報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「まずは南会津へ」

2020-11-16 20:04:21 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日16:59.天候:晴 福島県南会津郡南会津町 会津鉄道会津線 会津田島駅→ダイワリンクホテル会津田島]

〔「長らくの御乗車お疲れさまでした。まもなく終点、会津田島、会津田島に到着致します。1番線に入ります。お出口は、左側です。会津田島から先の区間ご利用のお客様、お乗り換えの御案内です。今度の会津若松行き、普通列車リレー129号は、4番線から発車致します。お降りの際はお忘れ物の無いよう、ご注意ください。ご乗車ありがとうございました。まもなく会津田島、会津田島です」〕

 愛原:「よーし!やっと到着だな」
 高橋:「腰が痛いっス」
 リサ:「もうすっかり外は暗いね」
 愛原:「ああ。冬が近いな」

 そして冬は豪雪地帯でもある。
 11月ではまださすがに雪は降っていないが、外は寒かろうと思い、薄手ではあるがコートは持って来ている。
 それは善場主任も同じようで、紺色のドレスコートを羽織り出した。

 高橋:「ここからホテルは近いのか?」
 善場:「はい。ご案内します」

 電車が到着してドアが開くと、明らかに都内より寒かった。
 バイオハザード最中の霧生市に行った時は6月だったので全く寒くなかったが、さすがに今は寒い。
 昼はまだ暖かいのだろうが。

 駅員:「はい、ありがとうございました」

 駅の改札口は自動化されておらず、ブースの中に立っている駅員にキップを渡して出る。
 改札口の外は典型的な地方の駅らしく、観光物産館などが併設されていた。
 レストランもあるようだが、もう既に閉店している。

 

 善場:「ではホテルへ向かいます。付いて来てください」

 駅の外に出ると、私達は善場主任に付いていった。
 福島県の会津地方は山間にあるというイメージだが、この駅周辺は開けた場所にあるのだろう。
 霧生市も市街地はこのような感じだった。

 高橋:「それにしても先生、まるで霧生電鉄に乗ったみたいな感じでしたね」
 愛原:「そうか?」
 高橋:「トンネルの中に駅があるなんて、正にそうだったじゃないですか」
 愛原:「リサがいた秘密の研究所入口のホームか。まあ、そうだな」
 高橋:「俺、つい秘密の入口があるんじゃないかと思って、トンネルん中ずっと外見てましたよ」
 愛原:「お前のあの行動、そうだったのか」

 会津鬼怒川線内には湯西川温泉という駅がある。
 その駅は山岳トンネルの中に設けられているのだが、その駅を出てから高橋のヤツ、やたらトンネルに入る度に目を凝らしていたのだが、そういうことだったのか。

 愛原:「で、あったのか?」
 高橋:「いや、見つかんなかったっス」
 愛原:「だろうなw」

 駅前ロータリーの前の通りを右に曲がり、郵便局の前を通る。
 そして最初の交差点をまた右に曲がると、会津線の踏切がある。
 さっき電車で通った所だ。
 夕方ラッシュの始まる時間帯だからか、道路の方はそれなりに交通量があったが、踏切が閉まるタイミングには当たらなかった。
 首都圏だと、開かずの踏切があるのが嘘みたいである。
 その踏切を渡って少し行くと、今夜の宿であるホテルに到着した。
 どうやら最近できたらしく、外観など新しい。

 善場:「こちらです」
 愛原:「新しそうなホテルですね」
 高橋:「いいんじゃね?ねぇ、先生?」
 愛原:「そうだな」

 交差点を挟んで斜め向かいにはコンビニもあるので、不便ではない。
 中に入ると、ロビーとフロントがあった。
 右側にはレストランらしき所があるが、そこが朝食会場なのだろう。
 夕食はやっていないようだ。

 善場:「ちょっと待っててください」

 そう言うと善場主任はフロントの方へ歩いて行った。

 高橋:「先生、夕飯はどうします?」
 愛原:「そうだな……。朝食はそこのレストランでいいだろうが、夕食まで善場さんに頼るのもなぁ……」

 市街地だし、駅前を見た限りでは、飲食店はいくつかあった。

 善場:「お待たせしました。部屋は2階ですので、カードキーを持ってください」

 しばらくして、善場主任がカードキーを3枚持ってやってきた。
 ツインの部屋が3つらしい。
 すると部屋割りは自動的に私と高橋、栗原姉妹、そして善場主任とリサということになるわけだ。

