運営会社の社員は倒産と同時に解雇されており、新会社が運営を再開するまでの間、数年間のブランクがある。
 昔から働いていた旧社員を再雇用はしていないそうで、今新館で働いている従業員達もリニューアル後に採用された人達ばかりだから全く知らないと思われる。

 愛原:「とにかくメダルの在り処は、ここに書かれているんだ。これで行こう」
 高橋:「はい」

 幸い、電気は止まっていない。
 フロントの奥にある事務所にエレベーター監視盤があり、これでエレベーターを起動させた。
 だが、ここでは隠し通路の先にあるというエレベーターの監視盤らしきものは見当たらなかった。
 一応、起動スイッチに使う小さな鍵はあったので、これを持って行くことにした。
 あとは客室のドアを開けるマスターキー。
 ゲームではこんなものはヒントから探す必要があるが、現実にはある所にはあるものだ。

 愛原:「よし、行こう」
 高橋:「はい」

 まずは客室上階にあるメダルを探すことにした。
 しかし、何でそんなものが客室にあるのだろう。
 ほぼ旧アンブレラ・ジャパンが専有していたような旧館であったとはいえ、随分好き勝手なことをしたものだ(もっとも、テナントビルを丸ごと一棟専有する企業というのは、その特権を利用して色々と飾るのがセオリーだが)。
 エレベーターは新館にあるものと違って古い。
 何て言えばいいかな……。
 地方の古いショッピングセンター辺りで、リニューアルされていない昭和時代の古いエレベーターを見たことは無いだろうか?
 あんな感じと言えばいいかな。
 新館のエレベーターは外が見えないタイプのものだったが、こっちは意外なことに外が見えるタイプのエレベーターだった。
 もっとも、外側のガラスが割れていたり、ガラス自体か汚れていたりと、全く見栄えは良くない。
 また、外側のガラスが割れているということは、ヘタすりゃ海水が中に入り込むということだから、こうして稼働していること自体が不思議なのかもしれない。
 いつ壊れて動かなくなるか分からないので、そう何度も乗っていられないな。

 高橋:「着きました」
 愛原:「うん」

 旧館最上階の5階に着くと、エレベーターのドアがガタガタ言いながら開いた。
 やっぱり、そう何度も乗れる状態じゃないか。
 隠し通路から先にあるヤツは大丈夫なんだろうな?
 あの見取り図だと、エレベーターしか無いような書き方になっているが……。
 5階は思ったほど荒れてはおらず、割れた窓ガラスなどは無かった。
 こういうのは上の階に行くほど安全なのだろうか?
 火災の時は上の階ほど危険なんだけどな。
 さすがに火災は発生しなかったようで、今まで探索した箇所で焦げ跡のようなものは無かった。

 高橋:「場所は?」
 愛原:「501号室だ。すぐそこだな」

 行ってみると、明らかに鍵が掛かっていた。
 事務室から持って来たマスターキーで解錠した。
 入ってみると、そこはスイートルームのようだった。
 
 愛原:「見取り図によると、あそこに額縁があって……」

 だが、さすがにそれは壁から外れて落ちていた。
 どうやら、絵画の中に紛れ込んでいたらしい。
 落ちた額縁は壊れていたが、その下にメダルがあった。

 愛原:「よし、これで2個目」
 高橋:「さすがです。あと1個は?」
 愛原:「地下階だな。さっきの機械室とは別に、電気室があるらしいぞ」

 そこが無事だったので、停電せずに済んでいたのだろう。

 愛原:「よし、もう1度下に降りるぞ」
 高橋:「はい」

 私達は部屋から出ると、もう1度エレベーターに向かった。
 どういうわけだか、エレベーターは下に降りてしまっていた。
 ボタンを押すと、さっき乗って来たのとはもう片側の方がスーッと昇って来る。
 そろそろ来るとなった時、背後でガラスの割れる音が聞こえた。

 愛原:「!?」
 高橋:「!」

 廊下の窓ガラスでは無い。
 少し遠くから聞こえて来た感じなので、どこか部屋の窓ガラスが割れたのかもしれない。
 しかし、どうしてだ?

