報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「BOWの慰安旅行」 

2019-02-11 20:19:59 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月19日20:00.天候:晴 千葉県銚子市 ニューグランドホテル犬吠2Fゲームコーナー]

 夕食後に愛原達と別れたリサと斉藤絵恋は、2Fのゲームコーナーに向かった。
 2Fへはロビーの吹き抜け階段からでも上がれる。

 斉藤:「オジさん、随分酔っ払ってたね」
 リサ:「うん。大丈夫。愛原さんは、酔いが醒めるの早いから」
 斉藤:「そうなの。うちのお父さんなんか、取引先との接待とかゴルフの帰りなんかいつも酔っ払って帰って来て、そのまま寝ちゃうんだから」
 リサ:「!?」

 その時、リサにまた一瞬だけフラッシュバックが起きた。

 斉藤:「どうしたの?」
 リサ:「な、何でも無い。それより、何して遊ぶ?」
 斉藤:「そうねぇ……。あのエアホッケーとかはどう?」
 リサ:「OK.望むところ」
 斉藤:「温泉と言えば卓球だなんてお父さんが言ってたけど、実際無いもんね」

 エアホッケーがあるだけでもマシである。

 斉藤:「リサさんはエアホッケーやったことある?」
 リサ:「無い。どうやるの?」
 斉藤:「卓球は知ってるでしょ?体育でやったから」
 リサ:「それは知ってる」
 斉藤:「このテーブルを挟んで、お互いにこのマレットを持って、このパックを打ち合いっこするの。で、相手側の穴にパックを入れたら得点ってわけ」
 リサ:「なるほど」
 斉藤:「ちょっとやってみましょう。まずは、さっき頂いた1000円札を両替……」

 で、100円玉を入れると盤上からエアが吹き出てパックが滑りやすくなる。

 斉藤:「じゃあ、私から打たせてもらうね」
 リサ:「ん!」

 斉藤、軽くコンッとパックを打つ。
 カンコンとパックがテーブルの縁に当たり、ジグザグに動きながらリサの所へやってきた。

 斉藤:「で、パックが来たら私に打ち返して!」
 リサ:「ラジャ!」

 カンッ!(リサ、マレットでパックを打ち返す)
 コーン!

 斉藤:「きゃ!」
 リサ:「あ゛……!」

 リサの打ち返したパックが宙を飛び、斉藤の広いおでこに当たった。

 斉藤:「あ、あたしに打ち返してくれてありがとう……!」
 リサ:「ど、どういたしまして……。ていうかサイトー、大丈夫?」
 斉藤:「り、リサさん、初めての割にはいいスマッシュだわ……。体育の時の卓球みたい……」
 リサ:「もう1度!もう1度やろう!今度は私から打つ。かるーく……」

 コン。

 斉藤:「そうそう、強く打ち過ぎる必要は無いのよ。そーれっ!」

 尚、強く打ち過ぎて相手方の顔面にパックを直撃させたのは作者も経験済みである。

 リサ:「ん!」

 今度はリサ、ちゃんと上手に打ち返した。

 斉藤:「そうそう!その調子よ!……よーし!スマッシュ!!」

 スポッ!

 斉藤:「あ゛ーっ!?」

 今度は斉藤の手からマレットがすっぽ抜け、リサの顔面に直撃した。

 斉藤:「きゃあああ!リサさん!?ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
 リサ:「??? 今、何が起きた???」

 当のリサはきょとんとしている。
 マレットが顔面直撃しても何とも無い。
 そりゃそうだ。
 リサ・トレヴァーは、マグナムの弾を食らっても殆どダメージなど食らわないほどなのだから。

 斉藤:「わざとじゃないの!手の汗でマレットがすっぽ抜けてぇぇぇ!」
 リサ:「マレットを相手に当てるのも戦法?」
 斉藤:「全然違うわ!私のミスなの!ごめんなさぃぃぃぃ!嫌いにならないでぇぇぇっ!」
 リサ:「大丈夫。気を取り直してもう一回やろう」

 これが終わると、次はUFOキャッチャー。

 斉藤:「これがなかなか上手く行かないのよねー!」
 リサ:「私もこういうクレーンで、運搬されてたなぁ……」
 斉藤:「はい?」
 リサ:「いや、何でも無い……」

 それが終わると次はスロットマシン。

 
(取りあえず、ジャグラーで大勝ちし、終始御満悦の作者近影)