 善場:「朝食はあそこのレストランで、6時半からだそうです」
 愛原:「やっぱりそうか」
 善場:「部屋は全室禁煙なので、タバコは1階の喫煙所でお願いします」

 善場主任はこの中で唯一の喫煙者である高橋を見て言った。

 高橋:「へーへー」
 愛原:「今のうち吸っておくか?」
 高橋:「後ででいいですよ」
 善場:「今のうち、明日のことでお願いがあります」
 愛原:「何ですか?」
 善場:「明日はなるべく早く出発したいので、朝食は開始時間に食べて頂きたいのです」
 愛原:「つまり、6時半ですね」
 善場:「そうです。で、7時台には出発したいです。霧生市には9時ぐらいに着きたいので」
 愛原:「ここから霧生市って、どのくらい掛かるんですか?」
 善場:「およそ車で2時間です。もっとも、高速道路は通っていないことはお分かりだと思います」

 もっと霧生市に近い町はあるのだが、田舎過ぎてそもそも宿泊地が無いとか、そういう問題に直面するのとは別に、リサが他のリサ・トレヴァーを呼び寄せてしまいやすいという警戒からだ。

 愛原:「じゃあ、明日は6時に起きるか」
 高橋:「うっス」
 愛原:「今夜の夕食はどうするんですか?」
 善場:「そこは決めていませんので、所長方にお任せしますよ」
 愛原:「えっ、私ですか?……高橋、何とかしろ」
 高橋:「えっ?あー……。えっと……ですね……。ああ!ラーメン屋!さっきラーメン屋の看板見えましたよ!そこはどうっスか!?」
 愛原:「ラーメンかぁ……」
 リサ:「ラーメン!?食べたい!」

 リサがパンと手を叩いて言った。

 善場:「お2人は何かありますか?」
 栗原蓮華:「ファミレスは無いですよね?」
 愛原:「駅前見た限りでは無かったし、多分国道沿いにはあると思うけど、それってつまり、車が無いと不便な場所だってことだよ」
 蓮華:「そうですよね。分かりました。ラーメンで手を打ちます」
 善場:「話は決まりましたか?それでは18時に、またロビーに集合しましょう」
 愛原:「ああ、善場主任も御一緒で?」
 善場:「いけませんか?」
 愛原:「いえ、そんなことは!」

 ただ、ラーメン屋は当たりハズレが大きいので、もしハズレに当たったとしたら、高橋のヤツ、総スカン食らうだろうな。
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“私立探偵 愛原学” 「私鉄路を往く」 2

2020-11-16 10:45:20 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日16:00.天候:晴 栃木県日光市藤原 東武鉄道・野岩鉄道新藤原駅]

〔「まもなく新藤原、新藤原です。2番線に入ります。お出口は、左側です。お降りの際はお忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。本日も東武鉄道をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今は各駅停車の鈍行に乗って、山間を北に向かっている。
 首都圏から東北へ向かう鉄道路線は数あれど、これだけあえて山の中を進むルートは珍しいだろう。
 そして電車は、東武鉄道最北端の終点駅に到着する。
 東武鉄道としては終点であるが、列車としてはまだまだ先へ進む。
 下今市駅を発車してから線路は単線となり、それ故の所要時間増加もあった。
 新高徳駅では5分、小佐越駅では10分停車させられたものだ。
 これは対向列車との行き違いを行う為のダイヤである。
 今後も単線区間を走る以上、このようなことは多々あるのだろう。

 

〔「ご乗車ありがとうございました。新藤原、新藤原です。2番線の電車は16時2分発、会津線直通、普通列車の会津田島行きです」〕

 東武鉄道仕様の駅名看板を見るのは、これが最後か。

 栗原愛里:「お姉ちゃん、そこでジュース買ってきていい?」
 栗原蓮華:「ああ、うん。行っといで」

 通路を挟んで隣のボックスシートに座っている栗原姉妹が、そんな会話をしていた。
 鉄道会社が変わる境界駅ということもあり、停車時間は2分取られている。
 ホームの自販機に行くだけなら、余裕だろう。
 但し、自販機は3番線側にあり、そこまで行かなくてはならない。
 因みに自販機の横には、閉店した売店もあった。
 ホームの有効長はそんなに長くはないし、隣のホームに行くには跨線橋ではなく、構内踏切を通る必要がある。
 それだけ列車本数も少ないということなのだろう。