 高橋:「エレベーター来ました」
 愛原:「ああ」

 エレベーターに乗り込み、1階のボタンを押す。
 そして、閉めるボタンを押そうとした時だった。

 愛原:「!!!」

 奥の部屋のドアがバァンとこじ開けられて、中から誰かが出て来た。
 私は咄嗟に閉めるボタンを押した。
 さっき乗った方のと同様、こちらもガタゴト言いながらドアが閉まったが、閉まる直前、こっちに向かって来るヤツと私は目があった。

 愛原:「た、高橋、今の見たか?」
 高橋:「ゾンビですかね?」
 愛原:「違う!とんでもないヤツに見つかったかもしれないぞ!」

 それは黒い中折れ帽を被って、黒いロングコートを羽織っていた。
 確か、あれは……。

 愛原:「タイラント!タイラントだ!」
 高橋:「タイラント!?しかし、霧生市でリサが連れていたヤツとは違うようでしたが……」
 愛原:「タイラントにも色々なタイプがあるんだ。早いとこ隠し通路を開放しないとマズいことになりそうだ」

 その通りだった。
 エレベーターで1階に向かっている間、何だか上からドンドンと強く叩く音が聞こえて来たのだ。
 あれは恐らくエレベーターのドアをこじ開けるか、ブチ破ろうとしている音。
 そして1階に着くと同時に、今度は天井から衝撃が伝わって来た。

 高橋:「先生!」
 愛原:「先にこのメダルを置いてから電気室に行くぞ!早く!」
 高橋:「はい!」

 ゾンビや他のクリーチャーはいなかったが、タイラントはいた!?
 リサを連れて来れば良かったかなぁ!?
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“私立探偵 愛原学” 「メダルを探せ」

2019-02-16 20:05:21 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月20日11:00.天候:曇 千葉県銚子市 ニューグランドホテル犬吠・旧館1F]

 愛原:「あそこの暗がりになっている所、あそこから呻き声のようなものが聞こえないか?」
 高橋:「マジですか?」
 愛原:「ちょっと行ってみよう」
 高橋:「先生、俺が先導します」
 愛原:「大丈夫か?」
 高橋:「一応、これがありますのでね」

 高橋は機械室で拾ったバールのようなものを振り上げた。

 高橋:「ゾンビくらい、これで頭ボコしてブッ殺してやりますよ」
 愛原:「鋭意稼働中の新館がすぐそこにあって、ゾンビがいるとは思えないんだが……」

 とにかく、暗がりに行ってみることにした。
 それは廊下の曲がり角で何故か窓が無い為に日当たりが悪く、しかも外は曇り空ということもあって、尚更暗かった。
 高橋は懐中電灯片手に、バールを右肩の上に乗せて曲がり角を曲がった。

 高橋:「こ、これは……!」
 愛原:「どうした?」
 高橋:「呻き声というか……」

 それは閉まっている防火戸の隙間から風が吹き抜ける音だった。
 重厚なドアの隙間から吹き抜ける風が重低音を立て、それがあたかも呻き声のように聞こえたのだった。

 愛原:「何だ。ま、現実はこんなもんだ」

 私は防火戸を開けて、壁に収納した。
 すると今度は水の音が聞こえた。

 愛原:「今度は何だ?」
 高橋:「水の吹き出る音ですね」
 愛原:「噴水でもあるのか?」
 高橋:「……噴水じゃなくて便所ですよ」
 愛原:「え!?」

 水の音がするのは共用トイレの方からだった。
 電気どころか、水道も止まっていないらしい。
 男子トイレの方から音がした。

 

 愛原:「ホテルのトイレにしては古いな……」
 高橋:「元々古いホテルだったわけですよね?リニューアルしてないと、こんな感じですよ」

 それは確かに。
 水の音がするのは、和式トイレの方だった。
 今時、ホテルのトイレで和式ってあるのか?
 高橋の言うように、この旧館は本当に陳腐化した建物だったのだろう。

 

 愛原:「よし、開けてみるぞ」

 しかしその前に、一応ノックしてみる。
 トイレのドアのノックは2回が基本。
 但し、『トイレの花子さん』を呼び出す時は3回鳴らすのだという。
 もっとも、ここは男子トイレだから花子さんなどいるわけがないが。
 リサも霧生市のアンブレラ開発センターでは、『トイレの花子さん』に扮してたんだっけ。