 雲羽:「うひょひょひょひょ!報恩坊での功徳が止まらなーい!」
 斉藤:「何か、変なオジさんがいるから別のにしましょ」
 リサ:「こういう所で大勝ちしても、お菓子しか当たらないよ」
 斉藤:「だよねぇ。さっきから体を動かしてたせいか、少し暑くなってきたわ」
 リサ:「ちょっと外に出てみる?」
 斉藤:「外は寒くない?」
 リサ:「ちょっと出てみるだけ。寒くなったら中に入る」
 斉藤:「それもそうだね」

 リサと斉藤は、新館エントランスから外に出てみた。
 岸壁が目と鼻の先ということもあってか、潮騒がよく聞こえた。

 斉藤:「あっちの方って何になってるのかな?」
 リサ:「駐車場」
 斉藤:「その更に向こうの方に、古い建物が建ってるじゃない?何かブキミ……」
 リサ:「うん」

 ちょうど月が旧館の屋上辺りにあった。

 斉藤:「せっかくきれいなお月様なのに、あの建物のせいでホラーになっちゃってるわ。お父さんに頼んで取り壊してもらおうかしら」
 リサ:「うん。……んんっ!?」

 リサは斉藤の言葉に頷くだけであったが、その旧館屋上にある物を見つけて絶句した。
 旧館屋上といっても、常人には双眼鏡が無いと現認できないくらいの距離がある。
 リサはBOWの力で、視力も双眼鏡並みに強くすることができるのだ。
 その視力でリサが見たのは……。

 リサ:「た、タイラント君!?」
 斉藤:「え、なに?何かいるの?」

 リサの目には黒い中折れ帽を被り、黒いロングコートを羽織った男が旧館屋上の給水タンクの上に座っているのが見えた。
 リサには見覚えがある。
 それはタイラント。
 霧生市で現れた者は左手が異様にクリーチャー化していたが、リサの知り合いのタイラントはそれだけではない。
 とても長身であることを除けば、人間とパッと見変わらない姿をした量産型タイラントもいる。
 そのタイラントは、リサの視線に気づくとニヤッと愛想笑いを浮かべたかのように見えた。

 リサ:「タイラント君……」
 斉藤:「リサさん!リサさん!」

 斉藤はリサに呼び掛けながら体を揺さぶった。

 リサ:「……あ、サイトー。なに?」
 斉藤:「どうしたのよ?ボーッとしちゃって……」
 リサ:「いや、何でもない……」

 再びリサが視線を戻すと、もうタイラントの姿は無くなっていた。

 斉藤:「ねぇ、今度は寒くなって来たわ。早く中に戻りましょう」
 リサ:「うん」

 リサは再び館内に戻りながら首を傾げた。

 リサ:(何であそこにタイラント君がいたんだろう……?)
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「探偵の慰安旅行」 5

2019-02-11 09:56:18 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月19日18:00.天候:晴 千葉県銚子市 ニューグランドホテル犬吠1F・和食レストラン]

 団体客は宴会場でも貸し切るのだろうが、私ら少人数グループ客はホテル内に併設されたレストランの中で食べることになる。
 座敷に上がって食べるのだから、まあ形式的には団体客の宴会と変わらないか。
 メニューも明らかに宴会コースのそれだし。
 やっぱり小鍋の下に固形燃料が仕掛けてあって、夕食開始直前または直後にスタッフが着火してくれる……という所も他と同じか。
 店内には大きな水槽があって、そこで明らかに『活け造り』になるのを待たされてる鯛とか伊勢海老とかが泳いでいるのだが。

 愛原:「皆、グラス行き渡ったか?」
 高橋:「うっス!」
 高野:「ビールOK!……あなた達はジュースね」
 斉藤:「はーい」
 リサ:「はーい」

 因みに座敷は隣とは襖で仕切られているので、ちょっとした個室感覚だ。
 もちろん、宴会場とは違って騒ぎ過ぎには注意。

 高橋:「先生!乾杯の音頭を!」
 愛原:「そ、そう?じゃあ……コホン」

 私は立ち上がった。

 愛原:「えー、本日は慰安旅行に参加して頂き、真にありがとうございます。我が事務所もこうして今や、一泊二日の温泉旅行とはいえ、慰安旅行を行えるまでになりました。団体旅行と違って細やかな規模の宴会ですが、楽しんでください。あ、因みに飲み放題ですので、遠慮無く飲んでください」
 高野:「先生が飲みたいだけじゃないですかぁ?」
 愛原:「おっと!こりゃバレたかw」