〔「ご案内致します。この電車は16時2分発、会津鉄道会津線直通、普通列車の会津田島行きです。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 この駅は東武鉄道の北端駅であると同時に、野岩鉄道の本社もある駅である。
 駅周辺には住宅もあり、決してうら寂しい駅ではない。

 愛原:「そういえば、俺達が仕事をした屋敷も、こんな感じの場所にあったな?」
 高橋:「そうっスね」

 霧生市は山に囲まれた町であったが、その中でも特に山間にあるのが霧生電鉄東西線の西側の終点駅、大山寺駅周辺と、南北線の北側の終点駅、紫雲山駅周辺であった。
 紫雲山駅周辺は、この新藤原駅周辺のような雰囲気であった。

〔「お待たせ致しました。16時2分発、普通列車の会津田島行き、まもなく発車致します」〕

 こんな放送が流れた後、愛里さんが戻って来た。

 愛里:「お待たせー!」
 蓮華:「ギリギリだったよ」

 プシューという大きなエア音がして、ドアが閉まった。
 そして警笛一声、2両編成の電車が走り出す。

〔「本日も野岩鉄道会津鬼怒川線をご利用頂き、ありがとうございます。16時2分発、会津鉄道会津線直通、普通列車、会津田島行きです。これから先、龍王峡、川治温泉、川治湯元、湯西川温泉、中三依温泉、上三依塩原温泉口、男鹿高原、会津高原尾瀬口の順に停車致します。【中略】次は龍王峡、龍王峡です」〕

 作者も顕正会時代に参加した夏合宿、そのオプショナルツアーで行った龍王峡を通る鉄道である。
 これまでの東武鉄道以上に山間を走ることが、この路線の駅名だけでも十分想像できるというものだ。
 何より、温泉がやたら多いのが特徴だ。
 ただ、申し訳ないが、どうしても鬼怒川温泉のインパクトに押されて、これらの温泉があまりスポットを浴びることは無いような気がする。
 で、実際車内の様子だが、明らかに観光客っぽいのは少ない。
 GoToキャンペーンの客らしき者達は、殆どが東武線内の駅で降りて行った。
 今乗っているのは、地元客らしき者達ばかりがパラパラ。
 確かにこれなら、2両編成で十分だろう。
 何しろ同区間を走る特急でさえ、3両編成なのだから。

 愛原:「ちょっとトイレ行って来る」
 高橋:「どうぞどうぞ」

 私が席を立つと……。

 蓮華:「私もトイレ」
 愛里:「行ってらっしゃい……」

 愛里は不安そうな顔をしたが……。

 善場:「私が見ておくから大丈夫ですよ」

 と、言った。
 愛里が不安なのは、反対側の窓側に座るリサのことであろう。
 特急列車だと男子用小便器の個室があったが、普通列車となるとそうもいかない。
 古式ゆかしい和式便器が1つあるだけである。
 しかも水洗は足踏みペダル式。
 日常的にこの路線を利用しているならともかく、他のJR線などを利用している最近の若者には、この足踏みペタル式はどう思うだろうか。
 もっとも、直接水洗装置に手を触れないという意味では、清潔性は高いと思う。
 で、個室内にある小さな洗面台も足踏みペダル式。
 用を足した後で個室の外に出ると、蓮華が外にいた。

 愛原:「あ、お待たせ」
 蓮華:「愛原先生。途中で他の化け物と遭遇することはありませんでしたか?」
 愛原:「えっ?いや、別に。え、なに?キミ達はあったの?」
 蓮華:「私は特に。ただ、愛里がトイレに行った時に、変な女の子を見たっていうんです。エブリンと名乗っていたみたいなんですが、見た目は10歳くらいの女の子だったって言いますし、まあ、日光方面なら外国人観光客も来るだろうからと言っておいたんですけど」

 この姉妹は霊感が強い。
 特に霧生市のバイオハザードを体験してから、それが顕著になってしまった。
 しかしそんな蓮華さんでさえ特に感じなかったBOWの気配を、愛里さんは感じたという。
 そういえばエブリンって、リサも言ってたな……。