 高橋:「ゾンビが『入ってます』と言って来たら面白いんですけどね」
 愛原:「不気味なだけだ」

 ゾンビが喋れないのは体中が腐敗しているからだ。
 つまり、脳も腐敗していてそもそも喋る機能が失われているのだ。
 私はドアを開けた。

 

 愛原:「……誰もいないな」
 高橋:「そうですね」

 ホテルの共用トイレといったらフラッシュバルブ方式をイメージするのだが、ここのトイレはタンク式であった。
 どうやらタンクの弁が故障して水がずっと流れっ放しになっているらしい。

 愛原:「水道代が勿体無い」
 高橋:「管理がなってませんねー」
 愛原:「水を止めよう」
 高橋:「どうするんスか?」
 愛原:「元栓を止めるんだよ。……ほら、あのパネルを開けたら出て来るはずだ」
 高橋:「なるほど」

 しかし点検口のドアは固く閉じられていた。

 高橋:「ご安心ください。その為のバールです」
 愛原:「確かに」

 高橋はバールを使って、点検口の扉をこじ開けた。
 すると中に水道管が通っており、このトイレの便器に水を供給する物がちゃんとあった。
 だが、その元栓バルブが何故か無くなっている。

 愛原:「あ、なるほど。ここで使うのか」

 私は機械室で拾ったバルブハンドルを取り出した。
 それで元栓を締める。
 すると水が止まり、トイレ内に静寂が訪れた。

 愛原:「やっと静かになったな」
 高橋:「先生!」
 愛原:「何だ?」
 高橋:「トイレの中にメダルがありました!」
 愛原:「何だって?」

 高橋が先ほどのトイレの水タンクの蓋を開け、中を見ていた。
 水が止まったせいでタンクの中は空になり、メダルが簡単に拾えた。

 愛原:「オリンピックのメダル並みの大きさだな」
 高橋:「先生、このメダルですよ、きっと!」
 愛原:「何が?」
 高橋:「さっきの銅像の台座にあった穴!サイズ同じです!」
 愛原:「マジか!?」

 私達は試しにさっきのエントランスロビーまで戻り、そこに鎮座している銅像の足元の台座にある丸い窪みにメダルを嵌め込んでみた。
 すると!

 高橋:「動いた!」
 愛原:「おおっ!?」

 銅像が1.5メートルほどせり上がった。
 そして、台座の下から鉄格子が現れた。
 鉄格子の向こうには、何やら扉がある。

 高橋:「やっぱりこの銅像の仕掛けを解けば、アンブレラの秘密施設に行けるって寸法ですよ!」
 愛原:「こんなんでいいのか!?」

 仮にそうだとしても、まだ穴は2つある。
 全部の穴を埋めないと、入口が完全に開いてくれないのだろう。
 え?なに?やっぱりこの旧館中をメダル探して走り回れって?
 ノーヒントで探すのは骨が折れるが、やっぱりやるしか無いのだろうなぁ……。
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“私立探偵 愛原学” 「ホテル旧館]

2019-02-13 19:36:11 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月20日10:00.天候:曇 千葉県銚子市 ニューグランドホテル犬吠・1Fフロント]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 慰安旅行で犬吠埼温泉に一泊した私達は、ホテルを引き払うところであった。

 フロント係:「あ、こちらのカードキーはどうぞお持ち帰りになってください」
 愛原:「えっ、いいの?」

 このホテルの客室のドアはカードキーで解錠するタイプ。
 他の宿泊客は緑色のカードなのに、私達だけはゴールドであった。
 株主優待で宿泊したからなのだろうか。

 フロント係:「はい。カードキーの情報は毎日変更しておりますので、このカードは今日から使えなくなります」
 愛原:「あ、そういうこと」

 近代的なオフィスの社員証みたいなものだな。
 チェック・アウトの手続きが終わると、私達はホテルをあとにした。
 因みに高野君達は、先に出発していてもらっている。

 愛原:「それじゃ行くか」
 高橋:「はい」

 公道に出るのとは逆方向、駐車場の方向に行った。
 確かに駐車場部分は広くなっていて、道はその先まで続いている。
 が、その入口には『この先、工事中』という立て看板が立っていた。
 駐車場の先へ行くと、いきなり道が荒れ始めた。
 ここから完全に管理が放棄されているといった感じだ。