 私はポンと自分と頭を叩いた。

 愛原:「それでは皆様、グラスを拝借。いいですかー?それでは乾杯しましょう。乾杯!」
 一同:「カンパーイ!」

 私は再び座椅子の上に座った。

 高橋:「先生、素晴らしい音頭でした」
 愛原:「大したこと無いよ」

 作者の会社では、必ず『喧嘩即退場である』という文言が入るらしい。

 斉藤:「あら?私の鍋、火が消えてるわ」
 高野:「本当ね。先生、そっちの灰皿にマッチとか入ってません?」
 愛原:「今時マッチって……。高橋、お前の初期アイテムはライターだろ?」
 高橋:「確かに」

 高橋が浴衣の懐に手を入れてる時、対角線上に座っているリサの動向が目に入った。
 皆、高橋がライターを取り出す所を見ている。
 リサは斉藤さんの小鍋の固形燃料を右手で触っていたが……。

 リサ:「あ、火点いた」
 斉藤:「ええっ!?」
 高橋:「あ?何だ、要らないのか?」
 斉藤:「ごめんなさい。火が点いたみたいです」
 高橋:「じゃあいいや」

 高橋は首を傾げつつ、オイルライターを懐にしまった。
 いや、今の絶対リサが点けただろ。
 リサのヤツ、発火の能力もあるんだな。
 BOWの中でそういうヤツいたかな?
 体がチェーンソーになってるヤツとかはいたらしいけど。

[同日20:00.天候:晴 同ホテル1F→719号室]

 愛原:「あー、飲んだ食った、飲んだ飲んだ。ごっそーさん」
 高橋:「先生、肩貸しますよ。介抱しますよ。介助しますよ。介護しますよ」
 愛原:「チョーシに乗んな。銚子なだけにw」
 高野:「へっくし!」

 私達は宴会を終えて、レストランを出た。

 高野:「明日の朝食も、ここですか?」
 愛原:「そう。こういう所の朝は『バイキング』というのがベタな法則だが、ここに限っては『定食』だよ」
 高野:「その方がいいですね」
 愛原:「ほーれ、高橋!さっさと前進前進!ヒック!」
 高橋:「先生、酔い過ぎですよ〜」
 愛原:「高野君も肩貸せ!」
 高野:「あら?セクハラですか?ちょっとボスに電話を……」
 愛原:「ひええ!クビにされます!」
 リサ:「愛原さん。向こうのゲームコーナーで、サイトーと遊んで来ていい?」
 愛原:「ああ、いいぞ。……あー、お金な。はい、1000円あれば足りるな」
 リサ:「ありがとう」
 愛原:「斉藤さんにも、はい」
 斉藤:「あ、ありがとうございます」

 ここでリサと斉藤さんが分かれる。

 愛原:「よーし、まずはエレベーターだ。しっかり先導しろよ!」
 高橋:「はいっ!」
 高野:「全く、大げさな……」

 私がヨタヨタモタモタ歩いているものだから、拍子に部屋のカードキーを落としてしまった。

 高野:「先生、カードキー落としましたよ」
 愛原:「いっけね!」

 そこはリニューアルオープンしたホテルだ。
 部屋の施解錠は普通の鍵ではなく、カードキーをドアノブの上にある読取機に当てて解錠するタイプだ。
 しかも豪華なことに、プラスチック製ではあるのだが、装飾が金ピカだ。
 まるでゴールドカードだな。
 もう少し努力すれば、代わり映えのあるホテルにもっとリニューアルできそうなものだが……。
 エレベーターホールに行く前に、ロビーやフロントの横を通ることになる。

 フロント係:「え?カードキーがですか?」
 宿泊客A:「カードを当てよってもな、うんともすんとも言わへん。何ぞ故障したんとちゃう?」
 フロント係:「すぐお調べします」

 ん?
 あのカードキーはグリーンだな。
 何で色が私達のと違うんだ?
 因みにカードキーは2枚渡されている。
 今1枚は私が持っているし(さっき落としたので、今は拾った高野君か)、もう1枚は斉藤さんが持っているはずだ。
 フロアによって違うのか、或いは部屋の造りによって違うのか……。

 高橋:「先生、エレベーターもうすぐ来ますからね」
 愛原:「ああ」

 エレベーターに乗り込んで、最上階の7階へ向かう。
 途中、2階に止まって、明らかに大浴場から来たと思われる他の宿泊客がぞろぞろ乗り込んで来た。

 宿泊客B:「おい、ちゃんと部屋のカード持ってるか?」
 宿泊客C:「あ、大丈夫ですよ」

 ん!?
 この宿泊客達が持っているカードもグリーンだな。
 何で私達のはゴールドなんだ?
 