 愛原:「いや、俺達も知らないな」

 私はそう答えておいた。
 現時点ではまだ気のせいで済ませられる段階だし、余計な不安を煽りたくはない。

 蓮華:「そうですよね。失礼しました」

 蓮華さんはホッとした様子で、トイレの中に入っていった。
 バリアフリーとはかけ離れた構造のトイレだが、左足が義足の蓮華さんにとっては何でも無く使えるトイレのようだ。
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“私立探偵 愛原学” 「私鉄路を往く」

2020-11-15 20:08:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日15:11.天候:晴 栃木県日光市今市 東武鉄道下今市駅→東武鬼怒川線321電車先頭車内]

 

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 しばらく駅で過ごしていると、ようやく3番線に今日の目的地の町まで行く普通列車が入線してきた。
 案内の通り、2両編成の電車である。
 先ほどの東武日光行きが4両編成であるのとは違う。

 

 乗り込んでみると、ドア横の座席以外は全て4人用のボックスシートである。
 取りあえず前の車両の4人用ボックスシートを左右に2つ分確保しておいた。

 

 リサには窓側に座らせ、私はその隣に座る。
 高橋にはリサの向かい側に座らせておいた。

 

 東武の車両には折り畳みのテーブルも付いており、リサのおやつ……というか、もう1食分の駅弁の置き場になった。
 1時間に1本しか無く、しかも2両編成ともあれば乗客も少ないと思われた。
 しかし一応、地域輸送の面もあるのか、パラパラと乗って来る。
 乗客が急増したのは、東武日光行きの特急“けごん”が到着した時だった。
 東武日光まで行く乗客はそのまま乗っていればいいのだが、鬼怒川温泉方面へ行く場合は乗り換えないといけない。
 その乗客達がバタバタやってきたのだ。
 私はホームに降りて、その乗客達の中にいる善場主任達を出迎えた。

 愛原:「善場主任」
 善場:「愛原所長、お疲れさまです」
 愛原:「この電車でいいんですよね?」
 善場:「そうです」
 愛原:「席は確保しておきましたから、どうぞ」
 善場:「ありがとうございます。じゃ、乗ってください」
 栗原蓮華:「はい。……こんにちは」
 愛原:「あ、こんにちは」
 栗原愛里:「…………」

 栗原蓮華さんは一応といった感じで私に挨拶してきた。
 リサと同様、学校の制服を着ている。
 但し、高等部の制服なので、モスグリーンのブレザーはダブルである(中等部はシングル)。
 パンツスタイルの方が動き易く、左足の義足も隠せると思うのだが、蓮華さんはあえてそうしない。
 何でも、いつ自分の復讐相手(リサ・トレヴァー『1番』)に遭遇しても良いようにする為なのだそうだ。
 復讐相手に、自分の食い千切った左足の持ち主だと分からせる為に。
 対して妹の愛里さんは私服である。
 退学こそ免れたものの、無期限停学を言い渡されたのと、特に制服に拘りが無い為に私服なのだろう。
 こちらはリサを警戒してか、姉の後ろに隠れるようにして、私達の方を見ようともしなかった。
 リサ・トレヴァー日本版の少女達はセーラー服を着ている。
 彼女らにとっては制服であるから、それならこちらも、というのが共通しているうちのリサと蓮華さん。
 この辺な皮肉なものである。