 愛原:「一瞬、林っぽい中に入って行く感じがするから、いい隠れ場所だな」
 高橋:「もうこの時点で、何らかのクリーチャーに遭遇しそうな感じですよ」
 愛原:「まさか……」

 アスファルトがヒビだらけで、時々剥がれてしまっている。
 車で走ろうものなら、きっとガタガタに揺れることだろう。
 そんな道を進んで行くと、本当に終点に着いた。
 ロータリーになっていて、道はここからまた駐車場や新館の方に折り返しできるようになっている。
 で、その真正面には旧館のエントランスがあった。
 リニューアルされた新館と比べれば、とても殺風景だ。
 昭和時代の急ピッチで建てられたホテルの別館そのものである。

 高橋:「先生、鍵が掛かってますよ?」
 愛原:「そりゃそうだろ」

 新館は自動ドアだったが、こっちの旧館は前後に開閉するテンパドアだった。
 私があちこち開けようとすると……。

 愛原:「あっ!」

 1ヶ所だけ鍵が開いていた。

 高橋:「先生……」
 愛原:「なるほど。斉藤社長の依頼は本当らしい」
 高橋:「どうしますか?」
 愛原:「もちろん入るさ。準備はいいか?」
 高橋:「大丈夫です」

 私達は旧館内部に入った。
 こちらも新館(本館)同様、2階まで吹き抜けのエントランスロビーがあった。

 愛原:「でもやっぱり荒れてるな」
 高橋:「ほとんど工事なんてしてなさそうですね。で、放置されてから何年も経ってる」
 愛原:「ああ」

 ガラスが割れてる所は木の板を張って補修したようだが、これが尚更廃墟感を出している。
 また、採光も悪くなり、本来なら明るいエントランスが薄暗くなってしまっていた。
 一応、懐中電灯は持って来てるけどね。

 高橋:「先生、どこを探しましょうか?」
 愛原:「旧アンブレラが出入りしていたわけで、その痕跡を見つければいいわけだよ。この場合、地下の施設って感じだな」
 高橋:「じゃあ、地下へと下りてみま……」

 その時、高橋が1つの像に目を留めた。

 愛原:「どうした?」
 高橋:「これ……ああ、やっぱりアンブレラの奴らが出入りしてたっぽいです」
 愛原:「どうして分かる?」
 高橋:「この銅像の台座に、3つの丸い窪みがあるじゃないですか」
 愛原:「ああ、あるね」
 高橋:「この窪みに合うメダルを嵌め込んでやると、銅像が動いて地下秘密施設への入口が開くって寸法なんじゃないかと」
 愛原:「今からこのメダルを3つ探せって?何の手かがりも無いのに?」
 高橋:「ちょっと無理っぽいですね」
 愛原:「当たり前だろ。1つ探すだけでも日が暮れるよ。とにかく、それっぽい物を見つけただけでも報告できるんだ。他を探そう」
 高橋:「はい」

 非常階段で地下へ向かう階段を下りてみる。
 所々壁が崩れているのは、震災の揺れでやられたのだろうか。

 愛原:「こっちは真っ暗だな」
 高橋:「やっぱり停電してますか?」
 愛原:「当たり前だろ」
 高橋:「でもさっき、フロントの下にあった冷蔵庫、電源入ってましたよ」
 愛原:「はあ!?」
 高橋:「何も入ってませんでしたけどね」
 愛原:「おい、ウソだろ?」

 地下室は機械室になっている。
 高橋が入ってみて、すぐ横のスイッチに手を伸ばすと……。

 高橋:「あっ、点いた」

 薄暗いながらも照明が点いた。

 愛原:「マジかよ!」

 この旧館は停電していたわけではなかったのか!
 機械室内を一通り探索してみる。

 愛原:「あ、バルブハンドル見っけ」
 高橋:「定番ですね。俺はバールのようなものを見つけました」
 愛原:「いや、だからバールだろ。ニュースでも、『犯人はバールのような物で被害者を殴り付け……』みたいなこと言うけど、『いや、バールだろ!』っていつも突っ込んでる」
 高橋:「さすが先生です。これでハンドガンとか落ちてたらガチなんですけどね」
 愛原:「ガチ過ぎて、それだけで探索は中止だ」