 高橋:「先生、もうすぐ着きますよ」
 愛原:「ああ」

 エレベーターから1番離れた角部屋だからな。
 静かなのはいいけど、アクセスは良くない。
 高野君が何の疑いも無く、手持ちのゴールドカードキーをピッと当てた。

 高野:「さあ先生、どうぞ」

 当たり前の話だが、簡単にドアが開く。

 高野:「すぐお休みになりますか?」
 愛原:「いや、そこまで飲み過ぎてないよ。少しおとなしくしていれば、酔いも醒めるさ」

 和室の方は既に布団が2組敷かれていた。
 私は窓際の椅子に座った。

 高橋:「位置が良くない」

 そして高橋、布団をズズズとくっつけた。

 愛原:「くっつけんな!」
 高橋:「えーっ!」
 高野:「やると思った……。先生、お茶入れますね」
 愛原:「ああ、悪いな。お茶を入れてから、ちょっと2人に話したいことがあるんだ。高橋には風呂上がりの時にチラッと話してはいたんだが……」
 高橋:「ああ!仕事の話ですね!」
 高野:「仕事の話?」
 愛原:「お茶が入ってから話そう。どうせあのチビッ子達は、遊びに夢中でしばらくは帰って来ないだろうから」

 この部屋は先ほど角部屋だと述べたが、実は旧館に1番近い部屋でもある。
 部屋の窓の外にはベランダがあるのだが、そこに出て旧館の方を見ると、その建物がしっかり見えるのである。
 旧館の方が、もう少し朝日が見えやすいかもしれない。
 ただその分、震災の津波の影響は大きかったことが伺える。

 私は明日の計画について、高橋君と高野君に話した。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「探偵の慰安旅行」 4

2019-02-10 19:10:44 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月19日17:00.天候:晴 千葉県銚子市 ニューグランドホテル犬吠2F・大浴場]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 ……というくだりは、もうそろそろいいかな。
 私は今、高橋君と露天風呂に入っている。
 読者の皆さんは女湯の様子を見たかったかもしれないが、“私立探偵 愛原学”シリーズは私の一人称視点で進む物語なのである。
 もしどうしてもという方は、リサの視点で進む“愛原リサの日常”に期待して頂くしか無い。
 期待したい方はコメント欄へ。

 愛原:「おーっ、太平洋が一望だな」
 高橋:「そうですね。でも確かにこれじゃ、震災の津波もガチ受けですよ」
 愛原:「高さもあるから、意外と大丈夫なんじゃない?海面から10メートルくらいあるだろ」
 高橋:「どうですかねぇ……。あ、もし良かったら先生、お背中流しましょう」
 愛原:「そうか?じゃあ、頼むかな」
 高橋:「はい!じゃあ、そこに横になってください!」
 愛原:「何で背中流すのに横になるんだよ!」
 高橋:「いえ、それが俺のやり方でして……」
 愛原:「ウソつけ!洗い場に行って、フツーに座ってやれ!」
 高橋:「えーっ!」
 愛原:「えー、じゃない!」

 こいつには油断も隙も無いな。
 とにかく、私は温泉を堪能した。

 愛原:「飯、何時って言ってたっけ?」
 高橋:「18時からです」
 愛原:「マジか。女性陣はゆっくり入ってそうだし、このまま夕食会場へ直行コースっぽいな」
 高橋:「ですね」

 脱衣場で浴衣を着る。
 私より背の高い高橋は『大』サイズだが、中肉中背の私は『中』サイズだ。
 脱衣場外の湯上りに行くと、まだ女性陣は出ていなかった。

 愛原:「よし、ここで待とう。ちょっと俺、電話してくるから」
 高橋:「はい」

 私は自分のスマホを手に、斉藤社長の所へ掛けた。

 斉藤秀樹:「はい、もしもし。斉藤です」
 愛原:「お疲れ様です。探偵の愛原ですが……」
 秀樹:「おお、愛原さん。娘がお世話になっております」
 愛原:「いえいえ、こちらこそ、いいお部屋を紹介して頂いて……」
 秀樹:「どうですか?ホテルの方は」
 愛原:「リニューアルしたばかりということもあって、きれいなホテルですね」