 愛原:「この席でいいですか?」
 善場:「ありがとうございます。じゃあ、座って」
 蓮華:「はい。愛里はそっちね」
 愛里:「うん」

 愛里さんは進行方向窓側、善場主任はその隣、蓮華さんは妹の向かいに座った。
 荷物は網棚に置くものの、得物は足の間に挟んで、いつでも抜けるようにしている。
 もちろん、日本刀をそのまま持っているのではなく、一応白い麻袋に包んで、口の所を紐で縛っているのである。
 私達の銃と同様、特別に許可を受けたものだが、当然厳しい条件がある。
 即ち、あくまでもそれを使うのは、バイオハザード絡みのBOWやクリーチャー(生物兵器ウィルスに二次感染などして化け物となった者)相手に限られるというものだ。
 例え相手が犯罪者であっても、人間相手に使うことは許されない。
 正当防衛が認められればまた違うのかもしれないが、そもそもが銃刀法に違反しているわけだから、裁判所がおいそれと認めるとは思えない。
 正当防衛より遥かに認められやすい緊急避難(襲って来たのが人間ではなく、動物の場合。人間の場合は例え加害者でも人権侵害は認められないという考え方からだが、動物にはそもそも人権が無いから)についても同じだろう。
 因みに生物兵器ウィルスに感染してゾンビ化した元人間についてはどういう考えなのかというと、ちゃんと彼らに襲われた被害者の防衛行動が認められる。
 ゾンビ化した者は『医学的には死者同様』とされ、日本語では『活性死者』と呼ばれる。
 例え人間でも、遺体となった者には人権が消滅するからである(その為、葬儀屋の霊柩車など、遺体を搬送する車は法律上『旅客自動車』ではなく、『貨物自動車』である)。
 なので、被害者達は『正当防衛』ではなく、より認められやすい『緊急避難』となるのである。
 私達が遭遇した霧生市のバイオハザード、そこから命からがら脱出した者の殆どが、私達と同様、ゾンビなどに襲われ、中には殺してしまった者もいた。
 しかし政府は異例の発表をする。
 霧生市の件においてだけは、無条件で緊急避難並びに正当防衛を認めると。

〔「ご案内致します。この電車は15時14分発、東武鬼怒川線、野岩鉄道会津鬼怒川線、会津鉄道会津線直通、各駅停車の会津田島行きです。まもなく発車致します」〕

 特急からの乗り換え客が全員乗り込むと、2両編成の電車は一気に満席に近い様相を見せた。
 これなら先ほども東武日光行きみたいに4両編成でも良いのではないかと思うが、その心配は東武線内のみ有効である。
 後部から車掌の笛の音が聞こえてくると、エアの音がしてドアが閉まった。
 ドアチャイムなど無く、大きなドアエンジンの音がその代わりと揶揄されるのが東武電車の特徴だが、最近の新型車両にはそのような特徴は無くなっている。
 この電車も、そんな特徴を残したレトロ電車なのだろう。
 実際、行き先表示がLEDではなく、クルクルと回る幕式のままである。
 電車が走り出す。
 やっぱり徐行状態のまま発車して行くと、電車がガクンと大きく揺れて、床下から大きな車輪の軋み音が聞こえて来た。

〔「お待たせ致しました。本日も東武鉄道をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は15時14分発、東武鬼怒川線、野岩鉄道会津鬼怒川線、会津鉄道会津線直通、各駅停車の会津田島行きです。これから先、大谷向(だいやむこう)、大桑、新高徳、小佐越、東武ワールドスクウェア、鬼怒川温泉、鬼怒川公園、新藤原の順に各駅に停車致します。電車は2両編成での運転です。お手洗いは前の車両の連結器前にございます。【中略】次は大谷向、大谷向てす」〕

 2両編成だとワンマン運転をしている列車が殆どだが、この電車はツーマン運転のようである。
 東武線内だけというわけではなく、全区間そうである。
 実際車内にはワンマン設備の典型である整理券発行機や運賃表、運賃箱が存在しない。
 東武鉄道でもワンマン運転をしている線区、区間は存在するが、それらを必要としない『都市型ワンマン』オンリーであり、地方型ワンマンは行われていない。
 しかしワンマン運転の区間そのものはジワジワと拡大しているし、乗り入れ先の会津鉄道では、ディーゼルカーにおいて地方型ワンマンを行っているので、この辺りもいつかはワンマン運転になるのかもしれない。

 愛原:「ここから2時間45分の旅か。長いな」
 高橋:「ガチで1日掛かりっスね。昔は高速バスで行けたのに」
 愛原:「まあな……」

 電車は悪い線形で車体を右に左にくねらせながら、北上を続けた。
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“私立探偵 愛原学” 「下今市駅にて」

2020-11-15 16:03:43 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日14:45.天候:晴 栃木県日光市今市 東武鉄道下今市駅]