 私が拾ったのはドライバーセットだったが、こんなものでも何かの役に立つかな。

 愛原:「ここから更に下に行けないかね?」
 高橋:「それっぽそうなのは見当たらないですねぇ……。やっぱあの銅像を作動させないと……」
 愛原:「まだ言うか。一旦、上に戻ろう」
 高橋:「はい」

 私達は再びエントランスホールに戻った。

 愛原:「しょうがないからホテルの奥を探索しよう」
 高橋:「そうですね」

 思い当たる節があって、1階の渡り廊下。
 そこの入口は観音開きの防火戸が閉ざされていた。
 上を見ると、『本館↑』という看板がぶら下がっていた。
 この渡り廊下を進んで行くと、今の新館側に通じているのだろう。
 だが向こう側からも防火シャッターが下ろされていて、旧館へは行けないようになっている。

 愛原:「ん?何か聞こえないか?」
 高橋:「え?何がですか?」
 愛原:「あの、暗い所から何か聞こえるんだが……」

 それは何だと思う?

 1:呻き声
 2:話し声
 3:水の音
 4:波の音
 5:風の音
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“私立探偵 愛原学” 「慰安旅行の終わり」

2019-02-13 10:07:38 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月20日07:00.天候:晴 千葉県銚子市 ニューグランドホテル犬吠719号室]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 昨日から犬吠埼温泉へ慰安旅行に来ている。
 で、朝が来たわけだが……。

 愛原:「うん……」

 私は枕元に置いたスマホに手を伸ばして、アラームを止めた。

 愛原:「おい、高橋。朝だぞー」

 私は隣の布団に寝ている高橋の布団を揺り動かした。

 高橋:「……はっ!?しまった!寝過ごした!」
 愛原:「いや、まだ7時だよ。朝飯は8時からだから」
 高橋:「俺が先生にモーニングコールをさせて頂く予定だったのに……!」
 愛原:「あのなぁ……」

 私が呆れていると、障子の向こうから高野君の声が聞こえた。

 高野:「男子達、起きてるー?」
 愛原:「ああ、今起きた」
 高野:「いい朝日だよー」
 愛原:「本当か」

 私は起き上がって、洋室の方に行ってみた。

 愛原:「あれ?リサと斉藤さんは?」
 高野:「朝早くに目が覚めたんで、お風呂入ってくるって言ってました」
 愛原:「さすが若いコは元気だなー」

 もっとも、帰る頃には遊び疲れて電車の中で寝ているというイメージが私の中でできていた。

 高野:「雲間から見える朝日がステキです」
 愛原:「確かに」

 高野君はデジカメを持って来ると、それで窓の外の景色を撮り始めた。
 なるほど。
 千葉県の外房海岸は皆こんな感じに綺麗に朝日が拝めるのだろう。
 場所は違えど、これなら彼の日蓮大聖人もあの朝日に向かって立教開宗したくなるというものだ。

 高野:「……本当にあの旧館を探索するつもりですか?」
 愛原:「斉藤社長からの依頼だ。無碍に断るわけにもいかんよ」
 高橋:「どうせ今は廃墟だろ?アンブレラの隠し施設を見つけたところで、結局それを発見したってだけに終わるさ」

 少なくとも、ゾンビとかはいないだろうな。

 高野:「分かりました。あのコ達は私が看ておきますので」
 愛原:「うん、よろしく頼むよ」

 ぶっちゃけ事務所の面々全員出動でも良さそうだが、斉藤さんを1人にするわけにはいかないし、かと言って一緒に連れて行くわけにもいかない。
 やはりここは、私と高橋で行くのがベストだろう。

 高野:「私もお風呂行きますけど、どうします?」
 愛原:「俺はもう昨日2回も入ったからいいよ」

 実は部屋に戻った後で、もう一度行っていた。

 高橋:「先生が行かれないのなら、俺も行きません」
 高野:「じゃあ、私だけ行って来るから。多分あのコ達、そろそろ戻って来ると思いますけど」
 愛原:「ああ、分かった」