 でも、それだけだ。
 それ以外は、特に目新しいものはない。
 だいたいどこ行ってもこんな感じじゃね?といった感じだ。

 秀樹:「そうですか。それより私の言伝はフロントから聞きましたか?」
 愛原:「そこです。それなんです。あまりにもシンプルな内容なもので、他に意味があるのではないかと疑ってしまい、こうしてお電話させて頂いた次第です。むしろ何かあるんですか?」
 秀樹:「あるんですよ、それが。私がこのホテルを買い取った運営会社に出資する際、色々と調べたことは言うまでないと思います」
 愛原:「ま、そりゃそうでしょうね」

 ロクに調べもせず出資するバカもいまい。

 秀樹:「面白いことが分かったんですよ。そのホテルの旧館部分なんですけどね、何でも日本アンブレラが保養所に指定していた所らしいんですよ」
 愛原:「えっ?」
 秀樹:「しかも、アメリカ本体からの幹部を接待する場所とかにも使われたりとかですね」
 愛原:「そんな曰く付きですか」
 秀樹:「しかも前のホテル運営会社の経営状態が悪かったこともあって、アンブレラが買い取ろうとしていた時期もあったそうです。これが何を意味していると思いますか?」
 愛原:「秘密の研究施設を造る……ですね?」
 秀樹:「私はそう睨んでいます。どうでしょう?愛原さん、調査してみるつもりはありませんか?」
 愛原:「斉藤社長、最初からそれが目的でしたか」
 秀樹:「いや、バレてしまいましたか。実は愛原さんもお気づきかもしれませんか、本館部分を改築しただけでは、どうも代わり映えしないホテルになっておりましてね。このままでは、また元の木阿弥で大赤字になってしまいます。思い切って大幅リニューアルする為には、あの旧館部分もリニューアルする必要があるのです。しかし、既にアンブレラの関係者が出入りしていたホテルでもある。そこで……」
 愛原:「正式な仕事の依頼ということでしたらお受けしますよ?」
 秀樹:「お願いします。報酬は愛原さんの言い値で構いませんので」
 愛原:「明日、ホテルを引き払ってからでいいですか?」
 秀樹:「構いませんよ。こちらとしても、精一杯のサポートはさせて頂きますので」

 これで決まった。
 上手く行けば、宿泊代もタダだな。

 高橋:「どうしたんですか、先生?」
 愛原:「ホテルをチェックアウトしたら、早速仕事に掛かるぞ」
 高橋:「マジっスか?」
 愛原:「このホテルの旧館部分を調査だ」
 高橋:「なるほど……」

 私達は湯上りを出ると、先に1階に下りた。
 そして、旧館と繋がっていた渡り廊下に向かおうとしたが……。

 愛原:「ま、だろうな」

 新館側から防火シャッターが下ろされていた。
 それだけでなく、工事用のバリケードなども置かれていて、あまり見た目は良くない。
 一応更に、『この先、リニューアル工事中につき立入禁止』という看板と、『この先は別館になっておりますが、建物の老朽化と東日本大震災の影響にて大変危険な状態となっております。従いまして、別館は閉鎖させて頂いております』という看板の2つが立てられていた。

 高橋:「取りあえず、俺達だけでも立入り許可してもらいませんと、仕事にならないですよ」
 愛原:「明日、斉藤社長がどういう話を付けてくれるかどうかだな」
 絵恋:「お父さんがどうかしたんですか?」
 愛原:「おわっ!?」

 いつの間にか背後に斉藤社長の御令息の絵恋さんがいた。
 大製薬企業の御令嬢の割には、名前がキラキラ……ゲフンゲフン!

 高野:「遅くなってごめんなさーい!斉藤さんがのぼせちゃって……」
 斉藤:「も、もう大丈夫です!ごめんなさい!だからお父さんには言わないでください!」
 高野:「別にそんなことしないよ」
 リサ:「サイトー、自爆」
 愛原:「……何があったのか知りたいような、知りたくないような……」
 高橋:「多分、知るだけ無駄だと思いますよ」

 とにかく私達は、夕食会場へ向かうことにした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「探偵の慰安旅行」 3

2019-02-10 09:45:03 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月19日16:03.天候:晴 千葉県銚子市 銚子電鉄線内]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は事務所の皆やリサの親友を伴って、慰安旅行に銚子までやってきた。
 東京駅から総武本線の特急に揺られ、終点の銚子駅で銚子電鉄に乗り換えている。
 JRとは違い、ガタガタと大きく揺れ、且つゆっくり走る古い電車に揺られて犬吠埼を目指しているのだが……。