〔「まもなく下今市、下今市です。2番線に入ります。お出口は、左側です。お乗り換えの御案内を申し上げます。上今市方面、各駅停車の東武日光行きは、向かい側1番線から14時55分発です。新藤原方面、野岩(やがん)鉄道会津鬼怒川線、会津鉄道会津線直通、各駅停車の会津田島行きは、3番線から15時14分発です。お乗り換えの際はお忘れ物の無いよう、ご注意ください。下今市を出ますと、東武ワールドスクウェア、終点鬼怒川温泉の順に停車致します」〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 都内から鉄道で東北地方に行こうとすると、恐らく私達は一番マイナーなルートを進んでいる。
 ここへ来て、ようやく南端とはいえ東北地方の一地域である会津の名前が出てきた。
 関東地方のようで、東北地方のようでもある。
 東北地方のようで、関東地方かもしれない。
 私達がこれから行く霧生市は、そういう所にある。
 かつては高速バス一本で行けたあの町も、壊滅してからは運行されなくなり、その町の1番近くまで行く鉄道で今向かっている。

 愛原:「よし。ここで乗り換えだ」

 私達は荷棚から荷物を降ろした。
 他にも日光へ向かう乗客達が降りる準備をしている。
 そして、列車がホームに入線すると、確かに向かい側に4両編成の普通列車が停車していた。
 2ドアで、赤いモケットのボックスシートが並んでいるのが分かる。
 私達が乗り換える普通列車も、あれと同じタイプなのだろう。

〔「下今市、下今市です。東武日光行きは、1番線から発車致します。2番線の電車は14時46分発、特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行きです」〕

 電車が到着してドアが開くと、私達はホームに降り立った。
 確かに、乗客の3分の1くらいは向かい側の普通列車に乗り換えて行く。
 リクライニングシートからボックスシートという、また違う旅情を味わいながら日光に向かうのも良いだろう。
 実際、鉄道で日光へ行こうとすると、どうしてもこの東武線利用の方がメジャーになってくる。
 東武日光線は比較的開けた場所を通っているのに対し、JR日光線は鬱蒼とした山林の中を走るのだという。

 高橋:「先生。やっぱ30分もあるせいか、向こうに電車いないっスよ」
 愛原:「だろうな。だけど、その無駄が旅心あるってものじゃないか」
 高橋:「さすが先生です。……おい、どうした、リサ?早く行くぞ」
 リサ:「ちょっと待って」

 リサが今まで乗って来た電車の中を覗き込むように見ている。
 東武線直通用の電車だから、珍しいのかな?
 デラックスさは同区間を走行する東武スペーシアと比べると、どうしても劣る感じはするのだが。

〔「2番線、特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行き、まもなく発車致します」〕

 一番後ろの車両から、車掌が笛を吹く音が聞こえて来た。
 そして、すぐにドアが閉まる。
 電車が走り出すが、スーッと加速はしない。
 少し走り出すだけで、すぐ加速を止めてしまった。
 まるで、路面電車が出て行くみたいだ。
 それもそのはず。
 東武日光線の方が本線よろしく、緩やかな左カーブを描いているのに対し、東武鬼怒川線は支線であるかのように、急な右カーブを描いている。
 まるで東武浅草駅を出発した後のようだ。
 その為、厳しい速度制限が掛かっているのである。
 実際、出て行く時もやたら車輪がレールの急カーブに軋む音を響かせていた。
 電車が出て行く方を見ると、東武日光線がそのまま複線なのに対し、東武鬼怒川線は単線になっている。
 日光と鬼怒川、今やどちらも北関東のメジャーな観光地として双肩する場所に向かう鉄道だが、その路線は成り立ちの違いだけで、こうも格差が出るようである。