 高野君が大浴場に行った後、私は洗面所に行って顔を洗うことにした。

 高橋:「先生、いつも思うんですけど……」
 愛原:「何だ?」
 高橋:「こういう温泉ホテルの部屋にある風呂って、どういう場面で使うんスかね?」
 愛原:「んん?」
 高橋:「ビジホはそもそも大浴場なんて基本無いから、部屋の風呂を使いますけど、ここは温泉があるじゃないですか。そっちに入ればいいのに、こういう風呂って必要なんですかね?」
 愛原:「必要な人は必要みたいだよ」
 高橋:「???」
 愛原:「例えばこのホテルの大浴場には、混浴風呂が無いだろ?」
 高橋:「無いですね」

 もっと高い料金を出せば、その部屋専用露天風呂の付いた部屋なんかもあるようだが……。

 愛原:「カップルで来て、混浴を楽しみたい時とか……」
 高橋:「え?それ用ですか!?」
 愛原:「あとは家族で来て、まだ大浴場に入れない小さな子供をお風呂に入れたい時用とか……」
 高橋:「あー、それなら分かります」
 愛原:「ま、確かに俺達には必要無いな」
 高橋:「先生、お背中流しますよ!?」
 愛原:「いらんっちゅーに!」

 すると……。

 リサ:「ただいま」
 斉藤:「戻りましたー」

 JC2人組が戻って来る。

 愛原:「おう、お帰り。途中で高野君に会わなかったか?」
 斉藤:「さっきエレベーターで会いました」
 愛原:「やっぱりそうか」
 リサ:「愛原さん達はお風呂行かない?」
 愛原:「オレ達はもういいよ」
 高橋:「先生が行かれるなら俺は行くし、行かれないのなら行かない」
 斉藤:「? どういうこと?」

 斉藤さんは高橋の言っていることが分からなかったようだ。
 いや、まだ12〜13歳の少女が理解してはいけない内容ではあるのだが。

 高橋:「弟子として師匠たる先生に、断固としてお応えして参る決意だ。先生に常にお供をさせて頂くのも、弟子の本分だ。分かったか?」
 斉藤:「よ、よく分かんないけど、カッコいい気はしました」
 高橋:「それでいい」
 愛原:「風呂はどうだった?」
 斉藤:「何か、昨日より熱かったです」
 愛原:「だろうな。そういうもんだ」
 斉藤:「えっ?」

 源泉の温度が低く、ボイラーで沸かす必要のある温泉の場合、夜間はそのボイラーを止めることがある。
 夜中に入ると風呂が温い経験をしたことのある人は、正にそれだ。
 しかし朝になると再びボイラーを稼働させるので、その分昨日よりも熱くなることがある。
 恐らく今その現象が発生しているのだろう。

[同日08:00.天候:晴 同ホテル1F・和食レストラン]

 昨夜夕食を取ったレストランと同じ場所で、今度は朝食を取ることになる。

 リサ:「愛原さん、ホテルはいつ出発する?」
 愛原:「チェックアウトは10時までなんだ。それまでゆっくりしていいよ」
 高野:「2人とも。このお2人は今日別行動されるから」
 リサ:「ええっ?」
 愛原:「ちょっと探偵の仕事が舞い込んでね。しかも偶然なことに、その現場というのがこの近くなんだ」
 斉藤:「それは今日中に終わるんですか?」
 愛原:「そのつもりだよ」

 せめて、東京行きの最終電車までには終わらせたいものだ。

 リサ:「場所はどこ?」
 愛原:「うーん……それはちょっと秘密なんだ。この近くであることは間違い無いんだけど……」
 リサ:「タイラント君は危ないよ?私が行って言う事聞かせないと……」
 愛原:「いや、まさか。タイラントはいないだろう」

 私はこの時、リサが何を言っているのかよく分かっていなかった。
 リサのことだから、私がまたバイオハザード絡みの事件を追うものと思ったのだろう。
 確かに旧・日本アンブレラ社の実質的な保養施設を探索しようというのだから、それ自体は間違ってはいない。
 だが、私はもう少しリサの話を聞くべきだったと後悔することになる。
コメント (3)
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