〔次は笠上黒生(かさがみくろはえ)、笠上黒生。『髪の毛黒生え』笠上黒生でございます。……〕

 愛原:「プーッwwwww!」
 高橋:「プ……プ……プ……w」
 高野:「プwww」
 沖修羅河童:「怨嫉謗法はダメですよ!それより功徳を書きましょうね!」

 多摩:「オマエ、これやりたかっただけだろ?」
 雲羽:「バレました?」

[同日16:11.同市内 犬吠駅]

〔ご乗車ありがとうございました。次は犬吠、犬吠。『ワンツースマイルOTS犬吠埼温泉』犬吠でございます。降り口は、左側です。犬吠崎灯台、地球の丸く見える丘展望館、満願寺、犬吠埼温泉郷へはこちらでお降りください。……〕

 まるで終点に到着するかのような放送だが、実際は終点の1つ手前。
 如何にこの駅での乗降客が多いということだ。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく犬吠、犬吠でございます。お出口は左側です。お手持ちの乗車券は、駅係員にお渡しください。本日も銚子電鉄をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕

 因みにこの路線の駅間距離に関して言えば、東京メトロ銀座線のそれと同じか、それよりも短いくらいである。
 海沿いをゆっくり走る小さな電車という意味では、江ノ電と同じか、駅間距離も。
 で、何故かこの駅の有効長は他の駅と比べても長い。
 如何に乗降客が多いとは言えど、この駅だけである。
 今の2000形電車(2両で1編成)が2台は止まれそうな長さだ。
 これは大晦日、関東東端の犬吠埼から初日の出を見る観光客が殺到する為、鉄道会社は特別ダイヤを組むのだそうだ。
 その大編成に対応する為の有効長なんだそうだが、普段はホームの真ん中に止まるだけだ。

 愛原:「おー、着いた着いた」

 電車を降りると、銚子駅の時よりも更に潮の香りが鼻を突いた。

 駅員:「はい、ありがとうございました。……はい、ありがとうございました」

 有人駅なので、キップは駅員に渡す。
 駅舎は随分モダンな造りになっている。
 つい最近、リニューアルしたばかりのようだ。
 駅前広場には、引退した旧型電車と思われるものを流用したレストランがある。
 観光をする余裕があるなら、立ち寄れるかな。

 高橋:「先生、迎えの車来てますよー!」
 愛原:「おーう!」

 今日は取りあえず、さっさとホテルに行って温泉入るか。
 観光は明日だな。

 スタッフ:「愛原様ですか?ニューグランドホテル犬吠の者です。お迎えに上がりました」
 愛原:「あ、こりゃどうもわざわざ……」
 スタッフ:「それじゃ、ホテルまでご案内させて頂きます。どうぞ」

 シルバーのハイエースに乗り込む私達。
 車はすぐに出発した。

[同日16:25.天候:晴 同市内 ニューグランドホテル犬吠・フロント]

 どのホテルも海への眺望を売りにしているわけだが、このホテルもそうであるようだ。
 立地条件は良さそうなのに、1度廃業したそうだからな。
 リニューアルオープンしたばかりということもあって、外観も内装もきれいなものであった。
 私が代表者としてフロントでチェック・インをしていると……。

 フロント係:「愛原様、全日本製薬の斉藤様より言伝がございます」
 愛原:「言伝?」
 フロント係:「旧館エリアには立ち入らぬようにとのことでございますが……」
 愛原:「旧館エリア?そんなのあるの?」
 フロント係:「はい。確かにこのホテルは、全館を改装したわけではございません。別館に関しましては、リニューアルの対象外となりました。そこでリニューアル後は、立入禁止となった別館を『旧館』、このようにリニューアルなった本館部分を『新館』とご案内させて頂いております」
 愛原:「……宿泊客全員にだよね?」
 フロンド係:「さようでございます」
 愛原:「そんなことわざわざ斉藤社長、俺に言えって?」
 フロント係:「さようでございます」

 何かあるな……。
 後で電話してみよう。
 因みにその旧館は、実は外からでも見えた。
 どうやら出入口も分かれていたいたらしく、公道からこのホテルの私道に入って最初のポーチがこの新館のエントランスだったわけだが、道はもっと奥にまで続いていて、『駐車場』と案内されていたが、別館のポーチが終点だったのかもしれない。
 別館はどうしてリニューアルの対象外とされたのか。
 普通に考えれば東日本大震災の時のダメージが本館以上に酷く、廃棄せざるを得なかったとか考えられるが……。
 前の経営母体の時から既にそんなに経営状態が良かったわけではなかったそうなので、別館部分の土地と建物はその時の債権とか?
 やっぱりよく分からないので、後で斉藤社長に電話してみよう。
 私は鍵を受け取ると、早速客室に向かった。