 愛原:「リサ、もういいか?早く行こう」
 リサ:「う、うん……」

 だが、リサは何故か緊張した顔になっていた。

 愛原:「どうした、リサ?」
 リサ:「ねえ、先生。“エブリン”って知ってる?」
 愛原:「エブリン?あれかな?2017年、アメリカのルイジアナ州で暴れた新型BOWのことか?」
 高橋:「先生、あれっスよ。あれのサンプルが群馬の田舎に何故かあって、それで俺達、痛い目見たじゃないですか」
 愛原:「真っ先にやられたのはオマエだけどな」
 高橋:「大変申し訳ありません!」
 リサ:「もしかしたらね、これからリサ・トレヴァーじゃなく、そのエブリンが襲ってくるかもしれないから気をつけて」
 愛原:「何だって!?」
 高橋:「群馬で先生がブッ殺してくれたんじゃなかったでしたっけ?」
 愛原:「そのはずだ。でも、アメリカのは10歳くらいの女の子の姿をしてたって話だぞ?」
 リサ:「うん。その姿をしてた……。さっきの電車の中……」
 愛原:「なにいっ!?」
 リサ:「出て行く時、乗ってないかどうか見てたんだけど、見えなかった」
 愛原:「じゃあ、気のせいじゃないのか?」
 リサ:「うん……」
 高橋:「後ろの車両に、家族連れとか、何か小学生の団体みたいなのが乗ってましたけどね」
 愛原:「遠足の帰りか何かだろう。とにかく、敵はリサ・トレヴァーだけという先入観は確かに危険だ。タイラントやネメシスなど、いきなり襲ってくるヤツもいるわけだからな。油断はしないに越したことはない」
 高橋:「了解です」

 私達は乗り換え先の電車が来る3番線に移動した。
 跨線橋に上がる。
 リサが先にパタパタと上がって行く。
 そういえばリサ、電車のトイレに行った時にスカートの裾を上げたらしい。
 何かあったのだろうか。

 
(旧・駅名板。写真はウィキペディアより)

 愛原:「乗り換え先の電車なんだけど、たった2両編成らしいぞ」
 高橋:「ますます田舎っぽいですね」
 愛原:「旅心満載だな」
 リサ:「善場さん達とは一緒に行くの?」
 愛原:「ああ。問題無いそうだ。先に俺達が乗って、席を確保しててあげよう」
 リサ:「分かった」
 高橋:「先生、ちょっと俺、便所行ってきます」
 愛原:「ああ。行ってこい」
 リサ:「先生、売店で駅弁売ってるって」
 愛原:「また食うのかよ」
 リサ:「これも『1番』に勝つ為だよ」
 愛原:「しょうがないな」

 私達は3番線・4番線ホームに、高橋は改札口近くのトイレに向かった。
 

 
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“愛原リサの日常” 「東武線の旅」

2020-11-12 20:24:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[11月6日14:13.天候:晴 栃木県栃木市 東武栃木駅→東武日光線1085M電車内]

 愛原達を乗せた電車は栗橋駅でJR宇都宮線と別れ、東武日光線へと入った。
 その際、栗橋駅に停車するわけではない。
 このJR線と相互乗り入れしている特急だけが使用する渡り線があり、ちょうどJR東日本と東武鉄道との境目で停車するのである。
 その停車場所には小さなホームがあるが、ちょうどそこに止まるのは先頭車の乗務員室扉のある個所と最後尾の乗務員室扉のある所。
 ここで下り列車なら、JR東日本の乗務員が東武鉄道の乗務員と交替するのである。
 だったら栗橋駅に停車して、そこで乗務員交替をすれば良いではないかと。
 客扱いしてもいいし、できないのなら運転停車でもいいだろう。
 しかし、わざわざ渡り線と乗務員交替用のホームを造ってでも、互いの駅に停車すらできない事情でもあるのだろう。
 それで、JR側の架線と東武側の架線が切り替わる為、いわゆるデッドセクションなるものがある。
 その部分の架線には電気が流れていない為、電車は惰行で停止位置に向かう。
 その間、電車内は停電し、空調も止まる(常磐線の取手~藤代間のそれと同じ。但し、今現在そこを走行する車両は蓄電池により、停電しない仕様になっている)。
 そこで乗務員交替を行うと、再び電車は徐行で発車する。
 そして互いの駅のホームには全く接さず、栗橋駅は通過となるのである。
 そんな不思議な体験をした後、電車は東武線内最初の停車駅、栃木駅に停車する。
 ここでも、少々の乗降はあったのだろう。
 車内は至って静かなものだが。