[同日16:40.天候:晴 同ホテル7F 719号室]

 部屋に入ると、そこは和洋室になっていた。
 カーペット敷きの上にベッドが3つ並び、8畳間の和室が隣接している。
 和室と洋室部分は障子(和室側)とカーテン(洋室側)で仕切ることができた。

 高野:「スイートじゃないですよね?」
 愛原:「いや、さすがにそこまで豪華じゃない。部屋は広いけどね。ちょうどベッド3つだ。女性陣はベッドにして、俺と高橋はこっちで布団で寝るよ」
 高野:「了解」
 斉藤:「え……?私、リサさんと一緒の布団で寝たいんですけど……?」
 高橋:「何さらっとキモいこと言ってんだよ?俺は先生と一緒の寝たいんだ。ガキはベッドでおねんねしてな」
 愛原:「お前が言うな!」

 さっさと温泉入って、さっぱりしてくるか。
 斉藤社長へ電話は、その後でいいかな。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「探偵の慰安旅行」 2

2019-02-09 18:53:21 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月19日15:28.天候:晴 千葉県銚子市 JR銚子駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は慰安旅行で、犬吠埼へ向かっているところだ。
 私達を乗せた特急“しおさい”5号は、定刻通りに運行している。
 総武本線をひたすら進む電車で、東京駅を出発後、千葉駅までの複々線区間では黄色い各駅停車を何本も追い越し、千葉駅からは複線区間となり、それでもまだベッドタウンといった風景の中を進む。この複線区間は佐倉駅まで続く。
 佐倉駅から先は単線となるが、見た目には隣にもう一本線路が並行しているので、まだ複線が続くという錯覚になってしまうが、これは分岐する成田線の線路。成田空港へ向かう“成田エクスプレス”は、そちらを通るというわけだ。
 一方、私達の方はローカルチックな雰囲気の中、別方向に向かう。
 尚、終点の銚子駅の1つ手前の松岸という駅で別の線路が合流して来るが、これは成田線の線路。
 ん?何かおかしいかな?
 成田線という路線は微妙に複雑な構造らしくてね、成田空港へ向かう方が支線で、こっちの再び総武本線に合流して来る方が本線なんだって。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、銚子です。お出口は、左側です。銚子電鉄線は、お乗り換えです。……〕

 愛原:「因みに松岸駅の周辺には、日蓮正宗の末寺さんがあります」
 高橋:「え、何ですか?」
 愛原:「いや、何でもない。そろそろ降りる準備をしないとな」
 高野:「どうせ終点なんだから、慌てなくても……」
 愛原:「随分、ゴミを出したなぁ。片付けるの大変だぞ」
 高野:「取りあえずまとめて、駅のゴミ箱にでも捨てておきましょう」
 愛原:「そうだな」
 高野:「あなた達も降りる準備しなさい」
 リサ:「はーい」
 斉藤:「はーい」

〔「……お乗り換えのご案内です。銚子電鉄線をご利用のお客様は、階段を上りまして、銚子電鉄線乗り場から発車致します。今度の各駅停車、外川行きは15時54分の発車です。……」〕

 愛原:「乗り換え、超余裕」
 高野:「さすがはローカル線ですね」

 こうして特急“しおさい”5号は定刻通りに銚子駅に到着した。
 特急列車らしく、1番改札口に近い1番線に到着したのだが、銚子電鉄に乗り換えたい客はちょっと不便だ。
 何故なら……。

 清掃員:「ご乗車ありがとうございましたー。ゴミはこちらへどうぞー」
 愛原:「あ、そうか!」

 新幹線でもそうだが、特急でも終点で折り返す電車では清掃員が待機していて、それまで乗って来た客のゴミをドアの横で受け取るようなことをしているのだ。
 そこはラクで助かったのだが……。

 愛原:「銚子電鉄はどこだ?」
 高橋:「反対側のホームに向かった先らしいです」
 愛原:「なっにー!?」

 乗り換えに余裕はあるのだが、こういう罠もあるわけか。
 1番線は特急と一部の普通列車が発着し、反対側の2番線は総武本線普通の大半、そしてその隣の3番線は成田線普通の大半が発着する。
 要は1面2線の駅ってことだ。
 で、銚子電鉄はというと……。