〔♪♪♪♪。この電車は特急“きぬがわ”5号、鬼怒川温泉行きです。【中略】次は、新鹿沼に止まります〕

 リサ:「ちょっとトイレに行ってくる」
 愛原:「ああ、行ってらっしゃい」

 リサは席を立つと、後ろの車両にあるトイレに向かった。
 1号車にはトイレが無く、しかも1番近いトイレは2号車の後ろのデッキにある。
 そこまで行くと、2号車は車椅子対応の座席がある為か、トイレもそれに対応した多目的タイプがある。
 もう1つの個室は男性用小便器しか無いので、女性は必然的にそこを使うことになる。
 BOWも生物であり、例え食人でも食事をする以上、排泄をすることだってある。
 そこで用を足すだけでなく、人間としても思春期である以上、生理用品の交換をすることもある。
 BOWが本当の化け物であるなら、その必要は無いだろう。
 そもそも多くのBOWの場合、繁殖をしない(一部例外あり。GウィルスのG生物など。断っておくが、それはGKBRではない)。
 生物兵器は人間が使役するものなので、いかに生物といえど、勝手に繁殖されたら困るからだ(そこは飼育動物と同じか)。
 なので、繁殖をしないよう設計されているのだ。
 ところが、日本版リサ・トレヴァーは違った。
 実際、人間の女性より状態は軽いとはいえ、ちゃんとリサには初潮があったし、今でも定期的に生理がある。
 状態が軽いのは、人間ではないからだろう。
 それでもちゃんと生理があるということは、(哺乳類としての)生殖能力があるということだ。
 実際リサには性欲もある。
 他にリサがやったことは、ベルトでスカートを上げて裾を短くしたことと、その代わり下に黒いスパッツを穿いたことである。
 高野と違って善場は服装にうるさいわけではなかったが、高野と歳が似通っていることもあり、なるべく言われないようにしたかったからだ。
 トイレから出て、洗面所に寄る。

 リサ:「…………」

 顔をよく見る。
 今の彼女は第0形態という人間そのものの姿をした形態だ。
 よくアニメやマンガ等で、『本当に怖い化け物は、いかにも化け物の姿をしているヤツではなく、人間そっくりに化けているヤツだ』と言われる。
 リサ・トレヴァーも上手い事その定義に当てはまっていることになる。
 リサ自身も自信があるくらいだ。
 自分がラスボス、或いは大ボスを務めるくらいの強さがあるという自信。
 そんな自分が、今はただの人間に従っている。
 BOWでも、自分の命を助けてくれた恩には全力で返さなければならない。
 それができなくなった時、本当にただの化け物に成り下がるのだと思う。

 リサ:「!?」

 その時、鏡に何か映ったような気がした。
 パッと見、自分よりずっと年下の女の子のように見えた。
 リサが後ろを振り向くと、いない。

 リサ:「……気のせい?」

 リサは首を傾げてもう一度鏡を見た。

 リサ:「!?」

 するといつの間にか鏡の下の方に、手書きの赤い字で何かが書かれていた。
 子供のような字であった。

 リサ:「『古くさいリサ・トレヴァーよりもずっとあたらしいBOWエブリン』?……何よ」

 リサはその落書きを水を掛けて消した。
 そして、急いで自分の席に戻った。

 愛原:「遅かったな、リサ」
 リサ:「うん。色々と……」
 高橋:「先生。女のトイレは時間が掛かるモンですよ」
 愛原:「そうか」
 高橋:「ウィルス仕掛けたりはしてねーだろうな?」
 リサ:「してない」

 リサは普通に否定した。
 もちろんリサ・トレヴァーとしては、高橋の懸念通りのことをすることができる。
 触手を使って、相手に自分の搭載しているウィルスを送り込み、感染させることだってできるのだ。
 霧生市郊外の研究所に取り残されたリサは、そうやって研究所内でバイオハザードを引き起こしてやった。
 だが、同じリサ・トレヴァー同士、考える事は一緒だったのか、研究所の外に出た個体もウィルスをばら撒くなどして市中にバイオハザードを起こしている。

 リサ:「そんなことしたら、先生に迷惑が掛かる」
 高橋:「おう、その通りだ。分かってんじゃねーか。偉いぞ」
 リサ:「エヘヘ……」
 愛原:「善場さん達も順調だそうだ。こりゃ予定通り、下今市駅で合流できそうだな」
 高橋:「先に到着するのはどっちですか?」
 愛原:「俺達だ。だから電車に乗り込むのも、俺達が先だろう。乗り換え先の電車は下今市始発だから、さっさと席を確保しててあげよう」
 高橋:「あの姉妹達、こいつと同乗したがりますかね?」
 愛原:「一応、確認してこおう」

 愛原は自分のスマホを出すと、それで確認のメールを善場に送った。
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