 愛原:「ん?あれか?」

 私が跨線橋を渡っている時、そこから見えた小屋っぽいもの。
 で、その先にある切り欠きホーム。

 高橋:「そのようですね」

 なるほど。
 あそこでJRのキップは回収され、改めて銚子電鉄線のキップを買えということか。
 尚、連れのJC2人は元気良くさっさと先に行ってしまう。
 因みにリサはショートパンツから先の生足が目立つ。
 斉藤さんがスカートながら、下にレギンスを穿いているのとは大違いだ。
 BOW(Bio Organic Weapon)はこのくらいの寒さは「寒さ」に該当しないらしい。

 愛原:「まださすがに電車は来てないか」
 高橋:「そうですね。俺が呼びに行きましょうか?」
 愛原:「ああ、そうだな。……って、おい!」
 高橋:「え?何ですか?」
 愛原:「何で電車を呼びに行くんだよ!?」
 高橋:「何ですか?」
 愛原:「タクシーを呼ぶのと違うんだよ!どうせ折り返しの電車が来るだろう!」
 高橋:「はあ……」

 しかし、小屋みたいなものは待合室だった。
 改札口みたいなものもあったが、そこに駅員はいなかったし、だいいち券売機の類すら無い。
 一体、どうなっているのやら……。

 斉藤:「海の匂いがする」
 愛原:「はは、そりゃもうこの時点で海は近いからね。これからもっと海に近づく為に、電車を乗り換えるってわけさ」

 私は斉藤さんにそう答えた後で続けた。

 愛原:「実家が埼玉じゃ、なかなか海に行く機会は無いでしょう?」
 斉藤:「いや、そんなことないですよ。この前の夏休み……まだリサさんが転校してくる前は、ニュージーランドまで行って来ましたから」
 愛原:「……東北ニュージーランド村?」
 斉藤:「と、東北!?いえ、ニュージーランドですよ?」

 彼女は大製薬会社の代表取締役の御嬢様であった。
 格の差というか、貧富の差を見せつけられる。

[同日15:54.天候:晴 千葉県銚子市 銚子駅・銚子電鉄線ホーム→銚子電鉄2000形電車先頭車内]

 発車の10分前には折り返しの電車がやってきた。
 全身緑色に塗られていたので私は東急電鉄の車両をイメージしてしまったが、そうではなく、元々は京王電鉄の車両だったらしい。
 それが四国の伊予鉄道に譲渡され、そして銚子電鉄に引き取られて今に至るとのこと。
 フロント部分にはワンマンの表示がしてあったが、どうもそうではなく、車掌が乗るようだ。
 で、発車する時にはちゃんとホームに発車ベルが流れる。
 車掌は女性で、何故か前部運転台に運転士の横に立って、そこからホームを監視してドア扱いをしていた。
 ドアチャイムのピンポンピンポンの音色は確かに京王っぽい。

〔発車します。ご注意ください〕

 すぐ横に運転士がいるというのに、車掌はわざわざ発車合図のブザーを押している。
 こんなといったら失礼だが、ローカル鉄道でもちゃんと運転取扱規則を厳守している所は日本で感じだ。

〔お待たせ致しました。この電車は下り、外川行き、ワンマン電車です。……〕

 車掌:「乗車券をお持ちでない方、いらっしゃいますかー?」

 すぐに車掌が改札にやってくる。
 なるほど。
 運転要員というよりは、特別改札要員としての役割の方が大きいのかな。
 私達はすぐに申し出た。

〔……次は仲ノ町、仲ノ町。『パールショップともえ』仲ノ町でございます。降り口は、左側です。この駅には駅係員がおります。ヤマサ醤油へは、こちらでお降りください。ホームが段差となっておりますので、お降りの際はお気をつけください。次は仲ノ町、『パールショップともえ』仲ノ町に停車致します〕

 車掌:「ありがとうございました」
 愛原:「どうも……」

 車掌から乗車券を買うと、それは車内補充券と呼ばれる。
 最近のはレシートみたいな紙質なのだが、これは昔ながらのヤツだ。

 斉藤:「初めて見るキップね……。Suicaは使えないの?」
 愛原:「一気に昭和にタイムスリップだな」

 これでますます旅情が高まった。
 乗り換えはちょっと大変だったが、その甲斐はあったようだ。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする